ブランデー・クラスタ①
今の僕にとって、果たしてお酒は娯楽と呼んでいいものなのだろうか。人と飲む機会はすっかり無くし、最近はただ酔うためだけにアルコールを摂取している状態と言って差し支えない。
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年の瀬の土曜日の早朝。背中側から寒さを感じ、体が震える。どこかに行った布団を手や足で探す。そうしているうちに、自分の身体にまとわりついている、整髪料で固まった髪だったり、おでこや鼻に分泌され滞留している脂だったり、昨日仕事に着ていったワイシャツの窮屈な襟回りだったり、そういうものを感じる。昨日の自分が遺した怠惰さを感じる。家で一人で飲んだっきり、風呂にも入らず布団にもぐりこんだ怠惰さに対する、緩やかな罰である。
不快さを身にまといながら、少しだけ迷う。知らんぷりして布団をかぶり、この怠惰さたちと共に二度寝するか。それとも、一度起きてシャワーを浴びて、綺麗な体になって二度寝するか。
少しだけ迷い、一度起きることにした。清潔からかけ離れた状態の身体を起こし、ベッドから降りる。右足で何か、床にあるものを蹴飛ばす。考えるまでもなく、昨日飲んだ発泡酒の空き缶である。いや、本当に空き缶か? 中身は入ってないか? 下に目をやる。中身が床にこぼれていない。昨日寝る前の自分がやった良い仕事はただ一つ、この缶を残さずきっちりと飲み干したことだけである。
今蹴飛ばして倒した500mL缶が1つ。すぐそばに立っている、同じ銘柄の発泡酒500mL缶がもう2つと、ストロングチューハイの500mL缶が2つ。合わせて5つを両手で拾い上げて、流しに持っていく。
床が冷たく、頭はぼんやりと鈍痛がして、腹はとにかく気持ちが悪い。これで何回目なのかも分からない不快感には、もはや安心すら感じ取ることが出来るようになっている。自分の体調は最悪だが、昨日は金曜日の夜で、今日は土曜日の朝なのである。あと2日はアルコールを入れたままでいられる。あと2日は社会の中を生きなくても良い。今はただ、それだけで充分なのだ。願わくばこのまま、頭も腹も気持ちが悪いままでいいから、このまま時が止まってほしい。
流しに缶を置く。水を飲まねばならない。喉が渇いた自覚は無いし、腹もタポタポ言っているのだが、飲まねばならない。冷たい水を飲めば腹のムカつきがある程度治まるのを経験上知っている。蛇口をひねり、冬の冷たい水道水を両手で掬い、何度も飲む。