13 聖女さん、引き留められる
「あっちゃんはアイツにどんな文句だって言う権利は有る。どれだけ惨い仕打ちをしたって文句を言われないような立場だよ。だけど……だけどだよ」
しーちゃんは強い眼差しを私に向けて言う。
「あっちゃんがユアンを殺す。それ程虚しい事は無いと思うんだ」
「なんで?」
「さっき言った通り、ユアン・ベルナールには未来予知が使えた。それで色んな未来を見て……これしか選べる選択肢が無かったんだ。こんな事しか……ッ!」
しーちゃんの手の力が強くなる。
「やって来た事そのものを肯定するつもりは無い。肯定なんてできない! だけど……それでも、そういう結末になるのはあんまりだよ!」
「……」
なんとなく、私達が居ない間に起きた事が読めてきた。
アイツは未来予知で最善の選択を選んだ。
苦渋の選択でそれを選び続けた。
しーちゃんですらそんな風に受け止めるような言動を、アイツはしていたんだろう。
そんな心にもないような、どうしょうもない演技を。
「アイツ、ペテン師の才能も有ったんだ……自己保身でそんな事を言うような。最悪だよ」
「ちが……ッ」
「違わない」
違わないんだ。
「アイツはそんな事言わない。騙された皆にどうこう言うつもりはないよ。しーちゃんを騙せる程に悪い意味で優れた、ほんと碌でも無い才能ばかり持ってるんだって思うだけだから」
小さく溜息を吐いてから言う。
「アイツが動いてるのもこの世界が滅んだら自分も困るってだけでしょ。それなのに皆の前で仕方なく悪事に手を染めている善人面して振る舞ってたんだ」
「違う! そんなんじゃ──」
「もういいよ。ありがと。気ぃ使って止めてくれて」
きっとしーちゃんは、実は言う程悪い奴じゃ無かった父親を私が殺すみたいな展開があんまりだって思って止めているんだろうけど……大前提からして違う訳だからさ。
アイツは、ろくでなしだから。
後は……アイツに騙されてるなら、事が穏便に済んだ方が良いとも思ってるのかな。
きっとそうだ。
しーちゃんは優しいから。
あんまり知らない人が端から観たら滅茶苦茶にしか見えない時も有るかもしれないけど、本当に優しい人だから。
そういう人の善意を利用しているのが、もっと許せない。
「大丈夫。私があのクズを殺した所で、殺人以上の何かが乗っかって来る事は無いから……だから、大丈夫」
大丈夫だから。
「責任を取らないと」
大丈夫。
「……」
私の身内の所為で大勢の人間が酷い目に合っている。
私の周りにいる皆だって、少なからず人生を狂わされて。
ルカとミカに至っては、取り返しが付かないレベルで壊されてしまっている。
その責任を、私が取る。
私が取らないといけない。
だから、その為に。
「……手ぇ、離して。しーちゃん」
「離さない」
……その目は言葉の通りだ。
強い意思が視線からも声音からも手からも伝わって来る。
しーちゃんは本当に私を行かせるつもりがない。
……仕方ないか。
怪我をさせないように丁寧に。
丁寧に力尽くで振り払おう。
しーちゃんの強化魔術の出力なら……私なら簡単に振り払える。
そっと。
ガラス細工に触れるように。
「行かせない!」
「……ッ!?」
しーちゃんに捕まれた腕がピクリとも動かなかった。
何か特別な事をされている訳じゃ無い。
ただ単純な馬鹿力で無理矢理抑え込まれている。
「……悪いけど、ただレリアさんの器として動いてた訳じゃないんだ」
「これって……ッ!?」
言われてようやく気付いた。
掴まれた手から解析を始め、その異質さにようやく気付いた。
「全部ウチの身体を使って起きてた事だからさ……覚えた」
「……ッ!?」
「もう一度言うよ……行かせないから」
しーちゃんは今、レリアさんの強化魔術を使っている!




