天皇賞(秋)・前半
色々あったものの、馬場入り後は特に何事もなく順調に時間が過ぎていった。
そして、いよいよ発走時間が迫り、各馬の緊張感が増してくる。そんな中、自分はあんな事があったので、GⅠの雰囲気にも呑まれることはなく落ち着いていた。
鞍上も同じ・・・だと思う。いや、そう思いたい!
そう願いながら輪乗りしていると、スターターの人が台に上り赤い旗を左右に振る。
すると、あの名曲が聴こえてきた。
パーンパパパーン、パパパーン・・・
東京競馬場でのG1ならではの軽快なファンファーレが生演奏で響き渡る。そこに大観衆の手拍子と歓声が重なり、否が応でも会場は盛り上がっていく。
その音が落ち着くとすぐに、俺も含め各馬がゲートに入っていった。
俺は4番の偶数番で後入れなので、失礼しますよって感じで入っていくと、お隣さんが3番を付けたあのバクダンムーン・・・ そう言えば居たね、この方が。
あの、あまり見つめないでほしいんですけど(汗)。
ビビりつつもゲートが開くのを今か今かと待っていた。
「スタートしました!」
ゲートが勢いよく開かれ、俺は好スタートを切った。いや、切り過ぎてしまった!
するとなんということでしょう! お隣さんよりも前に出てしまったではありませんか!
しかも、前には誰もおらず、つまりやってはいけないハナに立ってしまった訳で、、、ちらりと後ろみてみると、あのお方が
『おおん?ワシの前を走るとはいい度胸してるじゃねえか、てめぇ、しばいたろか!?』
みたいな顔をして、猛烈に迫ってくるではありませんか!
ああしよう、こうしようと考えていたものは全て吹っ飛んでしまい、とにかく逃げた。
ヤバイ、ニゲネバ。ニゲネバヤラレル・・・大汗
狙っていた訳ではないだろうが、G1初騎乗の小坊主も必死に煽りを入れたことも重なり、俺はスピードを上げていく。
その結果、俺とバクダンムーンはどんどん後続を引き離し、10馬身もの大差をつけた状態で二度目のコーナーに突入していくこととなった。
「1000mのラップはなんと57.2秒! ちょっと飛ばし過ぎではないのか?」
想定外のハイペースにアナウンサーも驚きを混ぜて実況している。
こういう大逃げの馬が出るレースというものは、とにかく盛り上がるものである。大波乱が起こるかもしれないからだ。
でも、まさか逃げてる本人が勝つため、ではなく命の危険を感じているためとは誰も気づいてないだろう。
だずげで、おが~ぢゃ~ん、 危ない人が追ってぐる~~
と、幼い頃に別れた母に助けを求めながら、涙目になりつつ俺は逃げていた。
そうして今まで経験したことのない大観衆の中、俺と俺を追いかけるもう1頭はそのまま最後の直線へと向かっていく。すると、流石にハイペースが祟ったのか、バクダンムーンは次第にずるずると後ろに下がっていった。
俺を睨め付け、何か呪いの言葉を発しながら。。。。
すごいやつだ。すごいやつなのだが、頼むから、もう二度と自分の前には現れんでくれ。




