閑話 勘違い冒険者たちのウワサ話
今日は少し短いです。
セインが森でホーンラビットと戦っている頃。
冒険者ギルドではとある噂が流れていた。
曰く、奇妙な格好の新人がいるらしい
曰く、恐ろしく怪力の新人がいるらしい
曰く、魔獣を倒したことに気付かない新人がいるらしい
曰く、その新人は石の棍棒を片手に持ち、逆の手にはやたら重そうな石の籠を持ち、内臓をミンチにされた見た目はとても綺麗なホーンラビットの死体を持ってくるらしい
新人冒険者にオススメの街と言われるカールンの街で、新人とは思えぬ新人の噂が流れていた。
あまりにも突飛な格好と武器だということで、畏怖を込めてその新人はこう呼ばれていた。
「イシコンさん」
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side:冒険者パーティ「孤高の狩人」
冒険者ギルドに設置されたテーブル。
そこは普段報酬の分配やら、依頼のための作戦会議に使われたりするのだが、その日は一つの噂で持ちきりだった。
冒険者歴5年の中堅冒険者、コルトスにとってもそれは変わらなかった。
「なぁお前ら、知ってるか?イシコンさんのこと」
「イシコンさん……?誰だそりゃ?」
俺はいつものように作戦会議のために集まったパーティメンバーに噂の話を持ち出した。
「あぁ、そういえば昨日酒場で聞いたな。なんでも変わった新人がいるとか」
「そう!まさにその新人がイシコンさんってわけよ!」
タンクのゴーグは知らなかったようだが、スカウトのクルールは知っていたらしい。
「私もそこまで詳しくは聞いてないのだが、何が変わっているんだ?」
「俺も噂で聞いただけなんだけどよ、なんでも身の丈ほどの石の棍棒を武器にしていて、何故か無駄に重そうな石の籠を持ってるんだとか」
「身の丈の石の棍棒に石籠ぉ?どんな筋肉野郎だよそりゃ」
「ふむ、それなら私も聞いたな。だが、見た目は普通のひ弱そうな男の子という話だったが」
「マジなのかよ!?しかも筋肉野郎じゃねえのか……」
最初は疑っていたゴーグも普段から真面目なクルールが同調したことで信じたようだ。
つうか俺のことは信じないってどういうつもりだこのやろう。まあ、今はそれはいい。
「とにかく、そんな格好をしてるもんだからイシコンさん。石の棍棒、つまり石棍ってわけだ」
「なるほどなぁ。でも、そのくらいなら変なやつってだけだろ?わざわざ噂になるか?そんなやつ」
「ところがどっこい。まだあるんだなぁこれが」
「腹立つ言い方してねえで早く言えよ」
「私もこれ以上は知らない。教えてほしい」
ゴーグとクルールの差がひでえ。ゴーグは俺のこと嫌いなのか?なんなんだ?
まあいい、俺は大人だからな。気にしない。
「イシコンさんのやべえところはな、戦闘経験が無いのにホーンラビットを狩ってきたらしい。しかも無傷で」
「うっそだろ……?俺らでも魔獣を狩れるようになるのに2ヵ月かかったのに、最初から……?」
「それは……驚きだな」
「まだあるんだよ」
「……ゴクリ」
「なんとイシコンさん。ホーンラビットをただの角ウサギと勘違いしてたらしいんだ」
「……はぁ?」
「……???」
二人とも意味不明だというように首を傾げている。
ゴーグはともかく、クルールがここまで困惑しているのは珍しい。それだけ意味が分からないということだろう。かくいう俺も聞いたときは意味が分からなかった。
「角ウサギとホーンラビットを両方狩ったらしいんだけどよ。違いに気付いてなかったらしい」
「戦ったのにか?」
「戦ったのにだ」
「めちゃくちゃ強いかめちゃくちゃ頭悪いのどっちかだろそんなの……」
「実際そうなんだろうよ。なんせ初めての戦いで魔獣を狩るようなやつだ」
「……そりゃあ噂にもなるわな」
「だろう?だからイシコンさんなんて呼び方されてんだよ」
「新人にさん付けとか普通しねえもんな。なんとなく分かったけど……どんなやつなんだ一体」
「そこまでは俺も知らねえな。会ったこともねえし。昨日この街に来たばっかりらしいしな」
「昨日か……なら俺も知らないのは当然だな」
納得したように頷くゴーグ。因みにクルールは途中から思考を放棄したらしい。目を瞑って無言で水を飲んでいた。
「いや〜ごめんごめん待たせちゃった?ちょっと寝過ぎたよ〜」
そこへもう一人のパーティメンバーアーチャーのマーチがやってきた。
こいつはエルフの癖に短絡的というか楽観的というか、なんとも世間のイメージとは違うあっけからんとした性格をしている。
「遅れたことは別にいいけどよ。なぁマーチ、イシコンさんって知ってるか?」
今日もこんな無駄話をしながら、俺たちのパーティは楽しくやっている。
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side:カールンの街の門番オルバ
私はカールンの街で衛兵をしている。
何やら変な格好の新人冒険者が現れたと噂になっていた。
私は恐らくその冒険者を知っている。
何でも噂では石棍棒を持っていることから「イシコンさん」と呼ばれているらしい。
石棍棒。やはり昨日出会った彼の事だろう。
旅人という割に魔獣と動物の見分けもつかず、気付かぬまま狩りをしていたという。
永らく門番として色んな人を見てきたが、そんなことを言う旅人には会ったこともない。
昨日私と共に門番をしていたメガスはあれからずっとイシコンさんの話をしていたな。噂の根源は間違いなくメガスだろう。
まあ、メガスの気持ちは分からなくもない。例のイシコンさんには悪いが、彼はそれほど変わっていた。
まさかここまで噂が広がるとは思っていなかったが、冒険者目線でもそれほど奇妙な人物ということだろう。
「そういえば知ってます?昨日めちゃくちゃ面白い旅人と出会ったんですよ!」
メガスのやつがまた彼の話をしている。
話を聞く私の同僚も、噂は耳にしていたのだろう、興味深そうにメガスの話に耳を傾けている。
イシコンさんか……この街で活動するのであればまた会うだろう。その時はもう一度話をしてみたいものだ。
少なくとも退屈する人物では無いだろう。
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side:冒険者ギルド受付嬢リーン
私はカールンの街で受付嬢をしています。
まだ3年ほどしか働いていませんが、それでもある程度の実力は一目見たら分かるつもりでした。
先程ホーンラビット狩りの依頼を受けて出て行った冒険者。セイン、と名乗っていましたが、彼は不思議な雰囲気を持っている人でした。
足運びは素人、その割に人の視線には敏感。
明らかにこの街の出身では無さそうなので旅人かと思いますが、それなのに戦いの経験は一度のみだそうで。
魔法を使えると申告しているのに武器が棍棒。
なんと言いますか、色々な部分でチグハグな印象を受ける方でした。
でもなんだか、彼はいずれ大成するような気がします。受付嬢の勘というやつです。
「先輩先輩、イシコンさんの噂聞きました?」
今年からこのギルドで働くことになった後輩のエマが私に話しかけてきました。とても人懐っこい子で、冒険者からの人気も高いのです。
白みがかった桃色の短い髪を揺らしながら赤い眼を細めてニコニコと笑っていました。
同じ女の私から見ても本当に可愛らしい子だと思います。
「イシコン……さん?」
「あれ、知りませんか?何でも冒険者の間で凄く噂になってるらしいんですよ」
彼女の話を話を聞いていくうちに、イシコンさんとやらの人物像が次第に浮かんできました。
そして確信しました。
間違いなく彼でしょう。
新人冒険者セイン。ちょうど先程、私が考えていたばかりということもあって、すぐに分かりました。
なるほど、考えてみればただの受付嬢でしかない私ですら変だという印象を持ったのです。
冒険者の皆様が違和感を覚えない筈が無かったのです。
イシコンさん。
あまり彼には似合わない名前のような気もしますが、私が気にすることでもないでしょう。
でも彼のことなら噂のみのエマより話せる自信があります。なぜなら彼と直接話し、冒険者登録をしたのもこの私なのですから。
「ふふ、ねえエマ知ってる?実は彼、魔獣を気付かずに――」
「えぇーーーーーー!?」
カールンの街冒険者ギルドは今日も騒がしく、平和でした。
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side:中堅冒険者コンビのザキとミヌス
「なぁミヌス、聞いたか?イシコンさんの話」
「あぁん?……あー、昨日少しだが聞いたな」
「聞いた話によると素人の割に腕が立つんだとさ」
「んなもん、どうせガキに毛が生えた程度だろ?」
「ちげぇよバカ。なんでもよ、クソ重い石の棍棒でホーンラビットをぶちのめしたって話だ」
「石の棍棒?短剣じゃなく?」
「おうよ。身の丈ほどのぶっとい棍棒だ」
「そりゃあ……強えな」
「だろう?」
「あぁ、それでどんな奴だ?」
「いんや、俺も直接は会ったことがねえんだよこれが」
「んだよ使えねえな。話に出すなら会話くらいしとけ」
「そうは言っても昨日は冒険者登録してすぐ帰ったらしいし、今日はラッシュの時間に顔も出してないらしいんだよ」
「……マジのド素人か?」
「恐らくな」
「……そうか。なら、少しくらい手助けしても良いだろう」
「流石ミヌス、話が早え」
「てめえが目星付けた奴なら文句はねえよ。ザキ」
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新人冒険者が集まるカールンの街、そこに現れた異常な新人「イシコンさん」。
今日のカールンは彼の話で持ちきりだった。
セインに襲いかかる悲劇の種は着実に、そして急激に広がっていくのだった。
今回は一人称視点で書かせていただきました。
普段の三人称視点とどちらが読みやすいでしょうか?
ご意見や感想をいただけると嬉しいです。
2021/3/17 ザキとミヌスの立ち位置が反転していたので修正しました。




