神界からの帰還
さて、ひとまずうちの屋敷を世界管理支援室の出張所にすることを認めたので、その旨を輪廻神たちに伝えることにした。
それに、出張所の責任者に抜擢されたのだ。何か不備があってはいけないので、責任者として対応しなければならないことを確認する。
「皆さんがうちの屋敷で良いということでしたら、うちの屋敷を世界管理支援室の出張所にしましょう。それで、私のほうで何かしなければならないことはありますか?」
「いや、手続きはこちらで進めておこう。機会神、出張所開設の申請書を提出する必要がある。すまないが申請書の準備を進めておいてくれ」
「分かりました。朝比奈さん、申請が受理されましたら神話通信でご連絡しますね」
「承知しました。よろしくお願いします」
輪廻神と機会神の二人がそう言うと、続いて世界神も口を開いた。
「では、今日のところはここまでにしましょうか。次にお会いする時はハルト様のお屋敷ですね!」
「えっ!?」
まだ俺が聞きたかったことが何も聞けてないんだけど!?
「ちょ、ちょっと、待って……!」
俺が世界神に向かって話し掛けた辺りで、眩いばかりの光が視界が真っ白に染めていく。
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「まだ確認したいことがあります! ……って、戻ってきたのか……」
ホワイトアウトしていた視界が徐々に晴れてくると、そこには礼拝堂の祭壇があった。
こちらから聞きたいことが結局ほとんど聞けないまま戻ってきてしまった。
「はぁ、また今後確認するか。それとも神話通信で聞いてみるか……。いや、そんなことを神話通信でいちいち聞くのもなぁ……」
そう、聞きたかったのは俺の身体のことや能力のこと。
能力のことは別として、身体の特定部位のことをわざわざ電話(神話通信)で上司(世界神)に問い合わせるというのも何だかおかしいので、またの機会にしよう。
そんなことを考えていたのだが、ふと周りを見渡すと違和感を感じた。
「あれ? セラフィ、セラフィはどこだ!?」
先ほどまで一緒に神界に居たセラフィの姿が見えないことに気付いた俺は、ぶわっと冷や汗が出る。
まさか、神界に置いてきたとか、そんなことないよな……!?
もう一度、周囲を見渡すが、礼拝堂の中は俺の他には人の気配はなく、静寂に包まれていて、ただただ蝋燭の明かりが揺れている他には動くものはなかった。
「これは、まさか、本当に神界に置いてきてしまったのでは……。クソッ、こんなことになるならしっかり手を繋いでいれば良かった! あの子はまだゼロ歳の子供なんだぞ!? 俺の馬鹿野郎っ!」
思わず神聖な礼拝堂の中でひとり悪態をついてしまうが、そんなことをしても何も解決しない。結局は、行動あるのみ、なのだ。
そう考えた俺は世界神に覚えたての神話通信をして確認することにした。
確か、世界神の番号は……。っと、携帯電話やスマホのようにアドレス帳が無いのは面倒だなぁ……。神様たちはどうしてるんだろう?)」
アイテムボックスから取り出した世界神の神話通信の番号を見ながら、そんなことを思いつつ神力を使う。すると、聞いたことがない、だけど、心が穏やかになるような、そんなメロディが聴こえてきた。
なるほど、これが世界神の待ち受けメロディか……。何だか気持ちが落ち着くな。
そんなことを考えている内にメロディがぷつりと止まり、世界神の鈴を転がすような声が聞こえてきた。
『わっ、ハルト様から早速神話通信をして下さるなんて! 私、凄く嬉しいです! それで、何かございましたか?』
先ほどまで会って話していたはずの世界神だったが、思いの外、俺からの神話通信に喜んでいるようだった。いや、今はそれどころでは無い。セラフィが神界に取り残されているのなら、すぐにでも迎えに行こうと思って連絡をしたのだ。
「世界神様、セラフィが! うちのセラフィが神殿に、こちらの世界に帰ってきていません! もしかして、そちらの神界に一人取り残されていたりしていないでしょうか!?」
焦る気持ちが全面に出てしまい、自分でも随分早口で捲し立ててしまったとあとから反省する……。それに、口に出さなくても思考で伝わる神話通信なのに、つい言葉にしてしまう。だが、我が子のようなセラフィのことだから、そうなってしまうのも仕方のないことだろう。
『ハルト様、セラフィのことなら問題ありませんよ。セラフィはそのままでは神界からマギシュエルデに戻ることができませんので、ハルト様のアイテムボックスの中に戻しています。私の眷族であるハルト様とハルト様の従者であるセラフィなら、私の力でお二人の能力に干渉することができますからね!』
世界神の言葉にホッとする自分と、驚愕する自分がいた。
前者は、当然ながらセラフィが無事にこちらの世界、マギシュエルデに戻ってきている、それも俺のアイテムボックスの中にいるということを教えてもらったことによるものだ。
後者は……。俺とセラフィの能力に干渉できるという世界神の言葉によるものだ。それは、もしかして俺たちを、俺たちの意思に関係なく操れたりするものなのだろうか。そう考えると何とも薄ら寒いものを感じるのだが。
『といっても、それほど強力なものでもありませんので、ハルト様やセラフィの意思や行動の全てを意のままに操るなんてことはできませんけどね。って、ハルト様、聞いてますか?』
『えぇ、聞いています。……世界神様が大変恐ろしい方であると、改めて認識しました』
『ちょ、ちょっと待って下さい! それはどういうことですか!? なんでそうなるんですか!? 別に私はハルト様やセラフィをどうこうするつもりなんてありませんよ!?』
『でも、世界神様は前科がありますし……』
『ぜ、前科っ!?』
『セラフィのこと、っていうか、ついさっきのことじゃないですか! とにかく、本当に勝手な行動だけは……。いえ、行動に移る前に一度私か、輪廻神または機会神に必ず相談して下さい。本当に、お願いしますよ?』
『うぅっ……。眷族であるハルト様に叱られてしまいました……』
『それだけ世界神様は強い能力をお持ちであるということです。私やセラフィから見てもそう感じるのですから、このマギシュエルデの者が見れば余計にそう感じることでしょう。ですから、世界神様には特に、うちの屋敷にこられた際には節度ある行動をお願いしたいと思います』
何となく凹んだような声色で返事をする世界神に俺は諭すように語り掛けた。ただ、これではどっちが上司でどっちが部下なんだか分からないけれど……。一応、フォロー(?)もしておく。
『私は世界神様の眷族ですが、眷族であるからこそ、世界神様が立派に世界神としてのお役目を全うできるようにと思っておりますので、先ほどのようなことを申し上げた次第です。どうかお許し下さい』
『ありがとうございます。ハルト様の言葉は、何だか私が世界神として必要な振る舞いを教えて下さっているように感じます……。今日のことを踏まえて、これからはしっかり考えて、ハルト様に相談してから行動しようと思います!』
世界神の声色が元の明るいものに戻ったようだ。まぁ、これからは一言相談してもらえれば助かるんだけど……。
そういえば、世界神はこれまで眷族がおらず、ずっと一人でマギシュエルデの管理をしてきたのだ。そんな中、突然部下ができたのだから、戸惑うのも当然だろう。これからはそういう面も踏まえてサポートして行かないといけないかもしれない。まぁ、それは追々対応して行くことにしよう。
『さて、ひとまず、確認したいことは分かりました。世界神様、お忙しいところ失礼致しました。次は私の屋敷でお会いできるのを楽しみにしています』
『ハルト様もご連絡ありがとうございました。私もまたお会いできるのを楽しみにしていますね!』
神話通信を終えた俺は、セラフィの無事を世界神から伝えられたことにホッとしていた。本当に一言説明してくれれば良かったのに……。そんな愚痴めいたことを心の中で呟きながらも、早速アイテムボックスからセラフィを呼び出した。
「アイテムボックス『セラフィ』!」
そう言うと、セラフィが確かにアイテムボックスから出てきたのを感じる。
「主様! ご無事で何よりです!」
「良かった! 世界神様の言う通り、セラフィはアイテムボックスに戻されていたんだね」
「はい、主様がマギシュエルデに戻される際に、何時の間にかお祖母様、いえ、世界神様の御業により主様のアイテムボックスの中に戻されていたようです。正直に申しますと、突然のことで驚いたのですが、世界神様の御力を感じることができていたので、問題ないと判断した次第です。それにしても、主様の母上が神様だったとは驚きました……」
「お疲れ様、セラフィ。それから、私の出自と世界神様たちのことだけど、今はまだ皆には秘密だよ。屋敷に世界神様たちが来られたときに話そうと思うんだ」
「承知致しました、主様!」
とにかく、久々に会うことになった世界神への報告というか、神様たちとの打ち合わせもこれでようやく終わった。こちらが確認したかったことはほとんどできなかったわけだが。
あとは屋敷が神域に決まったという報告を待つだけだ。それにしても、うちの屋敷が神域などという特別な場所になるかもしれないとは、正直驚いたというかなんというか。
「それにしても神様の降臨か……。これからどうなることやら」
ふぅ、と深く息を吐き出すと、俺はセラフィと一緒に礼拝堂をあとにして、外で待つアメリアとカミラの元へと向かった。
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