第60話 閑話:リトライがもたらす完全なる絶望と、崩壊する軍事帝国の末路
第60話 閑話:リトライがもたらす完全なる絶望と、崩壊する軍事帝国の末路
西方大陸の覇権をたった一国で握らんと野望を燃やし、その圧倒的な武力と冷酷な恐怖政治によって周辺諸国を長年にわたり震え上がらせてきた巨大な軍事国家、それこそが『ヴァルカン帝国』である。
かつて、その帝都ヴァルカングラードは、絶え間なく昼夜を問わず稼働する巨大な軍需工場群から吐き出される分厚い黒煙で空が覆われ、街の至る所で強大な魔導兵器の稼働音と、精鋭部隊の鋼鉄の軍靴の音が鳴り響く、圧倒的な力と繁栄の象徴であった。
しかし今、その誇り高き帝都を包んでいるのは、工場の活気ある黒煙ではない。暴徒と化した飢えた市民たちが放った無数の略奪の炎が街を赤く染め上げ、悲鳴と怒号、そして崩壊していく建造物の轟音ばかりが響き渡る、まさに地獄のような阿鼻叫喚の光景であった。
帝都の中心にそびえ立つ、かつては決して落ちることのない難攻不落の要塞と謳われた漆黒の帝城。その最上階にある、豪華絢爛な装飾が施された皇帝の執務室の分厚い防弾ガラスの向こうには、赤蓮の炎に包まれ、ゆっくりと、しかし確実に死にゆく帝都の無残な姿が広がっていた。
「……なぜだ。なぜ、こんなことになったのだ……!! 余の、余の無敵の帝国が……!!」
ヴァルカン帝国皇帝ヴァレリウスは、長きにわたる心労と飢えでげっそりと頬をこけさせ、血走った目で窓の外の惨状を見下ろしながら、手元の純金製のワイングラスを大理石の床に力任せに叩きつけた。
ガシャンという甲高い音と共に、血のように赤い、帝室に僅かに残されていた最後の高級ワインが床に散乱する。しかし、今のこの帝城には、皇帝の癇癪に怯えてそれを片付ける従者すら一人も残っていなかった。皆、飢えに耐えかねて城の備品を盗み出し、逃亡してしまったのだ。
わずか数ヶ月前まで、ヴァルカン帝国は西方大陸において絶対的かつ圧倒的な優位に立っていたはずだった。
西の隣国であるゼフィラス王国を大規模な気象兵器と結界による兵糧攻めにし、国境の要たる城塞都市アイゼンを陥落寸前まで追い込んでいた。北の巨大な技術都市グレイシアも異常気象の猛吹雪の中に孤立させ、豊富な資源を持つ水都アクアリアも凶暴化した魔獣の脅威で身動きが取れない状態に陥れていた。
西方大陸のすべての国が、異常気象と致命的な物資不足に喘ぎ、飢餓に苦しんでいた。ヴァルカン帝国が誇る十万の重装甲軍団と、山をも吹き飛ばす巨大魔導砲『ギガント・カノン』の前に、すべての国が絶望し、ひれ伏すのは、もはや時間の問題であると、ヴァレリウスをはじめとする帝国の首脳陣は誰もが信じて疑わなかったのだ。
しかし、その緻密で完璧なはずだった侵略計画のすべてが、たった一つの商会――『安全第一商会』という、どこからともなく現れた得体の知れない組織の出現によって、根底から完全に覆されたのだ。
「陛下……。もはや、限界です。暴徒の群れが、ついに帝城の第三防衛線を完全に突破いたしました。近衛兵たちも、もはや数ヶ月も給与も食料も支払われない帝国に完全に見切りをつけ、次々と武器を捨てて反乱軍に寝返るか、逃亡しております。もはや、この城が落ちるのも時間の問題かと……」
顔の半分に過去の戦傷である生々しい火傷の痕を持つ帝国情報長官ザイードが、執務室の扉を開け、虚ろな目で絶望的な報告を口にする。
かつては他国の要人を次々と暗殺し、冷徹なエリート軍人として恐れられていた彼の面影は微塵もなく、今や極度の疲労と得体の知れない恐怖で、全身をボロ布のようにガタガタと震わせていた。
「馬鹿なことを言うな! 諦めるにはまだ早い! 我が帝国には、まだ秘密裏に育成した最強の部隊、『帝国暗殺結社』の精鋭が残っているはずだ! 奴らをゼフィラス王国のターミナルに放ち、あの忌々しい『魔導ハイウェイ』と空に浮かぶ『空中チューブ』に爆薬を仕掛けて爆破しろ! そうすれば奴らの異常な物流は完全に止まり、大陸に再び飢餓が訪れる! 物資の流れさえ止めれば、我が帝国軍が再び立ち上がる隙が生まれる! そこを突けば……!」
ヴァレリウスが縋るように、そして狂ったように叫ぶが、ザイードはゆっくりと、絶望に満ちた首を横に振った。
「……すでに、実行いたしました。陛下が命じるよりも前に、帝国の存亡をかけて、あらゆる手段を講じました。しかし、全て『事前に』潰されたのです」
「事前にだと……? どういうことだ! 奴らは商人だろう! 軍隊ですらない商会に、我が帝国の最強の暗殺者たちが後れを取ったというのか!」
ザイードは懐から数枚の血濡れた報告書を取り出し、震える手で皇帝の執務机に置いた。
「三日前、私は商会の物流網の心臓部であるアイゼン要塞のターミナルを徹底的に破壊するため、帝国が誇る最高ランクの工作員五十名を、国庫に残っていた最高級の『気配遮断の魔導具』を持たせて潜入させました。彼らは風の音にも紛れ、影に溶け込む完璧な隠密技術を持ち、誰一人として守備兵に気づかれることなく要塞の地下中枢へと到達した……はずでした」
「はずだった、だと?」
「はい。彼らが巨大な魔導爆薬を仕掛けようとしたまさにその場所には、すでに安全第一商会の特務戦闘員たち……あの身の丈ほどもある紅蓮の大剣を持つ人間の男や、恐るべき水圧を操る竜人族の戦士たちが、まるで『我々がその日の、その時間の、その場所に現れることを、数日前から完全に知っていた』かのように、一切の隙もない完璧な陣形で待ち構えていたのです。工作員たちは、何一つ抵抗する間もなく、文字通り一瞬で無力化されました」
ザイードの言葉に、ヴァレリウスはゴクリと息を呑んだ。
「それだけではありません。水都アクアリアに敷設されたという湖底チューブに、遅効性の致死毒を流そうとした水陸両用の隠密部隊は、毒を散布するわずか数秒前に、突如として湖底から凄まじい地響きと共に現れた『超重装甲の防潮堤』の間に完全に挟まれ、圧死しました。雪都グレイシアの地熱チューブの熱源を強制冷却して破壊しようとした魔導部隊は、作戦開始の数時間前に、偶然にも彼らの完璧な潜伏先に古代の防衛レーザーがピンポイントで降り注ぎ、部隊ごと蒸発しました。……すべての作戦が、実行の直前に、あり得ないほどの的確さでピンポイントに潰されているのです」
「な、なんだそれは……。偶然にもほどがあるだろう! 奴らには、未来を見通す千里眼の魔眼でも備わっているというのか!? それとも、我が軍の中枢に商会のスパイが入り込んでいるとでも言うのか!」
ヴァレリウスが頭を抱え、信じられないというように後ずさる。
「私にも分かりません。スパイの線も疑い、徹底的に内部調査を行いましたが、情報漏洩の痕跡は一切ありませんでした。しかし、生き残って逃げ帰ってきた工作員が、狂乱しながら最後に残した通信の記録には、こうありました。『奴らは……俺たちの行動を何度も(・・・)見てきたかのように対応してくる。どんなに完璧な奇襲を仕掛けても、どんなに裏をかいても、まるで時間を巻き戻してやり直されている(・・・・・・・・・・・・・)かのように、すべての罠が事前に解除され、完璧なカウンターを合わせられる』と……」
ヴァレリウスの背筋に、氷のような冷たい悪寒が走った。
どんなに緻密な計画を立てても、どんなに優秀な暗殺者を放っても、相手には一切のダメージを与えられず、逆にこちらの手札だけが完全に読まれて、無慈悲に潰されていく。
それはまさに、安全第一商会の会長トウヤが持つ固有スキル『リトライ』――【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~ という至上理念を体現する、理不尽極まりない「完全防衛戦術」の賜物であった。
トウヤは、自身のインフラや仲間に少しでも被害が及ぶ「失敗」を経験するたびに、容赦なく自身の命を絶ち、時間を巻き戻していた。
帝国側がどれほど必死に頭を悩ませて編み出した奇襲作戦や、何重にも張り巡らせた罠であっても、トウヤからすれば「すでにリトライ前の世界で一度経験済みの、手口の割れた陳腐な過去の出来事」に過ぎないのだ。帝国の工作員たちが意気揚々と罠を仕掛ける場所に、トウヤは『あらかじめ』特務チームの仲間を配置し、完璧なタイミングで彼らを拘束、あるいは物理的に排除していたのである。
帝国軍からすれば、自分たちの思考も行動も、すべてが事前に神の視点から読まれているような、底知れぬ絶対的な絶望感しか残らなかったのである。
「武力で勝てず……暗殺も破壊工作も全て読まれ……。我が帝国が、誇り高き無敵の軍隊が、正面衝突すらさせてもらえず、ただの『物流とインフラの力』だけで干上がらせられるというのか……!」
ヴァレリウスは、己の無力さと、相手との次元の違う力を見せつけられ、ついに膝から崩れ落ちた。
トウヤの敷設した規格外のインフラ網は、単にゼフィラス王国や周辺諸国を救っただけではない。
安全で快適、かつ高速な物流網が確立されたことで、西方大陸中の行商人や巨大な商会は、危険な魔獣がうろつき、賄賂と高額な関税を要求されるヴァルカン帝国の旧態依然としたルートを完全に放棄し、こぞって『安全第一商会』のターミナルと魔導ハイウェイを利用するようになった。
その結果、ヴァルカン帝国には一本のニンジン、一粒の麦、一つの魔力結晶すら外部から入ってこなくなり、帝国内の物価は数千倍、数万倍に跳ね上がった。飢えた市民たちはついに我慢の限界を迎えて暴徒と化し、給与を支払えなくなった軍隊は次々とクーデターを起こし、資産を持っていた貴族や大商人たちは、全財産を持って安全なゼフィラス王国へとこっそり亡命していった。
インフラを支配する者が、世界を支配する。
その冷酷なまでの真理を前に、他国から富を奪う武力と、国民を縛り付ける恐怖だけで成り立っていた砂上の楼閣――軍事国家ヴァルカン帝国は、今まさに内部から完全に瓦解し、歴史の闇へと永遠に消え去ろうとしていた。
ドゴォォォォンッ!!!
ついに、執務室の下層の重厚な防護扉が魔導爆薬によって破られ、怒り狂った数千の暴徒と反乱軍の兵士たちが、武器を掲げて雪崩れ込んでくる足音が響き渡った。
「陛下! もはやこれまでです! どうか、隠し通路の裏口から……!」
ザイードが剣を抜きながら叫ぶが、ヴァレリウスは虚ろな瞳で、未だ燃え盛る帝都を見つめたまま、逃げようとはしなかった。
「逃げてどうなる……。もはや、この西方大陸に、あの安全第一商会のインフラ(道)が通っていない場所などない。どこへ逃げても、あの化け物のような商人の敷いたレールのひざ元だ。……余は、帝国と共にここで死ぬ」
こうして、西方大陸を力で統一しようとした野心深き巨大軍事帝国は、トウヤの『リトライ』による死角のない完璧な防衛と、圧倒的なインフラ網がもたらした「物流と経済の完全支配」という、真綿でじわりじわりと首を絞められるようなえげつない戦術の前に、一度もまともな決戦を行うことなく、自滅という惨めな形で完全に滅亡したのである。
* * *
ヴァルカン帝国が完全に崩壊し、西方大陸のパワーバランスが「武力」から「安全第一商会の物流」へと大きく塗り替えられていたその頃。
西方大陸のさらに東、広大で荒れ狂う海峡を隔てた先に位置する巨大な島国――『神聖王国ルミナリア』。
その王都の中心にそびえ立つ白亜の大聖堂の奥深く、一般の信徒が決して立ち入ることの許されない聖域では、重苦しい空気が漂っていた。
ステンドグラスから差し込む神聖な光に照らされた巨大な円卓には、純白の法衣に身を包んだ最高指導者である教皇と、国の実権を握る数名の枢機卿たちが顔を突き合わせて、極秘の会議を開いていた。
「……ヴァルカン帝国が、事実上滅亡しただと? あの野蛮で無教養とはいえ、大陸最大の強大な武力を持っていた帝国が、たった数ヶ月で内乱により呆気なく崩壊したというのか?」
豊かな白髭を蓄えた教皇グレゴリウスが、信じられないというように、震える手で羊皮紙の報告書を握りしめた。
「はい、教皇聖下。正確には、帝国の最終的な崩壊を引き起こしたのは民衆の内乱ですが、その直接的な原因を作り出し、帝国をじわじわと真綿で首を絞めるように追い詰めたのは、ゼフィラス王国を拠点に急成長している『安全第一商会』なる組織です」
神聖王国の情報網を司る、切れ長の目をした若き枢機卿ルキウスが、冷徹な声で説明を始める。
「彼らは、あの決して越えられないと言われていた『迷いの森』の遥か上空に巨大な橋を架け、極寒の『絶対零度領域』の地下に地熱を通すトンネルを掘り、わずか数日で西方大陸中のあらゆる危険地帯に『絶対安全な道』を構築しました。その圧倒的な物流網によって大陸の経済を完全に掌握し、帝国の経済を干上がらせ、自滅に追い込んだのです。我が国の優秀な間者からの報告によれば、彼らの商会長トウヤという男は、単身で大山脈に穴を開け、古代遺跡の防衛システムを一瞬で制圧するほどの、神の如き魔力と技術を持っているとのこと」
「馬鹿な……。ただの人間が、神の領域の奇跡を起こすなど、異端も甚だしい! しかし、それほどの規格外のインフラ構築技術を持っているというのなら、話は別だ」
別の太った枢機卿が、己の欲望を隠そうともせず、目をギラギラと輝かせながら身を乗り出した。
「我が神聖王国ルミナリアは、神の加護たる強力な『大聖結界』によって守られた『絶対安全な街』を自称しております。しかし、近年はその広大な結界を維持するための魔力鉱石が慢性的に不足し、街の下層区では結界の綻びから魔獣の侵入が相次ぎ、貧民の被害が隠しきれなくなっております。もし、あの安全第一商会が持つ未知のインフラ技術と、莫大な物資を高速で運ぶという『魔導列車』を我が国が独占して手に入れることができれば……我らは結界を完全に維持し、特権階級のための真の地上の楽園を築くことができるでしょう!」
「ふむ……。しかし、あのような強大な力を持つ者を、武力で無理やり奪おうとすれば、ヴァルカン帝国の二の舞になる危険性が高い。奴らの完璧な防衛力と、未来を予知しているかのような異常な情報網は脅威だ」
教皇グレゴリウスは深く顎を撫で、陰湿な笑みを浮かべた。
「ならば、力ではなく『権威』と『信仰』で彼らを絡め取ればよい。我が神聖王国が誇る美しき聖女を、ゼフィラス王国へ親善大使として派遣し、商会長トウヤを『神の教えを広める名誉聖騎士』として国賓待遇で招待するのだ。奴らを異端として排除するのではなく、神の御使いとして我々の徹底的な管理下に置き、その技術と富を平和裏に(・・・・)接収する。……彼らも所詮は商人だ。圧倒的な名誉と、神聖王国という巨大な市場を提示されれば、断る理由はあるまい」
「素晴らしいお考えです、教皇聖下。早速、聖女エレナの派遣準備を進めましょう。彼らを甘い蜜で誘い込み、骨の髄まで利用してやりましょう」
枢機卿たちが不敵な笑みを浮かべ、神の名の下に、安全第一商会を飲み込もうとする新たな陰謀が動き出そうとしていた。
しかし、彼らもまた全く理解していなかったのだ。
トウヤの掲げる【安全第一】死に戻り商人の異世界スローライフ~万能魔法と『リトライ』を駆使して完璧な物流網とインフラを整備し、のんびり隠居を目指します~ という絶対的な理念は、誰かに管理されたり、特定の特権階級だけの安全を守るためのものではないということを。
己の私腹や権力のためにインフラを独占し、弱者を切り捨てるような腐敗した者に対して、トウヤがどれほど冷酷に、そして徹底的に『物理的な安全構築』という名の鉄槌を下すのかを。
* * *
一方、そんなきな臭い陰謀が東の国で着々と進んでいることなど露知らず。
極寒の雪都グレイシアに建設された『グレイシア・グランドターミナル』の最上階では、安全第一商会の特務チームが、新たな仲間と共に和やかな(?)休息の時間を過ごしていた。
「あーっ! また私のお肉食べたでしょ、リュウガ! それは私が最後まで取っておいたとっておきのお肉なのに!」
「フン、弱肉強食は竜の理だ。皿の上で油断している方が悪い。悔しければ力で奪い返してみるがいい」
「まあまあ、ファラさん、リュウガさん! ミアの作った『特製・古代遺跡探検お疲れ様・極厚チーズハンバーグ』はいっぱいありますから、喧嘩しないでくださいね! ほら、おかわりです!」
魔導キッチンから次々と巨大なハンバーグを焼き上げて運んでくるミアの周りで、ザックやリュウガ、ファラ、ガレスたちが、古代遺跡での激闘の疲れを癒やすかのように、賑やかに食卓を囲んでワイワイとやっている。
「トウヤ様。グレイシアの大魔導炉から抽出した莫大な余剰魔力を、我々のターミナルの防衛システムに直結させる回路設計が完了いたしました。これにより、このターミナルの防衛結界は、戦術級の魔導兵器を百発同時に受けたとしても傷一つ付きません。絶対安全が保証されました」
トウヤの隣では、古代遺跡ニブルヘイムから新たに仲間に加わった機巧メイドのアリアが、無機質だがどこか誇らしげな声で報告をしていた。彼女の銀色の髪と美しいメイド服は、ルミナとニアによる最新のメンテナンスによってピカピカに輝いている。
「アリアちゃん、ここの魔力配線のバイパス、私の考えた魔導ジャマーと同期させてもいいかにゃ? そうすれば、敵の魔法を無効化しつつエネルギーに変換できるはずですにゃ!」
「……ニア様の設計理論は少し非効率的ですが、非常に面白いアプローチです。私のデータベースにはない発想ですね。共同でのアップデートを許可します」
猫人族のニアと古代オートマトンのアリアが、互いの技術に強い刺激を受けながら、マニアックな専門用語を連発して空中に展開したホログラムの設計図に次々と書き込みを行っている。
「本当に、あっという間に西方大陸の主要都市が『安全な道』で繋がってしまったわね……。少し前までは、王都の外に出るのさえ命がけだったというのに」
エルフの護衛シルフィが、窓の外の猛吹雪を完全に遮断するターミナルの透明な防壁を見つめながら、温かい紅茶を手に感慨深げに呟いた。
「ああ。ゼフィラス王国、城塞都市アイゼン、水都アクアリア、そして雪都グレイシア。これで西方大陸の基本的なインフラの地盤は完全に完成した。諸悪の根源だったヴァルカン帝国も自滅した今、ここから先は商会としての内政と、物流の最適化を進める段階だな」
トウヤは、熱いコーヒーを啜りながら、ホログラムマップの西半分が青く(安全圏に)染まっているのを満足げに眺めた。
「……だが、会長。東の荒れ狂う海を隔てた先、『神聖王国ルミナリア』から、妙な動きがありますぜ。どうやら、我が商会に聖女様とやらを親善大使として送り込んでくるつもりのようです」
情報屋のリンが、手元の端末で傍受した暗号通信を瞬時に解読しながら、少し怪訝な顔をして報告を上げた。
「神聖王国、か。……絶対安全な街を謳っているようだが、リンの集めた情報によれば、どうやら結界の維持に苦労し、下層の人間を見捨てているらしいな」
トウヤの目に、再び「インフラ構築」への尽きることのない商魂の炎が宿る。
「向こうから接触してくるなら好都合だ。彼らが本当に安全な街を造ろうとしているのか、それとも特権階級だけが甘い汁を吸う腐敗した国なのか、じっくりと見極めさせてもらおう。もし後者なら……」
トウヤはニヤリと商人らしい、しかしどこか冷酷な笑みを浮かべ、マグカップをテーブルに置いた。
「俺たちの『世界一安全で快適なインフラ』の力で、彼らの歪んだ常識を根底から完全に書き換えてやるまでだ」
野心に満ちた軍事国家を物流の力だけで干上がらせて崩壊させ、絶対零度の地すらも安全な交易都市へと変貌させた安全第一商会。
彼らの持つ圧倒的な規格外の力は、ついに海を越え、次なる巨大な国家へと波及しようとしていた。トウヤの心の中にある『リトライ』という究極の保険と、絶対に誰も死なせないという強迫観念に近い執念が、この過酷な異世界を「絶対安全圏」へと塗り替える旅は、まだまだ終わらない。
【現在のステータス状況】
名前:トウヤ
年齢:18
職業:商人 / 冒険者(ランクS)
レベル:137 (変動なし。各都市のターミナル防衛システムの統括と内政に注力中)
体力:1700/1700
魔力:98,000/100,000 (アリアの魔力炉とリンクしたことで、魔力回復速度が異常なほど上昇)
固有スキル:『リトライ(発動可能)』(※ヴァルカン帝国の工作員による破壊工作や暗殺を未然に防ぐため、ここ数ヶ月の間に数十回使用。彼らの行動パターンを完全に把握し、一滴の血も流さずに全ての脅威を無力化した)
魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)
取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握、海洋環境制御、砂漠環境制御、要塞建築術、経済掌握術、毒物浄化制御、大規模地下掘削術、国家間交渉術、古代技術解析、広域インフラ防衛術、超高架建築術、深海・湖底インフラ構築術、地熱・極地環境制御術、古代機巧制御術
【仲間・後援者の状況】
ミア(獣人の少女):雪都で振る舞ったハンバーグが大好評。アリアにも「食べられないけどエネルギー変換効率の高そうな匂いです」と褒められ(?)、レシピをデータ化して渡している。
シルフィ(エルフの護衛):グレイシアのターミナル内を春のような気候に保つ空調・結界システムの微調整を行い、過酷な外気との完全な断絶を実現。
ザック(人間の冒険者):ヴァルカン帝国が自滅したと聞き、「俺の出番が減るじゃねえか!」と少し不満げに紅蓮隕鉄の大剣の手入れをしている。
リュウガ(竜人族の戦士):東の神聖王国に強い戦士がいるかどうかに興味を示し、海を渡る日を心待ちにしながら素振りをしている。
ガレス(虎人族の戦士):雪豹族の戦士たちと合同で、グレイシア周辺の残存魔獣の掃討作戦を指揮し、街の安全を完全に確保した。
マイロ(犬人族の地図職人):西方大陸の物流網マップを完全に仕上げ、次は東の荒れ狂う海峡と神聖王国の海図の作成に着手し始めている。
ピピト(鳥人族の飛脚):空中チューブのおかげで安全に西方大陸中を飛び回れるようになり、各都市のギルドからの依頼を凄まじい速度でこなしている。
リン(鼬人族の情報屋):ヴァルカン帝国の崩壊に伴い、流出した帝国の優秀な技術者や商人を次々と商会に引き抜き、経済的支配を完璧なものとした。
ヴォルグ(狼人族の傭兵):新たに商会に加わった元帝国軍の兵士たちの面接と再教育(物理)を担当し、商会の防衛部隊の規模を軍隊レベルにまで拡大させている。
ファラ(豹人族の女戦士):リトライ情報を用いた帝国の暗殺部隊拘束作戦で中心的な役割を果たし、トウヤの予測能力の恐ろしさを改めて痛感している。
セレン(セイレーン族の海先案内人):次の目的地が海を越えた神聖王国と聞き、「ついに私の出番ね!」と大張り切りで海路の安全調査の準備をしている。
ルミナ(ドワーフの機関技師):グレイシアの技術とアリアの知識を吸収し、エクスプレスの次世代エンジン『永久機関・エーテルドライブ』の設計図を完成させつつある。
ニア(猫人族の魔導具技師):アリアの高度なAIシステムに興味津々で、彼女の装甲を磨きながらこっそり魔導回路を解析しようとしては怒られている。
アリア(古代機巧メイド):トウヤの魔力に絶対の忠誠を誓い、商会のターミナル防衛と技術開発のブレインとして完璧に機能している。無機質だが、トウヤに頭を撫でられると回路の温度が少し上がる(自覚なし)。
フリージア(雪豹族の商人ギルド長):トウヤたちが持ち込んだ物資とインフラにより、グレイシアの経済を完全に立て直し、安全第一商会の極北拠点責任者として多忙な日々を送る。
クレア・フォン・ゼフィラス(第一王女):ヴァルカン帝国の脅威が完全に去り、西方大陸が平和になったことで、トウヤを「大陸の守護神」として讃え、彼への想いを隠しきれなくなっている。
インフラ状況:西方大陸の主要4都市(エルドラド、ゼフィリア、アクアリア、グレイシア)を繋ぐ『絶対安全物流ネットワーク』が完全に完成。軍事国家ヴァルカン帝国は経済的兵糧攻めにより内部崩壊し滅亡。
資金:金貨6,500,000枚(ヴァルカン帝国の崩壊に伴う資産の流入と、西方大陸全土の物流を独占したことにより、商会の資産は小国の国家予算を遥かに凌駕するレベルに到達)
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作もよろしく(*´∀`)ノ
しがらみだらけの人生に疲れたので、記憶を消して無人境へ転生します〜無限魔力の【万能創造】で理想の拠点を作ってたら、最強の魔獣たちが勝手に懐いて最高の家族になりました〜
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