11.城下町に届いたもの
「何故。踊っている」
一語一語を確かめるように、大司教が神官に問いかけた。
「わかりません。ただ、みな一様に『幸せな気分になった』と。『なんだか踊り出したくなった』と。それから、病にかかっていたものも、体を起こして腕を突き上げ、楽しそうにしているそうです」
右の眉と左の眉が寄せられ過ぎてくっついた、最大限の訝しげな顔で大司教が私を振り返った。
「ユリシア殿……?」
『アレクシアーーーー!!』
『なによ、そんな思いの丈を込めて叫ばなくてもいいわよ』
『町の人が踊ってるっていうんだけど! あんたやっぱりさっき、なんか変なことしてたでしょ?』
『あ、そうなの? じゃあやっぱり効いてんじゃん』
『はああ??』
『いやあ、ちょっと事情があってさ。同じ格好してるわけにはいかなかったから、踊ってたのよ。みんなが幸せになりますようにーって』
ずっと膝をついているのが痛かったのだろう。つまらなかったのだろう。
なんてことをしてくれた。
そして願いが大雑把すぎる。
いや、その心根は正しいのだと思う。
やろうとしていることは素晴らしいことだと思う。
だが今。
だが今、だ。
「いえ、あの。せっかくなら病の人だけでなく、みなが幸せな気持ちになったらいいなと、そんなことを心で思ってしまったのです。ほんの少し、なんですけれども、ええ」
リヒャルトが目を剥いて私を見ている。
私を見ないで!
やったのはアレクシアだから!
「まさか、それで町がそのようなことになるなど……」
「それだけではありません。足を切らねばならないかというほどの大怪我をしていた者が――」
「治ったのか?!」
大司教が食い気味に問い詰めれば、報告に来た神官は首を横に振った。
「いえ。怪我がなくなったわけではありませんが、不可思議なことに化膿が止まり、足を切断しなくてよくなったそうです」
なんだ、というように大司教は前のめりになっていた姿勢を元に戻したけれど、それは立派にすごいことだと思う。
だって、足が残っていれば、自らの足で歩ける可能性があるのだ。
足を切断するのとしないのとでは、雲泥の差だ。
「それから、先程もお話しした病にありながらも踊っていた者のことですが、三日も意識がなく、突然目覚めたのだということでした。他にもいろいろと話を聞いてまいりました。とにかく町はすごいことになっております」
大司教は額を抑え、何かをブツブツと呟いていた。
そこにリヒャルトが「大司教」と声をかけた。
「ここでこうしていても真偽の程はわかりません。我々も町へと降りてみましょう」
リヒャルトは王子らしく口元に笑みを浮かべていた。
先程の私を咎めるような視線などなかったかのように。
 




