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褒美の相談と定期納品

 ユリアンが呼んできた、リーンハルトが言うところの『爺』を観察する。


 白髪をオールバックに整え、白い口髭と繋がるように立派な顎髭もたくわえている。背丈も高く、ドミニクも立派な体格だったが、それよりも更に大柄だ。恐らく百九十センチ以上あると思う。


 しかし、それ以上に気になるのはやはりその筋肉隆々、マッチョな体型だろう。背筋もピンとしており、おおよそ『爺』と呼ぶには違和感があるのだが……。


「それで、リーンハルト様。何か緊急の御用でしょうか?」


「うむ。爺に頼みがあって呼んだのだが、その前に私とパトリックの御用錬金術師を紹介しよう。ハルト、こちらへ来てくれ」


 リーンハルトの言葉を受けて『爺』と呼ばれる男の前に出ると早速名乗り出る。


「お初にお目にかかります。私はハルト・アサヒナと申します、錬金術師でございます。この度、リーンハルト様とパトリック様より御用錬金術師にご指定頂きました。若輩者ではありますが、よろしくお願い致します」


「ほぅ、これは噂の錬金術師殿でしたか。ご丁寧にありがとうございます。私はゲオルク・ビアホフと申します。アルターヴァルト王家に仕えております執事でございます。よろしくお願い致します、ハルト殿」


「ビアホフ殿、こちらこそよろしくお願い致します」


 そんな挨拶がてら、俺はビアホフを鑑定した。


『名前:ゲオルク・ビアホフ

 種族:人間族(男性) 年齢:68歳 職業:家令・執事長

 所属:アルターヴァルト王国

 称号:聖騎士

 能力:S(筋力:S、敏捷:A、知力:S、胆力:S、幸運:B)

 体力:11,320/11,320

 魔力:670/670

 特技︰体術:Lv10、剣術:Lv10、聖剣術:Lv9、生活魔法、礼儀作法

 状態:健康

 備考:身長:206cm、体重:102kg』


おおう。何とこの爺さん、今まで鑑定してきた人の中で一番強いぞ(ただし、セラフィを除く)! それに、この称号の聖騎士ってなんだよ……。確実にただの執事ではないことは分かる。


「ハルト。この爺、いやビアホフはな。先代陛下、つまり御祖父様の近衛騎士団長を務めておったのだが、父上が即位されたときに引退し、我が王家の執事長になってくれた傑物なのだ。私やパトリックだけでなく王家の皆が信頼している。ハルトの屋敷のことについても相談すると良いだろう」


 なるほど、ビアホフはこの王家の執事長か。であれば、屋敷の管理をしてくれそうな人材を知っているかもしれない。あまり、高給を出せないかもしれないが、相談する分には最適な相手と言ってもいいだろう。


「ふぅむ、リーンハルト様。その口ぶり、もしや、頼みとはアサヒナ殿の屋敷の使用人についてでしょうか?」


「うむ、話が早くて助かる。使用人のあてが無いようだったのでな、新しい魔導具の褒美として、使用人……それと家令を用意してやろうと思ったのだが、人選については其方に相談するのが良いと思ったのでな、こうしてきてもらったというわけだ」


「なるほど、それでは屋敷の間取りについて教えて頂けますかな。どれほどの屋敷か確認した上で必要な人員を探してみましょう」


 ということで、俺は屋敷全体の間取りと使用人の部屋の数や広さについてビアホフに説明を行った。


「なるほど、なかなか広いお屋敷に住まわれるようですな。それでは、家令兼執事を一名、使用人を四名、料理人を一名、それから警備の者が二名、計八名とするのが良いと思いますがいかがでしょうか?」


「ふむ、ハルトはどう思う?」


 どう思う、と聞かれても執事やら使用人なんて雇ったことがないので正直分からない。ただ、あまり大人数を雇うことになっても、住まわせる部屋が足りない。


「そうですね、先ほどお伝えした通り、屋敷内の使用人の方が住まわれる部屋が家令の方の部屋を含めて四部屋しかございません。ですので、使用人の方には申し訳ないのですが、二人一組で部屋を割り当てることになりそうです。こちらは問題ないでしょうか?」


「先ほどアサヒナ殿からお伺いしたお屋敷の間取りを聞いた限りでは問題ないかと思います」


「なるほど、承知致しました。ベッドやクローゼットは各部屋に二人分用意しておきます。それから、料理人や警備して頂く方の部屋がないので、こちらは詰め所兼住居を改めて用意したほうが良いでしょうか?」


「そうですな、ご用意頂けるならそうして頂いたほうがよろしいかと。基本的には自宅から通わせることになると思いますが、夜番の後に仮眠が取れる設備があると便利ですので」


「なるほど、承知致しました。それでは詰め所兼簡易住居を準備しておきますね」


 そう答えるとビアホフも頷いた。俺とビアホフのやり取りを見ていたリーンハルトが口を開く。


「それで、爺よ。ハルトの屋敷に必要な家令と使用人に心当たりはあるのか?」


「そうですなぁ、十日ほどお時間を頂ければ最適な人員を集めてみせましょう」


「うむ。ハルト、それで良いか?」


「えぇ、是非お願い致します……。ところで、家令や使用人を雇うのに月々どれ位の費用が掛かるものでしょうか? 正直に申しますと、まだ魔導具店も開店できておりませんので、残念ながら安定した収入がない状況なのです……」


「あぁ、なるほど。その心配をしておったのか。それならば心配ない。家令や使用人は私とパトリックが雇う者をハルトの屋敷に派遣するつもりだ。つまり、ハルトが直接家令や使用人たちに賃金を払う必要はない。そもそも、これはハルトへの褒美なのだからな!」


 おおう、家令と使用人を探してくれるだけでなく、費用までリーンハルトとパトリックが持ってくれるだと!?


 それは凄く助かるのだが、本当にこれで良いんだろうか……。これじゃ自立できているとは言えないし、もしも、リーンハルトとパトリックが派遣している使用人たちを引き上げるとか言い出したら、こちらからは何も言えなくなるわけで……。


 うん、収入が安定するまでの間はリーンハルトとパトリックを頼ってみるのも悪くはないけど、なるべく早く自分たちで費用を賄えるように努力するべきだろう。とりあえず、自分の中でそう答えを出したのでリーンハルトたちに伝える。


「リーンハルト様、パトリック様のお心遣い、大変ありがたく思います。ですが、やはり私たちの屋敷の家令や使用人の賃金を御二人にお支払い頂くのは筋が違っているかと思います。かと言って、すぐにお支払いできるかと言われれば、正直に申し上げて難しいと言わざるを得ません……。そこでご相談なのですが、我々の運営する予定の魔導具店が軌道に乗るまでの間だけご融資頂くという形で家令と使用人を派遣頂き、魔導具店が軌道に乗った後は賃金を我々で支払いつつ、それまでにご融資頂いた費用を返済する、そういう形にして頂くことは可能でしょうか?」


 そう伝えると、リーンハルトとパトリックはそれぞれ思案しながらも二人で目を配らせると二人して頷いた。


「流石はハルト、我らが御用錬金術師に認めただけのことはある! 王族の言葉に頼らぬ姿勢、なかなかできるものではない。見事だぞ。それにハルトの懸念していることも何となく分かる。ひとまず、ハルトの言うように期限を定めず無期限で融資という形で家令と使用人たちを派遣しよう。掛かった費用については追って案内する。それから、魔導具店が軌道に乗ったかどうかは、魔導具店の毎月の収支報告を持って判断することにしよう」


「ははっ、ありがとうございます!」


 まぁ、何と言うか。ひとまずリーンハルトとパトリックとの交渉は成立したと言っていい。このあとはビアホフの人選に任せようと思う。


「それでは、爺よ。早速家令と使用人の人選を進めてくれ。ハルトは我ら兄弟の御用錬金術師であるだけでなく、大切な友人でもあるのだ。しかと頼んだぞ!」


「私からもお願いしますね! 兄上の仰る通り、ハルト殿は我らの大切な友人ですので!」


「ははっ! このビアホフ、しかと承りました」


 リーンハルトとパトリックがそう言うとビアホフは恭しく臣下の礼を行いリーンハルトの部屋を出ていった。どうやら、早速人選を進めてくれるらしい。


「それで。この魔導具、『神の試練』であったか。これを楽しむには種族カードだけでなく命令カードが必要になるらしいな。ハルトも市販を考えておると思うが、私とパトリックにも定期的に納品してもらえると嬉しいのだが……」


「はい、今のところ、五枚入りのカードパックを、銀貨一枚で販売しようと考えております。リーンハルト様とパトリック様にはそれぞれ毎月十パック納品させて頂こうかと思いますがいかがでしょうか?」


「むう、毎月十パック、五十枚か……。存分に楽しむには些か足りぬと思う。せめて毎月二十パックにはできないか?」


「さすが兄上、良き提案です! ハルト殿、お願いできないでしょうか?」


 まぁ、確かにリーンハルトの言うことも分かる。それに二十パックでも大銀貨二枚、二人の王子たちには問題にもならない金額だろう。


「承知致しました。それでは毎月二十パックずつ納品させて頂きます。もし、それ以上に必要なようでしたらご連絡頂き次第納品させて頂きますので、引き続きよろしくお願い致します」


「うむ、楽しみにしておるぞ。」


「私も楽しみにしています!」


 こうして無事リーンハルトとパトリックへの魔導具献上を終えて、家令と使用人を二人の王子たちから派遣してもらえるという思いがけない褒美を受け取ることとなった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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