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VRMMO内最高位NPCは血を流さない  作者: 東ノ瀬 秋
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最終決戦!暴食のマーナガルム戦2




空気だけでなく私自身すら震わせているのかと思わせる程の叫び声は、洞窟を反響して何度も襲い掛かってくるようだった。

それに数瞬遅れるようにして黒い水晶の奔流が襲い掛かってくる。

私とリアは左右に分かれて駆け出す。大狼は最初と同じく突っ込んでくるのが分かった。最初と違うのは私ではなくリアの方に向かっていることだ。


「10秒耐えて!」


私はリアの返事を聞く前に手近な水晶の上まで血で階段を作ってのぼった。

先ほどのブレスで私とリアは分断されておりリアに一足で飛びかかる大狼が見える。

私は頂上にのぼるとストレージにあった血をばら撒く。

そのまま操作して、城の中庭全体にさっきのブレスがなるべく平行になるように何重にもレールを設置する。

血を配置したフィールドを俯瞰したイメージを頭の隅に置いた。


「準備完了!」


私は再びリアに向かって叫んだ。



リアは最初の飛びかかりを躱すと目にも止まらぬ早さでメニューを操作し、自分の持っていた武器を交換する。

リアの手にはいかにも折れそうな細剣が握られていた。しかしそれがデータ上絶対に壊れないことをプレイヤーの誰もが知っている。その頼りない細剣で方向転換し飛び込んできた大狼の牙をなでる様に受け流す。前回では簡単に折れた剣が今回はビクともしていない。

リアの視界の端に真っ赤な血がうごめいてるのが映った。


「準備完了!」


ヒノの声を聴くとともにリアは右に跳んだ。追随してくる大狼の前足を剣で弾きながら反動で後ろに跳ぶ。

計算通りの軌道を描いてリアはヒノの血の上に着地した。水晶の上から見ていたヒノは血に流れを作ると共にリアの乗る【硬化】した板を動かす。リアはその波に右足だけで突っぱねる様に乗った。そのまま先ほど以上の速さで滑走して大狼から距離を取る。


「練習通り!」


ヒノの喜色の含んだ声がこだました。



前の戦いでリアを運びながらでも逃げることができた。私の装備重量上限値に二人が足りているならリアと一緒にレールを滑ることもできるはず。そう考えた私がこの戦いの前に城の外で試したのだ。

結果はリアも問題なく滑走できた。

それで分かったのがこの滑走、リアと私で出せる速度が違ったのだ。

一見私が血で運んでるのだから速さは一定になりそうだが、リアの方が圧倒的に速い。それもリアが普通に走るよりも速いときた。つまり私とリアそれぞれのステータスが関わっているという事だ。


リアの話では血の動きは私のINTの値が参照されている。スキルにMPを使うものは基本的にINTの値で性能が決まるとのことだ。血での滑走については血で運んでもいるのだが、その人の足を押しているという見方もできる。滑るとはいえ自分の足で血を蹴っているのだ。滑っている人のAGIが参照されてもおかしくはなかった。試してみれば私よりリアの方が出せる速度が大きく、さらに言えばリアも私同様普通に走るより滑る方が明らかに速かった。これは実戦で使える。


注意すべきは最初の乗り込むときだ。このときだけは私がリアを視認する必要がある。

着地の場所を硬化させ滑り出しの際足に入れた力をうまく地面に反作用させる。

これはタイミングが難しいため視認しないとまず無理なのだ。

それさえできればあとは見なくても硬化させた板を一定の速度で血流に流すイメージをすればいい。

移動中はリア自身がバランスを取ってくれるし好きなタイミングでレールを降りる。


それにしても【運搬】は神スキルだ。滑走中の体のバランスを崩しにくくする上にスピードアップまでしてくれる。これがなかったら私は滑走をものにするのにもう少し時間が掛かっただろうし、リアを背負って逃げることもできなかっただろう。本当【運搬】さまさまである。



今回私が水晶の上から見ることでリアの機動力を上げた。この黒い大狼に触れただけでリアはゲームオーバーなのだ。リアの速さは上げておくに越したことはない。リアなら幾ら速度を上げた所でそれに振り回される心配もない。

これが対抗策のひとつ。これまでの大狼は私が血で囲むことで動きを封じていた。対して黒の大狼は武器で攻撃してもスタンしにくくなっている。だからこそ黒い大狼はスタンさせる前の引きつける時間がどうしても長くなってしまう。私一人で挑戦していた時も同じで、血で囲みスタンを狙いつつ回避を取っていた。今思うと自分のできるキャパシティを越えている。

でも今はリアと一緒だ。リアが引きつける役を担ってくれるおかげで私の攻撃の機会が増えスタンの確率を上げられる。

さてこれは対抗策と言ってもリアの自由度を上げるためのものだ。もう一つリアが考えて準備してもらったものが私のストレージに眠っている。


大狼がリアを追って血の上を跳んでいる姿を私は水晶の上から確認した。着地地点を予想しタイミングを計る。


「ヒノ今です。」


水晶で死角となった場所からリアの声が飛んでくる。それに合わせて私は武器を取り出す。私は少し口角を上げた。


「さてリアの用意してくれたとっておきよ。大量にあるから残さず喰らいなさい。」


私の低い声に合わせて武器を取り出した地点に大狼が突っ込む。


G u u U U G G G a a a A A A A A A A A A A A A A A A A A


黒い大狼の悲鳴が空間を震わせる。顔や体には10本以上の剣や槍が突き刺さっていた。以前は突き刺さってもすぐにボロボロに崩れてしまっていた武器が今回は大狼に突き刺さったままだ。大狼は自分の体に突き刺さった武器を振りほどこうと立ち止まる。そこにリアが突っ込む。黒い大狼の横を通り抜けるように横凪にした。大狼の方は近くを通り過ぎたリアに目が行っており邪魔な武器を足元にばら撒くとリアを追っていく。落とされた武器は全てリアの持つ細剣と同じような金属をした簡素なもの。


これがリア発案の黒の大狼を封殺する秘密兵器―始まりの国で大量に買い集めた初期武器だった。


初期武器はチュートリアルで手に入れる初期スキルで武器系統のスキルを持っていた場合にそれに対応するものがストレージに入っている。

売買以外で手に入れるにはこれしか方法がないものの需要の方もほとんどない。必要だったとしてもすでに持っており壊れないので買いなおす必要もない。だから売値も買値も最低値になっている。

特徴は装備重量とATKが最低値に近く、そして()()()()()()ことだ。

黒い大狼は耐久を喰うが、元々耐久値がないものを消すことはできない。


つまり初期武器は黒い大狼に対する際に必須と呼ぶべきものだ。

何より私と初期武器は相性がものすごくいい。

それは初期武器の装備重量が最低値に近く、私の血で扱える武器の数がその分増えるからだ。

今の不意打ちに使った武器の数もいつもの倍以上だった。


一つのATKが低くてもその分を量で補える。ダメージ量は変わらず刺さった武器は壊れない。


今の私は間違いなく黒の大狼の天敵だった。



「ヒノ!そっちにブレスが来ます!」


リアの声に反応して手元の血であえて大狼の近くの壁際までのレールを作る。それに迷わず乗った。

ブレスの溜で顔を地面に擦り付けつつ移動している私の方に顔を向けているのが水晶の合間から見え隠れする。

ギリギリで壁際まで来ると私めがけてブレスを放った。

私のすぐ間近からの黒い光は体の真下を通過していった。


私は到達と共にレールを上に向けて上空に退避した。

このブレス、空中には届かないことが分かっている。

狙いが空中にいる場合その真下に向かってブレスを放つのだ。

下を見るとすぐそこに大狼がいる。

最初のブレスは中央から壁まで黒い水晶が残っているがそれと違って今回のブレスは周辺被害がほとんどなかった。


よし狙い通り!

初めのブレスは必ず中央から放つため関係ないが、次からのブレスは放つ方向でフィールドへの影響が異なってくる。

大狼の近くの壁際に移動することでフィールドに残る黒い水晶を最小限にコントロールできる。


大狼は真上にいる私に狙いをつけるがそれよりも早くリアの剣が届く。遅れるようにして私が上空から初期武器の雨を降らせて大狼の動きを封じる。大狼を地面につなぎとめるようにして剣や槍が刺さる。その際【雷魔法:付与】をつけるのを忘れない。大狼の全身には紫電が走っており体は痙攣していた。その隙に私自身は距離を取り、リアは追撃を続ける。


「三本目も結構安定してますねッ!」


「まぁ。私の血流操作でできることが増えたしね。あと魔石の貢献が大きい。」


実際剣だけでなく魔法によるダメージも加算された。私の攻撃は質より量だ。魔法の総ダメージ量はかなりのものになる。それに付与魔法による状態異常の発生率は攻撃回数に比例して高くなる。初期武器のおかげ攻撃回数は倍以上に増えた。この異常なスタンの数はこれが理由だ。本来暴食のマーナガルムがスタンする確率は低い。その高いハードルを急所狙いと攻撃回数とスタンの判定回数で乗り越えた。


「一人の時はこの三倍は忙しかったな。今は軽口叩く余裕まである。」


「前衛は全く気が抜けないんですがッ!」


「回避盾に圧倒的感謝を。それの大変さは身に染みてるゾ。」


洞窟に反響する声は離れた距離にいる二人を包み込む。

そうして一時間黒い大狼と戦い続けた。途中から黒い水晶を作り飛ばしてくるようになった。その水晶は私が初期武器のハンマーで粉砕していく。下手に残すと私たちの動きが制限されてしまう。それでも私が水晶の上で回避することが増えるくらいで順調にHPは減っていった。


そしてその時が訪れる。初めてHPが4本目を迎える。三本目の時とは異なり静かに私たちと距離を取った黒い大狼はその静けさすら不気味になるほどゆっくりとこちらの方を向く。


その瞬間。黒い大狼は歪んだようにその姿を、その形を崩す。



次に二人が見たそれはさっきと全く変わらない黒く輝く大きな狼になった。



大きな狼が()()になった。




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