第55話 閑話:沈みゆく軍事国家と、絶対防衛線の絶望
第55話 閑話:沈みゆく軍事国家と、絶対防衛線の絶望
西方大陸の西部を広大に支配する、大陸最強にして最悪の覇権国家『軍事国家ヴァルカン帝国』。
常に黒煙を上げる無数の軍需工場と、圧倒的な武力による他国への侵略を国是とするこの巨大な帝国は、力こそが全てという弱肉強食の絶対法則によって成り立っていた。帝都『ヴァルカングラード』の中心にそびえ立つ、黒鋼と赤レンガで造られた無骨で巨大な帝城。その最深部にある薄暗い作戦会議室では、今まさに西方大陸全土を巻き込む巨大な陰謀が最終段階を迎えようとしていた。
円卓の上座にふんぞり返っているのは、ヴァルカン帝国を統べる若き野心家、皇帝ヴァレリウスである。
彼の冷酷な赤い瞳は、テーブルの上に広げられた西方大陸の広域戦略マップを舐めるように見つめていた。その視線の先にあるのは、東に位置する隣国ゼフィラス王国の国境の要衝、『城塞都市アイゼン』である。
「……ゼフィラスの連中は、今頃飢えと絶望の中で共食いでも始めている頃合いだろうな」
皇帝ヴァレリウスは、血のように赤いワインを喉に流し込みながら、残酷な笑みを浮かべた。
「はっ。陛下の仰る通りかと。我が帝国の執拗な兵糧攻めと、国境付近に放った人工魔獣『鋼鉄猪』の群れにより、ゼフィラス王国の物流は完全に麻痺しております。王都からの補給線は数ヶ月前に完全に断たれ、アイゼンの防壁もボロボロ。兵士たちは剣を振るう力すら残っていないはずです」
円卓の傍らに控える、顔に無数の傷跡を持つ屈強な大将軍ドラゴが、野太い声で同調する。
ヴァルカン帝国の狙いは極めて明確だった。
異常気象に苦しむゼフィラス王国の補給線を完全に断ち切り、内部から腐らせる。そして、抵抗する力すら失ったタイミングで大軍を差し向け、最小限の被害でゼフィラスの国土と、彼らが持つ風の魔法技術を根こそぎ奪い取る。それが皇帝ヴァレリウスの描いた完璧な侵略シナリオであった。
「それにしても、我が軍の天才魔導具技師であった猫人族の小娘……ニアとか言ったか。あやつが国を逃げ出したのは少々計算外であったな。防衛システムの要を任せていたというのに」
ヴァレリウスが不快げに眉をひそめる。
「申し訳ございません。まさか、地下の兵器研究所からあのような小細工で脱走するとは。しかし、所詮は亜人の小娘一匹。我が軍の主力である『魔導ゴーレム師団』の基本設計はすでに完了しておりますし、量産体制も整っています。あの一匹が消えたところで、我が帝国の圧倒的な軍事力に揺るぎはありません」
ドラゴ将軍は鼻で笑い、自信満々に胸を張った。
「そうだな。すでにゼフィラスは死に体だ。……ドラゴよ、明朝、第一陣のゴーレム師団と重装歩兵五万をもって、城塞都市アイゼンを蹂躙せよ。一気に王都まで制圧し、この西方大陸をヴァルカンの黒鉄の旗で染め上げるのだ」
「はっ! 皇帝陛下の御心のままに! 奴らに帝国の恐ろしさを、骨の髄まで刻み込んでご覧に入れます!」
圧倒的な武力と、緻密に計算された兵糧攻め。
彼らは自分たちの完全な勝利を疑っていなかった。ただの一ミリも。
しかし、彼らは知る由もなかった。彼らが相手にしようとしているのが、軍隊でも国家でもなく、世界そのものを安全に書き換える規格外の力を持つ『安全第一商会』という存在であり、そして何より――そのトップに君臨する男が、絶対に『失敗』を許さない神の如き力を持っているということを。
会議室の重苦しい扉が、突如として激しい音を立てて開け放たれた。
「ほ、報告いたします!! 皇帝陛下、ドラゴ大将軍!! 緊急事態であります!!」
血相を変え、全身を脂汗で濡らした情報将校が、転がるようにして部屋に飛び込んできた。
「何事だ、騒々しい。ゼフィラスのネズミどもが降伏でも申し出てきたか?」
ドラゴが苛立たしげに睨みつけるが、情報将校の口から出たのは、彼らの予想を完全に裏切る絶望的な報告であった。
「そ、それが……! アイゼンへ向けて先行させていた偵察部隊、および鋼鉄猪の群れ、そして先遣のゴーレム部隊が……ぜ、全滅いたしました!!」
「……は? 今、なんと言った?」
皇帝ヴァレリウスの動きがピタリと止まる。
「ぜ、全滅です! しかも、交戦の痕跡が異常なのです! 生き残った斥候の報告によれば、王都からアイゼンへ続く荒野が、一夜にして真っ白で平らな『巨大な道』へと変貌しており、そこを走ってきた巨大な黒い鉄の塊から数名の化け物が飛び出してきて、我が軍の誇る鋼鉄猪を一瞬でミンチにしたと……!」
「馬鹿なことを言うな! あの鋼鉄猪の装甲は、並の魔法や剣では傷一つつかんのだぞ! それをたった数人でだと!?」
ドラゴが机を叩き割らんばかりの勢いで立ち上がる。
「さ、さらに信じられないことに……! 先遣のゴーレム部隊が、突如として制御不能に陥り、あろうことか我が軍の兵士たちに向けて一斉に魔導砲を放ってきたのです! 壊滅した部隊の生き残りは『猫耳の少女の笑い声が通信機から聞こえた』と証言しており……!」
「ニアだと!? あの小娘が、我が軍のゴーレムを遠隔でハッキングしたというのか!」
会議室に、冷ややかな沈黙が降りた。
絶対の自信を持っていた侵略シナリオが、得体の知れない存在によって根底から覆されようとしている。
しかし、真の恐怖はここからであった。
「……ドラゴ大将軍。実は、ご報告しなければならないことがもう一つあります。極秘裏に進めていた『裏の作戦』についてです」
情報将校が、さらに顔面を蒼白にしながら、持っていた資料を持つ手をガタガタと震わせた。
「裏の作戦だと……? ああ、本隊が到着する前に、アイゼンの水源に猛毒を撒き、街の指揮官を暗殺するために放った『帝国暗殺結社』のことか。それがどうした? まさか、それも失敗したとでも言うつもりか?」
ドラゴの低い声に、情報将校は何度も頷き、泣き出しそうな声で答えた。
「し、失敗どころの話ではありません……! 派遣した帝国最高ランクの暗殺者二十名が、全員、一歩も街の内部に侵入することなく『拘束・無力化』されました!」
「なんだと!? 奴らは気配を消し、影から影へと移動する達人だぞ! 国境の貧弱な警備網に引っかかるはずがない!」
「それが……警備網に引っかかったのではありません。奴ら、まるで『我々の行動を全て未来から見ていた』かのように、完璧なタイミングと配置で待ち構えていたのです!」
情報将校は、暗殺者たちが最後に残した魔導通信の記録を再生した。
『こちら第一班。アイゼンの地下水路から侵入を試みる……な、なんだこの落とし穴は!? しかも底には強力な特殊粘着液が……ぎゃああっ! 完璧に気配を消していたはずなのに、なぜピンポイントでここに罠が……動けない!』
『第二班だ! 幹部の寝室へ窓から侵入する……待て、なぜ暗闇の部屋の中に、完全武装の獣人の戦士が五人も待ち構えている!? しかも俺たちの名前と武器の癖、更には予備の毒針を隠している場所まで完全に知って……ぐふっ!』
『第三班……駄目だ、毒を井戸に投げ込もうとした瞬間、上空から巨大な水流が降ってきて……! なぜだ、なぜ俺たちの作戦開始時間も、極秘の侵入ルートも、全て一秒の狂いもなく把握されているんだ!? 奴らは悪魔か……いや、時間を巻き戻しているとしか……通信途絶!』
会議室は、水を打ったように静まり返った。
皇帝ヴァレリウスも、大将軍ドラゴも、背筋に得体の知れない冷たい汗が伝うのを感じていた。
「我々の極秘作戦が……全て、完全に筒抜けだったというのか……?」
ドラゴが呆然と呟く。
どんなに緻密な暗殺計画を立てても、どんなに気配を消して奇襲をかけても、相手は常に自分たちの行動を1秒の狂いもなく完璧に予測し、最も効果的な罠とカウンターを合わせてくる。偶然などという言葉では決して片付けられない、異常すぎる事態。
彼らが知る由もないことだが、これはトウヤが持つ固有スキル『リトライ』による絶対的な防衛戦術であった。
トウヤは、一度でもアイゼンの防衛に被害が出るような失敗を経験すれば、容赦なく時間を巻き戻し、「すでに経験済みの陳腐な罠」として、帝国軍の暗殺者や工作員が行動を起こす『前』に、彼らを完璧に無力化してしまったのだ。
帝国軍からすれば、それはまさに「自分たちの思考と行動が全て台本通りに敵に読まれている」という、理解不能の超常現象であり、絶対的な絶望感であった。思い通りに国を内部から崩壊させようとした彼らの姑息な計画は、トウヤの『リトライ』という理不尽な力によって完全に書き換えられ、逆に己たちの手足を失うという強烈な『ざまぁ』を食らう結果となったのである。
「……ええい、怯むな! 相手がどんな薄汚い小細工や予知魔法を使おうが、所詮は弱小国家の足掻きに過ぎん!」
皇帝ヴァレリウスが、恐怖を振り払うように玉座を強く叩き、怒号を上げた。
「裏工作が通じないなら、圧倒的な正面からの力でねじ伏せるまでだ! ドラゴよ、予定通り主力軍を出撃させろ! 魔導砲台『ギガント・カノン』も全て投入し、城塞都市アイゼンを跡形もなく吹き飛ばしてしまえ! 我がヴァルカン帝国の武力を世界に知らしめるのだ!」
「は、ははっ!! 直ちに出撃いたします!」
こうして、ヴァルカン帝国は自らの威信をかけ、総勢十万の大軍と、数十門の巨大な魔導砲台を率いて、ゼフィラス王国の国境へと怒涛の進軍を開始した。彼らはまだ、自分たちが向かっている場所が、もはや「朽ちかけた城塞」などではなく、規格外の男が造り上げた『絶対安全圏』という名の絶望の要塞であることに気づいていなかった。
* * *
数日後。
ヴァルカン帝国の主力軍十万は、地響きを立てながら城塞都市アイゼンの目前へと迫っていた。
黒い甲冑に身を包んだ兵士たちが平原を埋め尽くし、後方には巨大な岩山をも砕くという超大型魔導砲『ギガント・カノン』がズラリと並べられている。
大将軍ドラゴは、巨大な軍馬の上から、前方に見えるアイゼンの街を睨みつけた。
「ふん。斥候の報告では何やら得体の知れない道ができたなどと言っていたが……あの朽ちかけた城壁を少しばかり直したところで、我が帝国の十万の軍勢の前では紙切れ同然よ。全軍、突撃準備! まずはギガント・カノンの一斉射撃で、あの忌々しい城門を木っ端微塵に粉砕してやれ!」
ドラゴの号令と共に、数十門のギガント・カノンに莫大な魔力がチャージされていく。
砲口から眩い光が放たれ、すさまじい轟音と共に、数十発の極大の魔力弾がアイゼンの城壁へと向かって放たれた。
「はーっはっは! 見ろ! これが帝国の力だ! これでアイゼンも終わり……な、なにぃ!?」
ドラゴの高笑いは、途中で無様な驚愕の声へと変わった。
ドガァァァァァァァァァンッ!!!!!
魔力弾が城壁に直撃する直前。
アイゼンの街の上空に、淡い緑色と黄金色の光が混じり合った、巨大で複雑な魔法陣――シルフィが展開した『広域防空・大精霊の絶対結界』が突如として現れたのだ。
帝国の誇る極大魔力弾は、その薄い光の壁に触れた瞬間、まるで水面に小石を投げ込んだかのように、さざ波一つ立てることなく『完全に吸収』され、消滅してしまった。
「な、なんだと……!? ギガント・カノンの一斉射撃が、無傷で防がれただと!?」
ドラゴが信じられないものを見るように目をひん剥く。
そして、巻き上がった砂煙が晴れた後、帝国軍の兵士たちは、自分たちの目の前に立ちはだかるモノの真の姿を初めて目の当たりにした。
そこにあったのは、彼らが知る「ボロボロの石の城壁」ではなかった。
漆黒の超硬金属アダマンタイトと、純白の魔導コンクリートで構成された、高さ五十メートル、厚さ十メートルを超える『絶望の重装甲城壁』。
その壁の上には、無数の不可解な形状をした銃身――ニアが設計した『全自動・魔導追尾式ガトリング砲』がズラリと並び、その赤いセンサーアイを、帝国軍十万の兵士たちに冷酷に向けていたのだ。
「な、なんだあの城壁は……!? アダマンタイトで壁を覆っているだと!? そんな莫大な量の希少金属、世界中を探してもあるはずがない!」
「おまけに、なんだあの見たこともない兵器の数は……! まるで要塞そのものが生きているようだぞ!」
帝国軍の兵士たちの間に、かつてない動揺と恐怖が広がっていく。
城壁の最上部、最も見晴らしの良い展望デッキには、漆黒のコートを風になびかせるトウヤと、安全第一商会の特務チームの面々が並んで立っていた。
「……随分と大掛かりな歓迎だな。だが、俺たちのインフラ(要塞)に傷一つ付けられない火力で、何をどうするつもりだ?」
トウヤは冷ややかな目で見下ろし、傍らのニアに指示を出した。
「ニア。自動迎撃システム、起動。俺たちの絶対安全圏を脅かす害虫どもに、格の違いを教えてやれ」
「了解ですにゃ、会長! 帝国軍の皆さん、私が作らされていたポンコツ大砲と、本物の防衛兵器の違い、とくと味わうといいですにゃ!」
ニアが魔導端末のエンターキーを、肉球で勢いよくターンッ!と叩いた。
その瞬間、城壁の上に並んだ無数の全自動魔導ガトリング砲が一斉に火を噴いた。
ドドドドドドドドドドドドッ!!!!!
それは、弓矢や魔法の詠唱といった次元を遥かに超えた、圧倒的な物理と魔力の暴力であった。
音速を超える速度で放たれる魔力弾の雨が、帝国軍の前衛部隊に容赦なく降り注ぐ。分厚い鋼鉄の盾も、軍馬の装甲も、紙切れのように次々と貫かれ、帝国軍は一歩前に進むことすらできず、次々とバタバタと薙ぎ払われていく。
「ひぃぃぃっ! ば、馬鹿な! 盾が全く役に立たないぞ!」
「逃げろ! あんな城壁、落とせるわけがない!」
「う、撃て! 反撃しろ! 魔導部隊、何をしている! 魔法を撃ち込まんか!」
ドラゴが大声で怒鳴り散らすが、帝国軍の魔導師たちが必死に詠唱して放った炎や雷の魔法は、全てアイゼンを覆うシルフィの絶対結界に阻まれ、ただ空しく弾け散るだけであった。
「ふはははっ! 無駄だ無駄だ! 我らが安全第一商会が構築したインフラは、貴様らのような野蛮な軍隊の攻撃など蚊ほども通さんわ!」
アイゼン領主アルベルト辺境伯が、腹の底から笑い声を上げる。かつて飢えと絶望に苦しんでいた彼の姿はそこにはなく、圧倒的な防御力に守られた余裕の武将の姿があった。
「会長、敵の陣形が完全に崩れやしたぜ。どうやら後方の砲台を再装填して、一発逆転を狙っているようで」
犬人族のマイロが双眼鏡を覗き込みながら報告する。
「甘いな。俺たちの要塞は、防御だけのハリボテじゃない」
トウヤは指を鳴らし、今度は特務チームの戦闘員たちに視線を向けた。
「ザック、リュウガ、ガレス、ファラ、ヴォルグ。……少し運動してこい。敵の指揮官と、あのデカい大砲をスクラップにしてやれ」
「おうっ! 待ってました! 血が疼いて仕方なかったぜ!」
「フン。有象無象が何万いようと、真の竜の前では塵に等しい」
城壁の巨大なゲートが重々しい音を立てて開き、そこから五つの影が、十万の帝国軍の真っ只中へと、まるで飢えた猛獣のように飛び出していった。
たった五人。しかし、それはもはや一個師団を軽く凌駕する、規格外の暴力の化身であった。
「オラァァァッ!! まとめてぶっ飛べ!」
ザックが紅蓮隕鉄のバスターソードを大上段から振り下ろすと、剣圧だけで数十人の帝国兵が吹き飛び、大地に巨大な亀裂が走る。
「水破竜巻!!」
リュウガが両手から放つ超高圧の水流が、帝国軍の陣形を竜巻のようにかき回し、重装歩兵たちを空高く打ち上げる。
「虎王の咆哮!!」
ガレスの咆哮が響き渡ると、帝国軍の軍馬が次々と泡を吹いて倒れ、兵士たちは本能的な恐怖で動けなくなる。
その隙を縫って、ファラの双剣とヴォルグの戦斧が、帝国軍の指揮官クラスの将校たちを的確に、そして無慈悲に刈り取っていった。
「ば、化け物どもめ……! これが……これが人間の力だというのか……!」
大将軍ドラゴは、自身の誇る十万の軍勢が、たった数人の戦士と、一つの城壁によって、わずか十数分で完全に蹂躙されていく様を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。
「撤退……撤退だ!! 全軍、直ちに退却せよ! こんな戦い、勝てるわけがない!!」
ドラゴの悲痛な叫びと共に、ヴァルカン帝国軍は完全に統制を失い、武器や軍旗を放り捨てて、我先にと逃げ出していった。
彼らが置いていった巨大な魔導砲台『ギガント・カノン』は、ザックとヴォルグによって見るも無残なスクラップにされ、安全第一商会の資源(鉄クズ)としてありがたく回収されることとなった。
* * *
この「アイゼン防衛戦」の圧倒的な結果は、瞬く間に西方大陸全土、そしてヴァルカン帝国の内部へと伝わった。
十万の主力軍が、ゼフィラス王国の国境を越えることすらできず、未知の要塞によって手も足も出ずに敗走したという事実は、軍事国家ヴァルカンにとって致命的な威信の失墜であった。
しかし、ヴァルカン帝国の崩壊は、軍事面だけではなかった。
真の地獄は、トウヤが仕掛けた『経済的・物流的ざまぁ』によって、彼らの足元からじわりじわりと進行していたのだ。
帝都ヴァルカングラードの皇帝の執務室。
「陛下! 大変です! 帝都の物価が異常な速度で高騰しております!」
内務大臣が、悲鳴のような声を上げてヴァレリウス皇帝に報告書を突きつけた。
「どういうことだ! なぜ物価が上がる!」
「ゼ、ゼフィラス王国からの略奪を前提としていたため、我が国の農業と生産は完全にストップしておりました! しかし、アイゼンの要塞が抜けず、物資が全く手に入りません! 逆に、ゼフィラス王国側は謎の『クリスタル・チューブ鉄道』とかいう物流網で、毎日新鮮な食料が溢れかえっているとの噂が広まり……我が国の商人たちが、次々とゼフィラス側へ逃亡(亡命)しているのです!」
情報屋のリンが、安全第一商会の流通網を使って意図的に帝国内の商人を引き抜いた結果、帝国の経済は完全に麻痺していた。
さらに、アルベルト辺境伯が国境に堅牢な要塞を築き、トウヤが超広域防空結界を維持していることで、帝国軍は国境警備に莫大な軍事費を割かざるを得なくなり、国家予算はあっという間に枯渇。トウヤの用意した完璧なインフラ網によってじわじわと真綿で首を絞められるように、帝国の国力は削ぎ落とされていった。
軍事力で全てを解決しようとした帝国の末路は、飢えと暴動、そして国家破産という、最も惨めな形での自滅であった。
「お、おのれぇぇっ……! ゼフィラス王国め! 安全第一商会めぇぇぇっ!! 私の帝国が、武力で負けたのではなく、ただの『道と壁』によって干上がらせられるというのか……!」
皇帝ヴァレリウスの虚しい絶叫が、暴動の火の手が上がる帝都の夜空に空しく響き渡っていた。
一方その頃、国境の城塞都市アイゼン。
圧倒的な勝利と、絶対的な安全を手に入れた街は、かつてないほどの活気と歓喜に包まれていた。
広場では、ニアの活躍と帝国軍の撃退を祝って、ミアによる超特大の『国境平和記念・特大魔獣肉のローストビーフ祭り』が開催され、兵士たちも市民たちも、満面の笑みでジョッキを交わしている。
「ふぅ……。これで、西方大陸の脅威も完全に排除できたな」
要塞の最上階で、トウヤは賑わう街を見下ろしながら、リンとクレア王女に向かって静かに微笑んだ。
「ええ。ヴァルカン帝国は自滅の道を辿っています。もはや彼らに、我が商会のインフラを脅かす力はありません」
リンが眼鏡を押し上げながら、確信に満ちた声で報告する。
圧倒的な武力と恐怖による支配は、絶対に揺るがない『安全と豊かさを届けるインフラ』の前に、脆くも崩れ去った。
トウヤの思い描く完璧な物流ネットワークは、絶望の淵にあった国を救い、腐敗した軍事国家を沈め、世界中を鋼鉄とガラスの道で繋ぎながら、さらにその歩みを力強く進めていくのであった。
【現在のステータス状況】
名前:トウヤ
年齢:18
職業:商人 / 冒険者(ランクS)
レベル:123
体力:1450/1450
魔力:95,000/100,000 (要塞の自動防衛システムの維持に微量消費中。急速回復中)
固有スキル:『リトライ(発動可能)』(※アイゼン防衛の事前準備において、帝国暗殺部隊の侵入ルートと作戦時間を把握するために数回使用し、彼らを完全な罠にはめ無力化を実現した)
魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)
取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握、海洋環境制御、砂漠環境制御、要塞建築術、経済掌握術、毒物浄化制御、大規模地下掘削術、国家間交渉術、古代技術解析、広域インフラ防衛術
【仲間・後援者の状況】
ミア(獣人の少女):アイゼンでの「ローストビーフ祭り」が大盛況。帝国軍を追い払ったお祝いとして、兵士たちに特大サイズのお肉を切り分けている。
シルフィ(エルフの護衛):広域防空結界がギガント・カノンの攻撃を完全に無効化したことで、自身の魔法技術にさらに絶対の自信を持つ。
ザック(人間の冒険者):帝国の重装歩兵を大剣で薙ぎ払った爽快感が忘れられず、戦いの後は上機嫌で酒を飲んでいる。
リュウガ(竜人族の戦士):帝国軍のゴーレム部隊や兵器を「水に弱い欠陥品」と一蹴し、余裕の表情で宴会に参加している。
ガレス(虎人族の戦士):アイゼンの城壁の上から、敗走していく帝国軍の背中に向けて最後の勝利の咆哮を叩きつけ、兵士たちの士気を最高潮に高めた。
マイロ(犬人族の地図職人):ヴァルカン帝国の国境線が実質的に崩壊したことを受け、西方大陸全土のマップの塗り替え作業に嬉々として着手する。
ピピト(鳥人族の飛脚):上空から帝国軍の無様な敗走を眺め、王都ゼフィリアへの勝利の報告を一番乗りで届けるべく、夜空へ飛び立った。
リン(鼬人族の情報屋):ヴァルカン帝国の経済崩壊の状況をリアルタイムで監視し、帝国の優秀な商人たちを安全第一商会へ引き抜く工作を完了させる。
ヴォルグ(狼人族の傭兵):アイゼンの兵士たちと共に最前線で戦い、彼らから「狼の旦那」と絶大な信頼を得る。
ファラ(豹人族の女戦士):リトライの情報をもとに、帝国の暗殺部隊を完璧に無力化・拘束したことで、自身の隠密技術とトウヤの予測能力に底知れぬ恐ろしさを感じる。
セレン(セイレーン族の海先案内人):アイゼンの水路が平和になったことで、街の子供たちと一緒に水遊びを楽しんでいる。
ルミナ(ドワーフの機関技師):ニアの兵器ハッキング技術に深く感心し、二人で夜通し徹夜で「絶対にハッキングされない自動迎撃システム」の共同開発に熱中している。
リラ(狐人族の商人):帝国の商人たちが次々と亡命してくるのを受け入れ、西方大陸の経済網を完全に白砂商会(安全第一商会傘下)の支配下に置く。
ザラス(リザードマンの戦士):アイゼンの城門を完璧に死守し、アルベルト辺境伯からゼフィラス王国の名誉騎士の称号を授与されそうになるが、商会の護衛であることを理由に丁重に辞退する。
バルガ(人間の宝石商):破壊されたギガント・カノンの残骸から高価な魔法金属を回収し、「これは高く売れるぞ!」とホクホク顔で計算機を叩いている。
ニア(猫人族の魔導具技師):古巣である帝国軍の兵器を自身のハッキングで無力化し、最大の復讐を果たしたことで、トウヤと商会に一生ついていくことを誓う。
クレア・フォン・ゼフィラス(第一王女):祖国を滅亡の危機から完全に救ってくれたトウヤに対し、一生をかけて報いる決意を固める。
アルベルト辺境伯(アイゼン領主):帝国の十万の軍勢をいとも簡単に退けた商会の圧倒的な力にひれ伏し、トウヤを「軍神」と崇めるようになる。
インフラ状況:城塞都市アイゼンの「国境防衛要塞ターミナル」化が完了し、帝国からの完全防衛に成功。軍事国家ヴァルカン帝国は経済的・軍事的に崩壊状態へ。
資金:金貨2,600,000枚(ヴァルカン帝国からの亡命商人たちが持ち込んだ莫大な資産と、ゼフィラス王国からの圧倒的な支援金により、商会の資金はついに国家予算規模に到達)
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