第十三話 あっさりと
それは、別れから二日後のことだった。
「やあ! また会えたな!」
「え?」
「おー」
私とロジオンは、他に誰もいない談話室でソファーに座り、絵を描いていた。
そこにひょっこりと、ルークさまが現れたのだ。
「ルークさまだー!」
喜び全開で駆け寄ると、ルークさまは笑った。
「アリシアは可愛いなあ。ロジオンの気持ちがよくわかる」
「い、今はそれ関係ないと思う」
いや、関係あるよ!
ロジオン、私を可愛いって思ってくれてるのか。それは、重要だよ!
「アリシア、ロジオン色にそまるの!」
「ははは! おませさんだなあ!」
「本気なのにい……」
ロジオンをちらっと見れば、そっと視線を逸らされた。
「アリシアのばかっ」
と、顔が真っ赤だ。
照れてるー。
「ルークさま、また従者まいたの?」
「ん? いや、行き先を告げたあとに、真っ先にここに来たのだ。君たちがここに居ると聞いてね」
「ほー」
「ルークさま、怒られない?」
ロジオンの心配そうな声に、ルークさまはにっこりと笑った。
「ものすごく、怒られるな!」
それは、笑顔で言っていいのだろうか?
怒られるの、怖いよ?
「ルークさま……」
ほら、ロジオンも呆れているよ!
「まあ、なんとかなるさ」
「なりませんよ!」
私とロジオンは、知らない声にぴゃっと飛び上がった。
男の人だ!
談話室の入り口で、ぜーぜー言っている。
「で……、ルークさま! あれほど、勝手に居なくなるなと……!」
「ちゃんと言っただろう。友達に会いに行くと」
「それだけじゃ、わかりませんよ!」
「そうかー?」
ルークさまは可愛らしく首をかしげた。
「貴方がやっても可愛くありませんよ……」
「そうか。やはり、アリシアのが似合うか。ほら、アリシア。やってみてくれ」
「うーん?」
言われた通りに、首をかしげる。
「誤魔化されませんよ!」
「なんだと! この可愛さがわからんのか! お前、大丈夫か?」
「うえーん」
ルークさまに小声で泣き真似をしろと言われたので、泣いた振りしながらロジオンのもとに行く。
ソファーから立ち上がったロジオンは、私の頭を撫でた。
「アリシア、よしよし」
「ロジオンー!」
ぎゅっと抱きつく。
ロジオン、好き!
「かわいそうに、アリシアが傷ついたではないか!」
「いや、明らかに泣き真似ですよね? 最近の子供怖いな!?」
「子供の成長は早いものだな」
「そう言う貴方も、まだ子供ですけどねー」
男の人はため息をついた。
「まあまあ、ダン。とりあえず、紹介しよう。友達のアリシアとロジオンだ」
「アリシア、四さいです!」
「ロジオン。六歳になりました」
「はあ、どうも。ルークさまに日々振り回されているダンといいます」
ぐったりしているダンさんをばしばし叩き、ルークさまは笑う。
「自己紹介が終わったな。ならもう知り合いだ。ここに居てもいいだろう?」
「駄目ですよ。まだ、巫女長に会っていませんし」
「巫女長殿なら、先日会っただろう」
「訪問する度に、ちゃんと挨拶してくださいよ!」
ダンさん、すごく怒っている。
大変そうだなー。
「ああ、そうだ。アリシアとロジオンは、私が王子だと知っているよ」
「は……?」
「あと、友として接するように頼んでいるから、そのつもりでな」
「……殿下」
あ、ダンさん。声低い。
私とロジオンは、ぴゃっと縮こまる。
「貴方、自分の立場わかっていますか! 大事な身なんですよ!」
「ははは、わかっているよ」
「本当ですかね」
「あまり悩むと、老けるぞ?」
「貴方が言わんでくださいよ!?」
ダンさん、肩で息をしている。
大変だなー。
「ルークさまー、お絵描きしてるねー」
「お、絵を描いていたのか。どれ見てやろう」
「ちょっと、殿下!? 話は終わってないですよ!」
「終わった、終わった。私は二人の絵を見る」
すたすたとこちらに来る、ルークさま。
我が道を行くって、やつかな?
ダンさんも仕方なく付いてきた。
「ほう、ロジオンは男の絵を描いたのか。優しい表情だ」
ルークさまに褒められ、ロジオンははにかんだ。可愛い。
「ライオネル父さまを描いたんです」
「ほう、父親か。よき父なのだね」
「うん!」
「へえ、ライオネルさんって、こんな顔もするんですねー」
ダンさんが、顎に手を掛けてしみじみと言う。
「父さまを知ってるの?」
「ええ、先日挨拶しましたからね」
「ライオネルさん、お菓子作るよ! おいしいの!」
「それは、また。意外な一面だ」
ダンさんは、すごく驚いている。
ライオネルさんは、見た目も性格もクールだけど、子供想いなんだよ!
「うんうん。ほっこりした。ロジオン、良いものをありがとう」
「い、いえ」
ロジオン嬉しそうだ。良かったね!
「さて、アリシアの、は……」
ん?
ルークさま、私の絵を見て固まったよ?
どうしたんだろう。
「こ、れは、人、いや、犬だな!」
「いえ、熊じゃないですか? あ、金色ですし、ゴールデンベアーという魔物の可能性も……」
ぬうう。
「ああ、そうか! ゴールデンベアーか! さすがだな、ダン!」
うぬぬぬ!
「あ、あの……」
ロジオンが私をちらちら見ながら、ルークさまとダンさんに話しかける。
「これ、ルークさまだと、思う」
完全に二人は固まった。
ぐぬぬ!
「わたしの、こんしんの、作品だもん……!」
そして、私は大泣きしたのだった。
あれだね。
ルークさまとダンさんは、芸術がわからないんだよ!
きっと、そう!
ロジオンは可愛い絵だって、言ってくれたもん。
お父さまは、額縁に飾ってくれてるもん。
オロオロする二人に慰められるなか、ロジオンが手を握ってくれるまで、私は泣き続けた。




