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店員採用面接

 というわけで、ハーゲンには引き続きうちの魔導具店の店員候補について相談していた。この世界には履歴書とか職務経歴書のような物はないようで、紹介する側の信頼度合いが最も重要なポイントらしい。


 だからか、ハーゲンも人材の選定については物凄く気を遣っているようだった。


「うむ……。それなりに候補を思い浮かべてみたのだが、あとはハルトたちと本人等との相性次第かと思う……。ハルトが良ければ、明日には顔合わせできればと思うがどうだろうか?」


 なるほど、確かに顔合わせが早いほうが助かるが……。


「因みに、何名ご紹介頂けそうでしょうか?」


「そうだなぁ、五、六名になると思う」


 まぁ、明日の顔合わせが五、六名なら問題ない。そうハーゲンに伝えると、早速顔合わせの準備を進めてくれるようだった。


「では、また明日の朝からお伺いさせて頂きますね。引き続きよろしくお願いします」


「あぁ、良い人材を揃えられるよう努力する。それと、今日は良い契約ができた。改めて礼を言う」


「いえ、それは紹介頂く人材で応えて頂ければ良いですよ。では、また明日!」


 そう伝えて、今日は屋敷に戻りゆっくりと過ごした後、金色の小麦亭で食事を取って、翌日の顔合わせに備えた。



 翌日、目を覚まして窓の外に目を向けると、今日も朝日が燦々と庭の噴水を照らし、その明かりを受けた噴水も勢い良く水を打ち上げている。それを見下ろしながら一つ背伸びをして着替えると、今日やるべきタスクを思い浮かべる。


「今日は魔導具店の店員候補との顔合わせか。良い人材が見つかればいいんだけど。それから、一月後の獣王国への旅支度も進めないとなぁ。あ、その前に拠点ができたことを世界神様に伝えないと……。地味にやらないといけないことが多くて、あんまりのんびりできてないなぁ。せっかくの異世界をもっと楽しみたいのに……」


 そんなことを口走りながら、簡単な食事を皆で終えて改めてハーゲンの屋敷へ向かう。因みに今日はハーゲンに納品する『神の試練』のカードパック千個、遊技台百台もアメリアのアイテムバッグに入れて持ってきている。


 流石に二度目の訪問となる今日はビアホフのメモを見なくても容易に屋敷に辿り着けた。まぁ、昨日見た船を見つけるだけなので余裕なのだが。


 ハーゲンの屋敷に着いた俺たちは昨日と同じ部屋に通されて、まだ見ぬ店員候補を今か今かと待っていた。


「ヘルミーナさんが一番接する機会が多いと思うので、気になることがあれば質問してくださいね」


「まぁ、当然よね。心配しなくても私もしっかり人となりを見るから」


 暫くすると部屋の外からざわめきが聞こえてくる。恐らく顔合わせする候補者たちをハーゲンが連れてきたのだろう。ほどなくして扉が開き、ハーゲンと六人の候補者が現れた。


「よぉ、ハルト! 待たせて悪かったな! それに何度も足を運ばせてすまないな」


「おはようございます、ハーゲンさん。こちらこそ、朝から押しかけてすみません。それで、後ろの方々が候補者ということでよろしいですか?」


「あぁ、その通りだ。この者たちには既に私のほうからハルトの魔導具店の店員候補として顔合わせするという話しはしてある。それでは、早速始めるとするか! よし。ではお前たち、一人ずつ名前と経験や特技を説明するんだ」


 ハーゲンの後ろに横一列に並んでいた候補者たちが一歩前に出てきて、その右端の人から名前と自己PRを述べるという集団面接が始まった。


「ベンノ・ローマンと申します。これまで三軒の魔導具店で主に仕入れと在庫管理、店の会計管理をしておりました。本日はよろしくお願い致します」


 一人目の初老の男性は事務やバックヤードでの経験が豊富なようだ。見た目も落ち着いているし、堅実そうに感じる。


「私はマルコ・アンゾルゲと言います。これまでは魔導具店や乾物店、木材店など色々な商売を経験してきましたが、その中でも主に仕入れと在庫管理を中心に従事しておりました。また、接客にも自信があります。本日はよろしくお願い致します」


 二人目の男性は様々な店で商売の経験が豊富らしい。言葉の節々に自信が感じられる。だが、この人は……。


「……初めまして、私はエルネスティーネ・ヒルデブラントと申します。これまで家事や手伝い程度しかしたことがないのですが、魔導具店に興味があり応募しました。よろしくお願い致します」


 三人目の女性は未経験者のようだ。今回はできれば経験者を優遇したいところだが……それにしても……。


「ビアンカ・カペルです! 村の魔導具店で主に売り子の手伝いをしていました。よろしくお願いします!」


 四人目の少女も経験としてはそれほどないようだったが、売り子、つまり店員経験があるようだ。


「カ、カイ・カペルです! 先ほどのビアンカはおねえ、あ、姉になります。私も姉と一緒に魔導具店の売り子をしておりました。よろしくお願いします!」


 五人目の少年は四人目の少女ビアンカの弟らしい。カイも売り子の経験があるようだ。あれ、この子は……?


「オイゲン・アクスです。以前は王都と農村を行き来する行商人をやっていました。仕入れから販売まで一人でやってきた経験がありますので、どちらもできるつもりです。よろしくお願いします」


 なるほど、村や街を行き来する行商人なら仕入れも販売もどちらもできて当たり前か。王都だけでなく他の土地の情報を持っているのもプラス評価できそうだ。


「以上の六人が候補者になる。では、ハルトたちから何か質問があれば本人たちに聞いてくれ」


 こうして俺たちは一通り六人に志望動機や希望する待遇など、本当に集団面接といった感じで聞いていったのだが、色々事情がある六人のようだ。


 一人目のベンノは前の職場では店主から信頼され幹部として働いていたが、店主が急死した結果、もう一人いた幹部が店を乗っ取って店を牛耳ることになり、追い出される形で退職することにとなったそうだ。


 四人目のビアンカと五人目のカイは、村に一軒の魔導具店で働いていたが、店主が店を畳むことになった為、王都まで仕事を探しにやって来たらしい。どこの世界も職を求めて上京するのは変わらないか……。


 二人目のエルネスティーネは、働いたことは無いが今回の募集が気になって応募してきたらしいが……。先ほど『鑑定』した結果を見ると結構ワケアリのお嬢様のようだ……。



「さて、それでは一旦六人には退席して貰う。選ばれた者は呼び出すので別室で待つように」


 ハーゲンが呼び鈴を鳴らして使用人を呼び、六人を退席させた。


「それで、ハルトの見立てではどの候補者を選ぶ?」


「その前に、一点確認させてください。今回の六名はハーゲンさんが厳選した候補者、という認識で良かったですか?」


「あぁ、経験者、未経験者の両方からハルトの魔導具店に相応しい候補を選んだつもりだ。選外になった者は『神の試練』を楽しむ店の店員にするつもりなのだが、何か気になることでもあったか?」


「そうですね、二人目のマルコ・アンゾルゲという男は採用できませんし、店員にもお勧めも致しません。理由は言えませんが、これだけは断言できます」


 そう、マルコのステータスを鑑定したのだが……。


『名前:マルコ・アンゾルゲ

 種族:人間族(男性) 年齢:34歳 職業:詐欺師

 所属:アルターヴァルト王国

 称号:なし

 能力:D(筋力:D、敏捷:C、知力:B、胆力:E、幸運:D)

 体力:820/820

 魔力:670/670

 特技︰詐称:Lv4、交渉術:Lv3、話術:Lv3、盗術:Lv3、生活魔法

 状態:健康

 備考:身長:172cm、体重:58kg』


 もうね。職業『詐欺師』とか、犯罪者確定じゃないかと。スキルも詐欺をしてきたからか、詐称と交渉術に話術が得意って……。少なくとも、うちの店にはいらないし、ハーゲンにもお勧めできる人材ではない。


「そうなのか? 私が面接した時はしっかり話せて良さそうに見えたのだがなぁ。しかし、ハルトがそこまで言うなら今回は見送ることにするか……。因みに理由は教えてくれないのか?」


「ハーゲンさんでも、言えません。いつか言える日が来るかもしれませんが、今は。申し訳ありません」


 鑑定眼についてはあまり人に言わない方が良いだろう。そう思ったので、理由について説明するのは断った。まぁ、今後ハーゲンと信頼関係が強く結ばれたときに改めて話すことができれば、と思う。


「あぁ、分かった。では、この話はここで終わりだ。それで他に質問はないか?」


「もう一人、エルネスティーネ・ヒルデブラントさんですが……もしかして、貴族だったりしませんか?」


 そう、もう一人気になっていたのがエルネスティーネだ。なぜなら、彼女の称号には『ヒルデブラント子爵家三女』とあったのだ。


『名前:エルネスティーネ・フォン・ヒルデブラント

 種族:人間族(女性) 年齢:16歳 職業:家出少女

 所属:アルターヴァルト王国

 称号:ヒルデブラント子爵家三女

 能力:F(筋力:F、敏捷:F、知力:B、胆力:E、幸運:B)

 体力:160/160

 魔力:280/280

 特技︰計算術:Lv8、暗算術:Lv8、 礼儀作法、生活魔法

 状態:健康

 備考:身長:154cm、体重:46kg(B:83、W:55、H:84)』


 というか、職業『家出少女』とはどういうことなのか!? あまりトラブル臭のする方を紹介しないで欲しいのだが……。


「むぅ……。やはり、気づいたか。とある事情があってうちの商会で保護、いや預かっておったのだが、本人は外に出たがっておられてなぁ。今日の顔合わせのことを知ったエルネスティーネ様が身分を隠して出席したいと言い出されたのでな、止めることもできず、参加されることになったのだ。すまん、ハルト! エルネスティーネ様を預かってくれないか!? この通りだ!」


 ゴッという音が部屋に響く。ハーゲンがソファーの前のローテーブルに頭を打ち付けた音だったが、そんなことを気にする余裕もなく。いきなり降って湧いた問題に俺は頭を悩ませるしかなかった。

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