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第十四話 似顔絵

 ぐずぐずと鼻を鳴らし、私は絵を完成させた。


「ルークさまは、芸術がわからないんだよね」

「心に刺さることを言うなあ」

「駄目ですよ、殿下。ここは、謝りませんと」


 ダンさんに言われ、ルークさまは渋面を作る。


「いや、しかしだな。一流の教育を受けている身だ。安易にあの絵を認めるのは……」

「うわーん!」


 ルークさま酷い!

 あんまりだ!


「アリシア、泣かないで」


 ロジオンが頭を撫でてくれた。

 ロジオンー!!


「ほらっ、ロジオンくんが男のあるべき姿を体現していますよ!」

「う、うーん……」


 ルークさま、腕を組んで唸っている。

 そんなに、嫌か。

 私の絵は、だめだめか。


「ロジオン、わたしの絵、どう思う? ズバッと言って」


 私の頭を撫でていたロジオンは、笑顔のまま口を開く。


「可愛いよ」

「ほらあ! ルークさま、ほらあ!」


 ロジオンに絵を認められ、私は胸を張る。

 ルークさまは渋面。

 ダンさんは、笑いを堪えている。


「殿下、あれが男気ですよ」

「く……! 私にも、足りないものがあったか!」


 悔しげに呻くルークさま。

 ふふん、ロジオンかっこいい!

 あ、そうだ!


「ルークさま、ルークさま」


 私は絵の描かれた紙を両手で持つと、ルークさまに近寄った。


「お、なんだ。怒りは治まったのか」

「うーん?」

「アリシアちゃん、何で疑問系なんです?」

「ぐつぐつにえたぎる思いと、今すぐルークさまに言わなければというしめいがせめぎ合ってるの!」


 ダンさんの笑顔が固まった。


「殿下、今時のお子さんって、怖いですね……」

「何をいまさら。私という子供が存在している時点でわかりきったことだぞ」

「あー、そうですね!」


 ダンさんは諦めたのか、ため息をついた。

 大丈夫?


「ところで、アリシア。煮えたぎる思いを抑えての、私への用向きはなんだ?」

「あ! そうだった!」


 私はルークさまに、絵を見せた。

 自信作だよ!


「完成したから、ルークさまにあげる!」

「ほ、ほう……」


 ルークさまの顔が引きつる。

 腕を組んだまま、ダンさんを見た。


「ダン。代わりに受け取るがいい!」

「殿下、ロジオンくんみたいに男気見せてくださいよ」


 ダンさんはあきれ顔だ。

 私は、しゅんと項垂れた。


「やっぱり、ルークさま。わたしのこと、嫌いなんだ……」


 この自信作を受け取らないということは、そういうことなのだ。

 友達だって、言ってくれたのに……。

 嬉しかったのに。


「ア、アリシア! 違うぞ! 友達だからな! 受け取る! ちゃんと受け取るからな!」

「わーい!」


 嬉々としてルークさまに絵を差し出す。

 態度が変わりすぎ?

 ちょっとくらい、意地悪してもいいじゃないか。

 大泣きしたの、恥ずかしかったんだもん。


「く……策の内だったか!」

「ほらほら、ルークさま!」


 ルークさまは、恐る恐る紙を取ると、ぎこちなく笑った。


「あ、ありがとう」

「うん! 大事に飾ってね!」

「か、飾る……」

「ほら、ルークさま。度量の深さを見せる時ですよ!」


 ダンさん、どういう意味?


「く、くう! 私は高貴なる者! このぐらいの試練乗り越えてみせる!」

「さすが、殿下!」


 いやいや、どういうこと?

 私の絵は、そこまでの価値があるということ?

 さすが、私!


「ロジオンー、喜んでもらえたよー!」


 振り返ればロジオンは、むうっと口を引き結んでいた。おや?


「……ルークさま、ずるい」


 ぽつりと呟かれた。

 ずるい?

 ルークさまを見れば、何やら訳知り顔で頷いている。

 どういうこと?


「俺も……ほしい」

「ロジオン?」


 何がほしいの?

 左ポッケにある飴玉?

 それとも、右ポッケのなかのピエール?

 ロジオンは頬を赤く染めて、私を見た。


「俺も、アリシアの絵ほしい……」


 ロ、ロジオン……!

 あれ? でも……。


「ロジオン、似顔絵はいらないって……」

「あの時は……だって、ルークさまにあげるとか、知らなかった、から」


 ルークさまとは出会ってすら、なかったもんね。

 ロジオンは、ぎゅっと服の裾を握りしめた。


「ルークさま、羨ましい」

「お、おお……」


 思わず変な声が出てしまう。

 だって!

 だって……!

 ロジオン、それは嫉妬でしょう!

 くらりと、嬉しさからよろめきそうになる。

 ルークさまたちを見れば、あらあらまあまあという微笑ましい顔をしていた。

 ロジオン、可愛い!


「描くよ! ロジオンの為なら、いくらでも!」

「……本当?」

「うん!」


 私はテーブルに向かい、ソファーに座った。

 クレヨンを手に取り、気合いを入れる。


「さあ! ロジオン! 最高けっさくを描くからね!」


 私がそう言えば、ロジオンは嬉しそうにはにかんだ。


「うん!」


 そして、私の隣に座った。

 足をぶらぶらさせ、期待に満ちた目をしている。

 可愛い! 可愛いよう!


「……私は、尊いものを見た」

「奇遇ですね。私もですよ」


 そんな会話が聞こえてくる。

 そうでしょう!

 ロジオン、尊い!


「ああ、そうだ。そろそろ巫女長に挨拶してくるか」

「ええ、そうですねー」


 ルークさまとダンさんが、何故か棒読みで言った。


「二人仲良くな」

「末永くお幸せにー」


 またまた棒読みだったけど、私とロジオンは笑顔で手を振った。


「またね! ルークさま!」

「今度は一緒に遊ぼうね」


 ルークさまは、嬉しそうに笑う。


「ああ、またな」


 ダンさんが軽く頭を下げて、ルークさまに付いていく。

 見送った私は、改めて気合いを入れた。

 よーし! 描くぞう!!


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