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第12話 補給線の崩壊と、無血の制圧戦

第12話 補給線の崩壊と、無血の制圧戦

荒涼とした風が吹き荒れる、防衛都市アイギスから数キロ離れた荒野。

そこに陣を敷いていたガランド帝国軍三万の兵士たちは、かつてないほどの絶望と飢餓に包まれていた。

彼らはルミナス王国の防衛都市アイギスを陥落させ、その先にある交易都市セルリアの物流ルートを掌握するという野望を抱いて進軍してきた。しかし、アイギスの城門前に立ち塞がった正体不明の「黒い鉄の塊」と、一瞬にして築き上げられた白銀の絶対城壁を前に、進軍を停止せざるを得なかったのだ。

「……将軍閣下。本国からの第三次補給部隊が、またしても未着です。偵察に出た斥候の報告によれば、補給ルート上であり得ない規模の魔物の大群スタンピードが発生し、食料と武器を積んだ馬車はすべて蹂躙されたとのこと……」

薄暗い天幕の中で、青ざめた顔の副官が報告を読み上げる。

上座で腕を組む帝国軍の先遣隊司令官、カエルム将軍は、ギリッと奥歯を強く噛み締めた。

「馬鹿な……。あのルートは、長年の調査で魔物の生息密度が最も低い安全な道を選定していたはずだ。それが三度連続でスタンピードに巻き込まれるなど、偶然で済まされる確率ではない!」

魔物・モンスターは資源であり脅威でもある存在として描かれるこの世界において、軍隊の行軍ルートに魔物が現れること自体は珍しくない。しかし、今回のように「補給部隊だけをピンポイントで」狙い澄ましたかのように巨大な群れが襲い掛かる現象は、明らかに人為的なものだった。

「アイギスの連中め……。未知の魔法で城壁を強化しただけでなく、広域の魔物誘導すら行っているというのか。これでは、我々は完全に袋のネズミではないか……!」

カエルム将軍の呟きに、天幕の中の将校たちは重苦しい沈黙に沈んだ。

兵糧はすでに底を突きかけている。飢えと寒さ、そして未知の敵に対する恐怖が、三万の帝国兵の士気を確実に削り取っていた。国家間の力関係や種族間の軋轢が物語の背景に存在し、主人公たちの選択がやがて世界の均衡に影響を与えていく。まさに今、たった一人の商人の選択が、軍事大国であるガランド帝国の軍隊を干上がらせようとしていたのだ。

「……撤退だ。これ以上の駐留は全滅を意味する。夜明けと共に陣を払い、国境の砦まで後退する!」

苦渋の決断を下すカエルム将軍。しかし、彼らはまだ理解していなかった。

彼らの撤退すらも、安全第一商会の若き代表・トウヤの完璧な計算と「事業計画」の一部に過ぎないということを。

――同時刻。防衛都市アイギス、安全第一商会支部・中央管制室。

「トウヤ会長。魔導監視網ネットワークの反応に変化がありました。帝国軍の陣地が慌ただしく動き始めています。おそらく、夜明けを待たずに撤退を開始するつもりかと」

かつてアイギスの補給官であり、今は商会の物流統括責任者となったバーツが、魔導スクリーンの前で的確な報告を上げる。

「ご苦労様、バーツさん。俺の仕掛けた『逆位相・魔物誘導結界』が完璧に機能して、連中の補給線が完全に絶たれた証拠だね」

温かいコーヒーを片手に、トウヤは満足げに頷いた。

ゲームのようなステータス表示がある異世界に転移した商人である彼は、死んでもやり直せる「リトライ」の力でスローライフを目指すという確固たる目的を持っていた。その平穏を脅かす他国の軍隊は、彼にとって「排除すべきリスク」であると同時に、「利用すべき莫大な人的資源」でもあった。

「さて、エララ隊長、ゴランさん。予定通り『回収作業』の時間だ。三万の兵力をタダで逃がす手はない」

トウヤが声をかけると、白銀のミスリルアーマーに身を包んだアイギス国境守備隊隊長のエララと、ドワーフの技師ゴランが力強く頷いた。

「ハッ! 我が国境守備隊……いえ、安全第一商会・防衛部門、いつでも出撃可能です!」

「ガハハハ! 俺様が徹夜で魔導輸送車トラックに増設した『大型牽引トレーラー』の乗り心地を試す時が来たな!」

彼らの背後には、ゴランの技術とトウヤの魔法によって新造された、百名以上の武装人員を快適に輸送できる超大型の連結トレーラーが控えていた。

「本当の強さは仲間との絆から生まれる って言うだろ? 今回はエララ隊長たちにも、俺のインフラの機動力を存分に味わってもらうよ。さあ、夜明けの荒野へドライブと行こうか」

トウヤは漆黒の魔導輸送車・一番機の運転席に乗り込み、エンジンを起動した。

キュィィィィン……という低い魔力駆動音が響き渡り、ミスリル合金の巨体が滑らかに動き出す。後部のトレーラーには、ゴランの手によって鍛え上げられた最新鋭の武具を装備したアイギスの騎士たちが、高揚した面持ちで乗り込んでいた。

「すごい……。これほど巨大な鉄の箱が、揺れ一つなく、しかもこれほどの速度で走るなんて……」

トレーラーの窓から外の景色が矢のように後方へと飛び去っていくのを見て、エララは驚嘆の声を漏らした。

「これなら、兵士の疲労を一切蓄積させることなく、敵の背後に回り込むことが可能です。トウヤ会長……あなたの持つ技術は、戦争の概念そのものを根本から覆してしまいます」

「俺は戦争なんて泥臭いことはしないよ、エララ隊長。俺がやるのは、あくまで『不法侵入者への退去勧告』と『損害賠償の請求』さ」

運転席から拡声魔導具を通じて返ってくるトウヤの声には、一切の悲壮感も焦りもなかった。

撤退を開始した帝国軍の足取りは重かった。

空腹と疲労で重い鎧を引きずるように歩く兵士たちの列は、長く間延びし、軍隊としての統制を失いかけていた。

「急げ! 夜明けまでに荒野を抜けなければ、アイギスの守備隊が追撃してくるかもしれんぞ!」

馬上で檄を飛ばすカエルム将軍だったが、その時、最後尾の兵士たちが恐怖に満ちた悲鳴を上げた。

「な、なんだあれは……!? 凄まじい速度で、黒い怪物が近づいてきます!!」

地響きを立てて荒野を爆走してくる漆黒の魔導輸送車。

それは、帝国軍が丸一日かけて進んできた距離を、わずか数十分で走破し、あっという間に撤退部隊の側面に回り込んだ。

キィィィィンッ! と鋭いブレーキ音を響かせ、巨大なトレーラーが帝国軍の進路を完全に塞ぐ形で停車する。

その屋根に、風魔法でふわりと舞い降りたトウヤが、拡声の魔法を乗せた声で荒野全体に響き渡るように宣言した。

「おはよう、ガランド帝国軍の皆さん。俺は『安全第一商会』代表のトウヤ。君たちは現在、我が商会が管理する『絶対安全街道』の建設予定地に無断で侵入している。直ちに武器を捨て、両手を挙げて降伏することを勧告する」

「ふ、ふざけるな! たかが一介の商人が、帝国軍三万に向かって降伏勧告だと!?」

カエルム将軍が激昂し、剣を抜き放つ。

「構わん、魔法部隊! あの鉄の塊ごと、あの舐めた若造を消し炭にしてしまえ!!」

将軍の号令と共に、帝国軍の数百名の魔術師たちが一斉に炎や雷の魔法を放った。

夜明け前の暗い荒野が、凄まじい魔法の光で真昼のように照らし出される。

しかし、トウヤはポケットに手を入れたまま、涼しい顔でため息をついた。

「俺の忠告を無視したこと、後悔させてあげるよ。……『光魔法・不可視の防壁インビジブル・シェル』、全反射モード」

バキィィィィンッ!!!

帝国軍が放った無数の魔法は、魔導輸送車の数メートル手前に展開された透明な壁に激突した瞬間、威力をそのままに跳ね返され、魔法を放った術者たち自身の足元で大爆発を引き起こした。

「ぎゃあああああっ!?」

「な、なんだこのデタラメな防壁は……! 魔法が完全に反射されたぞ!?」

自滅し、阿鼻叫喚の地獄絵図と化す帝国軍の陣形。

「さて、次は物理的な無力化だ。……『超重力領域グラビティ・プリズン』、広域展開」

ドォォォォォォンッ!!

トウヤの足元から波紋のように広がった魔力の波動が、帝国軍三万の頭上に覆い被さった。

瞬間、兵士たちが身につけている鋼鉄の鎧や武器が、通常の十倍以上の重さとなって彼らの体を大地へと縫い付けた。

「ぐはっ……! か、体が……潰れる……!」

「馬鹿な……三万の軍勢を、たった一人の魔法で制圧するだと……!? 貴様、本当に人間か……!」

馬ごと地面に押し潰されたカエルム将軍が、血を吐きながらトウヤを睨みつける。

「言っただろ、安全第一だって。これ以上無駄な抵抗をするなら、重力をもう一段階引き上げるけど?」

トウヤが冷酷に言い放つと同時に、魔導トレーラーの側面が一斉に開き、白銀のミスリルアーマーに身を包んだアイギス国境守備隊の精鋭たちが飛び出してきた。

「そこまでだ、帝国軍! 我ら安全第一商会・防衛部門が、貴様らの身柄を拘束する!」

エララ隊長の凛とした声が響き渡る。

圧倒的な装備と士気を持つ守備隊を前に、そして何より、トウヤという底知れぬ化け物の力を前にして、帝国軍の兵士たちの心は完全に折れ、次々と武器を手放していった。

その時、重力に押し潰されながらも、必死に顔を上げてトウヤに呼びかける一人の若い帝国将校がいた。

「ま、待ってくれ……! 降伏する! 我々第十二兵站・補給部隊は、無条件降伏を受け入れる!」

「おい、ユリウス! 貴様、帝国軍人の誇りを捨てる気か!」

カエルム将軍が怒鳴りつけるが、ユリウスと呼ばれたその青年将校は、真っ直ぐにトウヤの目を見つめ返した。

「誇りだけで兵は食えません! 補給線を絶たれ、これほどの戦力差を見せつけられてなお抗うのは、ただの犬死にだ! ……トウヤ殿と仰いましたね。私はユリウス。この軍の兵站と物資管理を統括する士官です。どうか、降伏を受け入れ、兵たちの命だけは保証していただきたい!」

トウヤは『鑑定』スキルを発動させ、ユリウスのステータスを読み取った。

そこには【統率力:A】【兵站管理:S】【算術:A】という、文官・補給官として極めて優秀な数値が並んでいた。

「……素晴らしい。状況を正確に見極め、部下の命を最優先にできる冷静な判断力。それに、その『兵站管理』のスキルは、俺の商会がこれから巨大なインフラを構築していく上で非常に魅力的な才能だ」

トウヤは指を鳴らし、ユリウスと彼の直属の部下たちの周囲だけ、重力魔法を解除した。

ふっと体が軽くなり、驚いて立ち上がるユリウスに、トウヤは最高に人当たりの良い商人の笑みを向ける。

「命の保証? もちろんだとも。死人にインフラ整備はできないからね。ユリウスさん、君たち三万の兵士は今日から捕虜ではなく、我が『安全第一商会』の『インフラ開拓部門・専属労働者』として雇用させてもらう。給料は相場の1.2倍、週休二日、温かい飯と安全な寝床を保証しよう」

「……は? ほ、捕虜ではなく、労働者? 給料を払う、だと……?」

ユリウスは完全に虚を突かれ、ぽかんと口を開けた。帝国軍の常識では、捕虜は過酷な奴隷労働で使い潰されるか、身代金目当ての交渉材料にされるのが関の山であったからだ。

「俺は商人だからね。三万の屈強な男たちが手に入ったんだ。これを使えば、セルリアから王都ルミナリスまでの『絶対安全街道』の建設工事が、予定より半年は早く終わる。君たちの持っている武器や鎧は、すべてゴランさんの工房で溶かして建設資材に作り変えさせてもらうよ」

トウヤの言葉に、エララやアイギスの騎士たちも、そして降伏した帝国兵たちも、揃って戦慄と呆れが入り混じった表情を浮かべた。

一国の正規軍三万を、戦争の敵としてではなく「大規模公共事業のための土木作業員」としてしか見ていないのだ。

「ユリウスさん。君にはその三万の労働者の現場監督と、資材管理の責任者を任せたい。もちろん、拒否権はあるが……あの飢えと恐怖の荒野に逆戻りしたいかい?」

「……い、いえ。あなたのような規格外の主君の下で働けるのなら、むしろ望外の喜びというものです。このユリウス、我が兵站管理のすべてを懸けて、商会の発展に尽力いたしましょう」

ユリウスは深々と頭を下げた。彼もまた、トウヤの圧倒的な力と、底知れぬ経済的野望の前に完全に魅了された一人となった。

こうして、ルミナス王国とガランド帝国の国境を揺るがすはずだった大規模な軍事衝突は、たった一人の万能商人の圧倒的なインフラと魔法の前に、一滴の血も流れることなく「無血の制圧戦(という名の強制雇用)」という形で幕を閉じた。

安全第一を掲げるトウヤの商会は、三万という莫大な労働力と、新たな優秀な幹部を獲得し、ついに王国の中心部――王都ルミナリスへ向けた、前代未聞のインフラ拡張工事をスタートさせる。

死んでもやり直せる「リトライ」の力を使うまでもなく、彼の進む道はすでに、誰にも止められない絶対的な安全圏として世界を覆い尽くそうとしていた。

【現在のステータス状況】

名前:トウヤ

年齢:18

職業:商人 / 冒険者(ランクA)

レベル:28 (帝国軍三万の無力化と降伏により大幅上昇)

体力:150/150

魔力:92,000/100,000 (超重力領域の広域展開・魔力反射により消費・自動回復中)

固有スキル:『リトライ(発動可能)』

魔法適性:全属性(火・水・風・土・光・闇・時空・無)

取得スキル:鑑定、算術、交渉術、全魔法創造、全武具習熟、気配遮断、錬金、空間把握

【仲間・後援者の状況】

・ミア(獣人の少女):アイギス支部にて、三万の新規労働者(元帝国兵)への炊き出し指揮に奮闘中。

・レオン(人間の商人):セルリア支部より、王都への街道建設に向けた莫大な資材調達を采配。

・ゴラン(ドワーフの技師):接収した帝国軍の武具を溶かし、巨大なロードローラーなどの魔導重機の開発に着手。

・アルベルト(人間の文官):セルリアにて、帝国軍三万の不法侵入に対する莫大な違約金と、合法的な労働力接収の書類を王都へ送付。

・シルフィ(エルフの護衛):エララと共に、元帝国兵たちの監視と現場警備を担当。

・リグ(獣人の青年):新規労働者三万人の給与計算と人事管理システムを構築中。

・エララ(人間の騎士):アイギス国境守備隊隊長。トウヤの無血制圧を目の当たりにし、彼を「平和をもたらす覇王」として崇拝し始める。

・バーツ(人間の補給官):アイギスにて、爆発的に増えた人員の食料管理を完璧にこなす。

・ユリウス(人間の帝国将校):【新規加入(兵站・現場監督)】元ガランド帝国第十二兵站・補給部隊士官。トウヤの合理性と器の大きさに心服し、三万の労働者を統率する現場監督として商会に帰順。

・インフラ状況:アステリア〜セルリア〜アイギス間「絶対安全街道」完全稼働。アイギス絶対城壁完成。セルリア〜王都ルミナリス間の「大動脈」建設プロジェクト始動。

・資金:金貨2100枚(帝国軍の軍資金と物資を「違約金」として接収し爆増)

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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