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ウォーレン:エルフの錬金術師との出会い(後編)

 ふむ。ハルト殿の報酬について、一つ、妙案を思いついたかもしれません。


 これほどまでに素晴らしい錬金術の腕前を持つ少年です。きっと、これからの王国の発展に必要となる人材でしょう。そのような優秀な者をみすみす在野に放っておく手はありません。


 もし、他国に去られてしまうようなことがあれば、王国にとって大きな損失であるだけでなく、他国から王国には人の見る目がないと嘲笑されてしまうことでしょう。


 また、聞けばハルト殿は最近王都にやってきたばかりであり、もちろん王国所属の人間ではありません。まぁ、妖精族のエルフですから、当然ですね。ですから、ハルト殿にはこの王国に落ち着いてもらうためにも、それなりの地位を用意しなければならないでしょう。そう、つまり『爵位』を与えることで、この王国に所属して頂こうと、そう考えたのです。


 これには、国王陛下であるゴットフリートの許可も要りますし、この王国でも久方ぶりの貴族家の誕生です。ですから、もちろん私のほうでも少し準備と申しますか、根回しは必要になるのですが……。


 しかし、それほど大きな問題はないでしょう。宰相である私と国王陛下であるゴットフリートが認めるといえば異論も抑えられるでしょうし、それに今回はリーンハルト殿下とパトリック殿下にも、賛同して頂けると、そう確信しておりますので。


 さて、エルフの少年の言葉を受けて、ゴットフリートとその息子たちにも釘を差しながら、まずは獣王国との友好の証となる贈答品を創ってくれたハルト殿に礼を伝えました。


「先ほどもハルト殿にはお伝えしたが、改めて、この王国と獣王国の友好の証となる魔導具を制作してくれたことについて、アルターヴァルト王国を代表して、ハルト・アサヒナ殿に感謝致します」


 すると、私だけでなく、ゴットフリートや、リーンハルト殿下とパトリック殿下の二人の王子、そして、その場にいたドミニクやイザークたちまで同時に頭を下げました。


 まさか、今の今まで、ゴットフリートたちはハルト殿に礼すら伝えていなかったのではないでしょうか!? そう考えると、本当に頭がくらくらとする思いです……。後で聞いたところ、しっかりとハルト殿を褒めて讃えられたそうですが、本当にこのときは肝を冷やしました。


 さて、閑話休題。これより本題に入ります。そう、つまりは今回のハルト殿が創られた獣王国への贈答品である『時を計る魔導具』の報酬を与えなければなりませんでした。しかし、このままですと、問題があります。ですから、私はゴットフリートに進言することにしたのです。


「しかしながら、陛下。今回のハルト殿への依頼の件、少々問題がございますぞ……」


「う、うむ。そのことでウォーレンに相談したかったのだ。ハルトはリーンハルトとパトリックの御用錬金術師。国王である私から直接依頼をするというのは筋が違う。それに私の御用錬金術師に対して非礼であることもよく分かっておるのだ……。ただ、今回はハルトがその場で魔導具を作り始めたからな、私としてもどうしようも無かったのだ……」


 ほう、予め依頼して作られたものではなく、依頼したその場でハルト殿はこのような物を作り上げたというのですか……。ゴットフリートだけでなく、リーンハルト殿下とパトリック殿下のご様子からも、恐らくそれは真実なのでしょう。なるほど、即興で……。


 しかし、それならば、尚のこと評価をするべきではあるのですが、ただ、今の話を聞けば余計に、ハルト殿には申し訳ないことをしたと、王国として謝罪したくなりました……。


 本来、このような、重要な贈答品を即興で作らせるようなことなどありえません。


 基本的に他国への贈答品にどのようなものを用意するかは、宰相である私が指名する外交担当者の仕事です。担当者が贈答品の候補を上げて、その中から私が選び、また担当者が今度は発注先となる業者の候補を選定して、と幾つもの手順があるのです。


 それを飛ばして王族が勝手に決めるなどということがあっては、多くの部門に迷惑が掛かりますし、そもそも、そのようなことが続けば王族に対する信頼も薄れるというもの。さらに、作らせたものが程度の悪いものだった場合には目も当てられません。そういう意味では、素晴らしい贈答品を作られて、王族の名誉を守って下さったハルト殿に、どのような報酬を与えるべきか、私の心は固まりつつありました。


「陛下、それにリーンハルト殿下とパトリック殿下も。面白半分でハルト殿に迷惑を掛けてはなりませんぞ」


「「「は、はいっ!」」」


「ふむ。それで、今回の件についてですが。陛下からの直接的な依頼では無く、国王陛下からリーンハルト殿下とパトリック殿下に勅命を出し、それに対してお二人の殿下が応える為にハルト殿に依頼した、とそのように理由を付けましょう」


「「おおっ! 流石はウォーレンだ(です)」」


「うむ、ウォーレンの言う通りにしよう」


「それから、ハルト殿の魔導具について確認させて頂きましたが、その功績は正直申し上げて並の褒美では済みませぬな。一つずつお答え致しますが、まず王族からの依頼とはいえ、自らの錬金術を人前で披露することなど、例え御用錬金術師であっても、普通はありえませんな。よほどハルト殿はリーンハルト殿下とパトリック殿下のことを信頼されておられるのでしょう」


 まずは、ハルト殿を褒め称える。それも、一つで済ませるつもりはありません。この魔導具には少なくともその他に二つの優れた点があったのです。


「二つ目に、王国と獣王国との友好を示す贈答品を用意するという、国家として非常に重要な依頼を国王陛下から直々に依頼をされ、それを一度目の献上で国王陛下がご納得される品を作り上げるとは……。正直、このようなことは私が宰相に就いてから初めてのことです」


 そう、急な依頼とはいえ、人前で秘匿の術ともいえる錬金術を見せ、更にはそれが王国からの依頼、それも獣王国への贈答品という重要な依頼であったにも関わらず、一度目の献上で依頼を達成するとは、通常ではありえないことです。普通は、依頼に対して、発注者である我々が何度も修正の依頼を出していき、完成となるのですが……。このように我々の要求にあった、完成度の高い魔導具をいきなり作られるとは思ってもみなかったことです。


「そして、最後にですが、この魔導具は『現在、この世に存在しない時を計る魔導具』という全く新しい物であり、この魔導具に施された細工も申し分ありません。つまり、王国の中でも国宝と言える代物なのです。それらの点を加味致しますと……。もし、この魔導具が市場に出た場合、確実に『白金板三枚』以上で取り引きされるでしょうな」


 そう、このような、この世界に現存しないだろう魔導具、そして遺物でもなく、この王国の錬金術師が生み出した全く新たな魔導具を、如何にして評価したものかと思っていたのだが……。それでも、あらゆるこの王国に存在する魔導具とその価格、そしてこの新たな時を計る魔導具の価値と見事な装飾、それらを合わせた貴重性を鑑みると、この魔導具一つで白金板三枚、二つで白金板六枚は超えると試算したのです。


「「「し、白金板、三枚!?」」」


 ハルト殿が驚いたように声を上げます。錬金術師の作り出す魔導具のことを知っていれば、それほどの価値があるものも存在するということくらい常識ではあるのですが、恐らく彼女らは、錬金術師や魔導具とはあまり縁がないのでしょう。私は説明を続けることにします。


「白金板三枚以上の価値がある国宝級の魔導具が二つ……。このような成果を出されたハルト殿に対して、王国としてどのような褒美を与えるべきか……。陛下」


「うむ……。まさかハルトがここまでの代物を用意するとは思わなかったのでな、まだ考えがまとまっておらんのだが……。まずは、依頼に対する報酬だが、当初予定しておった予算は白金貨五枚であったか」


「左様でございます。ですが、陛下……」


「うむ、白金板三枚以上の価値がある魔導具を二つも献上した報酬としては少ないであろうな。それに……」


「はい。王家、ひいては王国の威信にも関わって参りますな。白金板六枚を超えるほどの成果に対して、王国は白金貨五枚しか出せないほど困窮しているのではないか、または王家は御用錬金術師に対して正当な評価をせず蔑ろにしている、などといった話が巷に拡がる可能性がございます」


 そう、その通りなのです。


 我々王国や王族はその価値に見合った価格で物を仕入れなければならないところが、一般人と異なるところでしょうか。


 普通の商人であれば、物を安く仕入れることができれば褒められるのでしょうが、王国、そして王族がそんなことをすれば非難の的となるのです。つまり、王国や王家が正当な評価を与えなかったと……。


 もちろん、その逆もあります。王国や王家が特定の者に対して便宜を図っているなど、献上される物の価値に見合わない評価をつけようものなら、国民から総スカンをくらい、時と場合によっては、国民の反乱、そして王家の滅亡といった事態にも繋がりかねません。つまり、王家や王国は国民の成し遂げたその成果に対して、一定の評価をせねばならない、というわけなのです。


 そのことを踏まえてハルト殿に褒美のお話を伝えたのですが……。


「国王陛下やウォーレン様、そして王国のご都合も考えずにこのような物を創ってしまい、誠に申し訳ございません……。これらは私のほうで回収し、すぐに別の物を御用意致します……」


 ハルト殿は、とんでもないことを仰られました。


 せっかく、白金板六枚はくだらないという評価を与えた魔導具を、あっさりと自ら回収し、そして全く別のものに差し替える、そんなことを言われたのです……。いやいやいやいや、そんなことを許すわけには参りません! 


「な、何を言うのだ!? この魔導具自体は本当に素晴らしい物なのだぞ!? これは其方が謝ることなどないのだ。全ては王家、いや王国が臣民の能力を見誤っていたことが問題なのだ。アルターヴァルト王国にはハルトのような優れた錬金術師がいる。そしてハルトはリーンハルトとパトリックの御用錬金術師である。これを喜ばずしてどうする? 臣民は王国の宝なのだからな! で、あればこそだ。その臣民への報酬を出し惜しみするようなことはあってはならぬのだ。ウォーレンよ、ハルトへの報酬は少なくとも白金板以上にするぞ!」


 幸いなことに、ゴットフリートの考えは私と同じのようで、ハルト殿の功績とその報酬については多大なものであるという意見です。そして、報酬についても、白金板以上という評価です。これについては、私も異論ありませんでした。


 さて、いろいろとありましたが、今回の依頼はリーンハルト殿下とパトリック殿下から、御二人の御用錬金術師であるハルト殿に依頼を行ったこととし、ハルト殿に対する報酬は白金板一枚とすることになりました。まぁ、流石にゴットフリートには御用錬金術師であるヴェルナーがいる手前、国王陛下自ら他の錬金術師に依頼を出した、というのはよろしくありませんでしたので。


 ふむ、そろそろでしょうか。


 私はこの度のハルト殿への報酬として、最後にあのアイデアを実行に移すことに致しました。もちろん、既にゴットフリートにはこのことを伝えています。


 といっても、ハルト殿の目の前ですから言葉ではなくメモを手渡しただけですが。『褒美の一つとして、ハルト殿に爵位を与えてはどうか?』そう書いたメモに目を通したゴットフリートの顔はまるで、面白いいたずらを思いついた少年のようでした。もしかすると、私もゴットフリートと同じような顔になっていたのでは……。


・

・

・


「うむ。では、ウォーレン。そのように手配してくれ。しかし、そうなるとハルトへの褒美もリーンハルトとパトリックから、と言うことになるか」


 さて、ここからが本番です。ゴットフリートの言葉に何気なく相槌を打ちながらも、私は常にハルト殿の様子を窺っておりました。ですが、今のご様子ならば上手く誘導できるでしょう。さぁ、ハルト殿に新たな地位を、立場を与えるときがきたのです!


「左様でございますな。さて、話が元に戻りますが、アサヒナ殿への報酬は白金板一枚、それからアサヒナ殿にはその功績を称えて、爵位を授与されてはいかがでしょうか?」


 我ながら完璧なタイミングです! そこへ間髪入れずにゴットフリートが乗ってきます。


「ふむ、それは良い案だな! では、ハルトには騎士爵を、と思ったが今回の褒美には釣り合わぬな……。よし、準男爵、いや男爵の爵位を与えることとするか」


 やりました! これでハルト殿は今日から王国の新たな貴族です!


「はは、ではそのように手配致します」


 心のなかで思わずガッツポーズをしています。この優れたエルフの少年を我ら王国貴族の仲間に迎え入れることができたことに、何とも言えない達成感を感じます。もっとも、ハルト殿ご本人は未だこの状況に追いついていないご様子ではありましたが……。


 さて、早速陞爵の式典を行わなければ。これから忙しくなりますね。それに、貴族となったハルト殿がどのようなご活躍をされるのか、今から楽しみです。


 その後、ハルト殿は私たちの想像を遥かに超えた活躍をされることとなり、ハルト殿を王国貴族として迎え入れたことが大いに評価され、私は名宰相としてゴットフリートと共に語られることになるのですが、それはまた別のお話です。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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