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営業時間と店休日

 アイテムボックスから取り出したカードパックをベンノたちに開封させると、それぞれ種族カードと命令カードを手にしたようだ。遊技マットの上にベンノが手に入れた種族カードを置きながら、リーンハルトたちやハーゲンに話した説明を進めていった。



 その結果、四人は皆驚きつつも、説明後の反応はそれぞれで異なり、その様子を見ていて俺も面白かった。


 ベンノはハーゲンのようにカードパックと遊技マット、それに遊技台の売り方に興味を示し、エルネスティーネは遊技マットの上で繰り広げられていた四種族の冒険者の戦いを興味深そうに見つめていたし、ビアンカとカイはどうやってカードから冒険者が出てきたのか気になっているようで、マットの上に映し出された冒険者の映像に触れようとしたり、マットを引っくり返したりとこちらも興味津々のようだった。


「さて、『神の試練』のカードパックと遊技マット、遊技台の価格は先ほど伝えた通りです。遊技台はこの店内にも二台ほど置く予定ですが、特にそれで儲けを出そうとしていませんので無料または少額で遊べるようにしようと考えています。もちろん、お一人毎に時間制限は設定させて頂くことになりますが。そして、恐らく多くの人が毎日通って下さることになると思います。それは商売をする側としてはチャンス、ですよね? そこで、皆さんにはこの店舗内でどんな商売ができそうか、考えて頂きたいのです。見事アイデアを採用された人には金一封、まぁ少なくとも金貨一枚以上を進呈しましょう。内容次第ではそれ以上の金額も検討したいと思います。まぁ、報奨が無いとやる気も湧かないですからね」


「「「「……!!!」」」」


 どうやら、俺の言葉に、というか報酬に対して目の色を変えて、いや、やる気を出してくれているようだ。皆の様子を少し見ていたが、早速色々と考えてくれているようで俺も嬉しい。


 その後、皆が生活する予定の『従業員寮』について説明する為、四人と一緒に三階に移動して寮の部屋の間取りについても説明することにした。


「さて、この三階が皆さんの従業員寮になります。ベンノたちに一人ずつ、それぞれのお部屋を用意しています」


 そう言いながら、とりあえずベンノが住む予定の部屋に皆で入り、間取りや設備を確認してもらう。


「それでは、皆さんがお住まいになる予定のこちらの部屋に入って頂き、基本的な間取りについてご確認下さい。この通り、大変申し訳ないのですが、皆さんのお部屋にはトイレとお風呂、それにキッチンが無く、これらは共同の設備となっております。ですので、それらは後でご紹介しますね」


 部屋の中には一応、簡単な机と椅子、それにベッドを設けていたが、気に入ってくれるのかが物凄く気がかりだった。一応、生前の知識を元にワンルームマンション又はアパート程度の設備にはしようと思っていたのだが……。


「「「「…………」」」」


 どうも、先ほどから四人の反応が薄い。


 もしかして、他所様よりも待遇が良くないのか……? そんなことを考えながら、必死に部屋の機能を説明した後、共有部分のトイレと洗浄設備、お風呂というか、大浴場とその機能、そして、ダイニングキッチンについてできる限り詳しく説明していったのだが……。


「「「「……………………」」」」


「ベンノ、皆何も言わないけど、何か気になるところはない?」


「はい……あ、いえ……。そうですね、住み込みで働くということは聞いていたのですが、大部屋での生活を想像しておりました。まさか、従業員一人一人に部屋が与えられるとは思っておりませんでしたので……。それもこのように綺麗で快適な部屋は見たことがありませんので、皆も驚いているのではないでしょうか?」


「なるほど……。他所の寮がどんなものか見たことないから分からないけど、うちはこれが標準だからね。店の裏にある屋敷も似たような造りだし」


 そんなことをベンノと話していると、ビアンカとカイの二人が俺に話し掛けてきた。


「あ、あの。アサヒナ様には申し訳ないのですが、私たちは二人で一つのお部屋に住まわせて頂けますか?」


「これまで姉と二人暮らしだったので、それに急に環境が変わって、少し不安で……」


 そういえば、二人は王都から離れた村の出身で、今回村から離れて王都にやってきたんだっけ。新しい環境で知り合いも少ない中、同じ建物とはいえ、いきなり一人暮らしというのも確かに不安だろう。


「あぁ、分かった。それではビアンカとカイの二人は同じ部屋にしよう。まぁ、残った部屋は暫くは物置として使うかな」


「「ありがとうございます!」」


 さて、残る一人エルネスティーネの方はどうだろう。果たして、貴族のお嬢様がワンルームに一人暮らしなどできるのだろうか……。


「エルネスティーネのほうはどう? 従業員寮について何か気になったところはないかな?」


 エルネスティーネに話し掛けると、それまでのぼうっとしていた表情から覚醒したかのように目を輝かせながら口を開いた。


「このお部屋は本当に素晴らしいですわ! 先ほどご説明頂いたボタン一つで天井の明かりが点く魔導具や、えあこん? という冷たい空気や温かい空気が出る魔導具に、あのトイレの温水洗浄便座……。これほどまでに数々の魔導具が備え付けられたお部屋なんて滅多にありません! ここに住んで働けるなんて、本当に夢のよう……」


 そう言うと、エルネスティーネはまた自分だけの世界に浸っているようだった。ちょっと大丈夫かと心配になるが、まぁ後はベンノに任せよう。


 さて、一通り四人に従業員寮の説明が終わったので、これから大事な話をしなければならない。そう、雇用契約をまとめてベンノたち四人と交わさなければいけないのだが、そもそもアサヒナ魔導具店の営業日と営業時間を決めなければ話を前に進めることができない。これはベンノと取り決めたほうがいいかな。


「ベンノ、アサヒナ魔導具店の営業日と営業時間を決めたいんだけど、王都の魔導具店というか主な商店の開店している時間はどれぐらいなの?」


 部屋の中の設備を確認していたベンノに話し掛けると、すぐに振り返って答えてくれた。


「そうですね、一般的な商店は三時課から晩課までの間が多いです。ただし、酒場などは晩課から夜半課まで開店しているなど、商店の特徴によって多少違いはありますが」


 聞きなれない言葉だが、この世界は細かな時間の概念は無いものの、だいたい三時間毎に神殿に備えられた鐘により時を告げられる。


 今ベンノが言った『三時課』がだいたい午前九時頃、『晩課』が午後六時頃、そして『夜半課』が午前零時に相当するものだ。アサヒナ魔導具店も基本的には一般的な商店と合わせたほうが良いだろう。


「それなら、他の一般的な商店と合わせて三時課から晩課までを営業時間としようか。それからお昼は六時課の鐘がなってから各自昼食の休憩を取って、また晩課の鐘まで働く。そうしよう」


「問題ないかと思います。」


「あと、営業日について相談したいんだけど、一般的な商店は休業日ってどうしてるの?」


「休業日、ですか……? 神殿が定めた休日以外でしたら、基本的に商店が休むのは店主の都合によるものが多く、決まった休みがある商店は見掛けないですね」


 ベンノが言った神殿が定めた休日というのは、この世界の宗教である唯一神『スルーズ神』を崇める為に労働を行わない日とされており、アルターヴァルト王国だけでなくマギシュエルデ全体に広まっている安息日らしい。


 正直、この世界に転生してから生活の全てをアメリアとカミラに頼っていたことや、異世界での生活が思った以上に自分の中で充実していたこともあってか、休日という概念を全く意識していなかったのだが、今後は意識していかないといけない。


 先ほども伝えた通り、この世界も前世と同様に七日に一度安息日がある。その日は基本的に神殿や王城などこの世界の公的機関も休みになっているのだが、この世界の宗教はそこまで厳密ではないらしく、順守しなくても良いようで、寧ろ多くの人が自由な時間を得られる日なのだから、安息日こそ稼ぎ時だという考えもあるようだ。


 また、一応例外があり、冒険者ギルドだけは二十四時間三百六十五日休み無しで営業している。まぁ、冒険者には国からは魔物討伐や災害復旧など緊急依頼が出ることもあるし、そのようになっているのだろう。それに、多くの冒険者は個人事業主だから何時でも自由に依頼を受けられるほうが都合がいいともいえる。


「だけど、安息日だけだと皆が自由に使える時間が少ないと思う。安息日の三日後を店休日にしよう」


「承知致しました。それでは『水の日』も店休日と致しましょう」


「水の日?」


 初めて聞いた単語に首をかしげていると、ベンノが説明してくれた。どうもこの世界にも曜日の概念があるらしい。というか、もっと早く気付くべきだった……。誰も教えてくれなかったから気付けるわけが無かったが。


 一通りベンノの説明を聞いたところ、普通に前世と同じく、安息日の次の日から月の日、火の日、水の日、木の日、金の日、土の日という並びなのだそうだ。だったらカレンダーのような物もありそうなものだが、今のところ見掛けていない。


「ふむ。それでは、アサヒナ様がおられたところでは曜日を別の呼び方で使われていたのですね」


「あははは、そうなんだよね。いやぁ、何分田舎だったもので……」


 異世界からきたというわけにもいかないので、曜日のことは適当に誤魔化して話を先に進める。


「さて、説明してくれてありがとう。それでは、『水の日』と安息日をアサヒナ魔導具店の店休日としようか」


「はい、承知致しました」


 さて、これでアサヒナ魔導具店の営業日と営業時間についてはまとまった。だが、開店までにやらなければならないことがまだまだ残っている。


 はぁ……。ここまで思い付きで進めてきたけれど、このままじゃ良くないよなぁ。大体、本当なら魔導具店を始める前にちゃんと事業計画を立てないといけないのに全く手を付けられてないし、それにこの後は四人に雇用条件を提示しないといけないし。やらないといけないことが山積みだなぁ……。


 ふぅ、と一つ息を吐いてこれからやるべきことを思い浮かべながら、まずは雇用条件について話を進めることにした。

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