Ep.5 ⟬ 世界中に散りばめられた秘密だぜ ⟭
生まれつき。という言葉が存在する。
――ただ、人は環境に大きく依存する。
「……そういえば"捜し物をしてる"って言ってたよね」
ミナセが生ぬるい白湯を飲みながらレベッカに問う。正直なところ、レベッカの目的がよく分からない。世界水没後だというのに、どうしてわざわざ日本へ?
「それがさ〜結構深刻なヤツなんだよ」
レベッカは翡翠色の双眸を僅かに揺らし、食べ終えたチーズ入りじゃがりこを始末し、口を開く。
「と、その前に約束してくれ。誰にも絶対に口外しないで欲しい。いいな?」
出会って初めての曇りに満ちた表情で彼女はミナセに念を押す。
「う、うん。……わかった」
自分でも歯切れの悪い返事だったかもしれない。だがミナセの性格的に、断定するのはやはり勇気がいる。
「よっし。いいな」
確認するように軽く頷くと、レベッカは外の景色に目を向ける。
もう既に日は暮れており、地平線……いや水平線が赤く染まる。
他のマンションの一室からは災害用の頼りないランプやライトの灯が儚げに光っていて、数少ない住民たちは火を起こし、夕食の準備をしていた。
「アタシはさ…世界が沈んじまった原因を知りたいのさ」
そして静かに続ける。
「みんなは、原因は"気候変動"だの"宇宙人の介入"だの言ってるけどさ。アタシはそうは思わない」
「……それってどういう………… 」
「つまりだ。これは人工的な災害だってことだぜ」
断定するレベッカの瞳からは、冗談やおふざけの感情は一切ない。
あるのは、一片の曇りなき信念と、なにか確信ついたもの。
「……なんで?なんでそう思ったの」
「これを見てくれ」
そう言い、彼女がテーブルの上に置いたのはスマートフォン……のようなもの。
「……なにこれ。スマホ?」
「いいや、違うぜ。これはアタシが発明した"探知機"ってやつだ」
レベッカは探知機の液晶を2回タップした。
すると機械的な電子音が短くなった後、空中に青白い画面が出現した。
「わっ…な、なにこれ。なんか…PS4のVRみたい……」
「そこはPS5って言って欲しかったけどな!」
その画面には現在地周辺のマップと上空からの写真。
しかも水没後の上空写真だ。
「もしかして、この上空写真…あなたが?」
「もちろんだぜ!アタシみたいな超天才にとっちゃ楽勝だけどさ!ほら、外見てみろよ。アタシのドローンが必死こいて周辺のデータ集めてんだろ?」
ミナセは考える前に、半壊したベランダへと足を運んだ。ブゥゥゥン……と重厚な機械音がする方に顔を向けると、そこには高速で移動しているドローンがあった。
「……すごい。あれで写真とか撮って、建物とか経路を確認してるんだ」
「まあな!」
「……?あれ?なんか私たちの周り、光ってない?」
画面を見ると、たしかにミナセとレベッカがいる丁度その場所が紅く光っていた。
「これが探知機だってさっき言っただろ?つまりコイツが表してんのはこれだ!」
レベッカが懐から取り出したのは小さなSDカード。
黒と蒼で発光する、現代チックなもの。
「なにこれ?」
「驚くなよ。この中には、“世界が沈んだ本当の理由”の一部が入ってる」
「…! 」
「アタシはこのSDカードを大阪で見つけたんだ。ちょうどグリコの下敷きになってたけどな」
(グリコ壊れてたんだ……)
「このSDカードの中身はまだ教えられねぇけどさ、中をみてアタシは確信したね」
「水没の秘密ってこと?」
「その通り!そして、同じ型のカードが日本中に散らばってるんだ」
「それを探すのが目的……。でも、場所は分かってるの?」
「そのための探知機だぜ!関東だけじゃなくて九州、近畿、東北、北海道なんかにも反応があるからな。アタシはこれから近いうちに探していくつもりだ」
「そんな…無理にきまってるよ。インフラだって、もう崩壊してるんだし。さっき言ってた犯罪だって多いにきまってる」
「そうかもな」
レベッカは立ち上がり、翡翠の双眸でミナセの前に立ち、歯を食いしばる。
「だけどアタシが、やらなきゃいけないんだ」
その頑固たるレベッカの熱意が、ミナセの心を大きく揺らがした。




