469.フッ軽すぎてもはや浮遊してる
というわけで、予想外の方向に問題が発生した。一緒にやるからにはとだんだん恒例になってきた指導を所望してきたノリカだけど、私から見ても彼女の戦い方には明確な改善点が見つからなかったのだ。もちろん何もかも完璧だとは言わないけど、二つも武器種を、それも混同しやすくて他に同スタイルのプレイヤーがいない高難度な組み合わせで使っておいて、トップ勢レベルでソツなくこなしてのけた。
有り体にいえば「このまま順当にさらに腕を磨けばいい」状態だから、指導もアドバイスもないのだ。念のためコメント欄に三人ほど転がっていたトップ弓手にも聞いてみたけど、みんな同じ意見だった。
だけど、さすがにそれで配信を終えるというのも少しばかり味気ない。何かできることは……と考え始めたところで、都と目が合った。
前回はあくまで娘の本職を代替で教えていただけだったけど、あのひとの本職は弓だ。睨疚城の矢文は記憶に新しいね。
「よくぞ頼ってくれましたっ!」
「まだ声かけてなかったですよ」
〈エスパーか?〉
〈何者なんだこの女王様〉
〈こんなにかわいいのにちょっと怖くなってきた〉
〈前線で配信見てたら「ちょっと見せて」されて……〉
〈配信見られてて草〉
忙しいところ悪いけど、話を聞きに行ってみようか、なんて話しながらダンジョンの入口に出たら、いたんだよね。それは見事な仁王立ちだった。私たちは若干恐怖を覚えた。
どうやら配信を見ていたらしい。で、ついさっき私たちが紗那さんの名前を話題に出したその瞬間、わざわざすっ飛んできたそうな。おかしいな、転移は来訪者限定解禁のはずなんだけど。
まあ、私たちとしては声をかけに行く手間も、ついでに伊豆エリア攻略完了目前という忙しい時期に時間をもらっていいかの確認も省けた。ありがたく力を借りるとしよう。
ノリカは目を白黒させているけど、慣れてもらおう。身内とはいえ大手配信者三人を前に主役扱いされてあっけらかんとしていたのだから大丈夫なはずだし、今日から周囲に有名人しかいないトップ勢の仲間入りなのだからこのくらいで固まっている場合ではないのだ。
で。
「おしろ……」
「気持ちはわかるよノリカちゃん」
「肝心なのは慣れと諦めよお?」
〈かわいそう〉
〈昨日まで圏外組だったんだもんな〉
〈どうせ三日後には慣れてるぞ〉
〈秒で慣れた量子猫がなんか言ってる〉
紗那さんは快く指導を引き受けてくれたんだけど、それと同時に訓練場も紹介してくれることになった。これに素直に喜んだノリカは、どうやらすぐには気付かなかったようで。
女王陛下たる紗那さんの紹介してくれる訓練場というのは当然ながら王城内のそれだという事実を前に、四年間の付き合いで一度も見たことのないビビりかたをしていた。かわいそうってかわいいね。
「さあ、なんでも聞いてくださいな! ルヴィアさんと都ちゃんのお友達さんですもんね、遠慮は要りませんよ!」
「ルヴィア、わかる? 私自身はなんの面識もなかった画面の向こうの超有名人に最初から激近距離感でよくしてもらえる恐怖」
「わかるよ。何度かあった」
「そうだったこの子そういう感じだった」
「ちなみに幻双界でトップ勢はときどきあるから慣れた方がいいよ」
〈最初から遠慮ゼロだ〉
〈近いな〉
〈地味に怖いなそれ〉
〈わかっちゃった〉
〈確かにいっぱいあったな……〉
〈お嬢に最初から好感度高くなかった人の方が珍しいくらいだし〉
〈最初あんなだったのにツッコミしかできてないなこの子〉
〈DCOって下手な芸人よりトップ勢のほうがおかしなことするし言うから〉
本当にあったんだから仕方ないじゃない。フリューの言う通り私に限った話じゃないから、ノリカもそのうち慣れるよ。
とりあえずマネージャーにクリップしておいてもらったさっきの戦闘映像を、そのまま紗那さんに見せてみる。さっきそのシーンをリアルタイムで見ていたかはわからないけど、どちらにしろ何度も見返せる上にスロー再生もできるから役には立つはずだ。
大抵のプレイヤー同様ノリカも我流なところがあるから、言葉だけで伝えるよりその方がよほど早いだろう。
「うんうん、とっても筋がいいと思います! 多くの来訪者さんと同じで、ところどころにぎこちなさはありますけど……それを加味しても、充分すぎるくらい戦えますね!」
「来訪者は大半が独学だったり見よう見まねだから、ぎこちないのは当然だけど……ばっちり高評価もらっちゃったねノリカ」
「都ちゃんはこの間修正しましたし、そちらの皆さんには私が目覚めた時点でありませんでしたけどね」
「あれおかしいな、魔術師組と見稽古のルヴィアはともかく、私はちゃんと我流なんだけど」
「フロルの槍術はなんというか、よくできたアクションRPGの槍キャラのモーションみたいだから」
〈ぎこちないのか〉
〈わからん……〉
〈さすがスーパーアーチャー紗那さま〉
〈まあそうよね〉
〈見よう見まねで雑モーションでも戦えるようになってるし〉
〈型ができてるからトップ勢は強いんだよな〉
〈お墨付きもらいました〉
〈武人視点でも基礎固まってる判定で草〉
〈見稽古のルヴィア〉
〈フロルは一番モーションの出来がいいまであるだろ〉
〈モーションそのままで戦録コラボしろ〉
電ファンのオーナーになって発生した数少ないネガティブな要素が、全部知っているし権限もあるせいで無責任なファンしぐさができなくなったことだったりする。私が○○しろとかコラボ期待とか、言えないんだよね。予定のあるものは知っているし、なければ鶴の一声になりかねないし、そんな気はなくても匂わせになるし。
まあ、戦録コラボはやるならDCOそのものが先だと思うよ。……そっちもそっちで、公式の立場で迂闊なことが言えないからそのあたりは黙っておこう。
紗那さんはそのままノリカを弓道場のようになった弓訓練の区画に連れ込むと、文字通り手とり足とり教え始めた。初動から残心までひととおりの体の使い方や体重移動を、至極わかりやすく体感を交えて指導している。
これ、又聞きだけでも相応の価値がありそうだね。カメラとマイクはしっかり向けておこう。いい教材になりそうだから、玲さんクリップお願いね。
「……今日ってビデオ教材の収録だったっけ」
「他の武器種もお願いした方がいいかな、生徒役を適当に連れてきて」
「あれ、地球の弓道経験より活きそう」
「精神武道である弓道と実戦弓術では違うのは道理だけど……単純に紗那さんの指導力が高い」
「魔物がいて戦闘と身近な世界なんだって実感するわねえ……」
〈あれ紗那様もカメラ意識してね?〉
〈ノリカちゃんはわかってそうなことも全部言ってる〉
〈マジで教材だ〉
〈他の武器もお願いします!〉
〈弓だけズルいぞ!〉
〈シリュウが増えたみたいになってる〉
そう、紗那さんも意識的にやってくれていて。後から動画として視聴してもわかるようになっている。……あの間の作り方とか見せ方とか、どこから学んだんだろう。
これまでこういうスキル外の基礎武術の部分はシリュウさんのような一部プレイヤーが主になって広めていたんだけど、確かにこれはプレイヤーに課せられるべき役目ではなかった。何度かあった双界人による道場イベントは主にアーツの使い方や繋げ方だったから、こうした「アーツがなくても戦いができるような武術」はブルーオーシャンだったのだ。
これまでなかったのはそこまで必須にはならない作りだからだと思うけど、希望さえすればこうして教えてくれるような仕組みがあるようだ。ヒトニスさん経由で武技アーツの編纂者だという彼のお兄さんに話を通したら、形になったりしないかな。希望者だけでもそれなりの数になりそうだ。
「やぁっ!」
「そう、それです! ほんとにいい感じ!」
「……走り撃ちの訓練までするのは幻双界らしい感じだね」
「というかなんで普通に真ん中当ててるのあの子」
「あれはもう現実の武術超えてない……?」
〈なんでや!!!〉
〈おかしいだろあいつ!〉
〈まーた人間やめてる奴連れてきてる〉
〈いくら圏外組わりと人間やめてるからってそこまでしろとは〉
〈なんでこれまで目立ってなかったんだ〉
なんなんだろうね。私にもわからない。これならあと一週間早くこっちに来ていれば都にバレる前に私にサプライズできたんじゃないかな。
楽しくなっちゃって曲芸まで教えようとし始めていた紗那さんにちょっと待ってもらって、一度ノリカに声をかけた。
「ルヴィアさん! この子、超越者だと思います!」
「えっ」
「だろうねー。全来訪者で一人しかやってないことを実戦でできてる子が、超越者判定じゃないわけないだろうし」
「ルヴィアが育てるまでもなかったね!」
〈はい超越者認定〉
〈知ってた〉
〈そらそうよ〉
〈自覚なかったんかこの子〉
〈視線が左上に〉
〈超越者の称号ついたんやな……〉
「この技量が独学で持ててたのに、なんでこれまでトップ勢にいなかったの?」
「いやほら、うちの大学ってサークルの所属更新、退会も一年ごとだからさ。春まではそっちにも顔出さないといけなくて」
「あ、圏外レベルの引き上げで追いついたってこと?」
「ちゃんと効果出てるのねえ」
〈ほんそれ〉
〈余裕でトップ勢の実力あったろ〉
〈あー〉
〈大学一年でバイトとサークルあったりしたらけっこう忙しいよな〉
〈なおチャンネル主(大学一年で配信と俳優業と社長)〉
〈ナチュラルに春まではって言ったな〉
〈まあどう考えてもお嬢に一生ついていきますした方がいいから〉
〈圏外レベル効果出てますね〉
〈きっかり-5だもんな今〉
超越者認定はもはやコメントすることもないとして、なるほど。ノリカがなんのサークルに入っているかは知らないけど、それに時間を取られているというなら納得だ。これでけっこう律儀な子だから、退会するまでは頼まれたら時間を割くだろうし。
となると、どうやらバージョン2で圏外レベルが-5まで引き上げられたことで上がってきたようだ。紹介したときに「5レベル差なら実力次第で覆せる」と言ったけど、まさしくその実例だったらしい。
ただ、ノリカは本気で私に賭けるつもりのようだから……せっかくの友達だし、私のほうからできる話はしてみてもいいかもしれない。もちろん、ノリカが望むならだけど。




