二人の願い
暗い。
周りに何があるのか視認することができない。
見えるのは少し遠くにある一本道と白亜の塔が重なる城だけだ。
それだけがこの広い空間で光輝く。
私の周りでは薄っすらと何かがうごめいてるのが分かる。
それを制御するのに意識を集中させる。
半径10mで時計回りに円形の渦を作るイメージ。
そこに複数の簡素な直剣を泳がすように運ぶ。
ちゃんとできているかは分からないが構わず続ける。
それを維持しながら城を左手に反時計回りに歩いていく。
30分かけて光の道まで一周した。
ここはルティアス城のある洞窟だ。
調べてみると城を中心に半径約1kmの空間が広がっていた。
地面は始まりの丘と同じ土質だが他に何もなかった。
ただこの1kmならどこでもログアウトができる。
私は血に乗せていた剣を全てインベントリに戻す。
ショートカットの設定は同じ名称のアイテムをインベントリから出すようにしているので回収はこれだけで済む。
【運搬】のレベルが上がってショートカットに設定できるアイテムの種類も増えた。
「ヒノお待たせしました。」
リアの凛とした声が洞窟に反響する。
二人で暴食のマーナガルムを倒すと決めてからまだこっちでも半日立っていない。
「いや待ってないよ。それよりありがとね。一人の時もあいつの倒し方色々考えて動いてくれてたみたいだし。」
「当然ですよ。元はと言えば私の左手のためですから。それに私も武器を新調しないといけませんでしたしね。その延長で思いついて動いただけですよ。」
そう言いながらリアは集めてきたアイテムととっておきの武器をトレード経由で送ってくる。
「結構集まったね。いつから集めてたの?」
「こっちの世界で二日前からですね。ギルドで募集を掛けたらあっという間に目標数に達しました。」
「ギルドさまさまだね。でも呼び出しはまた今度にしよう。」
「ヒノはギルドを利用する度にそれを言いながら無視しそうですね。」
「いやいや。それはリアにも言える事だから!呼び出されてるのはリアもだから!」
私はリアに怒りながらショートカットの設定をいじっていく。
「あとは練習の成果出さないとね。」
「1時間もしてないですけどね。でも私の方は完璧です。」
「つまり私次第と…」
私たちは暴食のマーナガルムと戦う上でいくつかの作戦を考えた。その内のひとつを実行する上で私とリアの息を合わせる必要なものがあった。その練習をここでしていたのだが…リアが失敗したら私のせいだと暗に追い詰めてくる。まぁ私はプレッシャーというものに疎いので気にしないのだが…
「それよりスキルレベルは上がったんですか?」
「そうそれ!やっぱりリアの言う通り、目をつぶるか目に頼らないで【血流操作】使うとレベルが上がりやすかった。それに昨日からやってた遠距離で細かい動きをさせるのと組み合わせると明らかにレベルの上がるスピードが上がったよ。」
「ああ始まりの国の中でもやってた血の台風ですか。」
「えっリア見てたの?」
驚いてリアの方を向く。そこには口元を押さえたリアがいた。
「ふふ。あんなに目立てば当然です。最初見た時にはとんだ目立ちたがり屋もいたものと思いましたよ。よく見れば中にいるのヒノですもん、私は自分の目を疑いました。」
「あれはもう人の目とか気にしてられなかったというか。歩いているときも時間がもったいないと思ったというか。」
「やっぱりスキルレベル上げてたんですね。皆ヒノの血走った目に引いてましたよ。」
「マジか…」
呆れ顔のリアを見るに本当に目立っていたらしい。
いやあの時は本当に自分の頭のリソースを全てスキルの制御に充てていたため本当に気が付かなかった。
時折ぶつかる人には血を硬化させてぶつかるのを機械的に行った。
私の血は硬化させると触ってもいないのに反発する。
これは本来結界内の人にぶつかる時に起こるハラスメント防止に際する現象だ。
私の血は固形になるとハラスメントにおける当たり判定になるらしい。
それを利用すると色々妨害もできそうだが…
運営に目を付けられるのもなんだし以後気を付けよう。
「まぁ過ぎたこと。それよりこれからの事の方が重要だ。」
「そうですね。私の方は準備万端です。」
「私も今できた。」
「…」
リアが心配した顔で見ている。私からしたら自分の心配をしてほしい所だが…まぁリアはいつも自分の事より人の事優先だからしょうがないか。
「私はリアを死なせる気なんてこれっぽっちもないよ。これから先も一緒に冒険する、これがその第一歩。
リアにしてみればこれからの戦いは命がけだけど私はそれを楽しむつもりだから。」
「本当に?」
「ホントホント。でもリアは私の心配なんてする前にちゃんと生き残ることを考えてね。前回みたいに安易に自分の命危険にさらしたら怒るから。」
私は語気を強めながらリアに言う。
「それが私とヒノの願いなら…分かりました。」
「分かればよろしい。じゃあ行こう。」
「はい。」
リアの声が洞窟に響く。返ってきたこだまに背を押されながら二人は歩き出した。




