第11話 空気を喰らえ!半額サンド
赤札の魔光に照らされた掲示板に、奇妙な商品名が浮かんだ。
《本日の目玉:空気サンド(半額)》
木台に並ぶのは、ごく普通の白パン。
だが説明札にはこうある。
《パンの間に空気魔法を封じ込め、食すれば満腹感を与える。ただし味はほぼしない》
「……食べ物っていうより詐欺じゃないか?」
「パンを無駄にしてるだけだろ」
群衆が笑い混じりに囁き合う。
私は両手を握りしめ、目を輝かせた。
「これです! 小食の私にぴったり! 満腹感と節約の両立が可能です!」
「……また妙なのに食いついた」
横でユイが額に手を当てていた。
「リナ、さすがにそれは危険信号でしょ」
「空気こそ生命力!」
白装束の気功師が胸を張る。
「カロリーゼロ! 完璧な料理だわ!」
ダイエット中の姫君が侍女を押しのけて前に出る。
「これは私が発明した! 特許は渡さん!」
ゴーグルをかけた怪しい発明家が笑う。
観客は口々に呟く。
「戦場っていうか見世物小屋だな」
「……いや、これはもう宴会芸だろ」
店主が赤札を掲げる。
「ルールはいつも通り!」
「買った者の勝ち!」
「争いは――」
「武力に訴えてもよし!」
ぱちん。半額。
――場内がふわりと浮いた。
パンの間から空気魔法が漏れ、床全体が軽くなる。
「うわ!?」
「浮いてる!」
観客が悲鳴を上げる。
「これぞ気の波動!」
気功師が宙でポーズを決める。
「絶対痩せる!」
姫君がサンドを抱え、ふわふわと浮遊。
「改良の余地あり!」
発明家がかじった瞬間、ぼんっと小爆発。煙が充満した。
私は木台の端に残っていた、空気が抜けかけたサンドを手に取った。
(……これで十分。銅貨一枚で満腹なら究極の節約!)
銅貨を払い、かじる。
「……味が……ない。でも……お腹がいっぱい!」
私は感動に目を潤ませた。
「これこそ究極の節約です!」
その夜。
空気サンド一つで夕食を済ませ、財布は銅貨一枚しか減らない。
布団に潜り込み、私は笑った。
「完璧な勝利……」
――だが翌朝。
「……お腹が空きすぎて……動けません……」
私はベッドでぐったりしていた。
「ほら見なさい!」
駆けつけたユイが布を額に当てる。
湯を飲ませ、果物を齧らせてどうにか持ち直す。
「だから言ったのよ、あんなの食べ物じゃないって!」
「嬢ちゃん」
入り口にロングコートの影――半額王が立っていた。
「節約は立派だ。だがな……健康を削る節約は破綻だ」
「……でも……銅貨は節約できました……」
私は弱々しく笑う。
「嬢ちゃん、自分の満足に下限をつけろ。命まで削ったら、何も残らねぇ」
私は震える手で家計手帳を開き、赤字で書き込んだ。
《空気サンド:失敗/満足ゼロ》
ユイが大声で叫んだ。
「もう節約じゃないでしょ!!」
観客のように外から声が聞こえた。
「……ほんと、勝手にしてくれ」
「病院代のほうが高くつくだろ」
「子どもに真似させちゃ駄目だな」
私は苦笑し、布団の中で心に刻んだ。
(節約には……限度がある。次は……きっと正しく)
キャラクター紹介
リナ:空気サンドで満腹するが翌朝倒れる。節約に「下限」があることを学ぶ。
ユイ:看病役。「限度を知れ」と叱る。
半額王:「健康を削る節約は破綻だ」と諭す。
気功師/姫君/発明家:戦場を混乱させる奇人たち。
群衆:呆れ・皮肉・怒り混じりの声で場を彩る。




