ブランデー・クラスタ②
ぬるいシャワーで髪を濡らしたあと、お湯の温度を上げ、背中に当てながら、寒さと整髪料でゴワゴワになっている髪をシャンプーしていく。僕の体表を雑に叩いただけのお湯が、そのまま排水溝に流れていく。冬の寒さはどうしても我慢ならず、冬に電気代やらガス代やらを気にするのは昨シーズンの冬からやめた。当然のように、昨日の夜から暖房は26度でつけっぱなしである。この部屋に越してきた時には魅力的に思えた、日を採り入れるための大きな窓は、今はただ、締め切られた薄いカーテン越しに冷暖房効率をひたすら下げ続けている。室温を、体温を保つために、ただただコストを垂れ流し続けている。
身体を起こした時は二度寝をするつもりだったが、目が覚めてきたのでその気も無くなった。酒を飲もう。風呂上がりにやるべき事の億劫さ、そんな些細なことさえ、乗り越えた後に酒を飲むためのつまみになる。早く、酔いたい。
冷蔵庫に常備している、一番安いブランドのストロングチューハイの缶を開けて、口に流し込む。先程暖めた身体に、10分もしないうちに冷えた液体が入ってくる。ラベルを確認してないけど、おそらく無糖レモン、いや味なんてどうでもいいか。とにかく酔うことだけを求めて三口ほど飲み、昨日の酒と今朝の水道水でタプタプした腹を今思い出したかのように、大きなゲップをする。
つまみも無しに酒を流し込むから、酔いはすぐにやってくる。幸福感……そうだな、幸福感で、合っているはずだ。幸福感が来てくれる。
酒から何か良いものを得ているわけではないのは分かっている。酒は不幸なものを隠してくれる。不幸を生み出す自分の脳の回路を止めてくれる。酔えば、辛さや後ろめたさ、寂しさ、自分の愚かさ、惨めさ、他人の白々しさ、関係の希薄さ、この生の無意味さ、そういうのは全部忘れたふりをすることが出来る。
スマホを手に取る。午前7時8分。空に近い缶を持ち、写真を撮る。Twitterのアプリを開き、何も考えず左手に任せてフリック入力する。
「土曜日の朝から空虚な人生を酒で満たすだけの限界独身男性」
写真を添付、ツイート。缶を飲み干す。立ち上がり、そうする意味も無いが、スマホを羽毛の掛け布団にボスッ、と投げつける。幸福感。まだ、もっと幸福になれるはずだ。
今年は、帰省しなくても良いかな。家で酔っぱい続けて過ごす年末年始が、金もかからず一番幸せかもしれない。
冷蔵庫にあるストックを取り出しながらふと、そんな考えが頭をよぎる。「後ろめたさ」「寂しさ」それから「関係の希薄さ」が、自分の頭の中の遠いところから叫んだ気がした。それが煩わしくなり、2本目を一気に飲み干して空にする。3本目を冷蔵庫から取り出す。幸福感が、またやってきてくれる。
ベッドまで戻り、3本目を開ける。スマホ。午前7時13分。3本目を一口、二口だけ飲んだら、ゲップが止まらなくなり、なんだか寒くて眠たくなってきた。まだ重みのある缶を床に置いて、布団にくるまる。幸福感。その感情以外であって良いはずがないのだ。




