489.択一は雰囲気で選ぶくらいでちょうどいい
そんなアメリアのプレイだけど、だからといって本当に正真正銘全てを手にすることができるわけではない。
“
「アレクくん。救援要請だ」
「来たか……。どこからでしょうか」
「そこが問題でな。《ステル》と《ストラ》から、よりによって同時だ」
「……そんな」
「奴ら、やってきたわね……」
”
『なるほど。魔王軍の采配は的確なようですね』
「ステルとストラ、似た名前の街だけど……」
『地理的には端と端。両方の要請に応えることは、どう考えても不可能でしょうね』
〈来たか択一パート〉
〈ここ魔王軍有能すぎて憎たらしい〉
〈ハルヴさんこれ相手にあんなことしてたってマジ?〉
直前のストーリーでも関わった貴族領主から、勇者宛に届いた救援要請を聞かせてもらう。ところがこれ、なんとほぼ同時に反対の方角から二つ送られてきていた。
セイサガにはファストトラベルはあるけど、それはあくまでゲームシステムだ。本当にすぐに移動できるわけではないから、ストーリー進行ではその通りの時間が経過する。同時に届いた緊急の救援要請を、どちらも受けることは物理的に不可能である。
これは魔王軍による戦略だ。本質的には特殊なアンデッド集団である魔王軍の精鋭は、勇者のような聖力を扱える存在でないと倒すことができない。しかしこの聖力、現在扱える者はこの国に三人しかいないのだ。
一人は勇者アレクシス、二人目が代理聖女ミア。三人目はもちろんアメリアだけど、彼女は国内の魔物を弱める結界を維持しているせいで今は王都を中心とする一定範囲から出られない。
“
「パーティを分けるか……?」
「だけど、それこそが魔王軍の思う壷だろうな。これは間違いなく、アレクとミアを分断するための罠だ」
「わかってる。だけど、そうしないと片方は……」
”
そしてそう、アレクとミアを分けることは躊躇われるのだ。ここにきて、精鋭を惜しみなく使ってまで戦力を分けてきているのは、間違いなくそれこそが狙いだから。
分かれてくれればありがたく各個撃破、片方に集まったならもう片方の街は落とせるというわけだ。魔王軍の精鋭はこの直前、パーティ全員でかかってやっとのことで辛勝したばかりである。むざむざパーティの特効持ち戦力を分散なんてしようものなら、高確率で両方負ける。
そんなことは言うまでもないとばかりに、言い当てすらすることなくテキストを送るアメリア。この状況をどう思ったのかはわからなかったけど、ストーリーはすぐに変化が起こる。
“
「その必要はありませんよ」
「あなたは……オズヴァルトさん、と」
「アリーセ様!?」
「陛下から聖力を込めたレリックを預かっております。もう片方の戦場は、これを使ってわたしたちとカミーユ、そしてラウラが時間を稼ぎます」
”
『……何度見ても、凛々しいアリーセの姿には違和感がありますね』
「セイサガではかっこいいところしか見せてくれない人だけど」
『わたくしにとっては、どんなドレスも着こなす令嬢ですから』
〈オズおじ!〉
〈閣下かっこよすぎ〉
〈アリーセさん20歳とかいう女傑〉
〈アメリア様と同時期にいるの奇跡よな〉
〈あのアリーセさんが社交界の華……〉
〈想像つかねえ!〉
会話に入ってきたのは、王国中央軍の重鎮であるオズヴァルトと女公爵アリーセだ。どちらもこれまでのストーリーで協力関係を結んだ信頼できる存在である。名前が出たカミーユとラウラ、そして今は立場上省かれているけれど冒険者ハンスもその立場にあるサブキャラだ。
ただ、女王アメリアからレリックを借りて戦場へ向かうアリーセの姿には、こちらのアメリアは違和感を抱いている。というのも、どうやら幻双界のアリーセは深窓の令嬢そのものであるようなのだ。アメリアの三つ上で、王族の血を引く公爵令嬢。再従姉にあたるるらしい。
……明言はされていないけど、作中で二十歳ながら公爵位を持つ彼女もまた、四年前の事件で両親を失ったのだろう。公爵には順位は本家より後ながら王位継承権があるそうだから。
ともかく、彼らが時間を稼いでくれるということで、勇者パーティが隊を分ける必要はなくなった。その代わりに片方を可能な限り素早く撃退して、もう片方の救援に向かうことになる。
どちらに先に行くかはアレクの、そしてプレイヤーの判断に委ねられる。画面には選択肢が表示されたところで、アメリアは気付いた様子。
『これは、どちらに先に向かうかによって何かが変化しそうですね』
「やっぱり鋭い。この手のゲームは初めてだよね?」
『ええ。……ステルとストラ、となると……』
そう。これはいわゆる択一イベントだ。どちらを選ぶかによって、得られるものと得られないものが発生してしまう。これは一度のプレイで両方を獲得することは不可能で、周回プレイをしなければアイテムコンプはできない。
先に行かなかった方にはアリーセたちが向かう。それによって攻略順とストーリー展開が多少入れ替わるんだけど、プレイヤーにとって大事なのはやはり報酬だろう。後から向かった方でも報酬そのものは得られるんだけど、ここでしか手に入らないアイテムが入手できなくなる。
「うん。ちゃんとここで確認できるよ。ステルは魔術の研究が盛んで、ストラは配達の重要な拠点がある」
『難しいところですが……今回はストラからにしましょう。ゲームとしては気にする必要がなさそうではありますが、ステルはカミーユが活かしやすいでしょうから』
〈さて二択〉
〈どっち行く?〉
〈アメリア様の決断は〉
〈ストラだ〉
〈情報重視!〉
〈なるほど〉
〈妥当だ……〉
〈カミーユを信頼してる〉
ステルではセレスが習得できる優秀な魔術が、ストラではシズカの最強靴装備が手に入る。これだけだとステルのほうが役立つように見えるけど、ストラの靴がないとシズカが先制できない難敵が最終盤に存在するから実際は五分五分だ。これはどちらを選んでもいい。
アメリアの選択はというと……ストラが先だった。理由はどちらを優先するかではなく、ステルと好相性なカミーユを送るため。確かに今回関わる面々のうち、ステルかストラに縁があるのは彼女くらいだ。
……アメリアはゲームには関係ないと言ったけど、これは九津堂の勝ち。実はこちらを選んだ場合に限り、ステルにてカミーユの会話イベントが発生する。報酬は微々たるものだけど、キャラ的にはこちらが正解だろう。
『……後から行ったステルのほうが、報酬が少ないと』
「ステルを先にした場合は、ここで『ディバインリフレクト』の魔術書が手に入るよ。代わりにさっきの『飛竜駆りのスニーカー』は手に入らなくなるけど」
『なるほど。それらが対応していると』
「択一で、手に入るのは片方だけ。強さ的には、同じくらいかな」
今回はアメリアは知っている術式だろうから話したけど、実際には何を逃したのかは一周ではわからない。明らかに後から来た街での報酬が少ないこともあって択一だとはわかるけど、あまり逃したものを考えることがない作りになっている。
まあ、択一イベントとしては穏便なストーリー展開じゃないかなとは思う。この手のイベントだと、仲間なら選ばなかった方は死んだりするし、アイテムなら両方並んでいる状態で選ばされてもう片方は目の前から消えたりするし。
ところがこのステルストライベントの場合、最終的にはどちらもほぼ守り切れて後味が悪くならない。報酬についても、減るのは助っ人たちと山分けをしたからだ。
『ですが、ここは……』
「そう、これが報酬以外で唯一の変化要素。後から来た方の防壁だけズタズタにされていて、そこにあった一般住民のお使いが発生しなくなる」
『ああ、先ほどのあの。そんな余裕はない、ということですね』
「どちらかの街、片方でしか受けられないし、内容も報酬もほぼ同じ。舞台が違うだけだから、フレーバー要素に近いけどね」
〈ここだけボロボロ〉
〈マップにしっかり残るんよな〉
〈正直ここすき〉
〈住民の健気さがいいのよ〉
〈ちゃんと世界が生きてる〉
先に訪れた方は魔王軍の本格攻撃にアレクたちが間に合って被害が少なく済むんだけど、もう片方はそうはいかない。なんとかアリーセたちの尽力で持ちこたえてくれるものの、魔王軍の攻勢で街の防壁が半壊してしまうのだ。
あくまで見た目でありプレイにはあまり影響しないけど、このマップ変化は必ずどちらかに起こる上にクリア後にも完全には直らない。どちらを選んだデータなのかをずっと残す証となる。
また、それに伴って一部のイベントが消えてしまう。……ゲーム的には、どちらかで発生する実質同じようなサブクエストといえるものだけど。
ただその一方で、発生しなかった方のNPCは場所を変えてしっかり登場するのだ。しかもその台詞が健気なもので、遅れてきた勇者たちを責めないどころか自分たちで守り抜いたことを誇りに思っている。こうした被害を示す描写ながら人気がある、珍しい例だ。
『自分の手で片方の街を守り切ったことと、もう片方の街も味方が助けてくれたこと。どちらも彼らにとっては、大きな経験でしょうね』
「私もそう思うよ。だからこそこの二つの街では、ストーリーで得られる経験値が多い。ちょうど今回、アレクも新技を習得したようにね」
推しに推しゲーを布教して、一緒に楽しむ。なんとも夢のような時間だ。……その推しが推しゲーの登場人物であることは、一旦置いておくとしても。
そういう意味では……アメリアが幻双界で私を案内するときも、似たような感覚なのかな。そう思うとあまりに愛らしくて、また今日も明日も甘やかしてしまいそうだった。




