Ep.4 ⟬ 今世界はどうなってるの ⟭
人は夢がある。目標を持っている。
――叶えられるのはいつなんだろう。
「これめちゃくちゃ美味しいな!」
湯気で顔を僅かに明るく染めたレベッカが向かいの席にいる。
彼女が食べている…正確に言うと私がつくった軽食なんだけど。
じゃがりこ(消費期限きれちゃってる)+腐ってそうな未開封ハードチーズ+沸騰したお湯で完成する贅沢品だ。
私が小学生の頃はお母さんに頼んでよく作っていた。今となってはあの時みたいに気軽に食べるのは難しいけれど。
――そんな贅沢品を、向かいに座っている素性も分からない怪しい少女は貪るように食べている。
(せっかく独り占めできると思ってたのに)
「…ねえ、さっきの……泊まるってどういうこと」
ミナセが俯いたまま口元だけ動かす。
ここ数ヶ月誰とも話していなかった×元々不登校児が重なったせいでコミュ力はお世辞にも高いとは言えない。
「そのまんまの意味だぜ!」
「……なにそれ、意味わかんない」
「アタシもさー住む場所なくて困ってたとこなんだよ。あとほら、ここら辺海から遠いだろ?海は危ないからな」
「……でも海の近くの方が物資とか、魚とか釣れるんじゃないの。…景色だって綺麗だし」
「いや、その考えは甘いぜ姉ちゃん!」
レベッカはチーズを伸ばして贅沢品を思う存分楽しみながら続ける。
「港町はさ。そりゃ便利っちゃ便利なんだけど、同時に良くないものもたどり着いちゃうわけだ」
「良くないもの……?」
ミナセが黒い双眸を揺らして、ゆっくりと顔をあげる。
「そう。ズバリ腐った死体だ」
レベッカの軽い一言が場を完全に凍らせる。
「ついでにとんでもない量のゴミとか塩害……ついでに国籍もわからねぇ海賊みてぇな奴もよくくるな」
「……詳しいんだ。住んでたことあるの?」
ミナセは緊張を和らげるため、チーズ入りじゃがりこを口に入れる。
匂いが少しキツイが変わらぬ美味しさ。
……のような気がする。正直味はしない。
「まーな!まぁ、アタシも海外の怪しいヤツだって警戒はよくされるぜ」
たしかに、この無神経な少女なら怪しまれても文句は言えないだろう。
――しかしそう言えば彼女のブロンドヘア、緑色の双眸、淡麗な小顔、高い鼻……ついでに羨ましいデカさの胸。
どう考えても日本人ではない。
「あなたは…なんで日本にいるの?」
質問した瞬間、ミナセは少し後悔する。
失礼じゃなかっただろうか、そして顔を隠すように下を見る。
「よく聞いてくれた!」
しかし彼女は気にするどころか待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。
「アタシは探し物をしている!そしてその"ブツ"が日本にあるって知ったから親元抜け出してはるばる来たってわけだぜ!」
「え…それって、いつ来たの……?」
「去年あたりだ!」
「よく来れたね…水没後だっていうのに。ちなみにどこから?」
「イギリスだぜ!まぁ血筋は色々混じってるらしいけどな」
ミナセは分かりやすく顔をひきつらせる。
大事な探し物とはいえ、世界水没後になぜわざわざ日本なんかに来るのか。
「……はは。馬鹿みたい」
――馬鹿馬鹿しい。
だけどミナセはちょっとだけ、ほんのちょっとだけレベッカの行動力に尊敬していた。
そんな彼女が、羨ましかった。




