出張所の意味と開設予定地
俺は先ほど輪廻神から聞いた『出張所』というものがどういう意味なのかを確認するため、聞き返した。
正直に言うとあんまりピンとこなかったのもある。出張所も何も、俺は既にマギシュエルデに転生しているのだから。
「それで、出張所ってつまりどういうことなんですか?」
「うむ。その名の通り、神界に設立した世界管理支援室の出先機関と考えてくれれば良い。ただし、君の生前の知識やマギシュエルデでいうところの意味合いとは少し異なる点がある。それは、その場所が『神域』となるということだ」
「質問ばかりで申し訳ありませんが、『神域』ってどういうことですか?」
「簡単に説明すると『神が存在する場所』となるが、具体的には我々のいる神界と繋がった出入り口のようなもの、と言えば良いかな。つまり、マギシュエルデ内に出張所を設けることで我々が直接彼の地に降り立つことができる、ということだ」
「えぇっ!? 神様が世界に降臨できる場所ですか!」
それは確かに凄いことだ。
世界神は、管理するその世界に対して直接干渉することができない。通常は神界から世界を見守り、偶に神力を使って奇跡を起こす程度。それでも手が足りない場合は眷族を世界に送り込むが、直接的な接触は避けている。
それが、神様が直接、世界に降臨することができる。つまり、神様が直接世界に、人間に関わることができる、ということになる。だけど、本当にそんなことをして果たして問題無いのだろうか?
「なるほど、『神が存在する場所』ですか……。それは確かに凄いですけど、神様が世界に干渉されても問題ないのでしょうか?」
「うむ、もっともな質問だ。その答えだが、幾つかルールさえ守っていれば基本的には問題ない、というのが現在の神界の見解だな」
ほほう、それは初めて知った。でも、それだと神の威光が強くなり過ぎてその世界に住む生物は神を崇め過ぎることにならないだろうか。
「朝比奈君の疑問についてだが、そういったことが起こらないようにするためにルールがある。まずは、神界内で『出張所(神域)』へ向かうには、創造神の許可がなければならない。そのために申請書の提出が必要なのだが、ほとんどの場合はこの時点で普通は許可が得られないのだが……。まぁ、この世界管理支援室自体が世界神のために新設された部署だからな、正当な理由があれば問題ないだろう」
なるほど、創造神に出張申請書を提出する必要があるわけか。だが、輪廻神の言う通り、世界管理支援室からの申請であれば世界神に激甘の創造神のことだ。きっと許可を出すことになるだろう。
「また、神域から世界に降り立つ際には、自身が神として人々に悟られないように、自身の神力を抑えてから向かうようにしている。そうだな、朝比奈君の従者より多少強い程度、と理解してもらえれば良い」
セラフィより強い程度って、それ世界最強レベルだと思うのだが……。でも、それ位の強さならば身の安全は確保できる、とも言えるのか。
「また、『神域外では神力を極力使用しない』というルールを守るだけで、ある程度は世界への影響は防ぐことができる。それに、基本的に皆はあまり目立ちたがらないから、そのルールが守られているというのもあるが……」
なるほど、それなら確かに不要な神降臨イベントを引き起こすことは少なそうだけど……。一つ気になったことが頭に浮かんだので輪廻神に問い掛ける。
「神様が世界に降り立つことができるのなら、眷族だけではなく他の神様にも試練を乗り越える手伝いをお願いできそうに思ったんですが……。確か、駄目なんでしたっけ?」
「そうだ。世界を管理することは世界神の務め。そして、世界に訪れる試練も世界神とその眷族が対応せねばならない。我々のような世界の管理に携わっていない者は助言をする程度しか協力はできないのだ」
やっぱり駄目なんだなぁ。でも、助言をしてもらえるだけでも随分助かるような気がする。眷族が俺一人の状況だし、神界のことや試練のこと、それに世界神のことを相談できる相手がいるというのは助かる。
「まぁ、それでも色々と相談して助言頂けるだけでもありがたいですね。正直、相談相手は欲しかったので助かります」
そうなのだ。自分の悩みを同じレベルやより上のレベルで相談できる相手は非常に貴重なのだ。生前それを嫌というほど感じた俺としては、輪廻神の話を聞いて少しだけ気持ちが楽になった。
「それで、お話にあった『出張所』、神域になる場所はどの辺りになるんでしょうか? 場所によっては私も今の拠点から引っ越しを考えないといけませんので、既に決まっているようでしたら教えて頂きたいのですが」
そう伝えると、輪廻神と機会神は揃って口を開いた。
「「朝比奈さん(朝比奈君)の屋敷が良いです!!」」
「えぇっ!? うちの屋敷ですか?」
「その通りだ。朝比奈君の屋敷と敷地内について確認させてもらったが、セキュリティ的にも神界の基準と近い。あそこなら我々も神域として上(創造神)に説明し易い」
「それに、朝比奈さんとも連絡が取り易いですし、朝比奈さんのお仲間ともお話する機会がありそうですから」
「わぁっ、ハルト様のお仲間というとあの三人の娘ですね! 私もお話ししたいと思っていたところなのです。これは楽しみですね!」
三者三様に俺の屋敷の敷地を神域にすることを推す声が上がるのだが、マギシュエルデと神界が繋がる場所になるなんて、何か問題になることは無いだろうか……。例えば、マギシュエルデから神界に誤って入ってしまう様な、所謂『神隠し』の様なことが起こらないか、とか。
気になって輪廻神たちに聞いてみたが、答えは『NO』、問題無いとのことだった。機会神が教えてくれたのだが、神域から神界へは神界から神域へきた者のみ戻ることができ、マギシュエルデのような世界に住む者は神域から神界へ行くことはできないらしい。
「そういうわけですから、ご心配されているような問題は起こりませんよ」
そう爽やかに機会神から返されると何となく納得してしまう。
「まぁ、トラブルの元になるようなことがなければ、うちの敷地を提供することも吝かではないですけれども、本当に良いんですか? 屋敷の家令や使用人とも会うことになりますが……」
「「「問題ありません!(問題ない)(問題ないです!)」」」
「どちらにせよ、何れは会って話をしなければならないだろう」
「その時は私や世界神もご一緒させて頂きますね!」
「あぁ、本当に楽しみです! ハルト様、ご紹介、よろしくお願いしますね!」
「はぁ……。そういうことでしたら、うちの屋敷を使って頂いても良いのかなぁ? 因みに、屋敷はアルターヴァルト王国の王都にあるんですが、その辺りも問題無いでしょうか? その、特定の国や地域に肩入れするようなことは控えないといけないとか、そういったルールはありませんか?」
「「「問題ありません!(問題ない)(問題ないです!)」」」
「アルターヴァルト王国の王都アルトビューゲルはマギシュエルデの中央に位置し、周りの大陸にも目端が効くだろう。世界に何かが起こっても情報を集め易いからな、こちらからは問題ないと言える」
「輪廻神の言う通りです。それに、ハルト様のお屋敷は大変快適に創られていることは事前に把握しております! そのようなお屋敷はマギシュエルデには唯一無二。マギシュエルデで快適に暮らす、いえ試練に立ち向かうには、ハルト様の支援無しでは成し得ないことです! それと、わざわざ離れた場所を神域に指定しても移動が面倒なだけですし」
「えぇ、確かに輪廻神や世界神の言う通りです。マギシュエルデにおいて、朝比奈さんの屋敷ほど快適に生活出来る施設はありませんから。まぁ、それはともかく。朝比奈さんが心配されているような問題は特にありません。ただ『神界側の立場としては』という但し書きが必要かもしれませんが。つまり、どう受け取るかは人間たち次第、ということです」
そう機会神が話すと輪廻神と世界神の二人も頷いた。
なるほど、神様たちは何処に現れようが関係無いが、それをどう感じてどう受け止めるのかは人次第か……。
ん? でも、その場所がうちの屋敷になるってことはめちゃくちゃ王国、ひいては俺にトラブルが降り掛かってきそうなんだけど……。
「そこまで心配されなくても大丈夫ですよ! ハルト様のお屋敷に降臨したことが周りにバレなければ問題ありません!」
世界神はたわわに実った二つの果実を揺らしながら、胸を張って答えてくれたのだが、それってとんでもなく大きなフラグを立てたようにしか聞こえないのだが……。
とはいえ、こればかりは実際に世界神たちがうちの屋敷にきてみないと、どういうことが起こるかは分からないわけだし、今考えても仕方がない。
ひとまず、世界神たちの希望通り、うちの屋敷を出張所(神域)にすることを認めることにした。
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