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第二十話 お兄ちゃんだ!

 赤ちゃんが生まれた日から、我が家は賑やかである。

 赤ちゃんとは、とにかく泣くのだ。

 お腹が空いても、おしめが濡れても、悲しかったり、時には嬉しくても泣くらしい。

 感情表現が笑うか泣くしかないので、弟はよく泣いた。

 我が家は、お母さまの希望でお母さま自身が赤ちゃんの面倒を見ている。

 普通の貴族は乳母を雇うそうだよ。

 でもお母さまは、元は村娘。自分の手で育てたいと。

 私もお母さまにお世話してもらったんだって!

 アンナから聞いたんだ。

 あ、アンナは私専属のメイドさんだよ!

 年齢は十四歳なんだって! 元々は地方の領主の三女で奉公として我が家に一年前から働きに来てたんだって。

 ちなみに、お母さまの出産の時に私のそばに居たのがアンナだよ。

 さて、今日も今日とて弟の泣き声が響く。


「元気だなあ」

「そうですね。きっと健やかに育ってくださいますよ」


 アンナがにこやかに言う。

 アンナにも弟が居て、凄く元気に泣く赤ちゃんだったらしい。


「お名前は、クロードさまでしたよね?」

「うん! お父さまが考えたんだよ!」

「素敵な名前ですね」

「うん!」


 弟の名前は、クロード。

 お父さまが尊敬している騎士の先輩の名前なんだって!

 先輩のように、自身を律する事ができ、他者を思いやれる人物になってほしいという願いからきてるんだ。

 クロードは生まれたばかりの時はわからなかったけど、私と同じ銀髪に青い目の可愛い赤ちゃんだ。

 お揃い!


「アンナ。クロードに会ってから、『乙女の園』に行きたい!」


 アンナに髪を結ってもらいながら言う。


「ロジオンさまに会いに行くのですね」

「そう!」

「かしこまりました。馬車の手配をしてきます」

「ありがとう!」


 私はにっこにこだ。

 ロジオンに会うのは、本当に幸せなことなのだ。

 アンナは器用に髪を編み込んでいく。

 お気に入りのリボンも結んでくれて、完成だ。

 アンナが専属になってくれてから、今までお父さまについて行ってたりした『乙女の園』訪問は、アンナが一緒に居てくれるので私だけで馬車が出せるようになったのである。感謝感謝だ!


「ロジオンさまに何かお土産をお持ちしますか?」

「ふふーん! ロジオンにはお土産はもう用意してあるの!」

「まあ、さすがお嬢様」

「ふっふっふ!」


 ロジオンに早く見せたいな!

 アンナはにこにこと、私を見ている。

 穏やかなアンナのそばは心地よい。優しいお姉ちゃんって感じ!

 私はくるくる巻いた画用紙にリボンをつけて、馬車の準備ができるのを待つことにした。



「では、お嬢様。私はいつもの場所で待機しておりますので」

「ありがとう!」


 『乙女の園』にある花畑に着くと、アンナは私にお辞儀をしてから離れていく。

 居住区の休憩所でいつも待っててくれるの。

 退屈なら一緒に遊ぶ? と聞いたことあるけど。

 貸し出し可能の本を読むのが楽しいので、大丈夫ですよ、と笑顔で言われた。

 アンナ、いつもありがとう。

 アンナが立ち去るのをロジオンと二人で見送る。


「アンナさんを見て思うけど、アリシアってお嬢様なんだよね」


 ロジオンがしみじみと言う。

 どういう意味だね!


「アリシアは、ちゃーんとお嬢様だもん!」


 胸を張って宣言すれば、ロジオンはなんか、うん、微妙な顔をした。

 感情豊かになったね。


「そういうところが……アリシアだよね」

「えー」

「アリシアらしくて、良いって意味だよ」

「ならば、よし!」

「今日もポケットぱんぱんだね」

「優しさが詰まってるんだよ」

「アリシアだなあ」


 ロジオンはまたもしみじみとしている。

 どうしたんだろう?

 不思議に思い、ロジオンの顔を覗き込む。


「……ロジオン、もしかして、寂しかった?」


 するとロジオンは、目を瞬かせた。

 そして、顔を赤く染めると、俯いた。


「……うん」


 と、小さく頷くロジオンは恥ずかしそうで、とても可愛らしかった。くふり。

 手をもじもじさせて、ロジオンは口を開く。


「アリシア、しばらく来られなかったから。赤ちゃんのそばに居たいのはわかるよ。でも……寂しかった」

「ロジオン!」


 私はロジオンに抱きついた。

 なんてことだ! ロジオンを寂しがらせるなんて! なんたる罪深さ!


「わ、わ、アリシア!」


 ロジオンは慌ててるけど、でも私の熱い抱擁を受け入れている。本当に寂しかったんだ。


「大丈夫だよ! 私の心は常にロジオンのそばにあるから!」

「それは、ちょっと重いかも」

「えー……!」


 ロジオン、そこも受け入れようよー。台無しだよー。

 不満たらたらな私に、ロジオンは恥じらう様子を見せる。


「だって、いつもアリシアが居ると思うと、は、恥ずかしい……っ」

「ロジオンー!」

「わっ!」


 私は熱い気持ちを滾らせ、ロジオンの胸に顔をうずめた。

 ロジオン、可愛い。可愛すぎる!

 その拍子にお土産が地面に転がった。


「あ! 芸術が!」

「芸術?」


 不思議そうなロジオンに、私は急いで画用紙を拾う。

 そして、リボンを外すと画用紙を広げてロジオンに見せた。


「じゃじゃーん!」

「…………えっと」

「じゃじゃーん!」


 なおも言うと、ロジオンは眉を下げた。

 うんうん、私の芸術に感動してくれてるのかな!

 ロジオンはごくりと、喉を鳴らすと私を見る。


「……あ、赤、ちゃん、かな?」

「そうだよー! 我々の輝く弟だよー! クロードの寝顔を描いたんだ!」

「ね、寝顔……」


 ん? ロジオン、様子がおかしいよ? どうしたのかな?


「ロジオンにあげるね! 部屋に飾ってもいいよ!」

「う、うん」


 ぎこちない動きで、ロジオンは画用紙を受け取った。うむ。ミッションコンプリート!


「いつか、クロードに会ってね!」

「え?」

「だって!」


 私はロジオンに笑いかけた。


「ロジオンはクロードのお兄ちゃんだもの!」

「アリシア……」


 ロジオンは目を細めると、微笑んだ。

 淡いような、でも、嬉しさが溢れた笑顔だ。


「うん!」


 ロジオンとクロード、きっと仲良くなれる!

 未来は輝いているのだ!

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