第10話 戦場に残された野菜の皮
巨大サーモン戦の翌日。
私は尻尾の切れ端を食べ終え、胸を撫で下ろしていた。
「今日は……胃袋を休ませたいです。軽く、安く、でも栄養を……」
私は財布を握りしめ、掲示板を見上げた。
《本日の目玉:野菜の皮炒め(半額)》
木台の上には、人参、大根、芋、玉ねぎ――皮だけを集めた大皿。
油で炒められて香ばしい匂いを漂わせてはいるが、見た目はどうしても“残りかす”。
「……ゴミだろ」
「ペットの餌か?」
「いや肥やしだな」
群衆のざわめきは冷ややかだった。
私は目を輝かせた。
「最高の節約食材です!」
「皮はペットのエサに最適だワン!」
尻尾を振る犬獣人の少女がトレイに飛びかかる。
「外皮こそ滋養!」
杖を掲げるエルフ僧侶が目を光らせる。
「外郭の味を極めてこそ美食!」
評論家老人が狂気の笑みを浮かべる。
観客が顔をしかめる。
「昨日までの壮絶な戦いから、一気に……」
「茶番すぎる」
商人は鼻を鳴らす。
「皮を売っても儲けにならん」
老婆は微笑みながら呟いた。
「昔は皮すらありがたかったんだよ……」
隣のユイが腕を組んで私を睨む。
「リナ、本当にこれでいいの? サーモンの尻尾で勝った次の日に、今度は皮?」
「はい。端にこそ栄養の真実があるんです!」
「また出たよ……」
店主が赤札を掲げる。
「ルールはいつも通り!」
「買った者の勝ち!」
「争いは――」
「武力に訴えてもよし!」
ぱちん。半額。
犬獣人少女が皮をくわえて走り回り、僧侶が魔法で風に舞わせる。
評論家老人は「外郭!」と叫んで皮を舐める。
観客は頭を抱えた。
「……大道芸の天幕かよ」
私は鉄板の端を覗き込んだ。
赤茶に光る人参の皮が一枚。
(……これで十分。銅貨一枚で満足できます!)
スプーンで拾い、銅貨一枚を差し出す。
店主の木札が鳴る――「購入成立!」
一口。
ぽりっと噛めば、油の香りが広がり、僅かな甘みが舌を潤した。
「……噛めば噛むほど旨味が……ああ、幸せ……」
「嬢ちゃん」
ロングコートの影――半額王が現れた。
「皮は香り、身は音。だが――分けても満足は減らねぇ」
私は皮を二つに割り、ユイに差し出した。
「……ありがとう。ちょっと安心した」
ユイは苦笑しながら口にした。
「ワンも!」
犬獣人少女が尻尾を振ってねだる。
残りをちぎって渡すと、少女は夢中で頬張った。
自分の口に入る量は減ったはずなのに、胸の奥はむしろ膨らんでいた。
(……分け合うと、満足は広がるんだ)
背後では相変わらず論争が続く。
「美は層よ!」
セレナがいつの間にか参戦。
「違う、滋養は外皮!」
僧侶が譲らない。
「外郭だ!」
評論家老人が叫ぶ。
観客が一斉に叫んだ。
「「「もう好きにしてくれ!!!」」」
キャラクター紹介
リナ:野菜の皮で満足し、初めて「共有の満足」を学ぶ。
ユイ:リナに分けてもらい「少し安心」と安堵。
半額王:「分けても満足は減らぬ」と教える。
犬獣人少女:ペット用と主張するも、分けてもらって喜ぶ。
セレナ/僧侶/評論家老人:三者三様の論争で場を混沌に。
群衆:商人・老婆・冒険者などが多彩な声を混じえる。




