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風の強い夜
双月の時代、
空には神が二つあった。
ひとつは天にあり、
ひとつは地へ堕ちた。
地へ堕ちた神は、
人を狂わせ、
人を喰らい、
祈りを血へ変えた。
そして、
その神を喰らったものがいた。
それは、
一つの身体に二つの顔を持ち、
夜ごと異なる声で鳴く怪物だった。
その名を、
夜に軽々しく口にしてはならない。
月が、赤く染まる。
――そんな古い話が残っている。
今ではもう、子どもを早く家へ帰らせるための与太話でしかない。
風の強い夜には、名前を呼ばれても振り返るな。
泣いている声を見つけると、ソレが来るからだ。
昔から、そう言われている。
ときどき、風の音が妙に人の声に聞こえる夜がある。
誰もいないはずなのに、後ろから足音がついてくる夜がある。
だから子どもたちは、風の強い夜になると、声を潜めて囁き合うのだ。
「ねぇ。《プロセルピナ》って、知ってる?」




