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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.1 たのしかった、運動会!
150/473

145.待ってろシーフード

「はい、こんばんは。ルヴィアです。9月10日の回ですね」


〈待ってた〉

〈わこ〉

〈きちゃ!!〉


 今日は昼間は配信なしで、夜からの枠。昼の長い幻昼界も夜だ。ただ、配信準備をしていたついさっきまでは夕方だった。

 案外違和感なく慣れるもので、夜にダイブしたゲームの中が夕方でも不都合はなかった。人間の処理力は案外優秀なのか、それともむしろ低いのか、現実とVRを別物として認識した上で適応できている。




 おさらいしておくと、DCOの一日は現実における16時間だ。世界の性質的に昼夜が偏っているから、具体的には12時間の昼と4時間の夜で構成されている。

 現実の2日間で幻双界は三日が経過するから、二日に一度だけ両方の0時が重なる。8月は偶数日だったけど、9月は奇数日の0時が一致するようになっていた。

 つまり今日の0時から12時までが昼で、12時から16時が夜。16時から明日の4時まで昼で、そこから8時までが夜となる。もちろん幻夜界は真逆だ。

 ……そしてさらに補足として、昼夜の入れ替わりが起こる前後30分の合計一時間は朝と夕方になる。現実と同様、段階的に明るさが変わっていく。


「なので、偶数日の20時半である今は夜になったところというわけですね。常連の方はそろそろ感覚がわかってきたでしょうか」


〈うんにゃ〉

〈未だにいまいち〉

〈頭パーンてなる〉

〈*フィート:わかんにゃい〉

〈おいプレイヤー混じってんぞ〉


 そんな夜の幻昼界だけど、最前線はちょうど騒がしくなってきていた。住民は時計に合わせて動くけど、魔物にとってはそんなもの関係ない。

 スタンピード。またしても防衛戦の始まりだ。






 最初に、舞台について。


「例によって私はあまり来ていなかったのですが……現在の最前線であるここは《塩桜(しおう)》、日本の銚子にあたる街です」


〈銚子か〉

〈なんで塩桜になった??〉

〈お魚おいしそう〉


 銚子といえば、やっぱり漁業だろう。銚子港は日本三大漁港のひとつに数えられていて、水揚げ量は日本一。特にイワシは有名だ。撮影で銚子に行った紫音が帰ってきた時には、テイクアウトのいわしの漬け丼をお土産にしていた。

 そしてもう一つ、銚子には犬吠埼がある。離島や高地を除くと、日本で一番早い初日の出を拝めるという話は有名だね。


 ここ《塩桜》もだいたい同じで、漁業がとにかく盛んらしい。四方浜湾も漁業が活発だけど、外洋とあってかこちらはもっと凄いそうだ。

 地形はだいたい同じだから、日の出が早いのも同じだそうで。魚のみならず、住民たちはそれも自慢にしていた。昼界は比較的こういう特色が現実と似ている傾向にあるね。


〈なんか海寄りだな〉

〈なんとなく東のめりじゃない?〉


「もちろん銚子も塩桜も西側にも魅力的なものがたくさんあるんですけど……その通りなんですよね。話に挙がるような特色は、基本的に東や海に寄っています」


 つまりどういうことか。


「今この話をするのにも意味はあってですね。……今回の防衛戦、なんと対海戦です」


〈は?〉

〈海!?〉

〈魚が来る……!〉


 対海戦、つまり港湾防衛戦だ。迫り来る海棲の魔物たちから、生命線たる《塩桜港》を守らなければならない。

 当然ながら、海を相手に守るということはいつもと少し勝手が変わってくる。そのあたりを整理しておこう。




「今回の敵は海棲の魔物、魚や魚介類系となります。元々この街では荒れた港を中心にクエストが展開されていましたから、大方の予想通りですね」


 攻略系のイベントのほとんどが港や海辺に偏っていれば、攻略プレイヤーたちは当然ながら察する。これで少しだけあった手がかりを見落として……なんてパターンもありがちだけど、ちゃんとそちらの警戒も欠かしていなかったようだ。

 私がいないところでそれができるなら、私にばかりリーダーをやらせなくても……。


 港湾機能の修復や住民のクエスト、素材収集などを経て、最終的には船に乗って海釣り……というところで、魔物の群れが来る予兆を確認したのだとか。

 それがプレイヤーたちには大型クエストとして周知されたのが昨日のことで、私を含む後方にいた攻略組は呼び出される形で集まった。


「そしてまた大将を押しつけられたのがついさっきのことです」


〈草〉

〈またかよ〉

〈平常運転だな!〉


 たぶん彼らももう、私が上に立つことはただの様式美だと思っているんだと思う。私の方も慣れてきてしまった。

 ベータの頃とは違って、指揮系統や情報伝達網の構築もしっかりしてきたからね。今はもうリーダーがやらなければいけないことなんてそう多くない。精神的支柱みたいなものだ。




「大まかな形式は、《万葉》の時と同じですね。壁代わりに防衛線を敷いての防御戦闘です」


 ただ、今回は防衛線の向こうは海だ。あの時とは違う要素がいくつかある。

 まず、戦闘形式について。普段なら先頭の敵とパーティ単位で戦うんだけど、今回は話し合いの上で効率化することにした。後衛が射程を広めに持って、海岸線で前衛と戦っていない二列目や三列目の敵を攻撃する形だ。

 これによって前衛は前衛だけで目の前の敵を倒さなければならなくなるけど、代わりに後衛が後続を削ることができるようになる。細かい狙いや前後の連携に気を取られずに威力を重視できる分、より破壊力を増す狙いだ。上手く行けば前衛の負担も減るから、これを維持できれば楽になる。


 なぜこんなことをするのかというと、こちらの防衛線が固定されているから。陸地での戦いのように前後の間隔も活かした陣形を取れないから、前衛の行動範囲が縛られる分のリスク軽減だ。

 せっかく後衛の魔術師や弓手は海岸線より奥の敵も攻撃できるんだから、それを活かさない手はない、ということである。


「救援用の予備隊は今回もありますが、万葉の時はあった遊撃は無しです」


 住民の船を壊すわけにもいかないし、飛行可能な種族はまだ限られる。妖精だけを前に出すのは危険だという判断だ。

 ……もちろん、私も。仮にリーダーになっていなくても、一人や二人で海岸線より前に出る気はなかった。


 他にも細かい立ち回りはちらほら違うところがある。この辺りでは海辺で海の魔物と戦えるから、そこから学べる要素はあったらしい。

 そのあたりは現場に任せて、私は後ろで見守ることになっている。本陣は簡易的に設置済だから、私もそろそろ向かおうか。








 防衛戦の様子は、散らばったフレンドたちに託したカメラ越しにお送りします。


『次、大型が来ます!』

『トールさん、2秒後に右!』

『任せろ! 待ってろ海鮮BBQ!』


『射線空けるよ! 2、1、今!』

『《アイシクルアロー・ガトリング》』

『……イシュカの火力、レベル以上に跳ね上がってないか?』

『あっエビが流れる! アルさん、もっと引きつけてくれないと!』


 大小様々な魚介類が襲い来るものの、集まった最前線プレイヤーたちにとっては難しい相手ではない。美味しい(ただし比喩表現ではない)ドロップ品が大量に手に入るから、完全にお祭り騒ぎだ。

 ……違うんだよ。防衛戦ってそういうノリでやるイベントじゃないの。もっとヒリついた戦いを……あ、うん。無理そうだね、品質B食材の誘惑には勝てない。


「これじゃあ潮干狩りじゃない? じゃないの?」

「気持ちは分かるけどね。明らかにドロップの品質がいいし、特にあのサザエは絶対旨い」

「ブランさん、あのラインナップでサザエを真っ先に見るんですね」

「リーダー、食の好みがおっさんなのにゃ」


〈和ましい会話だ〉

〈※全員が全体の戦況とにらめっこしながら話しています〉

〈あれ、猫語は三日間じゃ……〉

〈敗北猫には触れてやるな〉


 今回の司令部は私とミカン、フリューとルプスト、ブランさんのパーティの計10人。ミカンもフリューとルプストもその場にいるだけで司令部に回される人だけど、実はブランさんと普段組んでいるパーティも全員がレイドリーダー経験者だったりする。


 こういう時の仕切りはやりたがる人が多く出てきそうなイメージでもあるけど、ことDCOにおいてはそんなことはない。基本的にはメンバーが固定化されがちだし、たまに「やってみたい」と申し出てくる人はむしろ歓迎の対象だ。……過去に7人、定着したためしはない。

 ある程度知名度がないと言うことを聞いてもらえないし、難しい上に戦闘もできなくなるからほとんどのプレイヤーはやろうとしない。一方でやりたくなければ誰も強制はしないから、自然と指揮に苦がない人が集まるんだよね。


 ちなみにベルベットさん、罰ゲーム明けの四日目に開幕いきなりセルフ猫語を決めてしまったことでなし崩し的に定着してしまった。本人も慣れてきたようで、今やすっかり受け入れている。

 ただ一方でそれをネタにされるのは少し恥ずかしいらしい。「あれ、猫語?」は瞬く間にテンプレと化した。




『こちらH班、戦力不足になってきました』

「『こちら司令部、了解』。総司令、どうする?」

「人を自分たちが押し付けた役職で呼ばないでください、バスターさん。『司令部より救援隊へ連絡。2パーティをH班へ出してください』」

『こちら救援隊、了解』


 今回集まったプレイヤーは1500名ほど。これを九つに分けて、私を除く司令部の9人に紐付けてA班からI班までを編成した。それとは別に、トッププレイヤーの一部を集めて救援隊とする。

 9人はそれぞれの班のリーダーと連携して、一歩引いた位置からでしかわからないことを現場に伝える。ただ、彼らは横の情報伝達をタイムラグなしで適宜行うメッセンジャーの役割の方が大きい。

 そして私は救援隊やその他動作の判断と、必要な時の指示の担当。できることなら、仕事がないに越したことはないポジションだ。


 それにしても1500人とはけっこうな数だけど、現時点でDCOには30000人のプレイヤーがいる。そのうち半分が《幻昼界》にいるとして、この場にいるのはそのうち約10%だ。

 最前線での攻略イベントであり、頭数が欲しいお祭りともなれば、このくらいは集まるものなのだろう。実際、攻略に顔を出すプレイヤーが多いのは私たちフロントランナーにとってもありがたい。


「やっぱりGHI班あたりはちょっと厳しいかな」

「かもしれませんね。ですが、今回は頭数重視の防衛戦ですし、難易度も万葉の時より低めですから。ここで空気感に慣れてほしいところです」

「うん。安心して最前線を体感してもらえる、またとない機会だからね」


〈保護者か?〉

〈G班の中堅勢だけどめっちゃ助かってるぞ〉

〈こういうゲームの後続育成は過保護なくらいでちょうどいいんよ〉


 いよいよDCOも遠からず無制限開放となるけど、これから増えてくるプレイヤーはどうしても一陣や二陣に比べるとアクティブ度が落ちるだろう。

 何しろベータ勢や一陣二陣は、ほとんどがソフト争奪戦に参加したプレイヤーだから。三陣で増えるであろうカジュアル勢もDCOの盛り上がりには欠かせない存在だけど、攻略勢がちゃんといないと停滞してしまうのだ。

 「どうせ人が増えるんだから、前線の人数も放っておけば増える」なんて楽観視していたら足元を掬われかねない。私たちにできることは、私たちが今後もストレスなく攻略していくためにもしておくべきだろう。

 食のことになると露骨にテンションが上がる人たち。カロリーとか栄養素とか気にしなくていいからね。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! 銚子ですか!魚介がおいしい港町… そこに忍び寄る魔物の群れと押し付けられたリーダ役…なんだいつものことですか(感覚麻痺 猫語に慣れてしまったベルベットさん…そりゃ三日もや…
[一言] まぁリアルでも普通の生活してたら回らない寿司とか滅多に食えないからなぁ それが自分から向かって来てくれるとか歓迎しないと逆に失礼でしょ
[良い点] >総司令 お嬢の「私にいい考えがある」は即採用されそうですね
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