50:大宴会
領主の館から出たアリア達は宿舎があるギルドへ向う。
今回の報酬は各自に金貨三十枚とかなり多い金額だった。
道中、ヒルデガルドが武器屋で鉱石をたくさん買い込んでいた。
合成獣との戦闘で作った黒精霊銀と鉄の合金で作った弾を回収しようとアリアと二人で戦いのあった森を探したが見つからなかったのだ。
その為、使った分の鉱石を補充しなければ行けなかった。
アリアとハンナはいつも甘味に消えていくだけなので平和とも言える。
襲撃のあった翌日、ハンナと一緒に食べ放題と言いながらケーキを食べ過ぎてお腹を壊し、マイリーンに説教をされると言う何とも情けない事をやっていた。
これにはリアーナとヒルデガルドも呆れるしか無かった。
「リアーナさん、あれはやりすぎだよ」
アリアは少し責める様な口調でリアーナに注意した。
「そうか?」
「あんな生まれたての子鹿みたいになっている領主さん達が気の毒過ぎて見てられなかったよ」
「ふむ、あれでこちらに何かしてくる事も無いだろう」
全く聞いてないリアーナにアリアは溜息が出た。
「アリア様、そんな事を言いながらずっと欠伸を我慢していたのを知っていますからね。まぁ、舟を漕がないだけ良かったとは思いますが」
ハンナの指摘にアリアは口を尖らせて目を逸らした。
「ボーデンの授業は必ず寝てましたからね。それもいびきをかくから毎回怒られていましたね」
ヒルデガルドからの援護射撃。
「あれはお昼寝の時間だから良いんだよ。ハゲじじいの話を聞いていても腹が立つだけだから」
神殿にいる時の教育にボーデンが講師となる授業があったが毎回居眠りをして怒られていた。
「アリア様の勉強中の居眠りは昔からですから……」
マイリーンも溜息混じりにヒルデガルドとハンナの言葉を肯定した。
「まぁ、そう言うな。私も学院の座学が苦手で居眠りしてよく怒られたものだ。不思議と誰も起こしてはくれなかった。起こしてくれれば良かったのに」
アリアとハンナは周囲の生徒がリアーナを起こさなかった理由を察した。
リアーナは寝ると死体の様に身動き一つしないが、近くに不穏な気配があれば無意識に反撃するのだ。
これにはアリアもハンナも痛い目にあっている。
アリアは寂しくてこそっと布団に潜り込もうとしたら放り投げられ、ハンナは朝、普通に起こしにきたら間接を極められた事があった。
二人は目を合わして何も言うまいと思った。
「これから戻ったらどうするの?」
アリアはこの話題は続けるのは良くないと思い、別の話に切り替えた。
さり気無くハンナがグッジョブとアリアに視線で伝える。
「報酬もたんまり入ったからギルドの酒場で宴会をしようかと思ってな」
襲撃があった夜も宴会をしたが、これだけ多い報酬を貰ったので一緒に戦った者達と盛大に飲み食いするのも悪くないだろうと考えたのだ。
騒ぐのが好きそうに見えないリアーナだが宴会の盛り上がった雰囲気は好きだったりする。
後、ここで盛大に奢って自分の悪いイメージを少しでも良くしようと言う魂胆があったりするが、それは誰にも言わない。
「やったね。今日はたくさん食べられるね」
「アリア様、食べ過ぎてまたお腹を壊してもしりませんよ」
「そんな事ないもん!」
マイリーンに注意され必死にプンプンと抗議する姿に他の三人の表情緩々になった。
『可愛いな』
『あれでご飯三杯は軽いですね』
『三杯所かどれでけでも行けます』
三人はそんなアリアを見てほっこりしていた。
そんなアリアを見てリアーナはアリアをひょいっと持ち上げて抱き上げた。
「ちょ、ちょっと、リアーナさん!?」
リアーナはアリアを抱き上げながら進む。
アリアはここが街の大通りの為、恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
リアーナに捕まると逃げられないので無駄な抵抗はしない。
「うーん、アリアは可愛いなぁ」
まるでぬいぐるみを抱えて歩く様にアリアを抱いて歩く。
「ズ、ズルイ……」
ヒルデガルドは羨ましそうにアリアを抱き締めながら歩くリアーナを見る。
リアーナからすれば普段、寝る時にアリアを抱き枕にしている為、そのぐらい譲れと言いたかった。
敢えて言う事は無いが。
アリアは結局リアーナに抱き抱えられながらギルドまで行く事になった。
恥ずかしさの余りアリアはぐったりとしていたが、リアーナは満足気だった。
ギルドの酒場へ入ると定位置の席へ向う。
それはマイリーンが気兼ねせず使えるように作られた席だ。
いつも申し訳なさげに周囲に気遣いながら宿舎で食事を取るのが不憫と思った冒険者有志が協力し、マイリーン専用の席を作ったのだ。
マイリーンの胴体を考慮して椅子より低くしたクッションが利いた大きいソファーが鎮座している。
この席はマイリーン以外は使用禁止となっている。
これには別の意味も込められていて、いつでもこの街に帰ってきて欲しいと言う街の人の願いも込められている。
全員席に着くとウェイトレスが来て注文を取りに来た。
「ご注文は如何なさいますか?」
リアーナは懐から金貨十枚を取り出した。
「これで全員分飲み食いを自由してやってくれ」
リアーナの言葉を聞いた周囲の冒険者達はと言うと―――
「姐さん、流石だぜ!今日は宴会だー!」
「奢りだぜ!ヒャッホー!!」
「ゴチになりやす。姐さん!」
「みんな、飲むぞー!!」
気が付けばリアーナの姐さん呼びはここの冒険者達に定着していた。
そしてギルドの中が一気に宴会ムードへと変わっていく。
受付に並んでいた冒険者は酒場へ移動し、仕事中のギルド職員は全速力で仕事を片付け、予備の机や椅子を並べ始める。
ギルド全体が宴会モードに入ったのだ。
リアーナ達がいるテーブルにも料理がたくさん並べられていく。
全員の手に飲み物が渡るとリアーナが立ち上がった。
周囲の冒険者達の視線が一斉にリアーナへと向いた。
「先日の合成獣襲撃ではみんな大変だったと思う。今日は全部私からの奢りだ。盛大に飲んで楽しんでくれ。乾杯!!」
リアーナの乾杯の声と共に地鳴りの様な声がギルドを震わした。
リアーナは席に着くとエールを一気に飲み干した。
「すまんが、おかわりだ」
すぐウェイトレスに追加のエールを注文する。
「リアーナさん、珍しいね。一気飲みなんて」
「珍しくそうしたい気分だったんだ。アリアおいで」
「しょうがないなー」
アリアはリアーナの膝の上に座る。
リアーナがアリアを求める時は何か嫌な事があった時にこうなる事が多い。
だがそれを他の人間に話す事は無い。
「ふふっ」
優しい笑みを浮かべながらアリアの頭を撫でるリアーナ。
「お母さん」
アリアはそれをよく分かっているので今日はとことん甘えてあげようと思った。
「うーん、どうした?」
「何でもないよ、お母さん」
リアーナの顔が見ていられないぐらいに緩みきっていた。
普段は気高く凛々しい表情なのだが面影も無い。
ハンナは見慣れた光景なのでもくもくと甘味を食べている。
他の二人もアリアとリアーナを放置して美味しい料理に舌鼓を打っている。
そこへ見慣れた顔の男がジョッキを片手にやってきてヒルデガルドの横へ座った。
「よっ、元気そうだな」
やってきたのはヒルダガルドのAランク昇級試験で監督役を務めたニールだった。
「はい、ニールさん。試験の時はお世話になりました」
「こっちこそ聞いたぞ。西門に現れたストラトエイビスを単独で倒したって」
「あれは何というか作戦が上手く行っただけですよ」
ヒルデガルドは正直、二度と戦いたくないと思っていた。
単純な破壊力では五人の中で一番足りないのを自覚していた。
「それでも凄いだろう。俺は無理だな。まず攻撃が通らん」
ニールはAランクでも斥候タイプなので攻撃に関しては同じランクの人間と比べるとどうしても劣ってしまうのだ。
「いや、あれは私でも厳しかったです。鉄の弾を撃ち込んでも平然としていましたから」
「で、お嬢ちゃんの方は何をやってるんだ?」
ニールはリアーナの膝の上でに頭を撫でられながらご飯を食べるアリアを指した。
「あれはまぁ、何と言いますか……親子のスキンシップです」
少し言い淀むヒルデガルド。
「……仲が良いんだな。マイリーンも元気そうだな」
ニールは特等席でのんびりご料理を楽しんでいるマイリーンに声を掛けた。
「ニールさん、あの時はありがとうございます」
マイリーンは一旦、食べる手を止めて軽く二ールに頭を下げた。
ニールはマイリーンに取って恩人の一人だ。
「良かったな、首輪が無くなって」
今、マイリーンの首に魔獣を手懐ける為の首輪は無い。
マイリーンが街の人から認められる様になってすぐ外したのだ。
アリア自身、マイリーンに首輪を着けたくなかったので行動は早かった。
「はい。でも街の外に行く時は着けようと思ってます」
マイリーンはそう言って首輪を取り出して、自分で首に着ける。
「確かに街の外はあった方が良いかもしれないな。それにしてもちょっとお洒落過ぎないか?」
マイリーンの首輪は服に合わせて淡い赤を基調にして縁は銀色に輝く金属で飾られ、首輪の正面には小さい魔石が散りばめられている。
縁取られている金属にしても草木や花々の装飾が細かく精密に描かれている。
首輪と言うより装飾品に近い。
「私もこんな派手な物で無くても良いと仰ったのですが、アリア様がどうしてもと仰るので……」
アリアはニールに向ってフォークを持ったままサムズアップした。
「マイリーンさんは女の子だからあんな前みたいな無骨な首輪は絶対にダメなんだよ。因みにその首輪はヒルダさんの力作だよ」
首輪を外した時にマイリーンは他の街へ行った時の事を考えて普通の首輪が欲しいとアリアに言ったのだが、普通の首輪は絶対に嫌だと頷かなかったのだ。
そこでヒルデガルドが妥協案としてお洒落な首輪ならどうかと提案したのだ。
その結果がどう見ても装飾品の様な首輪になってしまったのだ。
「はぁ……、それでも自分から着けるあたり嫌じゃないんだろ?」
「私もアリア様から初めて頂いた贈り物なので嬉しいですね。本当にあのやんちゃだった子がこんなに優しい子に育つとは……」
マイリーンはハンカチを取り出し、目に当てる。
まるで出来の悪い子の成長に感動するかの様に。
「ふーん……お嬢ちゃんは昔はそんなにお転婆だったのか……ま、見てればその通りか」
ニールの頭に過ぎったのは野営でお腹を出して大の字で寝るアリアの姿だった。
「ニールさん、そこは素直に感動してくれても良いんだよ」
口を膨らませて抗議するが、リアーナの膝の上で頭を撫でられながらの為、単なる可愛い子供にしか見えない。
「マイリーン、どの男からプレゼントされたんだ!?」
大声で出してやってきたのはギルドマスターのガルドだった。
ガルドから見たらマイリーンの首輪は豪華な装飾品に見えた様だ。
「あのこれは男の方から貰った訳じゃ……」
「何処のどいつだ!?」
ガルドはマイリーンの声を遮って辺りを血眼になって見回す。
「あのガルドさん!」
ガルドは必死になりすぎてマイリーンの声が聞こえていない。
そしてガルドはガルドに向ってサムズアップするアリアが目に留まった。
「ん、もしかして嬢ちゃんか?」
「これはアリア様が外の街へ出た時の為にと下さった首輪です。少しは落ち着いて話を聞いて下さい」
マイリーンは少し困った顔をしながらガルドを窘める様に言った。
「ぶっちゃけ首輪に見えねぇが嬢ちゃん、良いセンスしてるぜ」
ガルドが二カッと歯と頭を光らせてサムズアップすると、アリアも口にたくさんの料理をもぐもぐしながらそれに応えてサムズアップした。
ガルドも首輪に関してはマイリーンに着けるのは嫌なので首輪に見えない首輪は大賛成だった。
それで意味があるかどうかは置いておいて。
宴会は深夜まで続き、職員は軒並み二日酔いで業務にならなかったと言う。
アリア「祝!五十話だよ!!」
ヒルダ「ここまで長かったですね」
ア「閑話を入れるとちょっと前に五十は超えてたりするけど、一応本編でと言う事で」
ヒ「さらっとマイリーンさんとガルドさんが熱いですね」
ア「頑張ったからね!」
ヒ「あれは主に私が頑張ったのですが……錬成とか錬成とか」
ア「因みに後一話とマイリーンさんの干物……じゃなくて壮絶な過去を只管語る長いお話で一章は終わりだったり」
ヒ「その閑話って、私の出番が無さそうな気がするのですが……」
ア「ヒルダさんはマイリーンさんとあんまり接点が無かったしね」
ヒ「そうですね。部署も違いますし、私と接点を好きで持とうする人はあんまりいませんからね。大概、教皇の娘の立場しか興味の無い方ばかりですから」
ア「ヒルダさんに辛い情報はマイリーンさんの閑話はヒルダさんより長い九話もある事」
ヒ「それって、閑話のレベルじゃありませんよ」
ア「そんな事もあるよね」
ヒ「私に出番を下さい……」




