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ハーゲンとの商談

「はぁ……。ハルトのことは、『若くてそれなりに実力のある錬金術師』だと評価していたのだが、考えを改めなければならんなぁ。全く。その若さで、まさか特級回復薬を創れるとは思いもしなかったぞ……」


 そんなことを口にすると、ハーゲンは完全にソファーに身を任せながら深くため息を吐いた。


「そんなに特級回復薬を創れる錬金術師って少ないんですか?」


 あまり考えたことがなかったが、錬金術のレベルがLv:9以上の錬金術師がどれぐらい存在するのかと、ふと気になった。ヘルミーナも呆れてはいたが、それは恐らく名工アレクシス氏が創っていたこともあって慣れていたせいかもしれない。


 すると、ハーゲンがガバッと身体を起こし、勢い良く捲し立てる。


「当たり前だっ! この王都にだって、名工アレクシスの他、数えるほどしかいないんだぞ!? 特級回復薬を創れるなんて、王国が国をあげて保護する位に貴重な人材だ! しかも、それがここまで若いとなると……。伝説の秘薬『エリクシア』まで創れるまでになれるかも知れない! そうなると、ハルトの価値は名工アレクシスを超えるかも知れないぞ……」


 なるほど、特級回復薬を創れる錬金術師は数えるほどしかいないのか。それを聞いて、ようやく自分の特異性に実感が湧いてきた。


 それにしても。マギシュエルデに来た日にも思ったんだけど、エリクシアって、もしかしてフ◯イナルフ◯ン◯ジーとかに出てくるエリクサーのことかな? 確かにそんな物を創れるとしたら凄いと思うけど。そういえばレシピは覚えていたな。


 エリクシアのレシピを思い出しながらハーゲンに素材が手に入るのか聞いてみた。


「ハーゲンさん。因みに、『特級魔力薬』とか『精霊の雫』、それに『生命の果実』って手に入れることはできますか?」


 俺の質問に腕を組んで唸るハーゲンだったが、幾つか素材について知っていることを教えてくれた。


「正直、俺は錬金術は門外漢なんだがなぁ。だから、俺が知ってることしかハルトには言えないんだが、魔力薬の材料はマギシュ草だったはずだ。精霊の雫は、確か精霊石の亜種のようなもので、石ではなく植物に精霊の力が宿ったものだったはずだ。生命の果実については……すまない、俺も聞いたことがない……」


 なるほど。マギシュ草はもしかすると魔物の森で見つけられるかも知れない。それに精霊の雫もヒントは得られた気がする。生命の果実は全く分からないが、名前からして何かの木の実や果物のようなものだろうか……。


「いえ、ありがとうございます! こちらも大変参考になりました。それにしても、ハーゲンさんの知見は素晴らしいですね。流石はアルターヴァルト王国の国王陛下から指定された御用貿易商殿です! いやぁ、本当に御見逸れしました!」


 少しわざとらしいかも知れないが、ハーゲンを持ち上げるような言い回しで称賛する。


「そ、そうか!? まぁ、これでも若い時に色々経験したからなぁ。若い内に多少無理をしてでも色々経験しておくといいぞ! ワハハハハハッ!」


 うん、見事に乗ってくれたので、本日二つ目の相談(というか、お願い)をすることにする。


「いやぁ、本当に勉強になります! そんな商人として先輩に、いえ、偉大な先輩にご相談があるのですが聞いて頂けますでしょうか?」


「おう、何でも聞いてくれ! 俺にできることなら何でも相談に乗ってやるぞ!? ワハハハハハッ!」


 ハーゲンがそんな感じで豪快に笑ってくれたので、俺も心置きなく、遠慮せずに相談することにした。


「ありがとうございます! 流石はハーゲンさんですね。それで、私がハーゲンさんに相談に乗って頂きたいことなのですが、これから始める魔導具店の店員に相応しい人をご紹介頂きたいのです。可能なら、回復薬だけでなく魔導具に関する知識と店舗運営のご経験がある方だと大変助かるのですが……」


 俺がそう話すとハーゲンは急に目つきが鋭くなった。さっきも見た商人の表情と言えばいいのか、計算高さを感じる、そんな顔だ。


「なるほど、ハルトの魔導具店の店員を探しているのか……。因みに、何を売るつもりなのだ? 先ほどの話を聞く分には、回復薬以外にも魔導具を売り出すつもりなのか?」


「えぇ、実は私が考案した魔導具を売り出そうと考えておりまして。こちらなんですが、既にリーンハルト様とパトリック様にも献上してお褒め頂いたんですよ」


 そんなことを言いながら懐から種族カードと遊技マットを取り出して、リーンハルトたちに話した説明をハーゲンにも行うことにした。



「これは凄いな、ハルト! さっき聞いた売値だったら、確かに貴族や金持ちだけでなく、平民でも子供は難しいかもしれないが、大人なら手を出す者もいるだろう。それに一度買ってお終いではなく、何度も買わせる仕組みが商人として見ると面白い! 貴重なカード、欲しいカード、育てる為に同じカードが必要になるのも興味深いな!」


「ありがとうございます。商人のハーゲンさんにそう言ってもらえると嬉しいですね!」


「うむ。だが、この遊技マットの売値は金貨三枚だったか……。これでは平民には中々手を出し辛いだろう。となると、結果としてカードも売れないかもしれんなぁ……」


「ご指摘頂いた点はごもっともです。そこで、ハーゲンさんにはもう一つ見て頂きたい魔導具がありまして……。アメリアさん、ここに出してもらえますか?」


「はいよ!」


 アメリアがアイテムバッグから取り出したのは例の遊技台だ。俺がアイテムボックスから出したりして変に思われないようにした為だ。


「これは一体……? ふむ、遊技マットが敷かれた台のようだが、これがどうした?」


「えぇ、こちらの台は先ほど見て頂いた遊技マットを敷いた台、遊技台なのですが、これにただ種族カードを置いても反応することはありません」


 そう話すとハーゲンが種族カードを台の上に置いて確かめる。流石は商人、自分の目で確かめるのは当たり前か。


「実は、この遊技台はここの穴に大銅貨を一枚入れなければ動作しないんですよ。そして、このように大銅貨を入れますと、こちらの数字がゼロになるまでは動作します。つまり……」


「この台で『神の試練』を楽しむには、楽しむ時間だけ大銅貨が必要になる、というわけだな?」


「その通りです。そして、大銅貨一枚で楽しめる時間は短い。つまり、続けて楽しみたい場合は大銅貨を続けて入れる必要があるわけです。それは、楽しまれる方の時間を拘束する……」


「なるほど、長い時間こいつに没頭するとなると腹も減るし、何かつまむ物や飲む物も欲しくなるな。ふむ、高価な遊技マットを買わなくても大銅貨一枚から遊べる遊技台、か……」


「その通りです。こちらの遊技台ですが……。金貨五枚で販売するつもりです。ハーゲンさんはどう思われますか?」


 ハーゲンに話を振ると、ゆっくりと腕を組み、ハーゲンが遊技台を見つめる。その表情は今日一番鋭く感じる。


「うむ。確かにこの遊技台は売れそうだな。一日に朝から夜まで稼働させた場合、上手く行けば大銅貨七十枚は稼げるかもしれん。そうなると、金貨五枚もするこの台の費用も、たった二月半で回収できて、それ以降は金を生み出す魔導具になるわけだな。おい、ハルトッ! この遊技台はどれだけ用意できる!?」


「こちらの遊技台はそうですねぇ……顧客が希望するだけ用意できる、といえば良いでしょうか……。ただし、もし、我々の魔導具店の店員について、ハーゲンさんから良い人材をご提案頂けるなら、特別に半額でご提供しても良いですよ?」


「買った! 俺は買うぞっ! うむ、まずは百台だ、百台買って王都の東西南北の出入り口付近に物件を抑える! それで飲食もできるようにすれば……これは少なくとも半年以内に大きな利益が出る可能性が高いと思う! それに、リーンハルト様とパトリック様の御二人からも高い評価を頂いている魔導具なんだろ? 人気が出ないはずがない! これは十分儲かる事業になるはずだ、この仕組みをしっかりと理解できている者ならばなっ!」


 ほらね。


 俺が期待していた通り、ハーゲンはこの遊技台の価値を理解できる人物だった。ハーゲンなら今後も良い取り引き相手になってくれそうだと心の中でほくそ笑んだ。


 ただ、いきなり百台も買ってくれるのはありがたいが、ハーゲンの商売が上手く行かなかったときのことを考えると少し心苦しい。なので、少しおまけを付けることにする。


「ありがとうございます、ハーゲンさん。最初から百台も購入頂けるとは、私としても嬉しい限りです。上手く商売が軌道に乗ることを願っています。それと、今回購入を決めて頂いたお礼として、ハーゲンさんにはカードパックも一割引で卸しましょう」


 うちの店で売るよりも、取引先に卸したほうが手間を掛けずにまとまった利益が出ると思ったのだ。まぁ、素人考えだが。


 それに、ヘルミーナから聞いたところ、基本的に新しい魔導具というものは、儲けが出る可能性が低いらしく(需要があるかどうか分からない為)、多少は博打のようなものなのだそうだ。リーンハルトたちが認めてくれたとはいえ、売れるかどうか心配だった。


「おぉ、それはありがたい! この『神の試練』を知らない客にも売り込めるし、何より一割利益を出せるのが良いなぁ……。しかし、本当にそこまでしてもらっていいのか?」


「えぇ、もちろんです! それで、幾つくらい用意しましょうか?」


「ふむ、ならばハルトの言葉に甘えよう。そうだな、最初は毎月千パックから始めて、その後は売れ行きを見ながら、といったところか。ハルトはそれで問題ないか?」


「はい、問題ありません!」


「ならば交渉成立だ! 早速契約書を用意するとしよう」


 俺とハーゲンは自然と手を差し出してガッチリと握手した。


 ハーゲンが呼び鈴を鳴らすと使用人が現れ、一言二言言葉を交わすと一度部屋を出て行った。改めて使用人がやってきた時には所謂スクロールというゲームでよく見るタイプの書物を持ってきた。ハーゲンとのやり取りから察するに、契約書なのだろう。


「ふむ。では契約内容は私がまとめよう。この魔導具『契約の書』は署名した者が期日までに契約内容を履行しなかった場合に、契約者の腕に『契約不適格者』を現わす紋章が刻み込まれるという代物だ。俺は商人として、ハルトは錬金術師として、お互いにそのような紋章が刻まれることがないように契約を履行することを誓うために用意したのだ。ハルトはこれに署名してくれるか?」


「そうですね、まとめて頂く契約内容を確認の上で問題が無いようでしたら署名しましょう」


 こうしてハーゲンのまとめた内容を確認した結果、納入する内容と期限、その他条件を確認して問題ないと判断できたので署名することにした。


 この魔導具は二枚重ねだったのか、署名すると原本と控えの二枚に綺麗に分かれたので、俺は控えを受け取ることにした。


「これで契約は成立だな! いやぁ、思いがけない契約だったが、良い契約ができて嬉しく思う。これからも永い付き合いをしたいものだな!」


「それはこちらの台詞ですよ、ハーゲンさん。では、契約も一段落ついたところで話を戻しますが、うちの魔導具店で働いてくれる従業員について、相談に乗って頂きましょうか!」


 ようやく、『今日の目的その二』をハーゲンと詰めるところまで進めることになった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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