490.年に一度だけ発動することができる超広範囲攻撃(自爆あり)
「いよいよですねっ!」
「いつになくイキイキしてるの」
「本当にこういうのを主催したかったんだろうね」
バレンタインイベント当日。紗那さんはそれはもう張り切っていた。本当に人を楽しませるのが好きなんだろうね。
というわけで今日はこのままバージョン2初の月例イベントになるんだけど……。
「皆さん、昨日はどうでしたか?」
「うわ全体攻撃だ逃げろ!!」
「ルヴィアさん、いくらなんでも惨いですよ!」
「おっ彼女持ちだぞ囲め!」
「や、やめろ! 俺は君たちのギルドマスターだぞ!」
〈ここは静かなインターネッツですね〉
〈なんてこと聞いてくるんだ〉
〈恐ろしい攻撃だった……もう死んでなきゃ即死だった〉
〈手心とかないんか?〉
〈まあお嬢だし……〉
きみ、私だし何だと言うのかな? まるで私に人の心がないかのような言い草だけど。
さておき、そう。昨日は2月14日、現実でのバレンタインデーだった。おかげでウィスプなんかでも悲喜こもごもで、人によってはグループ内に存在するカップルの男側をいびるような話題すらあったくらい。
今もアークさんやらブランさんなんかはすっかり囲まれていた。……そうそう、カナタさんはついに仕留め……射止めたのだ。次はミリアちゃんだね、頑張れ。
「そういうルヴィアちゃんはどうなのさ」
「私? いないよ、そんな出会いも余裕も、これまでは全く」
「ああ、そっか……じゃあこれからですね!」
〈おっとデリケートな話題〉
〈同性じゃないと聞けない話だ〉
〈聞かなかった男ども正しい〉
〈ああ……〉
〈確かになぁ〉
〈今後はあるかも〉
話題にした以上は私にも返ってくると思っていたけど、こればかりは私は色のいい返事ができない。中学までは自分でも夭折すると思っていた身で考えもしなかったし、高校ではそれまで身についていなかったものをたくさん獲得するときに恋愛まで手が回らなかった。
そして大学では、そこに各種活動まで加わって今のところそこまで余力がない。割ける時間もないのに交際は不誠実だし、出会いも少なくともDCO以外ではないのは見ての通り。まあ、もうしばらくはないんじゃないかな。立て続けに立場が増えて、まだ一ヶ月そこそこだし。
さておき、昨日が現実世界なら今日は幻双界のバレンタインだ。昨日が寂しかった人もそうでない人も、今日は改めてバレンタインデーを楽しめる。
「日本と西洋ではバレンタインは別物って聞くけど、今回は日本式なんだな」
「私が紗那さんに教えたのがそっちだから、今回はアジア式だよ。グローバル版では国によって変わるかもね」
〈別物?〉
〈あー聞いたことある〉
〈製菓会社の陰謀ってやつ?〉
〈そんなとこにグロ版要素が〉
まあ、そう。諸説や紆余曲折はあるけど、「女性が好きな男性にチョコを贈る」というのは日本を含むアジア圏のものだ。二月頃に売上が落ちていたということで、結果的にはチョコレートの販促戦略として広められた。
どうなるかは来月になって始まってみないとわからないけど、DCOはリージョンごとに言語以外にも違う部分が少なからず出てくるかもしれない。プレイヤーの行動が影響を及ぼしているところがいくつもあるし、国ごとにもそれに合わせて変えてきてまおかしくない。舞台の半分が日本である点については、まあ和製タイトルだからということで。
ともかく、改めてイベント概要。こんな感じだ。
《Event:幻想世界のシゲキ的バレンタイン?》
世界間文化交流はまだまだ続く! だけど異世界のバレンタインは、もしかしたらひと味違うかも。
無事に関東は救われ、紗那も帰ってきた。そんな紗那は自分の不在中、地球界から文化を聞いて祭りをしたと聞いて興味津々。さっそく双界人に話を聞いて、自分も主催することにした。時は二月、行うはバレンタイン!
ところがどうやら、双界流にアレンジされたバレンタインはただチョコを渡して終わりとはいかないようだ。一風変わったチョコ合戦、ちょこっとだけ覗いてみよう!
今回は概要文そのものは変わらなかったけど、詳細がもう判明しつつある。どうやらやることはざっくり二つだ。
「ひとつはチョコのプレゼント。イベントに認識されたチョコレートアイテムを、他の誰かに贈ることで累計報酬が獲得できます」
「双界人に渡してもいいし、お互いに渡し合ってもいいの。それに、ランダム交換もできるようになってるの」
「そして目玉報酬は、今回も《超克のオイル》。奮ってご参加ください」
〈ドストレートだ〉
〈まあバレンタインってチョコ渡す以外ないし……〉
〈いかにもなバレンタインイベ〉
〈双界人に贈れるのはアド〉
〈人気キャラ凄いことになりそう〉
〈ランダム交換!?〉
〈おまいらも安心だな!〉
〈出たな超克のオイル〉
〈ありますよね助かる〉
最近ではいろいろ問題視されたりして縮小傾向ではあるけど、日本式バレンタインはやはりチョコを贈る文化が代表的だ。今回は性別も本命と義理の差も関係なく、とにかくたくさんチョコをプレゼントすることで報酬が得られる。このあたりは双界では価値観が違うのかもしれない、大切な人をたくさん持つことは是とされるそうだから。
ただ、これは結果的に「本当に誰相手でもいい」ということになる。もちろん意中の相手でもいいし、友人でも義理でもお近付きになりたい双界人でも構わない。それどころか、報酬がただ欲しい人や一人で黙々とプレイするスタイルの人のためかランダム交換システムまであった。チョコを投入して送れば、質が近いどこかの誰かのチョコと自動マッチングで交換されるそうな。……工程が決まっていて下手なことはできないゲーム内だからこそではあるよね。
もちろんこれを機会としてプレイヤー同士で改めてバレンタインをやってもいいし、双界人との交流の種にしてもいい。報酬はあるけど、それ以外のところでの副産物は各々次第だ。
そしてやはり、報酬にはあのレアアイテムの名前も。月例とゲリラを合わせた場合の前回イベントにあたるsperゲリラで初登場した、装備の追加強化アイテムであるところの《超克のオイル》だ。
これで二個目の入手になるそれは、今後は装備強化の要になっていく可能性が高い。幸い今回のイベントは明日まで行われるし、これは報酬リストの半分より前にある。ここを逃す手はないだろう。
「そしてもうひとつが、そのためのチョコ作りですね。……ただし、これはなぞらえる形でミニゲームになっています」
「ざっくり五段階あるの!」
〈そりゃあるよね作るパート〉
〈メインコンテンツ〉
〈ミニゲームか〉
〈新嘗祭のときみたいな?〉
このイベントのゲームとしての本命はこっち。11月の新嘗祭と同じく、今回もミニゲーム方式だ。バレンタインといえば手作りチョコ、今回はチョコレートの製造工程を追体験することになる。……まあ、溶かして型に流して固める、というだけではないようで、バレンタインらしいかというと少しばかり疑問が残るけど。
アイリウスは五段階と言ったけど、これには「素材採取」を含んでいる。そういう意味では、調理に類するのは四段階。実際のチョコレートの製造工程はもっとあるから、ある程度は簡略化されているのだろう。
「あと、クラフターにはそれぞれの参加方法もあります。そちらでも、汎用のチョコ作りミニゲームでもいいでしょうけど……いつもと近い分、クラフトのほうが効率はよさそうですよね。九津堂はそういうことしますし」
「つまり、たとえば《料理》は……」
「普通のチョコ以外のものも出回りそうですね。それらは私も適宜紹介していきますので、乞うご期待」
では早速、イベントを始めていこう。
「今回は開始挨拶とかないみたいですからね」
「なんでわかるの?」
「今の説明が始まったところからカメラがムービーモードになってたから」
「また楽してるの……」
〈ぬるっと始まるんだ〉
〈もはやエスパーで草〉
〈普通にわかってるのなんなん〉
〈ああ……〉
〈運営ァ!〉
〈うわマジだイベントページに今の載せられてる〉
まあおさぼりな運営さんについては、また今度何かしらで頑張ってもらうとして。
私たちは今回、特殊なイベントエリアなどに来たりはしていない。エリア制限があるタイプのイベントだと、好きな双界人にチョコを渡せないからね。
代わりに期間限定で用意されたのが、これ。各街にそれぞれ出現している、イベントダンジョンだ。これがばら撒かれているから、今回のイベントは特定の街に行く必要すらなかった。今いる街のダンジョンから参加でOKだ。
ではこのダンジョンが何なのかというと……。
「というわけでまずは第一段階……『収穫』。チョコレートの原料を獲得していきましょう」
「なんだか、いつもと違う雰囲気なの!」
チョコレートの主原料となるカカオは、日本やヨーロッパではとてもではないけどお目にかかれない熱帯の植物だ。カカオベルトと呼ばれる地域は少なくとも現行のマップにはないから、アイリウスが目を輝かせるのも無理はない。
このダンジョンの中身は、すなわちカカオ農園。内部の環境は南国だ。……今からここで、カカオを収穫することになる。




