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蛇印(じゃいん)  作者: 屯田 水鏡
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二十二、二つの金印、「漢委奴国王」印と「広陵王璽」印

二十二、二つの金印、「漢委奴国王」印と「広陵王璽」印


午前零時を少し過ぎた頃だったでしょうか、二階展示室から何かの物音が聞こえたような気がしたのです。

そこには二つの金印があります、不安が私の脳裏を過りました。

外国からお預かりしている宝に万が一、事故があれば、国際問題に発展しかねません。

勿論、警備システムは厳重の上にも厳重で、外部から一切博物館に侵入することは出来ないようになってはいましたが、私はどうしようもなく不吉な胸騒ぎを覚えたのです。

懐中電灯を握りしめて展示室に向かって階段を駆け上がりました。

階段を上り切った時、廊下から展示室へ入るドアから何か異様な光が漏れ出ていると感じました。

恐る恐るドアを開けて旧石器時代と新石器時代の遺物が両側に展示されている細長い通路を過ぎて弥生時代の展示物が並べられている部屋に漸く辿り着いて、金印の様子を見た時、私は危うく懐中電灯を取り落しそうになりました。

何と、二つの金印の双方から金色の光が立ち上り、巨大な竜の姿となって絡み合っていたのです。

私は急いで一階の事務所に取って返し、ポラロイドカメラを掴んでまた、階段を駆け上がりました。

金印の所に辿り着くまで三度は転んだでしょう。

カメラを構え、何枚も写真を撮りました。

やがて光はいつか波が引くように消えて行きました。

私は急に体中の力が抜けてしまい、明け方までその場に座り込んでしまっていたようです。

翌朝、出勤してきた上司に早速写真を見せて前夜の出来事を説明したのですが、彼は何も言わず私の顔と写真を交互に見比べるばかりでした。

写真には何も写ってはいませんでした。

私はそれを名古屋大学に送りました。

当時、写真分析技術では名古屋大学が一番だったからです。

大学から返送された鑑定結果は写真には何も写ってはいないというものでした。

しかし私は確かに亀印と蛇印の双方から眩い金色の妖光が湧き出しているのを目撃したのです。


男性の話が終わると司会者は、

「さあ、皆さんはどう思われますか?」

と、言った後、会場の壁に掛かった大きな柱時計を指さして、

「ちょうど予定された時間が経過しましたので、でシンポジュウムはこれで終わります」

と、締めくくった。

あの男性は一体、何を言いたかったのだろう。

多分、金印は偽物などではなく、二つの印、つまり、亀印と蛇印は洛陽の同一工房で造られたのだと言いたかったのだろう、などと考えながら、金印公園の長い石段を、時々、膝に手を置きながら、上り続けた。



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