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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.0-2 猫と精霊とヴァンパイア
117/473

114.きたねぇ花火 上から見るか 横から見るか

 エルジュちゃんと別れて、さらに南へひとっ飛び。


「……したかったんですけどね」


〈鳥だあ!?〉

〈こっち来るぞ〉

〈え、入っちゃいけないとこ入った?〉

〈普通に鳥が出るのか……〉


 そう、この道中ではついに鳥系の敵が現れる。空中はこれまでフリーパスだったけど、ここから先は野放しにはしてくれない。

 この鳥たちは普段は地上まで降りて獲物を探しているんだけど、空にプレイヤーがいると突進してくる。どうやらヘイトが高く設定されているようだ。


「というわけで、初めてのドッグファイトです。一応空中戦闘自体はもう慣れていますが……」


〈まあこれまで出なかったのが有情〉

〈前線にも妖精増えてきてるしな〉

〈そういや編隊飛行妖精とかいたな前線……〉

〈空中戦闘まじか〉


 ……酔わないようにご注意を。カメラくん、頑張ってね。





○ラピッドバード Lv.39


属性:風

状態:正常





 いきなり真正面に割り込んできたから、目の前で減速。アイリウスを抜き放って構えると、ラピッドバードは懐目掛けてまっすぐ突っ込んできた。

 互いの速度が地上とは違うから、ちゃんと計算しながら一振り。叩き落とすつもりで肩口へ切りつけると、鳥は少しふらつきながらも高度を下げながら体勢を取り直した。……さすがにそう簡単には落とさせてもらえないか。


 とはいえ、これは私にとってはただの確認。あまりにも愚直に切り返して突進を繰り返してきた鳥くんの姿は、もはやただの餌だった。


「《バーニングアロー》、ガトリング」


〈じょうずにやけましたー〉

〈焼き鳥じゃん〉

〈いいウェルダンだ〉

〈焼いたというか燃やしたというか〉


 避けすらしないから、多少は外す前提の火力効率になっているアロー《連唱》ガトリングであっさり撃墜。飛行敵は初めてだからなのか、落ち着いて対処できれば与しやすい。……まあ、本来はそれが難しいんだけど。

 落下しはじめあたりでHPバーと火が消えたから、素材は落ちる前に取りに行く。別に火属性で倒したからといって、肉素材が既に焼けているなんてことはもちろんない。


「そうですね、飛行に慣れてさえいればそう難しくないです。魔術だけなら、それこそ妖精プレイヤーにとってはこれまでと変わりませんからね」


〈まあそうだろうけど〉

〈剣はどうなのさ〉

〈怖くないの?〉


「怖くはないですよ。感覚で覚えるために地上でも浮遊紛いのことしているわけですし、慣れればいくらでも飛んでいられますから。まあ操作ミスしたら落下死ですけど」


〈怖いこと言うじゃん〉

〈さすがにもう落ちないか〉

〈お嬢ももう三週間は飛んでるしな〉


 飛行種族にとって、空を飛ぶ技術は歩行と同じ。羽は足だ。妖精は特に顕著だったけど、こればかりはまずは感覚で慣れなければ始まらない。

 それをイシュカさんをはじめとした妖精プレイヤーたちから聞いていたし、いずれは空中戦闘もあるだろうからと慣れるためにここ三週間はなるべく飛行を多用していた。それこそ地上でもある程度は浮遊移動をするくらいには。

 結果はこの通り。空中での身のこなしや翅の動かし方については、もう体で覚えている。今の戦闘でも活きてくれた。




 ただ、やっぱりコメント欄には鋭い人がいるね。そう、ひとつだけ課題があった。


「ただ、剣だけは少し話が別ですね。斬撃に踏みしめる分の威力が乗りません」


〈やっぱり?〉

〈あー、そっか〉

〈そりゃそうだな〉


 さっき身のこなしと言ったけど、これは空中での姿勢制御や移動の話だ。戦闘時に足が担う役割というのは、何もそれだけではない。

 近接武器を振るときは、足を踏み込んで腰と体重移動を使うのが基本だ。腕だけで振っても威力は出ないし、力を入れるなら地面の反動を使うとやりやすい。


「でも、地面はないんですよね。……私は精霊になってから三回ほど《決闘(デュエル)》をしているんですけど、皆さんお気づきでした?」


〈踏み込めないのか〉

〈思った〉

〈あんまり飛んでなかったよな〉


 当たり前だけど、空中に地面はない。踏み込んで威力を出そうとすれば、足が空振って勢いが空回りするだけだ。

 そうなるとただの隙になるから、私はこれまで近接戦闘は地面に足をつけて行っていた。ベータ最終日のクレハ戦、万葉防衛戦後の芸人コンビ戦、そして双剣お試しのカナタさん戦。どのときも同じで、飛行は勢いづけや移動にしか使っていない。


「実は対処法はあるんですけど、難易度が高くて。まだ不完全なんですけど……ちょうどいいか。次は試してみますね」






 しばらく飛んでいると、前下方から飛び上がってくる影。さすがに戦闘中のものは寄ってこないけど、やはり空中への索敵範囲はかなり広くなっているようだ。

 それどころか、


「あ、二羽飛んできましたね」


〈うわこれ二頭はきついぞ〉

〈平然としてるが〉

〈なんで公園で鳩を見るみたいなノリなん〉


 とはいえ、空中戦に慣れきってはいないことさえ除けばなんとでもなる。二羽同時くらいなら大丈夫だろう。


〈それはお嬢の感覚なんよ〉

〈お嬢ならな?〉

〈タイマンでそれ倒せたら攻略組名乗れるぞ〉

〈やっぱお嬢おかしいよ〉


 コメント欄はこう言っているけど、別に私とて本当にあらゆる感覚がおかしくなっているわけではない。ただ単に、この手の敵は私は得意なんだ。

 私の最大の強みはマルチタスク詠唱だ。パリィや回避で近い位置のまま攻撃を凌いで、その間に詠唱しておいた魔術を近くから撃つ。これによって高い命中率と威力と攻撃効率が確保できる、というのがカラクリだったりする。

 逆に言えば、これができる相手が得意で、できない相手が苦手なのだ。たとえばクリティカルさえ出せばあっさり沈むこの鳥は得意、パリィも難しければ耐久力も高いゴーレムのような敵は天敵といえる。私がフィーレンにあまり行かなかったの、このあたりが理由だったり。




 ……詠唱を始めつつ鳥たちを迎え撃つ。それなりに賢いようで、動かずに剣を構えると一度飛び上がって上を取ってきた。

 当然、空中戦闘において上はとても重要なポジションとなる。さっきはその優位を失わないために自分からも接近していた。

 だが今回は動かない。もちろんそこには意図がある。


「一度翅を固定、逆に微ブースト……ここっ!」


〈お!!〉

〈叩き落とした!〉

〈さっきと威力が違うな〉

〈お嬢なんかした?〉

〈反動を自分で作ったのか……〉


「《トリプル・フレイムスロア》!」


 踏みしめる地面がないなら、どうすればいいか。

 地面を踏んだ反動を擬似的に再現すればいいのだ。


 静止状態から予備動作として右足を踏み出し、それと同時にその足から上方向へほんの少しだけ推進力をつける。真下から真上にやると体ごと浮いてしまうから、左背中方向に回転するような動きだ。

 これが踏み込みで発生する力と噛み合えば、力の入った斬撃を繰り出すことができる。今の結果はそれが上手くいって、左の袈裟斬りが成立したものだ。


 しっかり攻撃が入った証拠として、大きなダメージエフェクトを散らしながら落下を始めるラピッドバード。そこに追撃の《火魔術》を撃ち込んでやれば、これで片方はできあがり。

 とはいえ、敵はもう一体いる。あちらのドロップアイテム回収は諦めて、後から突っ込んでくるそれの上を取った。


「これがひとつ。そして、これがもうひとつの解決策です」


〈ほぼ真上だ〉

〈体ごと下向き?〉

〈え、まさか〉

〈お嬢、お前……星になるのか……?〉


 完全に真上を取ると鳥が退避行動に出てしまうから、15度くらいずらして推進力を残したまま鋭角に落ちる。

 これがもうひとつのやり方。踏み込みの勢いをつけられないなら、代わりに落下で勢いをつければいいじゃない!


「せえぇぇぇいっ!!」


〈うお怖い怖い落ちる落ち〉

〈ぜってえお嬢カメラのこと忘れてんだろ!!〉

〈スリルやべえぞ!?〉

〈R15だわこんなん〉

〈いいジェットコースターだ;1000〉


 突然の急降下攻撃に目を見開いたように見えたのは錯覚だろうか、哀れラピッドバードには重力加速度をほぼそのまま乗せた刃が直撃。エネルギーをほぼ全て押しつけられて、その場で止まった私と入れ替わるように落ちていった。

 そして地面に直撃、咲き乱れるダメージエフェクト。あれではドロップアイテムは期待薄かな……。


「……とまあ、こんな感じです。片方は単純に高難度、もう片方は位置取りを選ぶ上に絶叫マシン耐性が必須ですね」


〈無理だコレ〉

〈仮にできたとしても嫌だ〉

〈なんでお嬢は顔色ひとつ変えずにできるん?〉

〈どう考えても雑魚一匹の労力に見合わなくない?〉

〈お嬢が高難度って言う技は俺らには無理ゲーなのよ〉

〈お嬢ほんとアグレッシブだよなあ〉


「お気づきの方もいらっしゃるかとは思いますが、素直に逃げながら魔術を撃った方が楽です。現状魅せプレイですね」








 気を取り直して、目的地へ到着。


「港町、《掲見(かかみ)》です。あまり大きな街ではありませんが、地理的には大事な場所といえるでしょうね」


〈途中からシューティングゲームだったな〉

〈なんで数発で落とせるんだよ……〉

〈マルチタスク詠唱ずるい〉

〈さす嬢〉


 房総半島……幻昼界では《万葉半島》と呼ばれているそうだけど、ここ《掲見》はその先端だ。海運では要衝といえる重要度を誇るに違いないし、現に町に占める港の比率がかなり大きい。

 現実では同じ港湾都市である木更津にあたる如良に大きな港がないから、余計に重要度が高いのかもしれないね。


〈あれ、ここ館山だよな〉

〈名前かすってもないのか〉

〈王都以外で関係ない地名は初めて?〉


「お気づきの通り、ここは館山にあたる場所ですね。名前については……現実ではこのあたりの湾は鏡ヶ浦と呼ばれています。おそらく、そこからきているのでしょう」


〈ほへー〉

〈博識ぃ〉

〈当たり前のように答えが出てくるの草〉

〈いやなんで知ってんの〉

〈お嬢の知識量が怖い〉


 まあ、ちょっとだけ予習はしているからね。同様の推測はしていた人が複数いたし、別に私ばかりがというわけでもない。

 そもそも、鏡ヶ浦は日本百景のひとつだ。私は調べたけど、元々知っていた人はいると思うよ。




「どんな町かは……もう見ての通りです。港ですね。面積にして約四割を港湾機能が占めています」


〈清々しいほど港だけだな〉

〈海きれー〉

〈あんまり長居する町ではなさそう〉


 たぶん大方の予想はさほど間違っていなくて、ここが最前線となる期間は短いと思う。現に発令されているクエストも予想期間が短めだし。

 なにしろ本当に港と砦くらいしかないのだ。多少の輸送品が売られている他には、住民たちが獲った海産物が市場に並んでいる程度。料理人にとっては外せない場所だけどね。








 ただ、これだけだと本当にポータル解放のためだけに来たことになってしまう。二つほど気になる話があったから、それにも触れておくことにしよう。


「お話ひとつめ、あの砦ですね。現実に当てはめると館山城ですが、ここでは掲見城とか砦とか、そんなところでしょうか」


 日本に城がある理由は歴史を振り返ればわかるんだけど、一部プレイヤーが調べたところによると幻昼界には特に大きな戦争が起こったという記録は残っていないらしい。

 ではなぜこんなところに砦があるのか。……実はコレ、住民たちも知らないそうなのだ。


「なので、何かあるのではないか、と。いずれ解放とは別でクエストが出そうです」


〈あー、ありそう〉

〈九津堂らしいな〉

〈いつもの九津堂じゃん〉


 そう、九津堂がこういう不自然なオブジェクトを置いた時って、ほぼ確実に後から回収されるのだ。誰がどう見ても違和感を覚えるような露骨なものから、かなり注意していないとわからないような小さなものまで。

 ただ、伏線の大きさと後に回収されるイベントの規模に相関はない。だからここで何かが起こることは間違いないけど、ほんのささやかなものかもしれないし、世界を揺るがすものかもしれない。このあたりは彼らが私たちを飽きさせない要因のひとつといえる。






「ふたつめ。これは住民たちの間で広まっている噂ですね」


 何か悩み事をしながら表を歩いていると、どこからともなく女の子がやってくる。どこか薄幸そうな少女だ。

 そちらに目を向けると、女の子の方から声をかけてくる。「あの、何かお悩みですか」と。


 それに頷くと、なぜかしばらく無言で見つめてくる。奇妙な行動ではあるのだが、妙に真剣味があるから黙って受け入れてしまう。そうしてしばらくすると、少女はこう言うのだ。


「『地図に印をつけました。ここに行ってみてください』。……そこで急に風が吹いて、次の瞬間には女の子はいなくなっているそうです。

 で、ダメ元で実際にそこへ行ってみると、なぜだか悩みは解決するんだとか。喧嘩していた相手とばったり会ったり、落とし物を見つけたり」


〈え、なにそれ〉

〈いい話じゃん〉

〈怖くない?〉

〈怪談かいい話か判断に迷うな〉


 もちろん、女の子は何も聞いてこない。悩みがあると答えただけで、大事にしていた物を失くしたとも友達と喧嘩したとも言っていないそうだ。

 お礼を言おうにも、女の子はどこにもいない。それどころか誰に聞いても知らないというし、町中の家を探してもどこにも住んでいないのだ。


「と、だいたいこんな感じの話ですね。住民の方に聞いてみると話してくれます。……面白いのが、少なくとも二桁数の住民が聞けば似たような話をしてくれることですね。しかも、全て自分の体験談として」


〈え?〉

〈そういう御伽噺じゃないの?〉

〈マジなのか〉

〈数十年以内に二桁もあるのに知れ渡ってないの?〉

〈探し回っても誰も知らないんじゃ〉


 そう、そこだ。同様の体験談がけっこうな数あるのに、なぜか「自分と同じような体験をした人が他にもいる」という話を誰もしない。

 さらに不可解なことに、十人以上に目撃されているのに、誰もその女の子の外見を覚えていないらしい。それどころか、それぞれがしている似たような話どうしの関連性にすら、指摘されるまで気づかなかったそうだ。


 肝心の話の内容も、不思議なところがいくつもある。からくりは全くわからないのだが、少なくとも人間業ではなさそうだ。妖怪のたぐいなのかもしれない。


「それ以上のことは誰も話してくれないそうで。この手の話が好きなプレイヤー諸兄も、現状お預けを受けている状態です。そのうち何かあるのかなぁ……」




 でも、なんか、いいねこういうの。得体の知れない恐ろしさがいい具合に好奇心をくすぐるというか……和ファンタジーっぽくなってきた、というか。

横から見たら欠片とか飛んできそうですね。モザイクモザイク。


最後のお話の回収は未定です。バージョン1が終わるまでにはやります。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! お嬢は戦闘機だった、、、? ガトリングみたいな弾幕ですね、、、 あぁ、、某邪妖精の人も踏み込めないから遠心力利用してましたもんね、、、 空中は切り合いにとって最悪の場所で…
[一言] 掲見城・・・掲見がほぼ港な土地だしクラーケンとかかな?あとは、イベントの海坊主のNPC版が新種族として出てくるとかしてそれを敵と間違えてわちゃわちゃするとか 最後のやつは・・・分からん!ワン…
[一言] STGでかすり回避するが如く、高速機動しながらすれ違い様に斬り抜けてく奴がその内出てくるんだろうねきっと
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