第十二話 かつての攻略対象2
「ほお。花冠とは奥が深いな」
「ルークさま、花冠までごうかけんらん!」
「凄いね」
ルークさまも混じえて、皆で花冠を作っている。
ちなみに、私とロジオンは媚びたわけではない。
本当に、ルークさまの花冠は豪華な仕上がりになっているのだよ。
「そうか……私は、何をやっても素晴らしいのだな!」
「ぐぬぬ」
「アリシア、顔がすごいよ」
ロジオンに指摘されても、私の悔しさは消えないのだ!
「このままじゃ、王子さま役とられちゃうー」
「私はもとから、王子だが?」
「アリシアは王子さまになりたいの!」
ぷりぷりしながら、花冠を完成させた。
うー、ルークさまには勝てぬ出来栄えだ。
「なあ、ロジオン」
「なに、ルークさま」
「アリシアは姫ではだめなのか?」
「それは……」
ひそひそする二人を睨みつける。
「そうしたら、ロジオンに求婚できないでしょ!」
「……だ、そうです」
「なるほどな」
顔を真っ赤にするロジオンと、真顔で頷くルークさま。
私にとっては、大事なの!
求婚といったら、王子さまだもん!
「アリシアは情熱的だなあ」
「俺は、は、恥ずかしい……」
「おお、照れているのだな!」
ルークさまが、ロジオンの頭をぐりぐり撫でた。
「わっ、わっ!」
「好きな子からの愛情表現なんだ。受け止めてやればいいのに」
ルークさま、いい事言うー!!
「そうだよ! わたし、ロジオン大好きだもん! かっこいいせりふ言いたい!」
「おお、良い心意気だな! 私は好きだぞ!」
「えへへー」
褒められちゃった!
ルークさま、やっさしー!
「お、俺だって……!」
ロジオンが顔を赤くして、私を真っ直ぐ見る。
「俺も、アリシアにかっこいい姿を見せたい。ちゃんと、気持ちを言葉にしたい!」
「ロジオン……!」
ロジオンの目がいつもより深い色をしている。
すごく、真剣だ。
ロジオンの心は、きっと熱い。
「ロジオン、わたし、すごくきゅんとしたよ! 好き!」
「私も、今のは心を打った!」
ロジオンは、さらに顔を赤くした。
照れてしまったようだ。
ロジオン、可愛い。尊い!
「だ、だから、俺が王子さま役やりたい」
「そうだな。アリシアは、姫という感じだ」
「えー……」
不満だよ。
ぬううと、口を引き結んでいると、ルークさまがからからと笑った。
「先に謝る。すまない」
「ルークさま?」
「私の花冠が完成してしまった」
見れば、ルークさまの手に素晴らしいアレンジが加えられた立派な花冠が輝いていた。
ルークさまが勝利した瞬間だった。
「結婚?」
結局、王子さまが王子さまをやるのはつまらないとルークさまが言ったので、私たちはおしゃべりすることにした。
そして、ルークさまから叔父さんが今度結婚するのだと聞いたのである。
「そうだ。ディードリッヒ叔父上は、政治的な理由で婚約者はいなかったんだ。それが、今度隣国と友好を深める為に、婿入りすることになった」
そう語るルークさまは寂しそうだ。
大好きなんだろうな。
しかし、ディードリッヒさまか……。
彼は、この国の第二王子さまだ。
そして、元攻略対象でもある。
ディードリッヒさまとお父さまは、前半部分が共通ルートだ。
すなわち、お母さまとはある程度面識があるはず。
ディードリッヒさまは、穏やかな性格で、まさに王子さま! という感じだ。
お父さまとは友人関係にある。
お父さま、寂しくなるね。
「叔父上は、淡い恋をしていたと言っていた」
ん?
「まだ六歳の私にはわからないが、相手が幸せなのが嬉しいと」
淡い恋……って、まさか?
「幸せを見届けたから、何の憂いもなく。結婚相手を愛することができる。そうおっしゃっていたよ」
「相手の幸せ……わかる気がする」
ロジオンが頷いた。
ロジオン、大人の恋がわかるの!?
「君たちだから言ったんだ。ここだけの秘密だよ」
「うん」
「わかったよ」
ディードリッヒさまの好きな人って、もしかして……。
いや、もう本人のなかで終わったんだ。
詮索するのは、だめだよね。
私は、しんみりとした気持ちになる。
そんな時、ルークさまを呼ぶ声がした。
「ああ、ダンだ。そうか、時間切れか」
「ルークさま、行っちゃうの?」
「まだ、お話したい……」
しゅんとする私とロジオンに、ルークさまはにっこりと笑った。
「これが最後ではないよ。だから、そうだな」
立ち上がったルークさまは、右手を上げた。
「また、会おう!」
再会の約束を口にして。
「うん!」
「また!」
私たちは、大きく頷いた。
友達だもの。
また、会えるよね!
約束!