468.お嬢のリアフレこんなんばっか
というわけで。
「今日はパワーレベリングです。この子をトップ勢に仕立て上げていきましょう」
「か、改造手術されちゃう!?」
「人聞きが悪いなぁ。友達と一緒に遊べるようにしてあげるだけだよ?」
〈ああ……〉
〈ついにやったか〉
〈これまでは手をつけたらなっちゃったの体くらいは取ってたのに〉
〈いよいよトップ勢を作ると言い出した〉
〈まあ確かにリアフレみんなトップ勢だけど〉
このままだとノリカはリアフレと一緒にDCOができない。サプライズのために上を目指していたから私たち以外のリアフレとは行動を共にしていなかったそうだし、さすがにそう簡単に野生で見つかるほど圏外組やトップ勢はたくさんはいない。いないったらいないのだ。
まあそのうちユナやチカさんあたりとは引き合わせるんだけど、どちらにしろやっぱりトップ勢だ。私たちの交友関係がそもそもそうだから。つまり、結局ノリカのほうをトップに引き上げたほうが手っ取り早い。
「張り切ってるねルヴィア」
「こういうことはずっとやりたかったからね」
「私のときはライバーとしての余計な要素がくっついてたけど……ノリカちゃん、諦めたほうがいいよ。こうなったらもう……」
「V2開始一週間までに自力でチャクラムの扱いを完璧にした猫に同情されたくないよ!」
〈お嬢って友達観独特だから〉
〈立場も生い立ちも周囲も特異的だししゃーない〉
〈こないだ改造手術された先輩だ〉
〈おう言われてんぞ量子猫〉
〈それはマジでそう〉
ところがノリカ、この絶対安心ダイジョーブなブートキャンプに怯えているらしい。そんなキャラでもないというのに、改造手術だなんて人聞きが悪い。
そこについ先日似たような形で指導を受けた都が乗っかるものの、これには反論されていた。まあ確かに、あれほど早くチャクラムを身につけていた子はほとんどいない。そのせいで紗那さんからチャクラムの基本を聞けなかったと、なかなか不条理かつまっとうな文句を言われていたし。
「まあ諦めて。友達料だから」
「いや、私払わなきゃいけない側だと思うんだけど……」
「……ノリカってツッコミできたんだね。やっぱり電ファン来ない?」
「あんたらが畳みかけてくるからだよ! あとスカウト基準それで合ってる!?」
「合ってることはノリカもファンファンならわかるでしょ」
「急に悲壮感出すのやめてよ……」
〈お嬢から友達料とかいう単語を聞くとは思わなかった〉
〈払おうとしている?〉
〈改造手術を施すのを払うと表現する感覚が一致している〉
〈そっちなんだ〉
〈濃い味キャラに見えるけど……〉
〈フロルのツッコミ役基準緩くね?〉
〈まあお嬢にボケる隙を与えてるし〉
まあ今回どちらが払っている側かという認識は分かれるところだと思うけど、払う側だとノリカが思うならそっちでもいいか。やることは同じだし。
そして否応なくツッコミをさせられるノリカに、かなりあんまりなスカウトをかけるフロル。だけど確かに電ファンとしては切実で正しい基準だ。さすがに冗談じみた流れのはずなのに、本気に見えてきてしまう。電ファンだからね、やってもおかしくないとは思う。
「ルヴィアが持ってる箱だよね?」
「実権はこれまで通り良きに計らえだから」
「それがルヴィアにとっても良きだと電ファンに思われてるってことよお?」
まあ、事実だからね。向こうも私が以前から電ファンを見ていて、それを気に入っていたことを知っているし。配信の展開のしかたではたまに参考にすらしているし。
今日の舞台は《白花の中庭》。ここはミカンが三つ持っているダンジョンのひとつで、《梔子の市楽帯》という唯装があった小さな寄り道ダンジョンだ。
《薄明と虹霓の地》では難しすぎるということで、いい具合のトップ勢向けダンジョンとしてミカンに用意してもらった。その小ささもあって、もともとトップ勢に調整目的で使われている場所である。
「まずは普段通りめいっぱい戦ってみて。危なくなったらルヴィアがどうにかするから大丈夫だよ」
「わかった、やってみる」
バージョン2ではどうやらプレイヤースキル(直近の実績で測っていると推測されている)もMobのポップに影響するということで、私たちはダンジョンマスター権限の『挑戦者として認識されない』をオンにしたミカンとパーティを組んでいる。システム上はノリカのソロ状態だから、それに見合ったポップをするはずだ。
ノリカは慣れた様子で長弓を構えた。……そう、彼女は弓使いだ。様になっているのも当然だろう、それで上位数パーセントといわれる圏外組まで到達しているのだから。
「《リニアスナイプ》!」
「おお、上手い」
「取り回しが速いね。フォロースルーに無駄がない」
「あの弓を回しながらの次の準備、トップ勢がよくやってるやつだよね?」
「そうねえ、圏外組でやってる人はあんまり多くない? ないかも?」
〈あっ上手いわこの子〉
〈一射でわかるやつ〉
〈圏外組……?〉
〈弓の圏外組配信者はアレできたらトップって言ってた〉
〈*デンガク:やるね彼女〉
〈デンガクの初手褒めっていつ以来だ……?〉
私が知っている限りでは、ロウちゃんから三人くらいかな。既にトップ勢のプレイヤーにはわざわざ言わないとはいえ、私の配信以外で組んだ人を含めてだから相当珍しい。
ファンクラブ加入を示すマークがついた常連リスナーは目が肥えてきているのか、どうやらわかる人もいるようだ。弓の反動をいなす動作に無駄がないし、それと次の矢を矢筒から取る動作の両立、矢を番え直すところまでの効率的なモーションを会得している。しかも速くて難しいほうの動作で、アーツを撃ちながらのあれは圏外組でもなかなか見ない。
「……エイムよくない?」
「いい……」
「さっきからずっと大まかな弱点判定を拾い続けてるよね。相当できるというか、練習しないとああはならないよ」
「チャクラムでもそうなの?」
「システムアシスト込みだと、投擲系も大差ないと思う。ゲームでよくあるような、エイムが吸い付くような操作感はないから」
そもそも都ですら可愛く見えるほどの猪突猛進タイプであるノリカが近接ではなく弓を使う時点で意外性があったんだけど、いざプレイを見てみると余計にそうだった。
こと長弓の場合は威力重視で強く射るスタイルとエイム重視でよく狙うスタイルがあるんだけど、ノリカは後者寄りだ。精密射撃とまではいかずとも、有効な部位に正確に当てる技量を持った上でやや強めに放っている。
私は経験していないんだけど、使っている人が言うにはDCOの遠距離武器はややエイム負担が大きいらしい。狙いやすいようシステム的なエイムアシストはあるものの、たとえば頭を狙えばそこで固定されるような吸い付きはないのだ。
これは魔術でもそうで、おそらく操作の自由度優先ゆえなんだけど……そのシステムで急所に当て続けるのは、いくら急所判定が広めなバランスとはいえ簡単ではない。
しかも。そんな十二分に高い長弓の技能は、ノリカの強みのほんの一部でしかなかった。
「とはいえ、さすがに弓ソロはきつい?」
「まあトップ勢ならギリギリいけるかどうか、くらいの調整かな」
「じゃあ準備を……」
「───《クイックチェンジ》!」
「…………え?」
「短弓!?」
「そっちもできるの!?」
「圏外組を連れてきたはずなのに、トップでも見たことないスタイルが出てきて困惑してるよ今」
〈まあ弓はソロ向きじゃないし〉
〈これ及第点では?〉
〈充分すげえよ〉
〈ん?〉
〈クイックチェンジ?〉
〈他の武器もできるのか〉
〈短弓出てきたが〉
〈そういうこと!?〉
〈うわなるほど〉
〈遠近両用なのかよ!〉
弓手はどうしても遠距離火力を重視したロールで、タンクがおらず全ての敵がまっすぐ自分を狙ってくるソロ戦闘は苦手だ。だから接敵されるまでで実力を見届けて、残りは助けに入るつもりで見ていたんだけど……そこでノリカは切り札を用意してきていた。
《クイックチェンジ》、あらかじめ設定しておいた武器を即座に切り替えるスキルだ。最近はビルドとスキルレベルに余裕ができつつあって、技量練習と相談しつつサブ武器を持つ人はトップ勢を中心に出始めていたんだけど……ノリカがここで取り出したのは、短弓。同じ《弓》スキルを共有する武器でありながら、取り回しが違いすぎて両方を使える人は見たことがない実質別武器種だった。
確かに射程と威力に長けてその分狙いもつけやすい長弓に対して、短弓は取り回しと連射性に優れて近距離戦で扱いやすい。両者は互いの難点をカバーし合う関係ではあるけど……いつぞやにアリカさんを転向させたように、求められる技量はあまりに別物だ。
当然、練習も型作りもそれぞれでやらないといけないし、動作そのものは似ているせいでむしろ混同しがちで両立は難しいと聞く。スキルレベルを共有できる別武器なのだから、でないとみんな使っているし。
そう、トップ勢の弓手でも思いついてもできない戦法を、完全に独力で体現している。これは、
「よっし! トップ勢の敵ってこんなしんどいんだ……!」
「あの子、私たちが手をつけなくてもそのうちトップ勢になっていたのでは?」
「なんならもうなってるよね。これ、企画倒れじゃない……?」
ということになるんだけど、どうしよう。




