表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/25

第13話:【旅立ちの端福流】

まえがき


皆様、こんにちは。

『異世界半額市は戦場です! 〜パン耳と銅貨で生き延びる節約娘〜』シーズン1をお読みいただき、誠にありがとうございました。


半額市の喧騒の中、パンの耳一袋で至上の幸福を見出していた少女リナ。

彼女が、心優しい相棒のユイ、誇り高き騎士シオン、そして半額王をはじめとする個性豊かな市場の仲間たちと出会い、数々の半額戦を経て、自らの節約術を『端福流』という一つの「流派」として確立するまで、皆様には温かく見守っていただきましたこと、心より感謝申し上げます。


さて、いよいよシーズン2の開幕です。


物語の舞台は、住み慣れた半額市を飛び出し、広大で、未知なる価値観が渦巻く外の世界へと移ります。

リナが己の全てと信じる『端福流』は、文化の違う人々の前で、果たして通用するのでしょうか。


そして、旅の中で試される、ユイ、シオンとの絆の行方。

時にはすれ違い、深く傷つきながらも、彼らは本当の意味での「仲間」になることができるのか。


さらに、リナの運命を大きく揺るがすことになる、新たな人物も登場します。

節約とは真逆の哲学を持つ彼の存在が、リナの信じる道に、大きな問いを投げかけることになるでしょう。


これは、一人の少女の節約術が、本当の意味で世界と向き合い、成長していく物語です。

リナたちの新たな旅路を、皆様にもぜひ一緒に楽しんでいただければ幸いです。


それでは、シーズン2、第13話『旅立ちの端福流』。

新たな物語の幕開けです。どうぞ、最後までごゆっくりお楽しみください。

 異世界カップ麺の衝撃が市場を駆け巡った翌日。

 半額市は、いつもの戦場の熱気とは少し違う、祝祭のようなざわめきに満ちていた。


「聞いたか? あの節約の嬢ちゃん、ついに流派を立ち上げたらしいぜ」

「名前が長くてダサいんだろ?」

「いや、『端福流たんぷくりゅう』と呼ぶらしい。なんか、こう……ありがたい響きじゃないか?」


 道行く人々の会話に、自分の名が混じる。私はなんだか気恥ずかしくて、いつもより少しだけ背中を丸めて歩いていた。


「リナ、胸を張りなさい。あなたは一夜にして、この市場の有名人になったんだから」


 隣を歩くユイが、楽しそうに私の肩を叩く。彼女の表情は、これまでの心配顔とは違い、誇らしげですらあった。


 掲示板の前には、昨日までとは違う人だかりができていた。

 《祝・端福流 誕生! 本日は記念セール開催!》

 そこには、人参のヘタ、魚のアラ、パンの耳といった、これまで日陰者だった「端っこ」たちが、堂々と主役として並べられている。それを、人々が真剣な顔で吟味していた。


「嬢ちゃんのおかげで、端っこにも価値があるって、みんなが気づき始めたのさ」


 店の親父が、ニカッと笑ってパンの耳を袋に詰めている。

 私のささやかな満足が、誰かの満足に繋がっている。その光景に、胸の奥がじんわりと温かくなった。


 その時だった。


「リナ殿、ユイ殿。至急、ギルドの集会所まで来ていただきたい。『あの方』がお呼びだ」


 凛とした声と共に現れたのは、竜騎士見習いのシオンだった。

 彼の表情はいつも通り硬質だが、私を見る目に、以前のような侮蔑の色はもうない。代わりに、静かな敬意のようなものが宿っていた。


 私たちが案内されたのは、市場の最奥にあるギルドの集会所。使い込まれた長い木のテーブルと、いくつもの椅子が並んでいる。その一番奥の席に、あのロングコートの男――半額王が、腕を組んで座っていた。


「リナ。昨日は見事だった。あんたがこれまで積み上げてきた全ての戦いが、あのカップ麺の一杯に集約されていた」


「……ありがとうございます」


「だがな」


 彼は続けた。


「真の流派とは、内に留まるものではない。外に広がり、人々の暮らしに根付いてこそ、本物となる」


 彼は立ち上がり、壁にかけられた古びた世界地図を指さした。そこには、私たちの知らない国の名が、無数に記されている。


「この半額市の外では、今も数多の食材が、その価値を知られぬまま捨てられている。リナよ、お前の『端福流』を、その知恵と哲学を、外の世界に伝える旅に出てはくれまいか。これは俺からの、いや、この市場全体からの願いだ」


 それは、依頼だった。

 私の小さな節約術が、世界を救うかもしれない。ゼリーの衝動買いで赤字を出し、空気サンドで倒れた私が?

 だが、脳裏にこれまでの戦いが蘇る。一口の満足を分け合った、あの温かさが蘇る。


「……やります。私の『端福流』が誰かの役に立つのなら!」


 私が力強く頷くと、彼は満足げに微笑んだ。


「うむ。そして、この旅には仲間が必要だ」


 彼の視線が、ユイとシオンに向けられる。

 ユイは一歩前に出た。


「聞くまでもありません。この子がまた空気サンドみたいなものを食べて倒れたら、誰が看病するんですか。私がついていきます」


 その言葉は呆れているようで、誰よりも深い信頼に満ちていた。


 次に、シオンが静かに一礼した。

 半額王が彼に向き直る。


「シオンよ。お主が仕える領主様とは、古い付き合いでな。話は通してある。騎士団から一人、リナ殿の護衛として派遣してもらえることになった」


「はっ」


 とシオンは応じた。


「リナ殿の『理』の道、騎士として見届けさせていただきます。これもまた、我が務め」


 こうして、私たちの旅は正式に決まった。

 節約の伝道師わたし、常識人の薬師ともだち、そして、理を求める騎士ごえい

 アンバランスな三人の、新たな冒険が始まる。


 旅立ちの朝。

 私は荷造りを終え、小さな包みから一枚のパンの耳を取り出した。

 あの日の朝と同じように。


 一口かじる。香ばしさと、噛みしめるほどの甘み。これこそが、私の原点。

 ふと、隣で旅支度をするユイの視線を感じた。

 私はパンの耳を半分にちぎり、彼女に差し出した。


「……え?」


「半分こ、です。分け合っても、満足は減りませんから」


 ユイは一瞬きょとんとした後、満面の笑みでそれを受け取った。


「……ありがとう。うん、美味しい」


 半額市の門の前には、見慣れた顔ぶれが集まっていた。


「リナ! 肉を食わずに世界が救えるかぁ!」


 とオーク冒険者のマリオが叫ぶ。


「美しくない節約なんて、認めないんだから!」


 とエルフ美容姫のセレナが涙ぐむ。

 ドワーフも、僧侶も、商人たちも、誰もがそれぞれの言葉で私たちを送り出してくれた。


「リナよ、行け」


 半額王が、静かに言った。


「お前の道は、お前自身で切り拓くのだ。満足の下限を見失うなよ」


「はい!」


 私たちは深く頭を下げ、顔を上げた。

 門の向こうには、どこまでも続く未知の街道が広がっている。

 期待と、ほんの少しの不安。そして、これから出会うであろう、まだ見ぬ「端っこ」たちへの、燃えるような探求心を胸に。


 三人三様の思いを乗せて。

『端福流』の物語は、今、本当の意味で、その一歩を踏み出した。

リナ

『端福流』の創始者にして伝道師。半額王の依頼を受け、仲間と共に未知なる外の世界へ旅立つ。パンの耳を分け合うことで、自らの成長を示した。


ユイ

リナの親友であり、旅の仲間。薬師としての知識と常識で、リナの無茶を支える。リナとの絆はより一層深まっている。


シオン

この街の領主に仕える若き騎士。半額王からの依頼と自らの意思で、リナの護衛として旅に同行する。


半額王

半額市の伝説的な顔役。その影響力は街の領主にも及ぶと噂される。リナの才能を見出し、外の世界への旅を依頼する。


市場の群衆

リナの旅立ちをそれぞれの言葉で激励する、かつてのライバルであり、今では良き理解者たち。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ