↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/84

第27話 東の自由都市と、黄金の物流ルート

第27話 東の自由都市と、黄金の物流ルート

大防壁にぽっかりと開いた巨大なトンネルを抜け、トウヤたちを乗せた漆黒の魔導輸送車は、いよいよ未知の領域である『東の大陸』へと足を踏み入れた。

王国の緑豊かな平原とは異なり、東の大陸の入り口付近は、赤茶けた大地と乾燥した風が吹き抜ける荒野が広がっていた。

「ここから先が、世界の経済と物流の中心と呼ばれる東の大陸か……。噂には聞いていたが、ずいぶんと乾いた土地だな」

ハンドルを握りながら、トウヤは『空間把握』のスキルで周囲数十キロの地形データを脳内にマッピングしていく。

助手席で地図を広げている猫人族の商人ニャルロが、尻尾を揺らしながら説明を始めた。

「東の大陸は、全体的に雨が少なくて過酷な環境が多いニャ。だからこそ、オアシスや水源のある場所に巨大な都市が形成され、そこを繋ぐ交易ルートが命綱になっているニャ。……その最大の玄関口であり、あらゆる種族が集まる交易のハブが、これから向かう『自由都市エレンディル』だニャ」

「自由都市エレンディル。どこの国家にも属さず、商人たちの合議制で運営されている独立自治都市ですね。かつては王都ルミナリスをも凌ぐほどの活気があったと聞いていますが」

後部座席から、シルフィがかつての知識を引っ張り出して口を挟んだ。

「その通りです。しかし、ゼノン様……いや、ゼノンの発案した『大防壁』によって西の大陸からの物流を完全に遮断されてから、エレンディルの街は深刻な物資不足に陥っています。特に食料と水は、帝国の指定商人から法外な値段で買わされる始末で……」

元帝国特務部隊長のガリウスが、申し訳なさそうに身を縮める。

「なるほど。帝国は武力で制圧するのではなく、首を絞めてジワジワと弱らせ、自ら屈服してくるのを待っていたわけだ。陰湿だが、経済的には理にかなった侵略方法だな」

トウヤはアクセルを軽く踏み込みながら、不敵に笑った。

国家間の力関係や種族間の軋轢が物語の背景に存在する中で、彼が目指すのは武力による支配ではなく、誰もが抗えない圧倒的な『インフラ(利便性と安全)』による共存である。

「だが、俺たちが大防壁に『風穴』を開け、パイプラインでエネルギーを奪ったことで、その前提は崩れた。……エレンディルの街が完全に干上がる前に、俺たちの『圧倒的な物資と安全』を届けて恩を売る。これ以上ない最高の地盤作りだ」

荒野を進む魔導輸送車の後ろには、トウヤの魔法によってリアルタイムで敷設されていく真新しい石畳の『道』が、オストの街から延々と伸びていた。

ただ目的地へ向かうだけではない。魔法やスキルを万遍なく使いこなせる万能型の能力を持つトウヤは、移動しながら『土魔法・地盤硬化』と『錬金魔法・形状変化』を同時発動し、後続の行商隊が安全に通れる「東ルート」の基礎工事を並行して行っているのだ。

「トウヤ様、魔導輸送車の後部に連結した『自動舗装ユニット』の出力は安定しています。このペースなら、明日の朝にはエレンディルまで完全な舗装路が繋がりますね!」

通信機越しに、王都のフェルスの明るい声が響く。

「ああ。だが、道中にはまだ危険が潜んでいる。……前方三キロ、岩陰に伏兵だ」

トウヤの言葉に、車内の空気が一瞬で引き締まる。

「帝国の残党か!?」

新加入の冒険者ザックが、背中の大剣に手を伸ばす。

「いや、装備がバラバラだ。おそらく、物資不足でエレンディルを追い出され、飢えに耐えかねて野盗化した元傭兵や冒険者のなれの果てだろう。……総勢五十人といったところか」

トウヤの『空間把握』は、岩陰に隠れ、殺気と飢餓感を漂わせる集団を正確に捉えていた。

「腹を空かせた野盗か……。自業自得とはいえ、哀れな連中ニャ」

ニャルロが耳を伏せる。

「哀れだからといって、俺たちの『安全第一』なインフラ事業を邪魔させるわけにはいかない。ザック、シルフィ。実戦訓練を兼ねて、彼らを『無力化』してくれ。命は奪うな。彼らも、食事と安全な寝床を与えれば、立派な労働力になるからな」

「了解だ! 俺の大剣で、戦意だけをへし折ってやるぜ!」

「承知いたしました、トウヤ様」

魔導輸送車が岩山に差し掛かった瞬間、予想通り、岩の陰から無数の矢が放たれ、薄汚れた武装集団が襲い掛かってきた。

「ヒャッハー! 食い物だ! その馬車……いや、変な鉄の箱の中身を全部置いていけェ!!」

野盗のリーダー格の大男が、錆びた斧を振りかざして突進してくる。

しかし、彼らの攻撃が輸送車に届くよりも早く、ザックがルーフから大地へと飛び降りた。

「おらァァァッ! 『大剣技・地烈斬』!!」

ザックが地面に大剣を叩きつけると、強烈な衝撃波が走り、野盗たちの足元の岩盤が大きく跳ね上がった。

「ぐわぁぁっ!?」

「な、なんだこいつ! ただのガキじゃねえぞ!」

体勢を崩した野盗たちに対し、シルフィが上空から『麻痺の風矢』を雨霰と降らせる。矢は急所を絶妙に外し、彼らの手足を岩壁に縫い付け、あるいは神経を麻痺させて次々と無力化していく。

「くそっ、魔法使いまでいやがるのか……! ええい、死に物狂いでいけ! どのみち餓死する運命なんだ!」

リーダーの大男が、最後の力を振り絞ってザックに斬りかかる。

しかし、ザックは大剣の腹で斧の軌道を軽々と逸らし、そのまま大男の腹部に強烈な蹴りを見舞った。

「がはっ……!」

大男が地面に崩れ落ち、わずか数十秒で五十人の野盗集団は完全に制圧された。

「ふぅ……。トウヤ、全員無力化完了だ。誰も死んじゃいねえぞ」

ザックが大剣を肩に担ぎ、白い歯を見せて笑う。仲間の死というトラウマを乗り越えた彼は、無用な殺生を避け、「仲間を守るための強さ」を体現し始めていた。

トウヤは車から降りると、気絶した野盗たちを『空間魔法・一斉収納』で次々とアイテムボックス内の「仮眠室(という名の労働力ストック)」へと転送していった。

「見事な連携だったよ、ザック、シルフィ。これでこのルートの安全はさらに高まった。彼らには後で、オストの街の清掃業務でもやってもらおう」

トウヤは商人の顔で帳簿に「新規労働力五十名獲得」と書き込むと、再び輸送車のハンドルを握った。

翌朝。

荒野を切り裂くように伸びた真新しい石畳の道の先に、ついに目的の場所――東の玄関口『自由都市エレンディル』の巨大な城壁が見えてきた。

しかし、近づくにつれて、その街の異様さが明らかになっていく。

かつては活気に満ちていたはずの城門前には、難民や飢えた人々が溢れ返り、城壁のあちこちが崩れかけているにも関わらず、修復する資材すら不足している様子だった。

街全体を、重苦しく、どんよりとした絶望の空気が覆っている。

「ひどい有様だニャ……。オイラが半年前に来た時は、こんなんじゃなかったニャ……」

ニャルロが絶句する。

「帝国の経済封鎖が、ここまで街を追い詰めているとは……」

ガリウスも、かつての祖国が行った無慈悲な作戦の結果を目の当たりにし、苦い顔をした。

城門に近づくと、疲れ切った表情の衛兵たちが槍を交差させて道を塞いだ。

「止まれ。エレンディルへの入城は現在、厳しく制限されている。……見たところ行商人ではなさそうだが、何の用だ?」

「王都ルミナリスから来た『安全第一商会』の者だ。街の責任者に会いたい」

トウヤが身分証代わりのギルドカード(Sランク)を提示すると、衛兵たちはその輝きに目を見張った。

「S、Sランク冒険者!? しかも王都から……!? いや、しかし、今は西の大防壁が完全に封鎖されているはず……どうやってここへ?」

「大防壁なら、昨日の夜に俺たちが『穴』を開けておいたから、今は素通りできるよ。後続の行商隊も、数時間後にはこの街に到着するはずだ」

「な、なんだって……!? あの難攻不落の大防壁に穴を……!?」

衛兵たちがパニックに陥る中、城門の奥から、豪奢な服を着た、しかし酷くやつれたエルフの中年男性が慌てて駆けつけてきた。

「騒がしいぞ、何事だ! ……お、おお!? あなた方は、もしや西の物流を牛耳っているという『安全第一商会』の方々ですか!?」

「いかにも。俺は代表のトウヤだ。あなたは?」

「私はエレンディルの商業ギルド長を務める、エルフのエルランドと申します。噂は聞いております! 西の海竜を鎮め、南の森を救い、そして東のオストの街を一夜にして復興させたと……! まさか、その代表自らがこの街へお越しくださるとは!」

エルランドは、まるで神にすがるような眼差しでトウヤの手を握りしめた。

「立ち話もなんだ。中に入れてもらえるかな? 街の復興について、具体的なビジネスの話をしよう」

トウヤの言葉に、エルランドは何度も頷き、一行を街の中心にあるギルド本部へと案内した。

街の中の惨状は、外よりもさらに深刻だった。

市場の屋台は空っぽで、道端には倒れ伏す人々。子供たちの泣き声が響き、かつての自由都市の面影は完全に失われている。

「……トウヤ様。このままでは、街の人たちが飢え死にしてしまいます」

ミアが悲痛な顔でトウヤの袖を引く。

「ああ。わかっている」

トウヤはギルド本部の応接室に通されると、エルランドに向かって単刀直入に切り出した。

「エルランドさん。街の状況はよくわかった。帝国による兵糧攻めで、もはや限界を迎えているようだな」

「お恥ずかしい限りです……。帝国は『関税を百倍にするか、さもなくば街を帝国の直轄領にしろ』と無理難題を突きつけてきています。我々もギリギリまで耐えてきましたが、もはや食料の備蓄が底を突き……今日にも、帝国への降伏文書にサインをする予定だったのです」

エルランドが悔し涙を流す。

「ギリギリ間に合ったようだな。……エルランドさん。その降伏文書は、今すぐ破り捨ててくれ」

トウヤは空間収納から、ドサッと音を立てて山のような食料と水、そして最高級のポーションを取り出してテーブルの上に積んだ。

「なっ……こ、これは……!? これほど大量の新鮮な食料が、一体どこから!?」

「俺の商会の『絶対安全な物流網』を通じて運んできたものだ。大防壁のトンネルはすでに開通し、オストからの直通ルートも完成している。……俺たちと専属の取引契約を結べば、この街の食料も、水も、インフラの修復も、全て安全第一商会が『適正価格』で保証しよう」

エルランドは、目の前の奇跡のような光景とトウヤの提案に、言葉を失って震えていた。

帝国の理不尽な暴力と経済封鎖に対し、万能の商人が突きつけたのは、それを遥かに凌駕する『圧倒的なインフラと物資』という名の暴力であった。

トウヤの提案は、絶望の淵にあった自由都市エレンディルにとって、まさに天から降ってきた蜘蛛の糸であった。

「信じられません……。大防壁が破られ、王都からの物流ルートがすでに完成しているなどと……。トウヤ会長、あなた方は神の使いか何かですか?」

エルランドはテーブルに積まれた新鮮な野菜や果物、そして清らかな水の入った樽に触れながら、ポロポロと涙を流した。

「神じゃない、ただの商人だよ。……さあ、急いで街の人たちに炊き出しを行おう。ミア、準備はできているか?」

「はいっ! ギルドの前広場に、巨大なスープ鍋を十個設置しました! 商会の特製栄養スープ、いつでも配給可能です!」

ミアが応接室に飛び込んできて元気よく報告する。

「よし。ニャルロ、君はギルドの役員たちを集めて、大防壁開通の事実と今後の取引条件について説明してくれ。ガリウスはザック、シルフィと共に街の治安維持だ。暴動が起きないよう、整列と配給の誘導を頼む」

「「「了解(ニャ)!」」」

トウヤの的確な指示のもと、安全第一商会のメンバーたちは見事な連携で動き出した。

数十分後、ギルド前広場には、信じられないほどの甘く食欲をそそる香りが漂っていた。

「配給だ! ルミナス王国から来た商会が、無償で炊き出しを行ってくれているぞ!」

エルランドの号令と共に、飢えに苦しんでいた街の住民たちが次々と広場に押し寄せてくる。

ミアが中心となって振る舞うのは、西の海で獲れた栄養満点の海鮮と、南のエルフの森で採れた滋養強壮のハーブをふんだんに使った特製スープ、そして焼きたての白パンである。

「お、美味しい……! こんな温かくて美味しいスープ、半年ぶりに食べた……!」

「神様、ありがとう……! 商会の皆さん、本当にありがとう……!」

スープを口にした住民たちは、次々とその場に崩れ落ちて号泣した。

飢餓と絶望に支配されていた自由都市に、人々の笑顔と活気が急速に戻っていく。その光景は、どんな強力な魔法や武力による制圧よりも、人々の心を確実に打ち抜き、商会への絶対的な信頼を植え付けるものであった。

「……すげえな。トウヤの奴、剣を一振りもせずに、たった一回の食事でこの巨大な街を丸ごと掌握しちまったぞ」

広場の警備にあたっていたザックが、住民たちの熱狂的な感謝の声を浴びながら呆れたように呟く。

「それが、トウヤ様の『商人としての戦い方』です。力で屈服させるのではなく、圧倒的な恩恵を与えて依存させる。……ある意味、帝国の侵略よりも恐ろしい手腕かもしれませんね」

シルフィが苦笑いしながらも、誇らしげに胸を張る。

広場の喧騒をギルド本部のバルコニーから見下ろしながら、トウヤはエルランドと固い握手を交わした。

「トウヤ会長。エレンディルの街は、あなた方『安全第一商会』を永遠の恩人として歓迎します。帝国との不平等条約は破棄し、今後は貴商会と全面的に提携し、東の大陸全土への物流の拠点としてこの街を使ってください!」

「ありがとうございます、エルランドさん。お互い、末永く利益を生み出す良い関係を築きましょう。……まずは、この崩れかけた街の城壁とインフラの『修復工事』から始めるとしますか」

トウヤが指を鳴らすと、王都から後続で到着したゴランとフェルス率いる魔導重機部隊が、地響きを立てながらエレンディルの街へと入城してきた。

帝国の陰謀によって機能停止に追い込まれていた東の自由都市は、万能の商人と仲間たちによって、前代未聞のスピードで「絶対安全圏」へと造り替えられていく。

しかし、エレンディルが商会の軍門に下ったという知らせは、当然ながらガランド帝国の耳にもすぐに入ることになる。

大防壁を無効化され、経済封鎖を破られた帝国が、いよいよ国家の威信をかけて総力戦を挑んでくるのは火を見るより明らかであった。

国家間の軋轢が激化する中、死んでもやり直せる『リトライ』の禁術を持つ青年は、戦火の足音を前にしても焦ることなく、次なる『究極の防衛インフラ』の設計図を広げるのであった。

「本当の強さは仲間との絆から生まれる」という信念のもと、彼が集めた優秀な人材たちと共に築き上げる巨大な経済圏は、今まさに大陸全土へとその影響を広げようとしていた。

【現在のステータス状況】

名前:トウヤ

年齢:18

職業:商人 / 冒険者(ランクS)

レベル:60 (オスト〜エレンディル間の街道敷設、野盗討伐により上昇)

体力:400/400

魔力:92,000/100,000 (移動中の街道舗装魔法により微消費・自動回復中)

固有スキル:『リトライ(発動可能)』

魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)

取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握

【仲間・後援者の状況】

・ミア(獣人の少女):エレンディルの惨状を見て、即座に大規模な炊き出しの準備を開始。

・シルフィ(エルフの護衛):ザックとのコンビネーションが完成の域に達し、野盗を無傷で完全制圧。

・ガリウス(人間の元帝国兵):帝国の経済封鎖の手口を暴露し、エレンディルの商業ギルド長への交渉を有利に進める。

・ニャルロ(猫人族の商人):エレンディルの顔役たちに大防壁開通の事実を喧伝し、商会の信頼を爆発的に高める。

・ザック(人間の冒険者):野盗集団を単身で圧倒。仲間を守るための強さを自覚し、特務護衛として急成長中。

・エルランド(エルフの商業ギルド長):【後援者加入】帝国の圧力に屈する寸前だったが、トウヤの圧倒的な物資提供により希望を見出し、商会と提携。

・インフラ状況:オスト〜エレンディル間「絶対安全街道(東ルート)」基礎工事完了。エレンディルのインフラ修復工事開始。

・資金:金貨41,000枚(エレンディルとの大規模取引開始により、さらなる巨万の富を得る見込み)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。