勘違い兎狩りはイシコンさん
サブタイトルが思い付かなくなって来ました。
辛くもホーンラビットに勝利を収めたセイン。
セインは次の獲物を探す前に少し休息を取ることにした。
「確か傷の治りを早める魔法があったよな」
魔法を想像すると以前石棍棒を作った時と同様に、頭に魔法術式が浮かんでくる。
今回は魔法陣の円の内側に魔法文字と呼ばれる文字が書かれている物だった。
セインが魔力で魔法陣を形成すると、魔法陣がセインの身体に入っていく。
すると先程までダラダラと流れていた血が一斉に止まっていった。
「すげぇ……すぐに治るわけじゃないみたいだけど、治るのがめちゃくちゃ早くなるんだな」
傷を観察していると少しずつ塞がっていくのが見えた。それになんだか傷の周りが凄く温かい。
気付けばセインの身体にあった小さな傷はほとんど消えており、体の痛みも無くなっていた。
「魔法……もっと使えるようになりたいな」
その為には資格を取って、更に自分で魔法を作る必要がある。まあ、作らずとも既にこの世界にある魔法を勉強するだけでも恐らく使えるようにはなるだろう。
勉強する為にも、お金は必要だ。早くこの依頼を達成して、生活を安定させなければいけない。
それから10分ほど休憩し、深い傷が全て浅くなっているのを確認したセインは探索を開始した。
神経を研ぎ澄ませて、辺りを警戒する。
先程は正面から戦って死にかけたのだ。不意打ちをされたら一瞬で死ぬだろう。
この周りには何も居ないようだ。
安全を確認したセインは、歩みを進め始めた。
探索を続けること30分。
100m程先に複数の気配を感じた。
(……!何匹だ?……2、3、4……5匹か)
もしホーンラビットの群れなら気付かれる前に離れないと危ない。だが、角ウサギの群れならちょうどいい獲物になるだろう。
セインはそっと近づき、木々の隙間から群れの様子を見る。
(見つけた!)
ウサギの群れは数メートル程の範囲に散らばりながら寛いでいた。
近付いたセインに気付いた様子はない。
セインはホッと息をつき、ウサギの群れを観察した。
あのウサギたちが魔獣か動物か、見極めなければいけない。
先程狩ったホーンラビットを取り出し、見比べる。
(見辛いなぁ……どっち?これ)
距離が遠過ぎる為、じっくりと見比べようにもウサギが少し動けば木々に遮られてしまう。
ただでさえ見分けが付きにくいのだ。これでは一向に分からない。
近付けば気付かれる可能性も高まるが、致し方なし。
セインは意を決して進むことにした。
先程取り出したホーンラビットを袋にしまい、群れに近づく。
木々に見を隠しながら数メートル近付き、止まる、
群れとの距離はおよそ10m。これ以上進めば流石に気付かれるだろう。
今気付かれていないことも奇跡に等しい。
もう一度ホーンラビットを取り出し見比べる。
(確か、ホーンラビットは目が深い紅色で角が濃い黄色。角ウサギはただの赤目に薄い黄色の角、だったよね)
よくよく見ると群れのウサギは、手に持つホーンラビットに比べると角の色が薄いように感じる。
(この群れは、角ウサギ……ってことだよね)
確証は持てない。だが、見れば見るほど薄く感じる。
恐らく、大丈夫だろう。
そう判断したセインは静かにホーンラビットを仕舞うと棍棒を構えた。
(狙うのは……手前でじゃれあっている2匹、まずは右から!)
狙いを定めた瞬間、見を隠していた木から飛び出し、接近する。
近付いてくるセインに気付いた角ウサギは即座に逃げ出した。
だが、転生の恩恵によって強化されたセインの脚力には敵わない。
すぐに角ウサギに追いついたセインは棍棒を振り下ろす。
跳んで宙に浮いたところをセインに狙われた角ウサギは、抵抗することも出来ず地面に打ち付けられた。
恐らく生きていてもしばらくは動けないだろう。
(まずは1匹。次!)
1匹を倒したセインは即座にもう1匹に狙いをつける。
右手に持った棍棒を左に引き、飛び出すのと同時に振り抜いた。
バシンッ
軽快な音と共に吹き飛ぶ角ウサギ。
(これで2匹!次!)
周囲に気を配る。どうやら他の3匹は散り散りに逃げたようだ。
これでは全て倒すのは無理だろう。
そう見切りをつけたセインは最も近い1匹を追いかけることにした。
だが、その1匹も既に30mほど離れた場所にいた。
(ウサギ速過ぎでしょ!?)
今から追いかけては道に迷う危険がある。
止むを得ず、セインは追いかけるのを諦めた。
はじめての群れの狩り。その結果はほとんどを逃してしまうという苦いものだった。
(せめて遠距離武器は無いと難しいよね……)
気を取り直して倒した2匹の回収に向かうセイン。どちらも一撃で死んでいたらしく、ピクリとも動いていなかった。
セインは角ウサギの死体を素早く回収するとすぐに次の探索に移った。
それから探索を続けること2時間。
あれからウサギの群れとは一度も会うことなく、単体で行動していた角ウサギを5匹、更にホーンラビットを2匹倒していた。
探索中倒した角ウサギとホーンラビットを見比べたが、間近で見てようやく、その違いがハッキリと判った。
確かにホーンラビットの方が目も角も濃い色をしている。だが、理解したからと言って遠くから見た時にはっきり分かるかと言えばそうでもなかった。
――――
2匹目のホーンラビットとの戦闘時、セインは見つけたウサギをじっくりと観察していたが、角ウサギとの判別がつかず、近付いた。
彼我の距離が10mに達した時、セインは身を隠して進んでいたにも関わらず、ホーンラビットはセインに気付いて攻撃を仕掛けて来た。
かなりの距離があったため、しっかりと攻撃を見切ることが出来たセインはカウンターの一撃でホーンラビットを打ち倒した。
角ウサギかホーンラビットか、相手に気付かれない距離でそれを判断するのはかなり難しいことを実感したセイン。
慣れていけばそれも出来るようになるだろうが、それには時間がかかるだろう。
慣れるまでは、接近中にバレてしまうのも仕方ない。注意して狩りをしようと、気を引き締めたセインだった。
――――
3時間ほど探索した収穫の合計は角ウサギ7匹にホーンラビットが3匹。
狩りの結果としては上々だろうが依頼の達成には程遠かった。しかし、既に布袋と革袋が両方満杯になってしまっていた。
重量もかなり重い。全て合わせると10キロを超えている。
このまま探索を続けるには動きに支障をきたすだろう。
それに何より、
「お腹すいたぁ……」
空腹だった。森に入って3時間、木々の隙間から時々覗く太陽は、既に真上にあった。
だが、セインは昼飯を準備していなかったのだ。
現在の所持金は50ルニ。心許ないが、携帯食を買うことも出来たはずだ。
依頼を受けた時には昼飯のことは完全に頭から抜けており、森の中で空腹に陥るという情けない結果を生み出した。
辺りを見渡すと小さな木の実などが生えているのが分かる。だが、食用とは限らないのだ。
フェインラミナスの恩恵によって病気には強くなったが、毒に対する抵抗は持ち合わせていない。
その木の実を手に取る勇気は、セインには無かった。
「仕方ない。帰るか」
今から帰れば、街まで歩いて3時間ほどで着くだろう。
それに2日連続の探索でかなり疲労が溜まっている。
身体を休めるためにもここで切り上げるのが得策だろう。
疲労、空腹、満杯の袋。
それらの理由からセインは帰ることを決断した。
それから1時間かけて森を出た。
途中でホーンラビットと角ウサギを1匹ずつ狩ることが出来た。
袋には仕舞えないので、ベルトに耳を結び、腰からウサギをぶら下げるようにして運ぶ。
かなり不格好ではあるが、捨てていくわけにもいかない。セインは金欠なのだ。少しでも金になるのなら持って帰るべきだと判断した。
――――――
そして街に着いたセイン。日が傾いて来ていたが、まだまだ明るい時間帯だった。
門番にギルドカードを提示して門を潜る。荷物が多いため、換金する為に冒険者ギルドに向かった。
その最中、セインは何やら違和感を感じた。
(なんか、めちゃくちゃ視線を感じる……)
それほど変わった格好をしているだろうか。確かにウサギをぶら下げて歩くのは変わっているかもしれないが、冒険者ならそういうこともあるだろう。
ここまで視線を集める理由が、セインには分からなかった。
居心地の悪い思いをしながら冒険者ギルドに入るセイン。
セインが入った途端ギルド内が騒がしくなった。
(なんで!?なんで!?冒険者なら普通じゃないの!?街中より注目集めてるんだけど、なんで!?)
困惑。
ここまで冒険者に注目される理由が分からなかった。
それに冒険者は目付きの鋭い者が多い。セインからすれば睨まれているようにしか感じなかった。
(絡まれませんように絡まれませんように絡まれませんように!!)
内心ビクビクしながら受付に向かう。可能な限り誰とも目を合わせないように前だけを見据えて歩く。
――おい、イシコンさんだぞ。
――イシコンさんが来た。
――ありゃあ本物だな。
あちこちからイシコンさんというワードが聞こえる。
(イシコンさん……?誰だ……?)
謎のワードに困惑が尽きないが、誰も話しかけては来ない。セインはこれ幸いと受付に向かっていく。
探索を早く切り上げたためか受付には誰も並んでいなかった。
少し早歩きで進んだセインは、誰かに絡まれる前に受付に到達することが出来た。
「すみませんリーンさん。換金をお願いします」
「いらっしゃいませ、イ……セイン様」
しまったという表情を浮かべふリーンに、セインは眉をひそめる。
「イ……?」
「い、いえなんでもありません。換金ですね。素材をお出しください」
不思議そうな顔をするセインに、リーンは話題を逸らすように早口で喋る。
(まあ、名前を間違えるくらい誰でもあるか)
特に気にする事もなく、今日狩った角ウサギ8匹とホーンラビット4匹を提出する。
ドサドサと袋からウサギたちを出していく。
その瞬間辺りが騒がしくなった。
「こんなに……!?」
「え?」
「すみません。ここまで多いとは思っておらず、驚いてしまいました」
カウンターの台から溢れてそうになるウサギ達を見ながら、リーンは言葉を漏らす。
「1日でこの収穫ですか……セイン様は狩りの才能がある様ですね」
「あ、ありがとうございます」
「では、品質を確かめますので少々お待ち下さい」
リーンはそう言うと、大量のウサギを抱えて奥に運んでいった。
リーンを待っている間、ギルド内の喧騒が聞こえてくる。セインにはなんと言っているかは分からなかったが、かなり居心地の悪い思いをしていた。
しばらくすると奥からリーンが戻ってきた。
「お待たせいたしました。角ウサギが8匹にホーンラビットが4匹ですね。合計で2400ルニとなります。内訳はご覧になりますか?」
「いえ、大丈夫です」
「確かセイン様はホーンラビットの討伐依頼を受けておられましたよね。ギルドカードを提出していただけますか?」
そう言われたセインは懐からギルドカードを取り出し、リーンに渡す。
ギルドカードを受け取ったリーンは手元の羊皮紙に何やら書き込むとギルドカードを返してきた。
「……はい。これで大丈夫です。今日を合わせて10日以内にあと1匹の討伐を確認出来れば、依頼達成となります」
「分かりました。ありがとうございます」
それからリーンから2400ルニを受け取る。
既に依頼の達成報酬を大幅に超える額を手に入れた。
これでしばらくは生きることが出来る。
だが道具を揃えなければいけない。武器もいつまでも石の棍棒というわけにはいかないだろう。その為にはまだまだお金が必要だ。あと数日は狩りを続けるべきだろう。
受け取った銀貨を布袋に仕舞いながらそのような事を考えていたセインに一人の冒険者が近付いて来た。
(絡まれる!?)
セインがそんなことを考えているとは露知らず、興奮した様子でその冒険者は口を開いた。
「なぁあんた、イシコンさんだよな?マジで石棍じゃねえか!すげえな!」
「へ?え?」
(イシコンさんって俺のこと?なんの話?)
セインは突然の出来事に脳が付いていかなかった。
だが、この冒険者が自分のことをイシコンさんと呼んだことは理解出来た。
だが、イシコンなどという呼び名に聞き覚えはない。
「え、えーと……人違いじゃ無いでしょうか……?俺ははセインです。イシコンではありません」
「いやいやいや、そんなもん持って何言ってんだあんた。それともなんだ?イシコンさんに憧れたって口か?」
「えぇ?そもそもイシコンさんって誰ですか、間違いなく俺じゃないですよ?」
「イシコンさんを知らないだと?……ああなるほど、そういうことか」
何やら納得した様に頷く冒険者。
セインは依然として状況が掴めていなかった。
「イシコンさんってのはあんたのことだよ。セイン」
「はぁ!?なんで!?」
驚くセインの様子に、目の前の冒険者も周りで見ていた冒険者も、面白そうに声を上げるのだった。
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