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23.疑念

 メルトが研究所へやってきてから1週間過ぎた。蝉の合唱をBGMとしながら大きな変化もなく日々は過ぎていく。

 煉華は急ぎで浄化すべき場所もないという事で、城内にある図書室の一角に陣取り山積みにした本を一冊ずつ捲って何かを探していた。


 魔素とは何か。魔素の濃い土地とはどのように生まれるのか。

 瘴気とは何を指しているのか。それを考え始めてからというもの、ゲーボやエリスに訊ねてみたが、2人共魔力に必要なもの。ということしか知らなかった。当たり前に存在しているものであるからこそ、今まで気にした事がなかったとも言える。

 魔法を使えるほどに魔力のある者はそう多くないが、魔力自体は誰でももっているというのだ。そういった事は帝国の図書館をあたった方が早いかもしれない。そういわれて、休みを利用して図書館で古い書物をあたる事にしたのだ。

 

 神話や建国史といった古くからある書物を選択して、ひとまず全て机の上に積んでもらった。目次のようなものが無い為、全体をざっと読まなければならないのだが、つまむものも聖女権限で持ち込んだため、自身のペースで休みを挟みながら確認する事が出来る。

 うず高く積み上げた本に隠れて目線が合う事は無いが、向かい側ではユリウスも煉華が探している内容が書かれている書物が無いか探している。名前を呼ぶ事を赦して以来、すっかり忠犬となったユリウスは煉華の補佐をしっかりとこなしていた。


 ユリウスが確認したものは別の山になっており、そこにも煉華は目を通していく。

 既に読まれているものではあるが、ざっと内容を聞いた上で改めて読み返す事で、新しい発見もある。

 どの話にも、「マガツヘビ」という単語が出てくるのだ。


 日本語にすると禍蛇と書くのだろうか?

 馴染みのある言葉だと思いながら、口の中で転がすと、何度読んでも八岐大蛇のような大きな蛇のイメージが脳内に浮かんでくるのだ。

 そういえばハクも龍神みたいなものだと言われたっけか。と、煉華は半ば無理やり自分を納得させる。

 もしかしたら、自分と同じように召喚されてしまった人が大昔にいて、その人がこういった書物を作成したという可能性も捨てきれない。

 だが、それを考えるのは今ではないと考える事を止めた。


 単語の意味にひっかかると、どうにも気になって仕方がない。

 その言葉について詳しく書かれている書物を調べてみようかと思った時、誰かが近づいてきている事に気が付いた。

 気配を感じて顔を上げると、黒く長い髪を1つにくくり、動きやすい服装をまとったエリスが瞳を輝かせてこちらに向かって手を振りながら歩いてくる。


 「レンカ様!」


 「エリス、どうしたの?」


 今日は予定がある。

 図書館に行くか訊いたときにそういわれていた事を思い出し、煉華は驚いたように目を見開いた。

 悪戯が成功したとでも言わんばかりの笑顔で、エリスは煉華の隣に腰掛ける。


 「今日は予定があったんじゃなかった?」


 「ふふ、用事が終わったのです。レンカ様にとっておきのお土産を用意しましたの」


 胸を張り、自慢げに語るエリスを見て微笑ましく温かい気持ちを抱きながら、煉華は興味があると先を促した。


 「こちらが、この世界に現存する、一番古い書ですわ」


 古語で書かれている為、翻訳に多少時間を要したのだとエリスは続けた。それをノルンが翻訳した事も隠さずに伝えていく。受け取る為に遅くなったのだと告げたエリスは本を開くと、朗々とした声で読み上げ始める。


 ――はじめは暗いだけの世界であった。


 煉華は冒頭の説明を聞きながら、神話というものは異世界であっても似通ったつくりなのか。と、別の意味で感心していた。

 そんな煉華に気づく事もなく、エリスは朗読を続けていく。


 ――神は、天地を創造し、生命を創造した。その中でも、神と同じ形をした生命は、とてもか弱く、世界を覆う闇の日には多くが命を落としてしまった。神は嘆いた。己と同じかたちをした生命が何故生きられないのかと。そして神は気が付いた。光の中では生き生きとしている生命は闇の中では生きる事が難しいのだと。そうして神は、闇に生きる生命と、光に生きる生命とを分けることとした。

 元は同じ生命であった為に、光には薄い闇を。闇には僅かな光を大気の中に溶けこませた。そうして、生命は等しくどちらの中でも生きる事が可能となった。神は嬉しく思った。


 眠気を誘う内容ではあったが、煉華はがたりと音を立てて椅子を引き、積み上げた本を崩す勢いで本を漁っていく。本の山から目当てのものを見つけると、煉華は勢いよく頁を捲っていった。


 「レンカ様?」


 「光に闇。闇に光……あった! これよ!」


 煉華が本を退かしてユリウスにも見えるように机に開いて置いた頁には、魔法の属性と性質について書かれている。


 「水属性は光にも適性があり回復魔法が使用できる。地属性は闇にも適性があり身体能力の向上が期待できる。これよ、これ。もしかしたら、魔素の性質が2つあるってことかもしれないわ」


 興奮したようにまくしたて、煉華はこうしてはいられないと席を立つ。これを実証するには、種が魔素を吸収する仕組みまで調べ上げなければならない。もし、魔素そのものに属性があるとしたら、魔素中毒になっている者たちが使用する属性魔法に共通点があるはずだ。魔族の中であてられてしまった者達が使用できる魔法について確認出来るなら。


 メルトたちは、魔素の薄い環境であれば多少症状が和らぐ事までは理解していた。だが、治癒に至る条件を特定するところまではできなかったと言っていた。そして、それが付け込まれる隙を生んでしまったのだと悔いていた。


 人と魔族の争いの根源。

 今、魔素に対して抱いた疑念は、果たしてそこに触れることとなるのだろうか?

 そしてもう1つの疑念が生じてくる。


 何故、エリスが朗読してくれた文献には()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか。


 「ねぇ、エリス。貴女、それ全部読んだ?」


 「はい。レンカ様にお話しする前に一度目を通しました」


 「そこに、繝槭ぎ繝??繝という言葉は出てきた?」


 「……え? 今なんと?」


 確かに言葉にした。そう思ったが、自身の耳にも、理解できない言葉となって響いた為、舌を噛んだのだと謝罪する。


 「この言葉なのだけれど」


 そうして開いた頁の単語を示すと、エリスは不思議そうに首を傾げる。


 「レンカ様。そこは空白となっております。そこには、初代の魔王であった者の名が記されていると言われています。ただ、その名も魔王と共に初代の聖女様によって封じられた。と……」


 「なるほどね。わかったわ。ありがとう」


 はっきりと読む事が出来たはずの単語だったが、いまは文字化けでもしているかのように掠れ、歪んで見える。

 初代魔王と初代聖女。日本語に似た魔王の名は、もしかしたら初代聖女が付けたものかもしれない。

 

 気を抜くと読み方を忘れてしまいそうになる名をそっと指でなぞりながら、煉華は意識を魔王の名から魔素の性質へと戻していく。

 魔素の耐性に関する共通点。それが見つかれば治療にも役立つし、浄化に必要な魔道具を作る事も出来るかもしれない。脱線した話が戻っていくうちに、次第に煉華は魔王の名に関しての興味が薄れていった。

 

 そうして、研究所へ向かう道中。自身がエリスとの会話で何かに気が付いたことを思い出したが、それがなんであったかは思い出せないまま日が暮れていった。

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