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ベンノとティニの引っ越し

 世界神たちとの再会を終えた俺とセラフィは、礼拝堂を後にして、外で待たせていたアメリアとカミラと合流することになった。


 神殿の外に出ると既に日が傾いており今の時刻は午後三時から四時といったところか。随分と長い間礼拝堂に籠もっていたようだ。


 アメリアとカミラの二人は流石に俺を待つのに疲れたのか、神殿の入口近くにある階段の端に腰を下ろして休んでいた。


「大変お待たせ致しました。アメリアさん、カミラさん。礼拝も済みましたので、今日はもう屋敷に戻りましょう」


「今日は随分長かったなぁ! ハルト、お疲れ様!」


「でも、私たちは平気。アメリアの弟のフリッツが相手をしてくれた」


「すみません、長い時間お待たせしてしまったようですね。つい、色んなことを神様にお願いしたくて、長い時間お祈りしていたようです……。お詫びに、今夜は金色の小麦亭で好きな物を頼んで頂いても良いですよ、私の奢りです!」


「「やったぁ!」」


 俺がそう言うとアメリアとカミラは素直に喜んでくれたのでホッとしていたのだが、一人納得していない娘がいた。


「むぅ、主様がどれだけ気を使われて世界神様と向き合っておられたのかも知らずに、このように呑気なことを……。これはヘルミーナも含めてしっかりと教育しなければ、主様がいつか心労で倒れてしまわれるのではないかと推測します!」


 そう呟いたのを俺は聞き逃さない。


 アメリアとカミラ、それにヘルミーナの三人に説明するのは、うちの屋敷が神域となったときでも遅くないと考えていたので、セラフィの呟きを諌めることにした。


「俺のことを思ってくれるのは本当に嬉しいんだけれど、アメリアやカミラも悪気があるわけではないし、彼女たちなりに色々と気を使ってくれていると思うんだ。だからさ、ひとまず、ここは落ち着こうな!?」


「むぅ、主様がそう仰るのならば、私も吝かではありません! ですが、今後のことを考えますと、皆にも世界神様との関係を早急に共有する必要があると思われます……」


 そう、小声で他の皆には聞こえないように、囁いてくれたセラフィの言うことは良く分かる。


 だが、今そのことを皆に伝えるのも余計に精神的に疲労させることにもなるので、やはりアメリアたちには屋敷が神域に決まったときまでは黙っておこうと思った。


 その後、一度屋敷に戻った俺たちは無事神殿での礼拝を終えたことをヘルミーナに報告すると、そのまま皆で金色の小麦亭に向かい、アメリアとカミラ、それにセラフィとヘルミーナを労うため御馳走を振る舞った。


 因みに、やはり通された席は前回同様に俺たちだけの特別に用意されたスペースであった。これからもそうなのだろう、慣れなければ……。


 翌日、ベンノとティニの二人が店舗のほうに引っ越してきたので、彼らを手伝うことになった。主に力仕事はセラフィに任せて、残された四人で荷解きを行う。


 ベンノの荷物はそれほど多くはなく、衣類と仕事道具の類をコンパクトにまとめて持ってきた。あまり私物を持たないようだ。


 それと比べてティニのほうは馬車でやって来たかと思うと、幾つもの衣装ケースのような物から高そうな箪笥や机、やたらと装飾がなされた小箱の数々……。ハーゲンの屋敷からの引っ越しだったはずだし、確か家出中の身の上だったはずだが、何時の間にか実家に戻ったのだろうか?


「ティニは大荷物だけど、実家に戻って持って来たの?」


「いいえ、全部ハーゲンの屋敷から持ってきたものよ?」


「はい?」


「だから、全部ハーゲンの屋敷から持ってきたって言ったのよ。家出したときに馬車に私物を全て詰め込んできたからね、多少は処分したからこれでも随分スッキリしたのよ?」


「馬車で家出って、流石に家の人も気付くんじゃない?」


「当然ね、家出するって公言して出てきたから。そうしたら、うちの親からハーゲンの屋敷を手配されて、暫くお世話になることになったのよ」


「(なるほど、そういうことでしたか)親公認かよ!?」


「あら。そう言われてみれば、そういうことになるわね!」


 つい、思っていたことと話そうとしたことが逆に出てしまった。


 それにしても親公認の家出か。家出とは? と疑問に思ったりしたのだが、もしかするとこれが貴族の考え方なのかもしれない。それとも何か深い意図があった、とか? ヒルデブラント子爵がどのように考えているのか一度聞いてみたいところだ。


 俺がティニの実家の事情やヒルデブラント子爵のことに気を取られている間にも着々と引っ越しの作業は進み、とりあえず二人の荷物はそれぞれの部屋に運び終えた。


「主様、ベンノとティニの荷物は全て三階の部屋に移動しました。ただ、一部ティニの荷物が入り切らなかった為、空いている部屋のほうに置かせて頂きました」


 セラフィが少し申し訳なさそうに報告する。まぁ、確かにあの荷物の量だと従業員寮の一室には収まらない物も出てくることは容易に想像できた。


「ありがとう、セラフィ。その対応で問題ないよ。後はベンノとティニの荷物の荷解きかな?」


「いえ、ベンノは既に荷解きを終えています。あとはティニの荷物の荷解きだけかと推測します」


 ふむ、なるほど、既にベンノの荷解きが終わっているのならば、あとはティニを手伝うだけで全てが片付くということになる。


「では、あとは皆でティニの手伝いをして、早くこの従業員寮での生活に慣れてもらうことにしよう!」


「はい、主様!」


 セラフィとそんなことを話している内に、皆が随分働いてくれたことから、お昼前には二人の引っ越し作業もほとんど完了しているような状況となった。


「これで、アサヒナ魔導具店の店員が全て揃ったことになるな!」


 従業員全員が入寮したことにより、いよいよ、アサヒナ魔導具店の開店が間近に迫って来たことを実感する。本当に魔導具店の経営などできるのだろうか、と少しだけ不安になるのだが、それはもうベンノたちに任せてしまおうと、やや諦めに近い気持ちで丸投げすることにした。


 全て任せられる人材をハーゲンに用意してもらったんだ。あとは彼らをどう率いて店舗の運営を成功させられるか。これだけ御膳立てされているんだ。あとは俺がしっかりと皆を導けるか、それに掛かってる。


 改めて、俺は気を引き締めてこれからのことを頭に叩き込む。


 まずは、店舗運営のシミュレーションを残りの数週間でベンノたちに覚えてもらう。合わせて、新規顧客を狙うための施策の検討、そして、俺たちが獣王国へ行っている間の店舗運営について考えないと。


 できれば、獣王国へ行っている間も連絡は取り合えるほうが良い。だが、この世界には電話やメール等という文明の利器は無いので、それこそ魔法や魔導具に頼ることになるのだが、それも自分で用意したほうが良いのかもしれない。


 これからやるべきこと、やらなければならないことを頭の中で整理しているとヘルミーナが声を掛けてきた。


「ハルト、ベンノとティニの引っ越しもほとんど終わったことだし、そろそろ皆にハルトのことを説明したほうが良いんじゃない?」


 ヘルミーナにそんなことを言われたのだが、はて。俺の何を説明する必要があるのか理解できずにいた。


「ちょっと、アンタ忘れてるわけじゃないでしょうね!? ハルトが男爵に陞爵されたことを皆に説明しなきゃいけないでしょ? 皆も噂では聞いているかも知れないけれど、正確な情報なのか分かっていないと思うし、そもそも知らない人もいるかもしれないのよ!? 従業員として店主のことを理解できていないというのは大問題に繋がりかねないわ」


 確かにそうだった。


 ヘルミーナの言葉で思い出したが、王城から屋敷に戻った際に、途中でビアンカたちの引っ越し状況を確認したのだが、その際に二人には特に俺が男爵に陞爵されたことを伝えていなかったのだ。


 そのときは皆が揃ってからと思ってのことだったのだが、今日従業員の皆が揃ったのだ。そろそろ説明しておいたほうが良いのは確かだった。


「あぁ、確かにそうでした……。ヘルミーナさんの仰る通りですね。ちょうど今皆が揃っていますし、今から三階のダイニングルームに集まってもらいましょう!」


「もう、ハルトはうっかりしてるわねぇ。分かった、皆にそう伝えておくわ!」


「よろしくお願いします!」


 そう伝えると、ヘルミーナは皆に声を掛けに向かった。


 恐らく既に皆にも俺が男爵になったという噂くらいは耳にしているはずだから、これから説明してもそんなに驚かれることは無いと思うのだが……。


 そう思いながら、俺もダイニングルームに移動することにした。


いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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