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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.0-2 猫と精霊とヴァンパイア

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109.コンパスグルグルは一度はやるよね

 そんなこんなで、四人を引き連れて出発。




「今回の目的地は《フィーレン》の次の街、《ヴォログ》ですね」


 《ヴォログ》の街、おそらく元になったのはボローニャだろう。イタリア北部にて交通の要衝となっている、交易の街だ。

 このヴォログも商業が盛んだ。フィレンツェとは趣が異なる《フィーレン》とは対照的といえるだろう。


「ボローニャは中世の景観が今も多く残っているところですが、この世界ではそれはあまり気にする必要がなさそうですね。何しろどこに行ってもボロックやルネサンスが普通です」


〈ほんとお嬢よく知ってるよな〉

〈まるで見てきたみたいな〉


「チラ見はしているんですよ。精霊の小聖堂で」


 ……そう。実は、私たち精霊はちょっとしたズルができる。既に開かれている祠や小聖堂になら、その街のポータルを自分で開放していなくても行けてしまうのだ。

 必要とあらば行ったことのない街に転移してしまえるという、ある意味とんでもない仕様だ。……だけど、精霊は空を飛べるんだよね。元々移動速度には大きなアドバンテージがある以上、この仕様に実用性はあまりない。


 ただ、小聖堂には小ネタがある。内側から入らずに覗き込むと、その街の様子が少しだけ見えてしまうのだ。

 先行組の話も聞いていたけど、私はこれのおかげで実際に目で確認もしてある。見てきたみたいというか、見てきたのだ。

 とはいえ、そんなものは今みたいに軽く喋る時くらいしか役に立たない。あまり気にする必要のない仕様だった。






 そんなヴォログへの道のりだけど、これまでと比べるとやや山がちといえるだろう。岩肌が露出した丘に谷があって、その谷底が踏み固められて道になっている。馬車が通れる道ではあるけど、轍の左右は小さな山に挟まれているような雰囲気だ。

 このフィールドで主に出るのは、フィーレンから引き続きゴーレム。あまり参加していなかった私でもゴーレムと戦ったことは何度かあるから、特にひっかかるところはない。


 ただ、その道中を半ばほどまで来ただろうか。それまでまばらだったプレイヤーの影が、前方に集まっているのが見えてきた。


「あれは……」

「中ボスですわね」


〈あの熊みたいな?〉

〈お嬢が瞬殺したやつ〉

〈あれクレハが張り合ってタイム更新してたな〉


 うん、そういう印象になるよね。ちょっとあの時はやりすぎた。……クレハが『WR(ワールドレコード)はいただきました』って言ってきたのも知っているけど、私は別にタイムなんて気にしていなかったって誰も信じてくれないんだよねアレ。

 あの熊はレベル的に超過しすぎていたのもあるから、ここにいるなら多少は歯ごたえのある戦いになると思う。なるといいな。


「もう解放から一週間は経つけど……」

「今は前線組の流入が終わって、中堅層の一番上あたりが挑戦してるみたいですね!」


 私は他の色々に引っ張られてまだクリアできていないけど、大半の攻略前線組はもう突破している。だから今あのボスと戦っているのは、それに追いつこうと活気に溢れている中堅勢の上位層ということになる。

 最前線が元気なのはもちろんいいことだけど、この層がしっかりしていないと後が続かない。ここにたくさんの人がいるのは、とても喜ばしいことだといえるだろう。


「順番待ちがあるようですね」

「並びましょうか。申し訳ないことに、私はまだ突破していません」

「つまり撮れ高タイムということなのだな!」


〈トトラちゃんよくわかってる〉

〈よっしゃ撮れ高だ〉

〈雑談からの中ボス瞬殺だ!〉

〈こないだは物理が空気だったし、アイリウスちゃん気合入ってるでしょ〉


 コメント欄、中ボスが瞬殺される前提の発言はやめなさい。あとあなたたち、なんか当たり前のようにアイリウスに人格を認めてない?


「どちらかというと、雑談が撮れ高だと認識されていることに突っ込むべきだと思いますわよ?」


 そっちはもう何度も突っ込んだ。聞いてくれなかったからもう諦めたんだ。




「少し近くの方の話を聞いてみましょうか。この5人で雑談をするタイミングはいくらでもあるので、リサーチタイムです」


 とはいえ私とカメラを前に緊張した前線慣れしていない一般プレイヤーからそうそう面白い話を聞けるなんてことはなく、なんとなく基本的な事項で統計を取ってみたんだけど、だいたいこんな感じだった。


 平均パーティ人数、5.5人。火力職の物理魔術比、おおよそ6.5対3.5。このあたりは体感からそうズレていない。

 タンクの回避盾率、30%。これは意外だった。というのも回避盾、最前線ではもっと少ないのだ。攻撃を受け切れるステータスと技術を持った盾タンクは、VRMMOのリアルな感覚も相まって後方には逆に少ないらしい。その分だけ回避盾の割合が増えているようだ。……まあ、ちょっと怖いかもしれないね。

 近接武器使いにおける《パリィ》習得者率、10%。これについては、こんなものだろう。ほとんど初回から決めておいてこれを言うのもなんだけど、基礎動作の中では確かに群を抜いて難しいから。

 私のチャンネル登録率、90%。……高すぎない? 中でも教科書扱いしている人と、上位勢の雰囲気を知るために見ていたらのめり込んだという人が多かった。

 将来的にエクストラ種族を狙っている率、17%。中でも2、3人ほど精霊志望がいて嬉しかった。もっと強くなったらおいで、マナ様がクエスト探して待っているから。


 そして待機組の平均レベル、33.4。中堅層でもプレイヤーレベルの高い、レベルだけなら下手な前線組並の人たちが集まっているみたいだけど…………妙なところで収束したね。もちろんコメント欄は埋まった。


〈なんでや!!!〉







 さて、ボス戦。いよいよ順番が回ってきて、背後に数組のプレイヤーを見ながらボスエリアに入る。

 前にいたプレイヤーたちの突破率は、五分の三というなんともいえないものだった。敗走したパーティで生き残ったメンバーは、まだこの場に留まっている。どうやら私たちのボス戦を見てから帰るつもりのようだ。


 そうなった理由は簡単で、ここのボスである《コンパスゴーレム》はバージョン1のメインルートでは初のギミックボスなのだ。

 もちろん初めてということで難しいギミックではないんだけど、真正面からの正攻法しかしてこなかったプレイヤーにとっては、それで倒せないというだけで案外混乱するものだ。立ち回りや役割分担、場に合わせた動きをまずはここで覚えなければならない。


「予定通りいきますわよ。ルヴィア姉様、お願いします」

「任せて。余裕があったら手伝うけど、攻撃はよろしく」

「余裕があったら手伝うべきなのは、こっちの方だと思うのだ……」


 名前の割に足の短いボスがこちらを向く。まずは私が飛行も使って接近して、一撃を入れながら後方へ気を引く。その間に四人は適切な位置に……うん、ついてるね。イチョウさんだけが私の後方で、残る三人はボスを挟んで反対側だ。


「《スパークルロア》!」

「準備できました、《キャスト/マジックブースト》!」

「いきますわよ、トトラさん!」

「了解なのだ! 《アイシクルアロー》!」


 このゴーレム、体の継ぎ目が物理的なものではなく磁力か何かで繋がっているようで、あらゆる関節がかなり自由に回るようになっている。そのせいで可動域が広く、魔術にも耐える防御の硬さもあって普通に戦うと突破が難しい。

 その上でこいつは、基本的にはその瞬間ごとにヘイトが一番高いプレイヤーの方を向いて戦う。それだけなら普通なんだけど、なんとか囮で気を引いても、一撃を入れた次の瞬間にはもう攻め手のほうへ向き直っているからタチが悪い。

 腕で守られない背中が比較的柔らかいから背後を取って戦いたいのに、常にメイン火力がいる方が正面になるのだ。確かに正攻法や単純な分隊戦術ではやっていられない。


 だから基本的な攻略法はこうだ。ほぼ同等の能力を持つ火力職を二人揃えて、前後から交互に攻撃して背中を突き続ける。まず火力を二人要求してくるから、それを揃えた上で残りのメンバーがどうサポートするかという戦いだ。

 攻撃力が高い方にヘイトが向き続けると守りが厳しいのでは、と思うかもしれないけど、そこは大丈夫。この時のヘイトは攻撃を受けた時が最も高くなって、そこから有効打が入らない限りは時間経過で減っていくのだ。


「ガンガンいきますわよ!」

「ジュリアさん、剥がれていますよ」

「いつものことなのだ! 《ダブル・フリーズロア》!」


 基本的にはそれだけ。連携して立ち往生させるのがお手本の戦い方ということになるだろう。

 ただ、そこはいたずら好きの九津堂。このボスにもちょっとしたショートカットキーが用意されている。


「こっち向きましたわ!」

「《フロストペイン》」

「今ですねっ! 《トリプル・キャストブースト》!」


〈やっぱみんないい動きしてるな〉

〈トッププレイヤーの動きだ〉

〈これ観戦してる中堅組にはいい教材なのでは〉


 攻撃を合間に挟みながら守っていれば、そのうちヘイトが逆転してゴーレムはジュリアの方を向く。私はそれを見計らって先回りで魔術を詠唱して、背中を見せた瞬間に弱点の《氷魔術》。弾速が極端に遅い《ペイン》系をがら空きの背中に叩き込む。

 これはそれなりのヘイトを与える攻撃となったものの、足りないようでこちらを向きはしなかった。それを見たウケタさんが即座に防御の態勢を取って、ジュリアは上空へ退避。トトラさんは詠唱を溜め始めて、イチョウさんは私の後方で即座に《陽術》。

 準備していた三重の《並行詠唱》を発動すると、イチョウさんは少しでもダメージを稼ぐために弓に持ち替えて早撃ちを始めた。《クィックチェンジ》という武器切り替えショートカットのスキル……つまり私は絶対に使わない代物だ。


 そして最短に縮めた詠唱を終えれば、私は要の一手を解放する。




「こっち向きなさいデカブツ、《マグネブレス》!」

「ばっちりなのだ! 《トリプル・フロストペイン》!」


〈おお!〉

〈鮮やか〉

〈うわ何これ〉

〈詠唱はっや〉

〈磁石ってこと?〉

〈あ、お嬢もしかして〉

〈これペトラの?〉

〈*ペトラ:私が育てました〉

〈*ジュン:ルヴィアさんもう実用してるの!?〉

〈いやあの、なんで見てわかるん???〉


 この時使ったのが、ペトラさんが発見して常用している《詠唱加速》。魔術詠唱時に特定の操作を行うことで、詠唱時間が縮む技術だ。

 強力なものではあったんだけど、パリィと同様に難易度が高すぎて普及率が低い。かくいう私もこれまでは使っていなかったんだけど、一昨日に時間が空いたからペトラさんに教えてもらっていたのだ。次々に知り合いの魔術師が集まりながらも、配信に乗せて分かりやすく丁寧に解説してくれたから、一部の魔術師は練習を始めている。

 まだまだとはいえ、裏練習もあって私はどうにか効果がある程度には習熟していた。それをこっそり初使用したんだけど……わかる人にはわかったらしい。やっぱりよく見ている。




 一方で、ゴーレムの動きにも変化があった。

 さっきの《フロストペイン》ではびくともしなかったゴーレムが、《雷魔術》SL(スキルレベル)60《マグネブレス》には簡単に反応した。()()()()()()

 というのもこのゴーレム、『雷属性攻撃に対して極端に強くヘイトを生成する』という特殊仕様が存在するのだ。土属性にとっては雷は耐性があるんだけど、《コンパス(羅針盤)ゴーレム》という名前がヒントだったというわけ。たった今使ったけど、《雷魔術》にも磁力との関連を匂わせる名前があるからね。

 

 だから、私たちが取っている隠し攻略方法はこうだ。《雷魔術》でヘイトを過剰に集めて、その後ろに火力を用意して一気に削る。防戦一方になる私の消費は激しくなるけど、そこはヒーラーであるイチョウさんを私の側に配置してカバー。

 雷属性の攻撃ダメージこそほとんど入らないけど、 ヘイトバランスを無視できるおかげで裏からジュリアとトトラさんの二枚火力を当てられるこの方式のほうが効率がいい。《虹魔術》がある私ならもちろん《雷魔術》も扱えるから、こちらを使うことにしたのだ。

 とはいえ、この仕様はトップ組や他の配信を見ている人には周知の事実。コメント欄も驚きの声はそこそこ止まりだった。




 だいたいこんな調子で、ここのエリアボスもほぼ瞬殺。……まあ、レベルステータスの暴力もあったから、仕方ないと思う。

 安らかに眠……ることはできなさそうだけど、これからも頑張ってね、コンパスゴーレムくん。








 立ちはだかるエリアボスも攻略して、峡谷を抜けた先に街が見えた。王都からフィーレンに比べればかなり近い、あれがヴォログで間違いなさそうだ。

 ……なんて、のんきな感想を述べていられたらよかったんだけど。


「ごめんなさい、ちょっと離れます。先に街へ入っておいてください」

「はい……?」

「えっ、ちょっとルヴィア姉様、どこに……!?」


 私は魔力覚に異常を察知して、即座に飛行を全開にした。

案の定のエリアボスと……?


シリアス要素ちゃん「!!!」

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『Dual Chronicle Online 〜幻双界巡りの物語帳〜』

身内による本作別視点です。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! なるほど~、ボローニャですか。 そして立ちはだかる中ボス!(という名のおやつ 、、、なるほど、衝撃でくるくる回って磁力に引き付けられる、コンパスだなぁ、、、、 、、あれ?…
[気になる点] 魔力覚に異常あり!定番だと人が倒れてるとか襲われているとかかな? [一言] な阪関無 雷魔術使いが二人いればボスにシャトルランさせられそう 3人でたらい回しにしてもいいけど
[一言] なるほど精霊になれば攻略最前線までワープ出来るんですね。RTA的にこれが一番早いと思いますね。(なお精霊になるためにかかる時間は考慮しないこととする)
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