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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.1 たのしかった、運動会!
152/475

147.PKerのカーソルはMobと同色

「そうなんですよね。そろそろ私のところも、ギルド関連で何か……」


 ……ぴこーん。


「失礼、少し中断で」


〈お〉

〈!?〉

〈ヴォログの時と同じやつだ〉

〈はっや〉




 9月11日水曜日、今日は久々に何もないソロ雑談……だったんだけど、やはり一日何事もなく終わることはないらしい。

 魔力覚レーダーに反応。明らかに妙な動きが感じ取れた。私は即座に急行することにした。


 魔力反応のサイズや形、動作。6人で3人を囲んでいるような、この感じはおそらく……。


「へへ、ほら置いてけよ。イヤな思いすることになるぜ?」

「大人しく武器と有り金置いてった方が賢明だと──」

「──そこまでです!」

「みぎゃっ!?」


 10レベル以上も下のプレイヤーたちに得物を突きつけて、下卑た様子で恐喝していた男に、全力の《ペネトレイト》。私から見ればレベル的には格下だったから、一撃でけっこうなダメージが入る。

 他のプレイヤーを故意に攻撃したプレイヤーは、ステータス表示が赤色に変化する。囲んでいた方の6人は全員がこの犯罪者(レッド)プレイヤーだった。


 こうなったプレイヤーは衛兵のいる街に入れなくなり、他のプレイヤーからは敵判定となる。今の私のように先制攻撃をしたとしても、単にMobを攻撃したのと同じ挙動になる。

 この状態で死ぬと監獄エリアに送られるのだけど、DCOではそこから出ても赤いままだ。専用の贖罪クエスト(さすがに誰も試していないけど、九津堂のことだからきっと恐ろしくつまらない上に長いと思われる)を完遂しない限りは元の表示に戻らない。




 そもそも、DCOではPK(プレイヤーキル)は極端なほど非推奨だ。割に合わないような重いペナルティを課されるし、普通の感性をしていればこのタイトルで……VRゲームでPKなんてしない。


「やっべ」

「ずらかるぞ!」

「囲めばヤれるだろ、やるぞ!」

「いくらなんでも割に合わね」

「……舐められたものですね」


 目的が一致しただけで連携なんてないと示すような言い合いを聞き届ける理由もないわけで、最初に一撃入れておいたリーダーらしき男をさくり。急所にクリティカル、耐久捨てビルドだったのかあっさり落ちた。


「嘘だろ……」

「レッドでも人が相手なら躊躇うだろ、とでも思いました?」

「がッ」

「悪いですけど、私、精霊なんですよね」

「ぐぇっ」

「この世界の邪魔になる不届き者のことは、同じプレイヤーの仲間だなんて思っていないんです」

「このっ、……かふ、」

「……まあ、そんなことは精霊でなくとも同じかもしれませんけど」


 逃げそうだった者から順に一撃ずつ入れて、被害者の3人をさっさと逃がす。私は囲いの中のままだけど……もはやこの状況で、中心にいることは不利ではない。

 最初からまとめて処理するつもりで用意していたのだ。


「では、《トリプル・シードプロード》」




 以降はレベル差の暴力を最大限に駆使して、それから数分でお掃除完了。


「そちらの方々、大丈夫でしたか?」

「は、はい……ありがとうございました」

「いいえ。私が勝手にやったことですよ」


〈ヒェッ〉

〈かっけえ〉

〈執行者じゃん〉

〈断罪者ルヴィア〉


 はなから逃がす気なんてなかったけど、無事に全員を仕留められて一安心。ついでにそれなりの経験値も入って美味しい。

 被害者のうち一人はなにか埋め合わせでもと言いたそうだったけど、恐怖から解放されたパーティメンバーが泣き出してしまった。そちらを優先するよう伝えると、彼も申し訳なさそうに街へ戻っていった。


 レッドプレイヤーが死亡すると、ポータルにリスポーンする代わりにその場に人魂となって残る。これは手動で回収してもらわないといけないから、知り合いに連絡をして……。


「はぁい」

「って綾鳴さん!?」


〈ファッ!?〉

〈えっ〉

〈このイベ綾鳴様出んの!?〉

〈*検証班:不意打ちィ!!〉


 地獄の管理者の顔はずいぶん広いようで、この場面ではさまざまな人物が来てくれるらしいんだけど……なんと私の場合は綾鳴さんだった。しかも本来ならこちらから連絡するところを、あちらから前触れもなくお出ましである。


「……彼らは、それほど罪を重ねたのですか?」

「ううん、そこらの罪人並だよ」

「ではなぜ……」

「誰も呼んでくれなくて暇だったから」

「……もしかして、この世界の有力者の方みなさんそんな感じなんですか?」


 いや呼べないよ。私たちのために特に身を削って力を振るってくれている人を、あまつさえその期待を裏切ったレッドの前まで呼び立てるなんて。

 だから直接現れたとなるとよほど怒っているのかと思ったけど……そうでもなさそうだ。綾鳴さんの表情は穏やかだった。


「たまの息抜きみたいなものだよ。あんまり気分のいいことでもないけど……違うことをすれば気分転換にはなるでしょ?」

「……それはそうですね」


 案外そんなものか。私たちにとって綾鳴さんは神様にも近いような感覚があるけど、心がないわけでもないものね。


「無作為に召喚しているんだから、こういう奴らが混ざるのはわかってる。だからこそ、きみたちが自浄してくれるのは本当に助かってるよ。ありがとう」

「いえ、一番迷惑を被るのは私たちですから。このくらいは当然ですよ」






 「それでもだよ」と繰り返す綾鳴さんからPKK共通の報酬を受け取ると、人魂を集め終えた綾鳴さんはそれらを地面に空けた異空間らしきところへ放り込んで……奥から受け取った鬼の獄吏が挨拶を返してきた。

 牢獄マップが《地獄》と呼ばれているのは知っていたけど、どうやら俗称ではなく事実だったらしい。しかも地下にあるのだとか。……細かいことは考えない方がよさそうだ。


 さて、送り届けを終えて、綾鳴さんは帰……らなかった。


「そうそう。きみたちに伝えておきたいことがあったんだ」

「え? 伝えておきたいこと……ですか?」


〈お??〉

〈重大発表の予感が〉

〈こんどはどんな爆弾が?〉


 少し真面目な顔になる綾鳴さん。ムービーモードにはなっていないから、メインストーリーに絡む話ではなさそうだけど……。

 果たして、彼女の話とは。




「きみたちを対象としたウンドウカイを開くことになったんだ」

「…………うんどうかい?」


 ええと……運動会、だろうか。この世界には本来ない言葉なのか、綾鳴さんのイントネーションはやや怪しかった。

 それにしても、運動会。なぜ?


「《エルヴィーラ》……先代の精霊王が、きみたちの世界の協力者に話を聞いたようでね。催し事としてやろうという話になったんだ」

「……なるほど。エルヴィーラさんが」


〈つまりイベントってことだな〉

〈よりにもよって真っ先に教えたのが運動会かよスタッフ〉

〈ゲームの身体能力で運動会!?〉


 まあ、つまり、開発部が考えてエルヴィーラさん経由で開催にこぎ着けたイベントだろう。おそらく先月の海に続く、9月の月例イベントだ。

 ……確かに、なかなか楽しそうだ。私は運動会も参加できたことがなかったから、これもなおさら。


「《シア》……夜界の女王がかなり乗り気でね、会場は《リベリスティア》に設営することになった。ちょうど郊外に大きなコロッセオがいくつかあるから、そこで何組かに分かれてやることになるかな」

「つまり、私たちにはそれに参加してほしいと」

「もちろん、強要はしないよ。ただ、なるべく多くの来訪者に参加してほしいと思っている。まだきみたちのことをよく知らない住民たちに対しても、いいパフォーマンスになるだろうから」


 うん、なんとなくわかってきた。つまり元々一部の住民は私たちに懐疑的で、シアさんはそれを払拭するための催しが欲しかった。そこにエルヴィーラさんが案を聞かせたから、是非開催をということになって……いよいよ私たちに伝えられたということか。


「そういうことなら、ぜひ。こちらでも仲間に伝えておきます」

「うん、頼むよ。……あと、それについて少し相談なんだけど」

「はい」

「確か、ウンドウカイは二つのチームに分かれてやるものなんだよね」

「はい、確かにそうですね。赤と白の二組で競うことが多いかと」

「チームの分け方はどうするのがいいと思う?」

「……それ、当事者になる私に聞くんですか?」


〈草〉

〈もしかして綾鳴さんめっちゃお嬢のこと信用してる?〉

〈お嬢人たらしの魔法でも使ってんのか?〉

〈そこまで信頼されるほど絡んでたか……?〉


 できればエルヴィーラさんに相談して運営と決めてほしかったんだけど……聞かれてしまったからには考えてみるしかない。私、あくまでいちプレイヤーなんだけどなあ。


「や、昼と夜の長くいた方とか、そういう決め方にしようかとも思ったんだけどね。同じチームになりたい相手とか、そういうのあると思って」

「前から思っていましたけど、いやに人間的な神様ですね……」

「ボクも大昔は神様なんかじゃなかったからね。……で、どうかな」


 改めて問われてしまった。これはもうお茶を濁せない。

 ただ、聞きたいことの方向性もわかった。そういうことなら、私なら……。


「事前にパーティを組んでいる相手とは、同じ組になるとか」

「あ、それいいね。……さすがにレイドだとまずいかな」

「ちょっと戦力差がついたりするリスクがあるかも……ってあの、これ私に聞くことですか? さすがにそれ以上はエルヴィーラさんに相談してもらった方が……」

「それもそうか」


〈何が起こってんだ今〉

〈お嬢もう運営側だろこれ〉

〈プレイヤーに聞くことじゃないんだよなあ〉


 運営が管理するイベントではあるとはいえ、DCOではこういうイベントも基本的に現地住民の主導で発生するようになっている。だからこその現象なんだろうけど……よりによって私のところに来るのは心臓に悪い。

 一応、私以外にも意見を聞いてみるように綾鳴さんには促しておいたけど……。


 まあ、運動会については乞うご期待ということで。悪いようにはならないだろう。

 やっとここまで来た……。

 お待たせしました、いよいよ運動会です。まだ予告ですが。150話から始まりますので乞うご期待。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] もしルヴィアにアホ毛があったら魔力覚レーダはアホ毛担当だろうなぁ
[一言] 更新お疲れ様です! やっぱりどれだけ民度が良くてもこういう輩は一定数いてしまうものですね… 無慈悲に断罪を決行するお嬢カッコいい… …やっぱりなんかこの世界の有力な住民の方々、どこか抜けてた…
[一言] たのしいたのしいウンドウカイが始まるぞー! いやー楽しみですね、お嬢の運動服姿。 頼んだぞ!ホーネッツママ!
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