Ep.7 ⟬ 渋谷の空へ出発だぜ ⟭
無限に広がる世界を楽しみすぎるあまり、有限な人や思い出を無視していないだろうか。
――眩い光。
――朝だ。
太陽がいつもと変わらず水面を照らし、朝を告げる。
外からは静かな風や波の音。
遠くのビルではだれかがフライパンを鳴らしている。
こんな世界でも、朝は人々の活力だということに変わりはないのだ。
だが、私は朝が嫌いだ。
理由は沢山あるが、シンプルに面倒くさい。
さて、至福の二度寝といこうじゃないか。
しかしそんな願望は、悪魔によって綺麗に打ち砕かれた。
「朝だ!アタシの一日が、始まるんだーっ!」
――やはり朝は嫌いだ。
数十分後、ミナセとレベッカの2人は朝の身支度を終え、とある場所に向かうと決めていたのだ。
「…そういえば」
「ん?」
「あの場所。まだ探索してないかも。あのすっごく大きい施設。あそこになら何かあるかもしれない」
「大きい施設?」
レベッカが率直な質問をぶつける。
翡翠色の双眸は常に迷いがない。
「それって、どこだ?」
「渋谷スクランブルスクエア。しってる?交差点とか…広告とか有名でしょ」
「よ、よくインスタとかで流れてくるやつか…!ワクワクしてきた!ミナセ行こう!」
インスタという懐かしいアプリ名がでてきたが、どっちにしろ前にも後にも私には無縁のサービスだ。
レベッカが帽子を深くかぶり、ミナセの腕を力強くひいた。
「わっ…ま、まって。まってよ」
しかし、ここで現実的な問題も浮かび上がってくる。
――渋谷スクランブルスクエア。
渋谷の中心に建つ、空へ伸びる巨大な複合施設。
渋谷の中心であり、人々の集いの場だ。
そんな"便利な建物"が今も安全とは限らない。
水没してから5年もたったのだから、今頃危険な組織が占領している可能性だってある。
高い場所は安全だ。
そしてみんな欲しがる。
そして欲しがる人が多い場所ほど、危ない。
最悪の場合、もうそこにかつての建物は無いのかもしれない。
「――レベッカ」
「大丈夫だぜ。移動には困らねえよ」
サムズアップをするレベッカ。
「い、いや、そういうことじゃなくて…いやいやそれも大事だけど」
「それに、アタシ達にはこいつがあんだろ」
レベッカが懐から取り出したのは、昨日ミナセに見せつけたリボルバー。
弾は全て込められているようだ。
弾が六発あっても、人が七人いたらどうするんだろう。
そう聞きたかったけど、やめた。
そして半壊した窓から侵入してきたのは、これまた昨日街を徘徊していた彼女のドローン。
唖然とするミナセの表情に満足したように、レベッカは胸を張り、続ける。
「外にもアタシ専用のボートがあるからさ!それにでも乗ってゆらゆらとスクエア目指そうぜ!」
「いつの間にそんな用意していたの…」
「何言ってんだよ〜アタシは天才発明家のレベッカ様だぜっ」
自信ありげに言い切ると、レベッカは玄関の扉を開け1歩踏み出す。
心地いいそよ風が部屋に漂い、レベッカのブロンドヘアが優しく揺れる。
「大体の食料とか道具はもったな。よし!行こうっ!」
「――っ」
強引なレベッカを止めるすべもなく、少女ふたりは混沌の街・渋谷をめざした。




