63.デュエル!
前回までのあらすじ
クロニクルクエストをクリアした後の《バージョン0》最終日、ついに精霊へ進化したルヴィアはステータスの確認とお披露目を終え、感覚調整を経て夜に配信を再開した。
残るはエンディングイベントを見守るばかりとなった中、クレハは突然ルヴィアへ決闘を申し込む。ルヴィアも喜んで承諾し、最強プレイヤー候補2人による力較べが始まる!
「DUEL START!」の文字が目の前で踊る……よりも気持ちだけ一刹那早いくらいの感覚で、私たちはほとんど同時に動き出した。エフェクトを置き去りにして交錯、彼我の距離は二秒で縮む。
先に動いてきたのはクレハ。ジュリアほど徹底した攻撃特化型ではない彼女だが、今回は最初から攻めてきた。
《刀術》突進系アーツ、《行月》。強く踏み込んで微妙な距離を詰めながら、本来の斬撃よりも少し強い攻撃が繰り出される。これは読めていたから、私は踏み込んでの《バスターパリィ》をクリティカルさせて跳ね返す。
充分な勢いをつけて跳ね飛ばしたのだが、さすがに対応が速かった。詠唱を終えた魔術を撃ち出す直前、勢いを利用した薙ぎ払い攻撃のアーツ《円月》に繋げてきたのだ。
発動直前の魔術をストックしてバックステップで回避。さらに踏み込んでくる気配が見えたから、《魔力飛行》の魔力噴射による後退を併用して一気に間合いから離れた。
「挨拶代わりにしては激しくない?」
「そちらこそ、綺麗に避けているじゃないですか」
言ってくれる。こっちは開幕早々に新しい手札を切らされているのだ。
今更言うまでもないことだけど、やはりクレハと戦うには一筋縄ではいかない。フィールドの空気は早くもひりついていた。
クレハの得物は刀、ガインさん謹製のプレイヤーメイド最高級品だ。彼女はこれを使った攻撃的な戦法に加え、高難度の《居合術》を用いた攻防一体の戦い方を身につけていた。
《居合術》は《刀術》の派生で、「型」の切り替えによって効果が変化する特殊なスキルらしい。……とはいえ、現時点では基本となる《円の型》しか使えないそうだけど。
《円の型》は納刀状態と抜刀状態を切り替えて戦う型。抜刀状態では《刀術》スキルとAGIにパッシブバフが付与された上、《居合ゲージ》という独自のリソースが増加する。
一方で納刀状態になると、溜まった居合ゲージを消費して強力なアーツを発動することができるようになる。この時に確率で行われる自動反撃が特に強力で、元々立ち回りや剣術の技量を持っているクレハに凶悪なDPSを与えているのだ。
しかもこの時の反撃成功率、およびクリティカル率は居合ゲージの消費で上昇する。抜刀状態で戦う時間に比例してどんどん強くなる、ピーキーながら使いこなせれば強力なスキルである。
つまりどういうことかというと、この戦いは長引けば長引くほど私が不利になる。攻撃に特化したプレイスタイルではない私にとって、お世辞にもやりやすいとは言えない相手なのだ。
「ルヴィア、いつもより攻撃的ですね?」
「焦るってものでしょ。その居合ゲージ、あんまり溜めさせたくないんだから」
とは言ったが、焦るというほど焦ってはいなかった。ただ比重を攻撃に寄せているだけで、至って冷静ではある。
もっとも、その攻撃の中に有効打はない。彼女の妹ほどではないにせよ攻撃重視のスタイルのはずのクレハだけど、その実情は恐ろしく堅いのだ。耐久ステータスは紙同然なのに、実際の耐久力は高い。それはお互い様なんだけど。
一旦距離をとった上で、今度はこちらから《魔力飛行》で突進。歩幅を合わせる必要もないし、速度もフレキシブルかつ最高速が高い。その自由度の割にはMP消費も控えめだから、これも上手く使えば常用して強いスキルだ。
これを見たクレハは一度納刀し、《居合術・円の型》の防御系アーツ《弾き返し》でパリィを成功させてきた。反動でお互いに後退して着地、今度は両者ともに前へ出る。
剣と刀での打ち合いを演じつつ、ところどころで《風魔術》を挟む私と互角にやり合うクレハ。……いや、僅かに押しているか。どちらにせよ、単純な剣術では明らかにクレハが上手だ。
「しかし、本当に厄介ですね。ジュリアとほとんど同等では?」
「ありがと。全部防がれながら言われても困るんだけどね!」
クレハもジュリアも幼少期から護身術を叩き込まれて、現実でもかなり腕が立つ。魔術も込みでとはいえ、それと同等とまで言われるのは純粋に褒め言葉だ。
でも、それでは勝てない。とっくに全力なのに、もう一段階ギアを上げなくてはならないのだ。
それからしばらく、試合は膠着状態となった。お互いにほとんど目に見えた隙を与えることはなく、削り合い防ぎ合いの試合展開が続く。
ただ、若干ではあるがクレハが優勢だった。両者譲らずやり合っているように見えて、やはり実力差は現れていた。クレハの刀攻撃が鋭すぎて、私が避け切れずにダメージを受けている。
そのひとつひとつはゲージの1%にも満たないミリダメだ。だがその数が圧倒的に多かったクレハは、デュエル開始から9分が経過する頃には私に一割以上のHP差をつけるに至っていた。
しかしこの試合、間合いを取って立て直す立ち回りは多用できなかった。私ならクレハの射程から離れることは難しくないとはいえ、難しいのは近づき直す方だから。
《居合術》にはカウンター系アーツの他に、居合ゲージを消費して次の《刀術》アーツを強化する《新月》というアーツが存在する。あまり猶予を与えてしまうとこれをセットされてしまい、再突入時に強烈なカウンターを喰らってしまいかねないのだ。
パリィやカウンターと回避で立ち回る紙耐久ビルド同士のデュエルの都合上、先に強攻撃をまともに入れればほぼ勝ちとなる。相手に大ダメージを与える手段は多い方がいい。だから極力《新月》は使わせたくない。その意識が私を縛りつけていた。
それと、もうひとつ。
「《ウィンド……》」
「《八卦・火》!」
「くっ、《アロー》っ!」
出の速さを活かして懐から叩き込むつもりだった《ウィンドアロー》が潰される。魔術同士の属性相性で貫通されてしまい、咄嗟の《連唱》で辛うじて相殺。余波で僅かにダメージは受けたけど、なんとかそれで済んだ。
《三日月》。クレハがついに覚えてしまった、遠隔の補助攻撃手段だ。それだけならさほど怖くないのだが、彼女はこれと連動した強烈な個性を手に入れていた。
「これが通りませんか……」
「さすがに肝が冷えたよ」
《八卦》。エクストラ種族《龍人》へ進化したクレハが新たに手に入れた、強力なエクストラ魔術スキルだ。
効果は全属性のエンチャント魔術の習得。刀の攻撃に属性付与が行われた上で、属性ごとに個別の追加効果がある。一度にひとつしか使えないから取り回しはやや重いものの、その効果は極めて強力。
今回の用途は《三日月》への属性付与だったけど、《八卦・火》の追加効果は物理攻撃力の増加。さっきまで使っていた攻撃速度増加の《八卦・風》から切り替わって、ただでさえ綱渡りだった力勝負がさらに不利になる。
だが。
「待ってたよ」
「なっ、」
「《スタンブルルート》」
《魔力飛行》で突進を仕掛けつつ、逃げられない距離になったタイミングで《植物魔術》。速度上昇を失ったクレハの足元を、根で囲い込むような形で悪化させる。
魔力は相応に使ったけれど、これだけ足場を削れば踏み込みは無理。やや上から斬り下ろす斬撃だから、飛行可能なクレハでもここから飛んで避けるのは難しい。
「……はぁッ!」
「《ストリームロア》!」
「このっ!」
仕留めた。ほとんどそう確信した。ところがクレハは対応してきた。
《居合術》で押し返したくなるところをぐっと堪え、受け流すように刀を使ってその身を捻る。こちらの剣撃がクレハから外れたところで片手を離して足元の根を掴み、ステータス任せに緊急回避してみせたのだ。
洗練された立ち回りが武器のクレハに不格好な回避をさせたとはいえ、渾身の《水魔術》は脚を深めに掠めただけで終わった。私の高いINTをもってしても、削れたのはせいぜい一割弱。
「《クリーパーヴァイン》っ!」
「……《八卦・風》。やってくれましたね」
「そっちこそ」
咄嗟の追撃は届かず、飛行を併用して今度はクレハの方から距離をとった。《八卦》の属性も戻されてしまったから、もう今の技は通じない。
再び打ち合いを再開しようと私たちは剣を構えて……耳慣れないホイッスル音。制限時間内に決着がつかなかった時の、デュエル終了の合図だった。
お互いに隙がなさすぎてまともに攻撃が入らず、低耐久同士の一騎討ちなのに引き分け同然の時間切れになったの段。
この二人は立ち回りに異常なほどの安定感を有しているので、何度やってもだいたいこんな感じになります。絵にはなります。
最初以来の連日更新。次回はまた明日、ついに第一部の最終話となります。
また、昨日ついに本作が総合10000ポイントを突破しました。実のところ、今年中に到達できるとは思っていませんでした。皆様の応援のおかげです、本当にありがとうございます……!
明日で一区切りはつきますが、本作はまだまだこれからが本番です。まだの方はブックマークと評価を、お済みの方はそのままで今後ともよろしくお願い致します!




