最終決戦!暴食のマーナガルム戦1
閉じ込められたような気分になる。前は木の扉。後ろには黒い柵状の扉。後ろの扉は閉ざされ、前の扉は数十回も殺された強敵が待つ。
今のこの光景がここ数日の私のような気がした。袋小路で前にしか道がないのに、後ろに形だけでも扉なんかあるから戻りたくなる。
それでも今の私は後ろを振り返る気はない。
「さていい加減勝たせてもらうわ。」
言いながら血をストレージから取り出す。今の私のストレージは血と武器とMPポーションであふれている。お金は二人とも空っぽだ。
出した血は私の周りをゆっくり漂う。
「私の左手返してもらいましょうか。」
リアの戦闘服は私が破ってしまったので新調している。
右手には新たに買った細剣が握られていた。前のよりはレアリティが低いが耐久はそこそこあるらしい。
さらに右手には銀の腕輪がある。青い線が三本引かれており、その中央にはそれぞれ魔石が嵌めてある。腕輪の使い方は見た通りで、魔石に魔力を流すことで《封入》されたスキルを行使できる。魔石三つは自由に交換できるわけだがこの腕輪のすごい所はそれだけではない。これは魔石専用のアイテムボックスになってるのだ。それもARウィンドウから直接腕輪に魔石をはめ込むこともできる。言うなれば腕輪のおかげで右手一本で魔石の操作できる上、今までのように魔石を握っている必要もなくなったのだ。
これは以前から武器屋のリュースさんに頼んでいたものらしい。予算の都合上腕輪という形になったが本来なら篭手にしたかったみたいだ。リュースさん曰く武器屋は武器作ってなんぼだとか。今度いい素材とか手に入ったら改めて作ってもらうか。あの犬っころいい素材落とさないかなぁ。
まあなんにせよ、今のリアは左手がないのでこれが間に合ってくれたのは本当にありがたい。
私は自分たちが万全の状態であることをリュースさんに感謝しつつ木の扉に手を当てARを表示させる。
「じゃあ予定通りに。」
「はい。」
扉があいたと同時に私が飛び出す。レールは一本だけ敷いて置く。周囲に浮遊させていた血はほとんどまだ座っている大狼に向かわせた。
大狼に血がぶつかる前に二つに分け、大狼の周囲に滞留させる。その過程で以前から使っている店売りの槍を数本取り出し突き刺す。
攻撃を受けた大狼は血に周りを囲まれた状況を打破しようと駆け出す。しかし血もその跡を追うように大狼から3mの距離で囲ったまま追随させる。
ギリギリで追いつけてはいるが、槍を回収する暇はない。囲っていた血から数本の直剣を投擲する。大狼は突き刺さった剣を振り落とそうと足を止める。その隙に別の血で槍を回収した。
ここまでは一人でやった時に効率化した戦闘の仕方だった。大狼は血を振り切るために水晶を出しつつ、それを足場に上空へ逃げる。私はそこで無理して追うことはしなかった。
「リアそっちに行った!」
「承知しました。」
リアは大狼の着地地点に待機して剣を構える。
空中から落ちてきた大狼はそのままリアに飛びかかる。ただリアの方は黙って構えているだけでなかった。一歩下がったかと思うと着地寸前の大狼の前足を細剣で横横凪にする。
細剣には翡翠色の紫電が纏っているのが見えた。
そう思った瞬間には大狼は頭からひっくり返っていた。明らかなスタン状態に二人で攻撃を仕掛ける。
「一発ですか。本当に【雷魔法:付与】でのスタン確率が高そうですね。」
「貰った魔法全部試して付随効果で一番効いたのがこれだったからね。」
リアにはさっきまで魔石集めとレベル上げを同時にしてもらっていた。
魔石によるスキル獲得がこの敵には非常に有効なのだ。それは種族レベルを上げずに強くなれる方法だからだ。
暴食のマーナガルムは私たちのレベルのおそらく高い方が参照される。まぁ低い場合だとパーティの一人が1レベルとかの場合弱体化が簡単になりすぎるからありえない。平均を取る方も同じくレベル調整できそうだから違う気がする。
私はここ数日で種族レベルが1だけ上がってLv24だ。思ったより上がってないのはわざとモンスターを倒さずに血だけを回収した結果だ。レベルはスキルの方だけ上げた方が暴食のマーナガルムは強化されないから有利になると考えた。
ということで私とリア二人分の【雷魔法:付与】が出るまで粘ってもらった。そのついでにリアの種族レベルを私と揃えた。
「一本目はこれを繰り返すのが最速で一番安定する。」
「本当にヒノはこういうこと考えるの好きですね。」
「そうね。でも見つけた戦法で戦うのが好きなわけじゃなくて、戦う中で方法を模索するのが好きなの。」
「分かるような…分からないような…それにしても本当に安定しますね。」
「いやこれはリアがいるからだよ。私一人だとジャンプされたら対応できない。無理やり突破してきたら武器を置いてしまえばカウンターになるから一本目はそれだけ気を付ける必要がある。リアがいるから一、二本目は余裕はあるけど、問題は三本目以降。結局私は4本目には行けなかった。」
「そのための作戦です。」
「そうだね。まあ気を抜かずに行こう。」
こうして一本目を15分で削り切り、二本目も私が飛んできた水晶をかわしたり、リアがパリィする回数が増え少し忙しくなったがそのまま同じように削っていった。
二本目を削りきるのに30分掛からなかった。
そしてすでに何回も見てきた光景を目に映す。未だに目と体毛が変色していく異様な変化に鳥肌が立った。
ただその怯えを表情に出すことはせず、リアの方を向くと目が合った。
「これからが本番ですね。」
「そうね…」
そう…ここからは綱渡りだ。私はそれを理解している。それでも私はリアを失うことをベットする。さあ犬っころ、お前に残された道はレイズのみだ。
「お前が暴食なら私は傲慢なの。全部手に入れてやるからかかってきなさい!」
G r R a a a a a A A W W W A A A A A A A A A A A A A A A A
私たちのここ数日に及ぶ最終決戦が始まった。




