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12.祈りの結果

 リヒャルトも大司教も身分がわからないように簡単に変装し、町へと下りた。

 ただし物々しい護衛がぞろぞろとついて来るのだから、当然誰か偉い人だとはわかるだろう。


 町の人たちは半分は既に疲れたように座り込んだり、壁にもたれたりしていた。

 けれどその顔にはやりきったというような充実感がにじみ出ていた。

 元気な人はまだ踊り続けていた。

 別に狂ったように踊っているわけではない。祭りのような騒ぎになっているわけではない。

 ただただ歩くのはつまらないとばかりにステップを踏みながら道を行き交い、鼻歌を歌うように店先の果物を選んでいた。

 みんな楽しげで、満ち足りた顔をしていた。


 正直に言おう。

 怖い。


 異様だ。


 こんな光景が本当に幸せなのかと問われれば、私は疑問に思わざるをえない。


『アレクシア……なんてことしてくれたのよ』


 誰も彼もが踊るのが幸せかといったらそうではないと思う。

 操られたように一様に幸せそうな表情をしているのも、空恐ろしかった。


『え? なになに、どうなってんの今』


 アレクシアに簡単に状況を説明すると、『幸せそうならいいじゃん』と返ってきた。

 この異様さはその目でみなければわからない。言葉ではとてもいい表せない。


「もし。この辺りに病人などはおりませんかな」


 息を切らしてステップを踏み通り過ぎようとした男を大司教が呼び止めると、急には止まれずだいぶ行き過ぎてから、小走りで戻ってきた。


「病人ですか? この先に寝たきりのご老人のタジーさんという方ならいらっしゃいますけど」


「案内を頼めないかね」


「いいですよ」


 男は気やすく返事をすると、ステップを踏みながら来た道を戻り出した。

 大司教は顔を顰め、異様なものを見るように周囲を見回しながら後に続いた。

 リヒャルトもその後に続く。


 タジーさんの家に全員は入りきらなかったため、護衛は少数精鋭のみ連れて入ると、ベッドに寝ているご老人がいた。


「タジーさん。今日の具合はいかがですか?」


 大司教の右腕らしい神官が声をかけると、皮膚の余った瞼をうっすらと開いた。


「はい? どなたでしたかしら。めっきり目も耳も記憶も遠くなってしまって」


「私は神官です。本日はあちこちの家を慰問させていただいているのです」


「おやまあ、ついにお迎えがきたんですねえ。ありがたや、ありがたや……」


「いえ、あの……」


 拝み始めてしまい、おろおろとする神官に代わって、大司教が声をかけた。


「タジーさん。ご気分はいかがですか?」


「ええ、ええ、今日はとても気分がいいんですよ。なんだか踊り出せそうなくらいに」


 中に入れてくれたご家族に挨拶をすると、揃って家を出た。


「治った様子はありませんでしたな」


「ですが、ユリシアが祈った通り、幸せな気持ちにはなったようですよ。それに老衰は病ではありません。老いた体を癒すというのは若返らせるということであり、逆行にほかなりません。それは神の道に逆らうものではないのでしょうか」


「ふむ。殿下の仰ることも、もっともですな。では他をあたってみましょうか」


 大司教もアレクシアの祈りの結果を気味悪いと思いながらも、その力を無理に否定するつもりはないようだ。その目を見れば、半ば認めているのはわかる。

 本当に力があるのであればそれはそれで利用価値があると思っているのだろう。


 再び何人かの町の人に聞き、病気だという人に今日の調子はどうかと聞いて回ったところ、総じて変化が見られた。

 ただしそれは神官の報告にもあった通り、些細なものだ。

 劇的に回復しているわけでもないし、全快しているわけでもない。


 いつもは臥せっているが、今日は調子がよくて起きられたという人を医者に診てもらったが、それほど状態がよくなっているわけではなかった。ただ、おかげできちんと食事が摂れて心も体も軽いと笑っていた。


 いつも悩まされている頭痛が今日はないと喜ぶ人もいた。

 

 ちょうど怪我をしたところで出血が止まらずあわやというところだったが、なんとか一命をとりとめたという人もいた。


 みんな、アレクシアの祈りのおかげだとするにはただの偶然に思えるような変化ばかりだった。

 しかしそれが何人もいたというのは、偶然とは思えない。

 何よりもみんな嬉しそうにしていたのが印象に残った。

 いつも苦しんでる人は少し調子がいいだけで、幸せな気持ちになれる。そこからいい循環が生まれてさらに回復の見込みが立つ。

 それはすごいことに思えた。


 最初に踊り歩く町の人と、笑って疲れて座り込む人を見たときにはなんてことをしてくれたのかとしか思えなかったが、そうして病や怪我の人の変化を聞けば、聖女の祈りには確かに価値があるのだろうと思えた。


 大司教は考え込むようにしながら、町の人々の様子を見て回った。


 結果は後日言い渡されることとなった。

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