42
ナリスに何度か近づいては隷属魔法を試してみたがやはり派手な音を立てて弾かれる。何度も繰り返したら魔法を弾いている結界のようなものが壊れないかと試してみたのだがやはり無理なようだった。
「何度やっても無理ですよ」
それはもう分かっている。でもやはりここで負ける訳にも行かないし、掴まるのもどう考えても得策には思えない。
と言うより私はまだこのままマキシムさん達とのんびりとした旅がしたいのだという自分の気持ちに気がついた。
自分から戦闘を選ぶなんて今までの自分からは考えもつかない行動だった。本来なら他人や面倒ごとに関わるのを避けて逃げていただろう。
なのにそうせずにナリスを迎え撃つ手段に出たのは、今の気楽でのんびりしていてちょっと楽しい旅を続けたかったからに他ならない。
それくらいマキシムさん達もその荷馬車の幌の上もすっかり気に入ってしまったのだ。姿を見せて一緒に旅ができたならきっともっと楽しいだろうと思ってしまうくらいに。
だからここでナリスに掴まる訳にはいかないし絶対に負けられない。何か手段を考えなくてはと焦る気持ちを一度立ち止まり深呼吸をして落ち着かせる。
「右三十九度十三メートル前方に気配が留まってます」
モーリが告げると同時に勢いよくナリスのナイフが飛んでくる。
私は咄嗟にそれを隠蔽術で使い慣れている念動力のようなもので掴んでいた。自然と体が動いていて、使った自分も驚きだった。
「なっ!」
「あっ、そうか」
私は隷属魔法を掛けることにばかりに気を取られ、隠蔽術の能力が有能すぎることをすっかり忘れていた。
それに他人の掛けた隷属魔法を解除できたのだからナリスに掛けられた魔法を弾いている結界も解除できる筈なことも。
多分ナリスが思いの外強いと思い込んでしまったことと、モーリの能力を不気味に感じていたからだろう。それにあと付け足すなら自分から戦闘を選んだ高揚感に似た意気込みもあったかも知れない。
(私には歴代召喚者達が血を吐く思いで身に着けた能力があるのよ。負ける訳がない。絶対に)
気分が楽になると不思議と頭もクリアになり、次々と今打てる手が涌いてくる。もう負ける気もしない。
最悪私の全魔力を使ってでも時魔法でこの世界の時間を止めれば済むことだ。
まあその前に亜空間に閉じ込めると言う手も打てるけれど、それでは戦闘を先送りするだけになってしまうから、しっかり時間を止めて対処させて貰った方が安心安全だろう。
もっともそれは最悪の場合の手段だ。まずはその前に盗賊達を拘束したのと同じ方法で念動力を使ってナリスとモーリの拘束を試みる。
(まずは自信満々に拘束してみせると言っていた手を見せて貰おうか)
モーリに向かって念動力を伸ばすと何といともあっさりグルグル巻きにできてしまった。
(なんで?)
「何故!?」
モーリも驚いているようだった。
私は次に何がどうなっているのか理解が及ばずに戸惑ったままのナリスにも念動力を飛ばしグルグル巻きにする。やはりこの隠蔽術の念動力は魔法認定されないらしくまったく弾かれることはなかった。
(やっぱりね)
施錠解錠だけの能力じゃない、使い方次第では本当に何でもできそうなこの能力を私は本当にありがたく思う。
それに隠蔽術と言うだけあってモーリの探知にも引っかからないなんてもうこの力さえあれば怖いものなどないだろう。
私は見えない力でグルグル巻きにされ足掻くナリスに近づきまずは結界の解除を試みる。するとパリンと音を立て胸に着けたブローチが砕け散った。特殊な能力を持った装備品だったのだろう。ナリスはそれを見て漸く何もかも諦めたかのように大人しくなる。
「それじゃ隷属させて貰うわよ」
私は相変わらず姿を見せず声だけで告げる。
「私の負けだ好きにしろ」
あまりにもあっさり過ぎる結果となったが、これ以上あの国の者達に煩わされたくはないから容赦もしない。追ってくるから返り討ちにしただけだ。
多分きっとこの先も私の邪魔をする者がいたならばこれからは躊躇わずに本当に返り討ちにできる。そう思える切っ掛けを今回くれたナリスとそしてセイランにも少しだけ感謝をし、そして次にモーリにも隷属魔法を掛けるべく近づいて行く。
すると何と驚いたことにモーリの指輪から投網のように何かが飛び出した。しかしそれはモーリをグルグル巻きにしている念動力がすぐにすべてを一瞬で絡め取り何事もなく終わる。見ていた私も驚きだった。本当に念動力さん有能すぎ。
「残念でした。拘束できなかったわね。と言うか逆に拘束されちゃダメじゃない」
「……」
それにしても驚いた魔導具もあったものだ。魔物を捕まえる為のものなのか盗賊避けにするのか知らないが、アレに絡まれたら身動きも取れなくなるのだろう。
でも私は瞬間移動が使えるからきっと逃げられたと思うからやっぱり警戒しすぎだったようだ。
「あなたも隷属させて貰うわ。もう私を追ってくるのは止めてね」
「この任務に失敗したとなったら私は国には帰れない。どうせ隷属させるのなら私も連れて行ってくれないか」
「へっ」
思いもしなかったモーリの意外な申し出に思わず変な声を出してしまった。
「私は目が見えないがその分勘が働く。必ずや役に立ってみせる」
「う~ん…」
この異世界で仲間を作るなんて考えてもいなかった。それに今はまだマキシムさん達とのんびりとした旅を続けたいと思っている。だからこの申し出に飛びつく気にはなれない。もっとも隷属させた相手を仲間と呼べるかどうかは疑問だが。
「私の勘が一緒に行けと言っている。それは君にとっても悪い結果にはならないと言うことだ」
「でもぉ…」
それだともうマキシムさんの荷馬車の幌の上には乗れなくなるよね。それはやっぱり嫌だ。あそこは私の今一番のお気に入りの場所だ。多少天気が悪くても結界でどうとでもできるしね。
それに今戦ったばかりの相手でたとえ隷属させたとは言え、このモーリという人がどんな人かも分からないのにずっと一緒に居るなんて気が休まらないからできない。
「私達はこれからもあとを付ける格好で着いていく。それならば問題ないだろう。何かあれば何でも言いつけると良い」
なんとモーリだけでなくナリスも一緒に来るつもりらしい。本当に良いのかそれで。でも隷属させた以上私に偽りを言うことはないだろうし、何かの罠ってこともないと思いたい。
「着いてくるのは構わないけど、絶対に私に迷惑を掛けないでよ」
私はモーリに隷属魔法を掛けながら取り敢えず着いて来るのは許すのだった。




