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ハーゲンとコメの相談

 ラルフたちとの顔合わせが無事に終わり、俺はアメリアとカミラの三人でイザークと一緒に城門まで戻ることになった。


 これまで俺はイザークの後ろを付いて行く形で王城内を移動していたのだが、どうやら男爵になったことからかイザークが俺の隣を歩くようになった。


 イザークに聞くと、周りの者にも立ち位置によって貴族としての立場を知らしめる意味があるらしい。俺のような子供は特にその必要があるのだそうだが、どちらかというと、不敬な子供がいる、と勘違いされそうだけど……。


 だが、既に王国から王国の各貴族家や王城内の騎士や兵士、それに王城に勤める使用人たちには、俺が男爵に陞爵されたことが周知されているそうで、これまでもリーンハルトの客人として丁寧に扱われていたが、今はそれ以上に恭しく接せられている。これが貴族に対する扱いということなのだろう、と思う。


 そんなことに感心しているうちに、無事城門まで辿り着いた俺たちは、イザークと別れて王城から帰路に着くことになった。


「アメリアさん、カミラさん。今日はお疲れ様でした。ただの使用人との顔合わせだったはずが、男爵に陞爵なんて大変なことになってしまいましたね。ですが、私がそれで何か変わるわけでもありませんし、これまで通り、よろしくお願いします」


 そう言って二人に頭を下げた。


 今回は完全に俺のせいで二人に迷惑を掛けてしまった。それに、彼女たちを勝手にアサヒナ男爵家の家臣にしてしまったのだ。


「別に気にしなくてもいいよ。それにしてもハルトが男爵様とはねぇ。おっと、アサヒナ様って言った方が良いのかな?」


「アサヒナ男爵様、今日は金色の小麦亭でお祝いのご馳走!」


 からかうようにアメリアがそう話すとカミラも続ける。二人とも楽しそうにしているが、本当に良かったのだろうか?


「気にすることはないさ。というか、ハルト。平民からすれば、男爵家の家臣に取り立てられるなんて滅多に無い、とても凄いことなんだぞ!? 喜ぶことはあっても迷惑なことなんてないさ!」


「それにハルトの家臣なら、ハルトといつも一緒。この前、魔物の森で話した通り、私たちがハルトを守る!」


「そうそう、あの時は「ハルトを貴族から守る」って言ってたのに、ハルト自身が貴族になっちゃうなんてなぁ。本当にハルトと一緒にいると退屈しないよ!」


 そんなことを言ってカラカラとアメリアが笑う。それに釣られてカミラもクスクスと笑い合う。そんな二人を見ていると、この二人が仲間で本当に良かったと、しみじみと感じた。


「アメリアさん、カミラさん。本当に、本当にありがとうございます! カミラさんの言う通り、今日は金色の小麦亭でご馳走にしましょう!」


 そんなことを話しながら、屋敷に戻る前に一度ハーゲンの屋敷を訪ねることにした。もちろん、コメを入手することができないか相談するためだった。



 暫くすると見覚えのある船が見えてくる。プライス邸だ。


 ハーゲンの屋敷へ着くと、早速門番に声を掛ける。すると、慌てたように門番が屋敷に連絡を取り、使用人とともに戻ってきた。話を聞くとハーゲンは在宅のようで、直ぐに会ってくれるとのことだった。


 使用人に連れられて応接室に通されると、直ぐにドカドカという足音が足早に近付いて来る。足音が一度止まると、部屋の扉が勢い良く開いた。


 だが、以前訪れた時とは違い、少しだけ大人しいように思う。


「これは、アサヒナ様。この度は男爵を陞爵されたそうで、誠におめでとうございます! それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「ハーゲンさん、ありがとうございます。それにしても、情報が早いですね」


「それはもう、商人にとって情報は命ですからな。王国に新たな貴族家が立ち上がった、それだけでも大変なことなのに、更には『最年少での陞爵』『成人前の錬金術師』『二人の王子の御用錬金術師』ということもあって、商人たちの間でも大変注目されておりますぞ!」


 なるほど、確かに久々の貴族家誕生の情報は、既に商人たちのネットワークにより速やかに共有されたようだ。


 新たな貴族家が立ち上がると、それに伴い屋敷の運営に必要な食料や物資、その他貴族の求めに応じて様々な物を仕入れるという、出入りの商人を決めることが多いそうだ。その為、どこの商人が新たな貴族家の出入り商人となるのか、虎視眈々とその座を狙っているのだそうな。


「なるほど。それにしても、ハーゲンさんから『アサヒナ様』などと言われると、何だかすごく違和感がありますね……。これまで通り、『ハルト』と呼んでもらえないですか?」


「よ、よろしいのですか?」


「はい。爵位は頂きましたが、国王陛下からもこれまで通り錬金術師と冒険者を続けて良いと言われましたし、私も貴族になったからと言って何か変わるものでもありませんし。これまで通り接して頂ける方が嬉しいです」


「そうか! アサヒナ様、いやハルトにそう言ってもらえるなら、ありがたく言葉遣いを崩させてもらおう! それで、今日は一体どうしたんだ? どうせハルトのことだ、男爵になった報告だけでは無いんだろう?」


 ようやく普段通りの口調に戻ったハーゲンに早速要件を伝える。そう、コメの入手が可能かどうかである。


「……なるほど、コメか。まさか、ハルトがコメを知っているとは思わなかったが……。うむ、北の大陸まで船での買い付けとなる。少し時間は掛かるが入手できるだろう。それで、どれくらい欲しいんだ?」


「おお、入手できるんですね! それでは、ひとまず籾が付いた状態の物を毎月百キロ……。つまり……」


 そういえば、この世界の重さの単位について考えたことが無かった。鑑定眼では重さはキログラムで表示されているが、それが通じるか分からなかった。色々考えている風を装いながら応接室の中に視線を漂わせると、何ともちょうど良さそうな壺というか大き目の花瓶を見つけ、これだ! と閃いた。


「あの壺に十杯分くらいをお願いします」


「ふぅむ、あの壺なら二袋分くらいか。コメは輸送費を含めて、一袋金貨二枚、二袋で金貨四枚になるが良いかな?」


 ふむ。コメ自体の価格は分からないが、生前の記憶では米の価格は下がり続けていて玄米の状態で一俵(六十キロ)辺り一万円程度だったと憶えている。そこから考えると、百キロで金貨四枚つまり四十万円という非常に高価になるわけだが、俺のコメへの情熱はその程度で衰えるものではない。


「はい、それでお願いします!」


 こうして俺はコメを手に入れるルートの開拓に成功した。


 まぁ、まだ手に入ったわけでもないし、食べたわけでもないのだが、不思議と満足感で満たされたのを感じる。魔帝国のコメなるものが俺の知っている米と同じかどうかは分からないが、それは実際に手にして口にするまでの楽しみというものだ。


「因みに、どれ位で手に入りそうですか?」


「そうだな、三月ほどは掛かるだろう。確か、ハルトはその頃にはリーンハルト殿下とパトリック殿下と一緒にヴェスティアに行くんだろう? 心配しなくとも、ハルトの屋敷の者に預けておくよ」


 そう。三月後には俺はリーンハルトとパトリックと一緒にヴェスティア獣王国へ付いていくことになっていたのだ。コメとの感動の出会いは、ヴェスティア獣王国から帰ってきた後になりそうだな。



 こうしてハーゲンからコメを買い付ける契約を結んだ俺たちは再び帰路に着くことになった。ヘルミーナたちに色々と報告しなければならないことが増えたので、足早に屋敷を目指す。


 それに今日から店舗の方にビアンカとカイが引っ越してきているはずだ。一度店舗の方に顔を出した方が良いかもしれない。


 今日は色々あり過ぎたけど、ちゃんと皆に報告しないとな。


 歩きながら皆に報告する内容を頭の中で整理しているうちに、気が付けば、いつの間にか屋敷の前まで帰ってきたのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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