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4 空手の英雄

4話目です。

千文字よりも少し多くなってしまいました。

よろしくお願いします。


”僕”の話も、次で終わる予定です。

 その村に入ると立派な建物の前に兵士が押しかけているところだった。


 遠くから見守る人々に話を聞くと、あの建物には数々の魔物を倒して人々を救った英雄が隠居しているという。

 その英雄が領主様から賜った叙勲の剣を売り払ったと聞いて、兵士が確かめに来たのだという。


 やはりあの時に、と人々は噂する。


 噂によると、数年前、この村に飢饉が訪れたとき、英雄は私財を売り払い、人々を救った。

 食糧が高騰していて膨大な費用がかかったはずだ。

 下賜された剣を売り払わざるを得ないくらいに。

 

 人々は心配するように館を見つめる。


 英雄が外に出てきた。

 かつて、数多の魔物を倒したというその英雄は、髪が白くなり、老人とすら呼べるような姿であったけれども、足取りはしっかりとしており、その姿、立ち振る舞いを一目見て、僕はその人が英雄と呼ばれることに疑いを持つことはなかった。


 兵士も気後れしたように英雄に話しかける。

 いや、もしかするとその兵士は英雄に憧れ、兵士になったのかもしれない。

 そんな想像を抱かせる、その人はまさしく英雄であった。


 英雄は何の釈明もせずに、頼むと告げ、彼らが乗ってきた馬車に乗り込もうする。


 やましいことはなく、自分の信じることを為し、その結果、自分がどうなろうと受け入れる、そんな潔さがあった。

 兵士も、その高潔な姿にどこか悔いるように自分の職務を果たそうとするようであった。

 

 しかし、その英雄の姿は、僕にかつて見た光景を思い出させ、自然と足を進ませた。


 英雄様に頼まれました剣をお持ちしましたと、僕は自分の剣を差し出す。

 兵士が鞘から剣を抜く。

 この剣は確かに業物だが、領主様の下賜された剣にあるはずの紋章がない、これは一体どういうことだ、と兵士は言う。


 この剣は英雄様に申し付けられ、私が砥いだ剣でございます。領主様の紋章がないというならば、この剣をご覧ください。数多の戦場で活躍し、何度も砥がれ、すり減ったことがわかるはず。その歴戦の剣をただ今お届けに参りました、と僕は平伏する。


 兵士は研磨されていない剣を眺め、僕を見て躊躇うようにしていたが、この剣が領主様から下賜された剣であるならば、紋章を新たに刻み直さなければならない。ただし、偽りであるならばお前の命はない、一緒に来てもらうぞと告げた。


 僕は平伏したまま、黙っていた。

 兵士は、英雄に向き直り、しばし剣をお借りします、と頭を下げた。

 

 今まで平静を保っていた英雄が初めて動揺し、そいつは関係ないと連れて行くなと兵士に掴み掛る。


 その前に使用人たちが英雄を抑えつけ、それでもなお追い縋ろうとする英雄を人々が止めた。


 死なせはしない。必ずだ。


 馬車に揺られる僕の耳にそんな声が聞こえた気がした。

<設定等について>

1.下賜の剣について、領主様は誰かしらを処分しなければいけないですが、人民の信頼厚き英雄を手にかける必要はない、ならば”僕”の心意気を買おうというのが現場の兵士の判断でした。


もちろん、英雄にも処分は下されるはずですが、兵士の思惑通りなら、その罪の多くを”僕”が被り、英雄の命は助けられます。

それをただ受け入れるようならば、”人民の信頼厚き英雄”ではないですが。


2.”空手の英雄”という題について、この場合の”空手”は武道の意味ではなく、武器を持たないという意味です。


<蛇足>

 業者台に乗って馬を操り、僕を連れて行く兵士が相方に言った。


 もし、俺たちが誤って囚人を逃がしてしまったらどうなるだろうか、と。

 相方は、俺たちの首だけで済めばいいが、一族郎党にも罪が及びかねないと、血を吐くような声音で答えた。


 その後、街に着くまで二人はなにもしゃべることはなかった。


 けれど、僕はなにか暖かいものを感じた。

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