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私の事好きじゃないはずだよね?~溺愛夫からの執着が始まる~  作者: しろちゃんまま


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1/16

1♡

松井乃杏(まついのあ)29歳、社長秘書として働いていて社会人歴7年年目になる。


「松井さん社長が薬持ってきてくれだって」

「はい!分かりました。」

薬を煎じて社長室に持っていく。

コンコンドアを叩く。

「社長、松井です。」

扉の向こうから低い声が聞こえてきた。

「入れ」

ドアを開けて入ると整った顔をした短髪の男が座っていた。

「お薬をお持ちしました。」

「乃杏こっちに来い」

手招きする男に近づいていく。

薬を口に含んだ瞬間……彫刻のように整った男の顔が近づいてきた。

「今日もよろしく頼む」

唇がくっつき私の口腔内にある薬が男の口腔に入っていく。

「しっかり飲めましたか?」

「ああ」

冷たい表情のまま飲んでいく。

沢山あった薬が無くなっていった。

「お口直しのジュースです。」

最後にジュースも口移しで飲んだ。

飲み終わってからは激しい接吻が続く。私の口腔内で舌を絡ませてるこの男は、高科湊(たかしなみなと)、31歳、この桃瀬グループの敏腕社長であり、私の夫だった人だ。

そう私と彼は3ヶ月前に離婚した。

5年間夫婦だった人。彼の大好きな幼なじみの加賀屋希美(かがやのぞみ)が帰ってきたから私から離婚話を出した。

5年も夫婦生活をしてきたから躊躇するかと思ったが

彼は悩む事なく離婚届に美しい字でサインをした。


「離婚届は俺が出しておく。乃杏は何も気にしなくていい。」

「分かりました。」

それが私達が夫婦でした最後の会話だった。

彼と住んでいた家から新しい家に引っ越した。入った途端、涙が滝のように出てきた。

「湊…大好き…離婚なんてしたくなかった」

でも、好きな人と一緒にいられなくて苦しむ彼を見たくなかった。好きな人には幸せになって欲しかった。


あれから3ヶ月…私は今でも彼の専属秘書として、働いている。どうしても離れられなかった。会社も辞めようかと思ったが、無理だった。


「乃杏が好きなプリンを貰った。ここで食べてからデスクに戻ったらどうだ?」

彼が私の好きな物を覚えてくれている。その事が凄く嬉しい。

「ええ。いただきます」

会社でしか会えない…もっと一緒にいたい。離れたくない。ゆっくり咀嚼していく。彼のシトラスの匂いが鼻腔を支配する。さっき触れ合った唇を触る。

分かっている。あれは愛の証明なのでは無いことは…

ただ、薬を飲んでいるだけ。それだけなのだ。


私達は思いがけない体の関係で、5年前に夫婦になった。彼は真面目な人だった。私の初めてを奪ってしまった事を気にしてプロポーズをしてきた。結婚してからの5年間は私にとっては夢の様な時間だった。彼はいつも冷淡で無口だったが、傷付ける事もなかった。内緒の結婚だったが、家族には入籍した日に紹介され、何回も実家に私を連れて行ってくれた。

孤児で家族の愛を知らなかった私にとって彼の家族である祖父母との関わりは私の中で燻っていた愛情を掘り起こしていた。

彼の両親は、最後まで私の事を好きにはなってくれなかったが、祖父母と妹の涼子(りょうこ)ちゃんは私の事を好いてくれていた。

彼は私に出来る限りの事をしてくれた私が彼を愛するのは必然だった。彼への愛情は、どんどん大きくなっていた。

でも、彼が私を愛する事はなかった。ほんの少しでも愛があったらあの離婚届もサインしなかっただろう。


彼は私とする情事でいつも「のん、愛してる」と優しく言っていた。私は『のん』と言われた事がなかったのだか彼は私の事を言ってくれているんだと思っていた。

思っていたのに…

まさか彼の愛しの幼なじみの名前が希美(のぞみ)だなんて…

彼女はみんなから『のん』と呼ばれていた。

彼は情事のたびに私を彼女に重ねていただけだった。

彼は責任感でプロポーズしただけだったのに、勘違いするなんて恥ずかしくなった。

「愛してる」「可愛い」「好きだ」そんな言葉を投げかけられたのは1度や2度ではなかった。

そのたびに『のん』と言っていた。

だんだん麻痺していた。私じゃ無かったとしても今彼としているのは私なのだからと自分に言い聞かせていたけど…もう無理だった。

彼女が海外留学から帰ってきたからだった。彼女こと、加賀屋希美(かがやのぞみ)さんはわたしの1つ上で彼と同じ名家の出身だった。身分も申し分ないが、顔も美しかった。

私が彼女に…勝てる所なんてなかった。


「食欲ないのか?」

彼が心配した表情で私の顔を覗き込んできた。はっとしていそいで口にいれる。

美味しい…舌の上で溶けていく。

自然と口角が上がる。

「口についてるぞ」

彼が親指でそっと拭ってぺろっと舐めていた。

「美味しいなぁ。このプリン」

美しい顔がはにかんでいた。私の好きな顔。胸をきゅっとさせる顔。

知らず知らずのうちに指で頬を撫ぜていた。

コンコンという音ではっとした。


「社長、加賀屋様がいらっしゃいました、」

「通してくれ」

扉を開けると華やかな加賀屋希美さんが入ってきた。

「湊さん、昼食を持ってきたの!一緒に食べましょう」

眩しい笑顔を彼に向けていた。そっと彼の顔を見た。優しい笑顔だった。

この5年間で私には向けられたことのない笑顔だった。

「希美ちゃん、そんなことしなくても大丈夫だよ。」

優しく甘やかすような声色だった。

「私がしたいからいいのよ」

優しく微笑んでいた。

私はそっと立ち上がり静かに出ていった。愛する2人の時間を邪魔してはいけない。

離婚届にサインをする3日前に彼の母親が言った。

「湊はずっと希美ちゃんが好きだったの、貴方が割り込まなかったら結婚していたのよ。もうすぐしたら希美ちゃんが帰ってくるわ。いい加減、その座を彼女に返しなさい。卑しい孤児の癖に、高科家の奥様に本気で慣れるなんて思わないでちょうだい。湊は責任感が強いだけなんだから」

「分かっております。」

痛いほど分かっていた。彼に相応しく無いことは…自分が1番分かっていた。

自分のデスクに戻る時に向こうからハイヒールの音が聞こえてきた。


高科蘭子(たかしならんこ)彼の母親だった。

軽蔑するような見下した目で私を見てくる。

「いつになったら退職するの?あなたは良くも希美ちゃんに悪いと思わないの?これだから孤児は…」

この5年で何回…言われただろか…

私は実の両親の顔を覚えていない。5歳の時に児童養護施設の前に座っていたそうだ。


自分の境遇を嘆いた事はなかったけど、もし、自分が孤児ではなかったら…彼も離婚届にサインしなかったのかなと思う事があった。


デスクに戻り仕事を片付けていく。「乃杏さんどうかしましたか?」後輩の鈴木絵理(すずきえり)が声をかけてきた。

「大丈夫よ。最近疲れやすくて…歳のせいかしら」

「社長鉄人ですもんね。乃杏さん休まないとダメですよ」

「わかったわ。ありがとう」

確かに数日前から体がだるかった。微熱も続いていた。やっぱり1度病院に行った方がいいかな?お昼から大事をとって病気年休を貰うことにした。

秘書長の小浦大輝(こうらだいき)に病気年休を申請して病院へ向かった。


内科へ向かった。

いつも診てもらっている先生が脈を診てくれる。一度ため息をついて言った。

「松井さん…今日は内科じゃなく産婦人科へ行ってください。」

「え?」

胸がドキッと激しく鼓動する。

「確かではないけど…多分、あなた妊娠してますよ。」

目の前が真っ白になった。

先生が内線で伝えてくれたので産婦人科ですぐに診察できた。

尿検査用のコップが凹みそうになった。

刻刻時間が過ぎていく。

「3150番の方17診へお入り下さい」

私の番号が呼ばれた。席について医師が言う

「松井さん妊娠12週です。ここが胎動ですよ。次回の受診までに母子手帳を貰ってきて下さいね。」

私の赤ちゃん…

湊くんとの赤ちゃん…まだ平のお腹を撫でる。

私の様子を見て医師が言った。

「つわりがそろそろ出てくるかもしれません。食べれなくても赤ちゃんは胎盤で栄養を貰えます。つわりで吐いてしまうので水分をしっかり取りましょうね」

「分かりました」

受診の後で助産師さんから妊娠中に気をつける事を聞いた。

会計の時に領収書を請求した。病気年休は領収書を会社に提出するからだ。ふと思った。もし産婦人科で提出したらこの子を中絶させられるのではないか?

今、加賀屋さんと上手くいこうとしてるのを邪魔するのではないか?

会計の人に言う。「内科と産婦人科の別々に貰えませんか?」

「分かりました。」会社には内科の分で提出する事にした。この子とひっそり二人で生きていこう。会社にも退職届を出そうと決意した。


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